第1回
じりりりりりりりりり…
朝の目覚まし時計が鳴る。数十秒後には自室のドアの外くで違う目覚まし時計が鳴る。その数十秒後にまた遠く、おそらく階段で鳴る。このようにたくさんの目覚まし時計をセットすることにより強制的にベッドから降りざるを得ない状況が出来ていた。そう、遅刻せずに朝の学校へ行けるシステムを俺は作り出したのだ。
「起きてくだサイ?!」
しかし慣れというのは怖い。ついこの間その方法を考え付き、翌日みごと遅刻を免れ登校を成功をクラスメイトに自慢しまくったことも束の間。ここには10分以上目覚まし時計が鳴り響いているのに、布団の中には寝ぐせだらけの男がいた。
「聞こえてないデスカ?」
やっぱり目覚ましじゃ起きないな。いっそ電撃とかを流したりすればビビって起きたりできるんじゃないか?いやそれだと怖くて寝つけなさそうだ…いっそ恋人が朝の時間になったら布団をゆすって起こしてもらうのは?
いや、そもそも女友達すらもいないので到底不可能。机上の空論どころか、ベッド上の空論を続ける俺はベッドからも降りられないでいた。そのとてつもない目覚まし時計の騒音に近所迷惑などの罪悪感に心を痛みながら、それでもぐうたらと寝ている。
「起きテ~?!」
日頃の学業のストレスのせいか、ついに目覚ましのアラームの隙間からアニメ声の女の子の声が聞こえてきた。幻聴か…
「幻聴じゃないヨ?!」
く…、朝から幻聴と会話かよ。
”いいから早く起きないとマジで出席日数やばいですヨ?”
こいつ…直接脳内にッ…
「…あ!早くしないとご主人が夜な夜な見てたパソコン内のあの動画大音量で再生しちゃいますヨ?」
それはいかん!!!
というわけで俺は目を覚ました。ちなみにさっきから俺に話しかけているのは幻聴ではない。俺が作ったコンピュータAIだ。とにかくあの手この手を使って俺を起こす手助けをしてくれる。今回はその手で来たか、いやはや作った自分が言うのもなんだが、なかなか恐ろしいテロを思いつくAIだ。
自宅にある目覚ましのアラームを消しながら俺はリビングに行くと、朝食が用意されていた。しかし時間がない。食パンをくわえ、俺は学校へ全速力で走ることにした。郵便受けには目覚まし時計がうるさいという警告が貼られていた。
さて、走りながらでスマン。自己紹介だ。俺は生まれた時からこの孤島で生活をしている。親や兄弟などを知らず育ってきた。物心ついた時から、基本的な教育を受けさせれ、美味しい食事を与えられ、学校が終われば友達と下校する。何不自由無い暮らしをしていた。
「おはようございます!」
「おや春くんまた遅刻?頑張って?!」
近所のおばさんだ。言い忘れていた、俺は春くん。ハルくんではなくシュンくんだ。俺が遅刻する時間はたいてい道路の落ち葉を掃除している。まあ実際に掃除しているのは、隣のロボットだけどな。
この町は犯罪などが起きないように、防犯カメラがいたるところに取り付けられてるほか、こういう人工知能を持ったロボットが道路にいたるところにいる。ゴミを拾ったり道案内とか結構便利な機械だ。
塵取りに入った落ち葉の量からするとこれは遅刻確定コース。
「ヤバイな…」
近道を使うか?いやもはやそんな次元ではない。あの技を使うしかない。しかしのその技は誰にも教えない。少年誌では能力を披露してからバトルが始まるものが、現実は非常である。能力はバレたらそれだけで不利になるからな。
…
はい、今能力使用中。特に俺視点だと変わったことは起きない。
俺が全速力で走る足音と、すでに息切れしまくった呼吸の音のみだ。
周りに人がいないことが幸いだった。いや、というか人少なすぎだったな。
ここまで近所のおばちゃんしか会わなかったぞ、遅刻してるってったって変だな。
そんなことを考えているうちに学校が近づいてきた。
「はい時間。では閉めるぞ~」
お約束の校門がガラガラと閉まる音が聞こえてきた。ギリギリセーフというところか?俺は駆け抜けた。
「チッ…セーフか。あと少しで島流しだったのによお」
今の言葉を発したのはなんと教師。生徒が遅刻するのを喜ぶ教師。あだ名はボクちゃん。木刀を持ちあるいているからだ。説明しとくがここは体罰アリな学校。遅刻すると木刀が飛んでくる。
下手をすると保健室登校も免れない。
「春?!今日は全校集会だぞ」
教室から聞こえてくる声。なんだって!?うちの学校はとにかく厳しい、全校集会の場合は教室に鞄を置いてから体育館に集まってそこで初めて出席とみなされる。みんな各々鞄を自分の机に掛け、体育館に移動中だ。
去年は良かった。1階だったから教室の窓を開けてもらい、そこから鞄を入れて直接体育館に向かえばよかったからな。2階なら鞄を投げる手もあるかもしれないが、あいにく俺の教室は4階。終わった…
キンコンカンコン~
……島流し決定。全力は尽くしたが、ダメだった…
体育館あと一歩手前でそしてボクちゃんが現れた。
「春、早く入れ」
しかし、ボクちゃんはすんなり体育館に入れてくれた。
あれ?島流しまぬがれられる?ラッキー!なんなく全校集会に混ざれた俺。ちなみにこの学校、遅刻がある一定数を超えると強制的に停学になり、こことは違う近くの島に置き去りにされるのだ。
「どういうことか説明してください!」
「大人たちはどこに行ったんですか?」
ん?何か様子がおかしい。みんなが騒がしい。
それを鎮めようとする教師たち。黙ってそれを見る校長。次第に声は鳴りやんだ。
「みんなが静かになるまで10分かかりました」
そこへ一人の女の子が口を開けた。
「島の人たちは、どこへ行ったんですか?」
「「そーだそーだ!!」」
「では、まず新しい先生を紹介します、優秀な教師の方がいらっしゃってくれました」
生徒たちの言葉を完全に無視して校長が話し出す。
すると、奥から見慣れない大人が出てきた。
「初めまして。僕はここの卒業生、名前をハチと言います。僕はある研究をしていて、この学校からより優秀な生徒を発掘する方法を見つけました。さて、この島が少し風変りで、そしてそれに対して僕らがあまり違和感を感じてない現状は、みんな自覚あるよね?」
そのハチという教師はベラベラと話し出した。俺たちの島の外にある世の中の常識というものは本や漫画で知っているがこの島の人間はそ外の世界を見てみたい、羨ましいなどの気持ちが芽生えることもなく、なぜかここで一生を過ごす人間ばかりであることなど。
ちなみにうちの島には街があり、働いている人間も普通にいる。働いている人間はすべて俺が通学する学校の卒業生だけどな。
「そんな感じで御託はこの辺にして。発掘はスムーズに行います。では、ミュージックスタート」
厳かで、それでいて軽快なクラシック音楽がスピーカーから流れ出し、その男はテレビやゲームでしか見ないあるものをさっと教卓から取り出した。それは…ガスマスクだった。その瞬間、体育館の壁からガスが漏れる音が聞こえ始めた。
状況を理解し、逃げ惑う生徒たち。泣きじゃくったり怒り狂ったり。倒れこんだりだ。
「みんなが静かになるまで1分しかかかりませんでした」
数分後、ガスマスク越しに笑顔で喋る新教師。記憶はそこで途絶えた。
続く