第六話 狼の戦闘歌(いくさうた)
男たちの尋問を終えた俺は、仲介屋の速水真琴を呼び出すと10分ほどで真琴は指定の場所にやってきた。真琴の車の助手席に乗り込むと真琴が謝ってくる。
「ごめん。私の調査不足ね」
「いいさ、そのうちに返してもらう」
俺の言葉に真琴が不思議そうな声をする。
「何かあったの? いつもならもっと――」
「別になんでもない。それで、ミスターバーゼルたちのアジトの場所は調べがついたのか?」
「ええ、横浜よ。住宅地から離れているから、多少ドンパチしても問題ない」
「装備は?」
「後ろに入っているわ」
俺はタバコをくわえ、火をつけた。
「あれか?」
俺たちの300メートルほど前には鉄筋コンクリート製の3階建ての建物があった。あまり広くはなさそうだが。
「あの建物の地下階よ。上は全部一般の個人企業」
「は? シーリアの情報部だよな?」
「でも、やっていることは反逆罪、人員も限られるわ。私が調べたところ4人よ」
俺は真琴が手に入れた見取り図を広げる。地下への入り口は一つだけ、奇襲を受けたら敵を倒さない限り脱出もできない。脱出路も無いとは日本に来て腑抜けているのではないだろうか? まだやくざのほうがセキュリティに気を配っているだろう。
「それで武器は?」
「はい、これ」
俺は真琴からかばんを受け取り開くと、中からH&K社のMP7がでてくる。おいおい強力すぎるぞ。
H&K MP7はドイツの対テロ特殊部隊、Grenzschutzgruppe 9 (グレンツシュッツ・グルッペ・ノイン)、略称、GSG9(ゲー・エス・ゲー・ノイン)にも採用されているPDWだ。PDWは、Personal Defence Weaponの略で、日本語では個人防衛火器と訳される。試したことはないが200メートル離れた的に命中する集弾性能があるといわれている。個人が違法に入手するには並大抵の苦労ではないはずだ。
「スコーピオンあたりで十分な気がするが?」
「新しく入手したモノだし、使ってみたくない?」
「使うのは俺だけどな」
真琴が彼女の愛銃、ベレッタM1919を太ももの内側に隠されたホルスターから抜く。その姿はえらくセクシーだったりする。
M1919は、1919年に登場したかなり古い銃で、口径25ACP、装弾数8+1でストッピングパワーでは現在主流の9ミリに劣るが、護身用としては最適だ。007のボンドも初期には使用していた。あまりポピュラーな銃でない、ガンマニアの真琴の趣味だ。
「ついてくる気か?」
「もちろん。バックアップくらいできるわよ」
こうなったら、何を言っても無駄だ。俺は無言で歩き出した。
地下にはいくつかの部屋があったが、人の気配がするのは一番奥にある部屋だけだった。
このドアの前に来るまで、見張りもいなければ、監視カメラも無い。真琴によれば、先月に借りた今回のための仮アジトらしいので監視カメラは無いにしても、見張りぐらい立てろといいたくなる。
真琴に目で合図するとうなずく。俺はドアの取手と蝶番に弾丸を撃ち込むとドアを蹴破る。
中には男の人影が3つ、銃を抜いているのがすでに一人いたがかまわずMP7の引き金を引く。男の放った銃弾が肩を掠めるが、MP7が弾切れになる頃には三人とも床に倒れて動かない。床に弾の切れたMP7を置きCZ75を抜く。男たちの生死を確かめるため近づくと「士郎!」という真琴の叫びが聞こえた。
状況を確認せず、床に飛び込むようにして伏せると同時に銃声が2回響いた。2回目は真琴のM1919の銃声だ。顔を上げると手を押さえてうずくまるバーゼルの姿があった。俺が突入したときは机の下にでも隠れていたのだろう。真琴の銃の腕も捨てたものじゃない。
「よう、ミスターバーゼル」
俺はバーゼルの貧相な面にCZ75を突きつける。
「待て、ミスター碧井。話し合おう。違約金ならいくらでも払う」
「では、黒幕を全て吐いてもらおうか」
「そんなことできるわけ無いだろう」
俺も期待はしていない。それに結果を変えるつもりも無い。
「サラだけでなく、俺と真琴の始末まで命じたのだろうバーゼル?」
「わるかった。だから命だけは」
「じゃあな」
俺はCZ75の引き金を引いた。
読んでいただきありがとうございます。
五話、六話はかなり趣味に走ってしまい。銃火器の名前がてんこ盛りです。
本当は今回のようにドアを蹴破って突入するときには、ショットガンでとって部分を吹き飛ばすらしいですけどね。その辺の突っ込みはご勘弁を。
次回の更新ですが、仕事の都合で来週の火曜日あたりなると思います。
では次回「王女と狼の別れ歌」でお会いしましょう。