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第三話 王女と狼の世俗歌(シャンソン)


 やるなら狙撃がベターだろうか。俺は、ホテル前の広場から見えるビルをひとつずつチェックしていく。

「あのー、よろしいですか?」

 後ろから誰かが話し掛けてきた。人に背後を取られるなんて久しぶりだ。相手が同業者なら俺は血塗れで転がっていただろう。振り返ると、黒いロングヘアーで薄いサングラスをかけた女性が立っていた。

 まるでその辺にいる外国人観光客のような姿をしていたが、間違いなく今回のターゲット、サラ=ブレンダ王女だ。彼女に付くはずの護衛の姿はない。一瞬、罠じゃないかうたがった。

「サラ王女?」

「気が付かれちゃいましたか。記者さんですよね? 空港からずっと付いてきていたでしょう?」

「あ? はい、そうです。フリーライターの碧井士郎あおいしろうと言います」

 勘違いしているなら好都合。適当に話をあわせる。

「王女様。一人での外出は危険だと存じますが」

 俺は、心にも無いことを言う。チャンスだ、面倒にならないうちに始末するに限る。

「どうしても生の日本が見たくて抜け出してきてしまいました♪ 公式訪問だと作った顔しか見せてもらえなくて、つまらないですから。それから私のことはサラと呼んでくださいお願いします」

 そう言って無邪気に笑う。この王女様は、自分の立場をわかっているのだろうか? その身に何かあれば一人、二人の首は軽く飛ぶだろうに。

 俺は左脇に吊るした愛用の拳銃『CZ75』に手をかける。

「あの…… 今日一日付き合ってくれませんか?」

 自分から狼を引き込むとは『こいつは馬鹿だ』と、俺は王女をそう評価した。

「どこかお望みの場所はありますか?」

 俺はサラに尋ねた。




 寿司、天ぷら、芸者ではないが、「お寿司が食べてみたいです」と言う、サラのリクエストで寿司屋に入った。ただし回っているが。

「本当に回っているのですね」

 サラがうれしそうに笑う。まあ、寿司だけでなく天ぷらや、ケーキや、プリン、フルーツなども回っている

 何度も来日した日本通なら別だが、一般の外国人には本格的な店よりはこのような店が喜ばれるようだ。確かロンドンでも回転寿司が出店したと聞いた覚えがある。

「あ、あの碧井さん。どうやって食べたるのかしら?」

「自分で好きな皿を取って、醤油をつけて食べてください」

 するとサラはおそるおそるベルトコンベアーの上を流れる皿を取ると、うれしそうに笑う。二十歳前の女性に言うのもなんだが、その仕草が可愛らしい。

「おいしい。これは何という魚ですの?」

「ああ、それはヒラメだ」

 日本人の血が入っているせいか生魚も大丈夫なようだ。サラは食べては魚の名前を聞いてくる。

 そのうちに俺がチビリチビリやっている日本酒に興味を持ったようだ。

「碧井さん。それも少しください」

「日本では飲酒は二十歳を過ぎてからだ」

 とたんにサラが拗ねた。公式の場所とは違いよく表情が変化する。今がサラの本質なのだろう。

「碧井さんは意地悪です。シーリアでは18歳で飲酒できます。二十歳まで待つと帰国する日になってしまいます」

 どうもこのままだと恨まれそうだ。俺の目的を考えると、どの道恨まれることにはなるのだが…… 俺はお猪口に注いだ日本酒をサラの前に置いた。とたんにサラの顔が輝いた。

「いいのですか?」

「まあ、いいさ。日本には数え年というのがあるから、サラは21歳ということにしておく」

 笑顔のサラは、お猪口の日本酒を一気に煽った。するとみるみるまに顔が桜色に染まっていく。

「お、おい大丈夫か?」

「碧井さん、私、初めてお酒を飲みました」

 今頃になって白状するな。俺はあわてて店員にお冷を頼む。

 内心、一体俺は何をしている。という思いもあるが、もう少し付き合ってやってもいいだろう。どうせ今日一日の命だ。俺としてもこのまま帰すつもりはない。


今回も最後までお付き合いありがとうございました。


第三話 王女と狼の世俗歌シャンソンをお届けします。

もうお分かりだと思いますが、今回のサブタイトルは曲のカテゴリを絡めていこうという趣向です。

では次回もよろしくお願いします。

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