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八話

「ふぁ……」

 目が覚める、外の明るさ的にはちょうどよく朝になったくらいだろうか。時間的には恐らく6時から7時くらいだと思う。


共用の流し台のところまで行き、顔を洗い葉を磨く。歯ブラシは今まで過ごした世界ではないところもあったが、この世界には日本に近い歯ブラシがあるようだ。

 借りれる歯ブラシでもいいが、こういった生活必需品もそろえていく必要があるな、と思った。またあの雑貨屋には行くことになるかもしれないな。


 そうして地下まで降りて朝食を取りにいく。


「いらっしゃい、朝食出来ておりますぜ」

 昨日話しかけてきた人とは違うマスターっぽい人が話しかけてくる。話し方もなんか似ているような気がするが気にしないことにした。


「ありがとう、朝食はなんだ?」

「パンにサラダ、あとは昨日の残りのシチュー。パンはある程度お好みで選べるから自由に選んでくれ」

 

 さすがにご飯とかはないか。日本から離れると白米が食べたくなるよな。もともとここの来る前も白米のある世界じゃなかったからしばらく食べてないなあ。


「ありがとう、いただくよ」




 そうして軽く朝食を取った後、ギルドへ向かう。


「あ、ユウヤさんおはようございます!」

「遅いわよ! 男なら女の先に来ているくらいじゃないと困りますわ!」


 2人の少女が既にいた。この世界の住民の行動時間の基準がわからないんだから遅くなるのは仕方ないだろうとか思ったが、言っても確実に伝わらないので言わないでおく。


「悪い、初めての宿だったもので慣れてなくてな。ところでもうクエストは受けてあるのか?」

「あ、そうですよね。ユウヤさんは街とかを避けて生活していたんですものね」


 なるほど、とうんうん頷いているセシル。嘘を思いっきり信じているようだった。


「クエストは既に受けてあるわ。今はどの方向に狩りに行くかの相談をしていたところよ」

 北と南は一度行っているな。


「北には100匹を超える群れがいたな。既に討伐されているのかわからないが。で南には北よりマシだがそれでもゴブリンとしてはありえない群れがいたと。東と西についてはどうなんだ?」


「東と西はゴブリンも出ますが、他の敵も多く出ますので今回は除外しようと思っています」

 そりゃゴブリンだけが常に出るってわけではないよな。まだゴブリンしか見たことがないのたが。

 

「やっぱり北に行きません?私なら100匹でもまとめて吹き飛ばせますわよ」

 自信満々に言うネビル。


「その間の詠唱の隙を守るのが俺とセシルの仕事だってわかって言ってるよな?」

 正直100匹まとめて相手にするのは厳しすぎる。特にセシルが危険だ。


「私は北でもいいと思いますよ? あ、100匹まとめて相手にするのが大丈夫、というわけではないですよ? 100匹の軍団についてはもう討伐報告が出ているので。ただ、北でゴブリンリーダーが出たっていう話を聞いたんです。私たちの力なら……私は支援と回復しか出来ませんけど……ユウヤさんの防御力とネビルさんの攻撃力なら、リーダー相手でも突破出来ると思うんです。困っている人たちを助けたいですから、出来るなら相手を出来る私たちが北に行った方がいいと思うんです」


 なるほど。そこまで考えていたのか。ゴブリンリーダーの実力とやらがわからないが、情報を収集してくれていた2人の考え的には俺たちで十分相手になるということなのだろう。

一応ザコであるゴブリンの相手は他の人に任せて、自分たちはさらに脅威になるものを倒しに行くということか、ちゃんと考えているんだな。


「2人がいけると判断したのなら構わない。では今回は北に行ってみるか?」

「はい! 頑張りましょうね!」

「ええ、頑張りましょう、私の魔法にかかればリーダーだろうとも一撃ですわ!」


 そうして今回は北へ向かうことが決まった。


 ―――――この安易な決定が、のちに取り返しのつかないことになることには、まだ誰も気づいていなかった―――――。




 北への進軍の途中に、聞いてみる。

「ゴブリンリーダーってやつはどういうやつなんだ?」


「はい。ゴブリンリーダーはゴブリンを纏める個体です。ゴブリン自体は群れていても集団での戦闘が上手いわけではないんですが、リーダーが1匹いるだけで、戦闘の質が一気にあがります」

 文字通りリーダー……指揮者か。やっかいそうな敵だな。


「補足しますと、リーダーに指揮されたゴブリンたちは、戦闘が上手くなるだけでなく、戦闘能力自体が1段階上がると言われていますわ」


「それはだいぶきついんじゃないか? 対処法は?」


「本来であればリーダーを各個撃破するのが好ましいのですが……私やユウヤさんでは倒せないでしょう。それにネビルさんがいるので―――」


「私の魔法で全てを吹き飛ばして差し上げますわ!」


魔法いいなあ、羨ましくなる。せめて武器があれば俺だってもうちょっとは戦えるものを…。


「ようするに前回とやることは変わらないわけだな」


「はい、ですが今回はリーダーがいた場合、敵の戦闘能力が違います。ユウヤさんには私よりネビルさんを優先して守っていただくことになります」


「期待してますわよ?」


「了解した。とりあえず2人ともまたこのお守りを持っておいてくれ」

 あらかじめ作成しておいたお守りを出す。本式結界発動用のお守りである。


「ありがとうございます。フォーメーションは、ユウヤさんが前衛、私が中衛、ネビルさんが後衛で。ユウヤさんの漏らした敵は、私が食い止めますので、お守りの結界はネビルさんのところまで敵が行きそうになったときに使って下さい」


「それはわかったが……セシルは大丈夫なのか?」

 結界は一度に1つしか展開することができない。ネビルを優先して守るということは、その分セシルに危険が行くということになる。


「大丈夫ですよ。呪文が完成するまでなら耐えられます。実際に私が耐えていたのも見ていたじゃないですか」

 あれは耐えていたと言えるのだろうか。いや、確かに数分時間かかったからな、その間耐えていたと言うことは出来る。


「だがあの状態でギリギリだっただろう。リーダーの能力で強化された敵が来るとまずいんじゃないか?」

 そう、最大の懸念はそこだ。リーダー自体は、自分が優先して抑えるようにすれば問題ないだろうが、強化されたゴブリンは別だ。どれくらい強化されるのかもよくわからないのに考えなしで進むのはまずい。


「貴方は心配しすぎですわよ。少しはセシルを信じてあげてくださいな」

 そうネビルに言われる。

 心配するのも無理はないと思うのだが……なんせ最初の出会いが下手したら死んでいたという状況なのだ。あの圧倒的な群れを知らないからわからないのは無理はないのかもしれないが。


「まあ守る側からしたら心配するものなんだよ、心配しすぎてしすぎるってことはないからな。あともう1つ懸念材料があるんだが……殿は大丈夫なのか?」

 もう1つの懸念材料。それは背後からの攻撃を想定していないことだ。ゲームなどでは、1つの方向へ向いていればいいかもしれないが、リアルでは360度が敵で囲まれる可能性だってある。

 後ろを攻められて、ネビルが落ちたら即終了だろう。


「そういうときのためにも貴方の結界が重要なんでしょう」

 

「後ろを攻められて結界張っても数分しか保たないし、攻撃できる魔法の範囲が決まっている以上危険なんだが……」

 どうにもこの2人は危機感が足りないように感じる。何故だろうか。

 今までは2人でどうにかなっていた、ということで油断しているのだろうか。これから挑むのは今まで2人が見たことないようなモノなのかもしれないというのに。


「とにかく慎重に行くぞ、最悪の場合は撤退を視野に入れろ。俺が抑えるからお前たち2人は街へ逃げること。それを徹底してくれ」

 じゃないと守れるものも守れなくなる。また守れずに終わるのはゴメンだ……。


「そんな! ユウヤさんを置いて逃げられるわけないじゃないですか!」

 そう言うセシル。この強情娘は相変わらずだった。


「セシル、バカなことを言ってはいけませんわ。そういう状況に陥った時、全滅する前に誰かが助けを呼びに行かなければなりませんし、私たちを守りながら自分も守るという無茶をさせることになるんですわよ?」

 思わぬところから助け船が入る。楽天的にとらえている部分はあるようだが、状況を読むことは出来そうだ。


「ネビル、もしセシルが撤退をしないようだったら引きずってでも逃げてくれ。そうしないと少なくとも俺は死ぬ」


「わかりましたわ。セシル、わかりましたわね?」


「納得はしてませんが……ユウヤさんが死ぬのはイヤなので出来るだけ指示に従います」

 まだこいつは納得していない、多分そのときがきたら逃げないだろう。これはキツイ狩りになるかもしれないな。


 だが、守り手として、全力を尽くすだけだ。

 誰かを守るためならば、命さえも生贄にする、それが俺なのだから。


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