七話
まずは宿屋へ案内してもらう。とにかくこれ以上の狩りは明日だ。今日は流石に飯を食べて寝たい。金額という懸念材料があることはあるが……。
「ここが宿屋の【ツーハス】というところです。私たちも今はここを拠点にしています。値段も安目なのでおすすめですよ」
「というかあなたですとこの街でここ以外に泊まるのは厳しいでしょうけどね!」
とセシルとネビルに言われる。やはり宿屋も金額は高いということか。世知辛い世の中すぎる。この世界は俺に対して理不尽だ。
「案内ありがとう、今日はここで解散にしようか。明日はまたギルドで待ってるよ」
と言って解散することにする。正直この2人といるのはそこそこ楽しいが疲れるのだ。
「どういたしまして、また明日よろしくお願いしますね!」
「また明日。明日もせいぜい私の足を引っ張らないようにお願いいたしますわね!」
そうして解散した。ネビルの言い方は気になるが、確かに火力の要である彼女の邪魔をしてしまうと軽く全滅の可能性もあるのだから足を引っ張らないようにしないとな。
「確実に、守るさ……」
そう、誰に聞こえるでもなく呟いた。
そうして宿屋へ入り、受付へ行く。
「いらっしゃい、宿泊かい? 素泊まりだと2000マナ、晩飯付きで2500、晩飯朝飯付きで3000マナだ。どうする?」
値段はやはり高かった……。だがまあ水晶玉の値段の件もあったので思ったより安かったと思うべきだろう。
「朝夜飯付きで頼む」
「3000マナだ」
そう言われて水晶玉を取り出す。ここから金額を念じて相手の水晶玉にかざすとマナの譲渡が行われるらしい。
3000マナということは、1日ゴブリンを1匹は狩らないと生活すら出来ないということになる。しかもこれで安いほうらしいからな。他の人はどうやって生活をしているのだろうか……。
「確認した。部屋は223号室になる。これがカギだ」
そう言われて鍵を受け取る。鍵は特に魔法などが関係しているような感じではなく、見た目からして普通の鍵だった。
「ありがとう。飯はどうすればいいんだ?」
「適当な時間にこの店の下の酒場へ行ってくれ。飯を用意しておく。ちなみに酒は別料金になるから飲むのなら注意してくれよ」
なるほど、酒場と併設されているのか。よく出来ている。冒険者のよく泊まる宿屋と冒険者がよく利用するだろう酒場が両方あれば利用しやすいからな。
部屋へ入る。6畳から8畳くらいの部屋だろうか。シングルベッドのみが置いてある簡素な部屋だった。
だが休むだけならこれくらいで十分。とにかく疲れていたのでベッドで横になることにした。
意識はすぐに落ちていった―――――。
セシルとネビルは同室をとって泊まっている。気の知れた仲間と一緒にいるのは、やはり落ち着くものだろう。
「ふう……今日は大変でしたけど楽しかったですね」
「そうですわね、いつもより激しい魔法を使うことも出来ましたし……でもセシル、今日初めて会ったばかりにしては彼のことを信用しすぎじゃありません?」
彼とはもちろんユウヤのことだ。ユウヤのことを嬉々として話していたときもそうだし、実際にユウヤと会って話をしているところを見ても、彼のことを完全に信頼している感じだというのがよくわかったのである。
「だって私の命の恩人ですし……、そういうネビルだってユウヤさんのこと認めたみたいじゃないですか」
「うぐ……確かに彼の実力はわかりましたけど。殲滅力は皆無でも守ることに関してはホントに得意だと言うことがわかりました。だからこそ明日一緒に行ってもいいと思っただけですわ。そういうことを差し引いても、セシルは彼のことを信用しすぎだと言っているのです」
彼の結界師としての力は確かに認められるものがあった。それでも今日初めて会っただけの人物なのだ。いくら命を助けてもらっても、そこまで信用するようなことはない、とネビルは思った。
「んー……普通だと思うんですけどね? 疑う必要もないじゃないですか。私たちを守りながら戦ってくれましたし、明日も戦ってくれると約束してくれましたし」
確かにそこは疑う余地はなかった。取り分はきっちり3等分したし、水晶玉の買い物に関してなんて言えば、まるでこの世界のことを知らないかのような驚き方をしていたようにも思うし、何か騙そう、と考えているわけではないのはわかる。
それにしてもわざわざこちらから案内してあげるなどと言う必要はないような気もするし、……それに何か、隠しているような、よくわからないのだが得体のしれないものを感じる、と思うネビルだった。
「ん……」
目が覚める。どうやらベッドで横になって休んでいたら寝てしまっていたようだ。
流石に異世界へ来てから初日、能力が奪われたこともあってかなり疲れていたのだろう。
「時計がないから時間がわからん……」
個室にも時計はなかった。この世界の住人は時計のない生活を送るのが普通なのかもしれない。それならあの時計が高かったのがわかる。いや、あれが高いのかもよくわからないのだが、個人的には高い。
「とりあえず……晩飯か。まだ晩飯の時間に間に合うといいけど」
そうしてベッドから降りて立ち上がる。
確か地下だったな、行ってみよう。
「ほう……これは……」
人が座る場所などないのごとく賑わっていた。酒場だと言っていたから、やはり夜からが本番なのだろう。というか立って飲み食いしている人もいる。
「いらっしゃい。何にする?」
酒場のマスターっぽい人が話しかけてくる。
というか、マスターっぽいような人がいっぱいいて接客している、なんだこの店。
「宿屋に泊ってるんだがまだ晩飯は出来るか?」
とりあえず話しかけてきたマスターっぽい人物に答える。
「なるほど、初めての利用ですかい。飯は朝になる前なら全部晩飯になる。朝になったら朝飯になる。ようするに宿屋の利用客ならこの店の営業時間帯ならいつでも飯が食べられるってことだ。部屋番号は?」
ほう、便利なシステムだな。ということはこの酒場は朝までで閉まるのか。寝坊しないようにしないとな。
「223号室だ」
「へい、確かにまだ飯の利用はしてないみたいだな、今から作るからてきとーに座って……いや座れないからカウンター付近で立って待っててくれ」
確かに座る余地はない。こういうときは都合よく知り合いがいて席をとってくれてたりするのかもしれないが、そんな都合よくいくわけがない。
やることがないので、酒場の客たちの話に耳を傾けてみる。
「―――あのゴブリンの群れが……」
「―――なんでもゴブリンロードまで出たとか……」
「マジかよ、しばらくクエストは控えたほうがいいのかもしれないな」
「ゴブリンが異常発生しているせいで商売あがったりだよ」
「採取も怖くてしにいけないしな……」
どうもやはりゴブリンの群れに対する懸念が強いようだ。
採取を中心にしてて戦闘をあまりしないような人は採取しに行けないし、商売人などは仕入れとかに護衛をつけないといけないのだろう。
それよりもゴブリンロードとやらが気になるが……
「へい、お待たせしました、今日は兎のシチューになりますぜ」
いろいろと思案していたら飯が出来たようだ。早いのはきっと何人もいるから作り置きしてあるのだろう。
「ありがとう、いただくとするよ」
見た目は量はそこまで多くないがなかなかに美味そうだ。宿屋との提携でやってるサービスにしてはいいものなんじゃないだろうか、と思う。
「酒はいらないのですかい?」
そう聞かれる。そういえば酒場だから酒を注文してほしいよな、そりゃ。
「悪い、今金欠なんだ、また今度にするよ」
「そうですかい、じゃあ頑張って稼いでまた来て下さいな」
マスターっぽい人はそう言いカウンターの中へ戻っていった。
「さて、いただきます、と」
一口、食べてみる。ふむ、兎の肉が思ったよりも硬くない。しっかり調理してあるんだろう。この宿屋と酒場は、安く、質もしっかりした店なのだろう、と判断する。
だからこそここまで賑わうのだろうしな。
そうして、この世界に来てから初めてのご飯を食べ、部屋へ戻ったのであった。
「疲れた……、今度こそしっかりと寝よう。おやすみなさい」
誰に言うのでもなく、おやすみの挨拶をして就寝に至る。疲れていたせいか、途中少し寝てしまったが問題なくすぐに寝付くことができた。