四話
「さてさて、さっきはわからなかったけどゴブリンの実力ってどんなものなのかね」
全盛期の俺であったならまず問題外の敵だ。例えあの群れが相手でも、余裕で完封出来ていた自信がある。しかし今の俺に使えるのはただでさえ弱いのに弱体化した一部のスキルだけ。しかも攻撃スキルがないという酷さ。
そうこう考えながら街の南の方を進んでいると魔物の群れを発見する。ゴブリンだ。4匹いる。
(4匹か……これくらいで群れるのが普通ってとこだろうか)
少しは情報収集してから来た方が良かっただろうか? だが金がないしなあ。さっさと飯食えるくらいには稼がないと初日で行き倒れてしまう。
―――――ガァァ!
こちらに気付かれた。まあ出来れば奇襲したかったが、平地だし、こっちは無手だから無理な話だ。
4匹同時にこちらへ襲いかかってくる。
(まとめて相手になんてしてられるか!)
「簡易結界壱式!」
こちらへ向かってくる一匹目の後ろに結界を張る。3匹相手なら、簡易結界でも多少は保つだろう。
1匹が止まらずこちらへ駆けてくる。どうやらチームで戦うという概念はないらしい。ならば各個撃破するだけだ。
「ガァァ!」
正面から殴りかかってくる。思ったよりは速いが1対1なら捌ける。100対1とか無理すぎただけだな、うん。
「よっ……と」
相手の拳撃を軽く避ける。すれ違いざまにこっちもぶん殴る。とりあえず顎を打ち抜いてみた。
……
(いてぇぇぇぇ!)
人型タイプならとりあえず急所を打ち抜けばなんとかなると思っていたが甘かったようだ。何も装備していない状態ではこちらの攻撃は通らなそうだ、想定以上に硬い。
と、いうわけでそそくさと街へ逃げ帰ってきたわけですが。
(困った……)
そう、物凄く困ってしまった。
(まさか殴ったらこっちが痛いだけだとは……)
攻撃が一切通らないのだ。力も相当落ちているのがわかる。最低でも武器が必要だ、手が痛いだけではすまなくなる可能性がある。
おそらく瞬歩で突っ込んで殴りかかればダメージは通るのかもしれないが、こちらの腕が折れる。
(そもそも結界師が前衛で戦うこと自体がおかしいよなー……)
誰か仲間になってくれないかなー、とギルドで愚痴る。愚痴る相手もいないけど。
酒場とかに行きたいがとにかく金がない。金が必要な場面が多すぎて泣ける。
「あれ? ユウヤさんじゃないですか。どうしたんですか? こんなところで」
と、突然声をかけられる。
「ん? ああセシルじゃないか、奇遇だな。俺はちょっとクエストが達成できないのをどうにかしなくちゃなーと考えてたところさ」
何故かセシルがいた。いや、クエストがどうこう言ってたからギルドにいるのはおかしな話ではないか。
「……セシル、こいつは誰ですの?」
なんかセシルの隣にいた赤毛の少女に睨まれる。何故だ。
「あ、この方はですね、先ほど話をしたゴブリンの軍団に囲まれてるところを助けて下さった方で、ユウヤさんといいます!」
いい笑顔で言うセシル。ホントこの娘はなんでこんなに嬉しそうに俺のことを紹介するのだろうか。
そして対照的に赤毛の少女は不機嫌そうだ。
「ユウヤさん、この人が先ほど話をした私のパートナーのネビルさんです」
そう紹介してくれるセシル。正直この娘空気読めてなさすぎだろ、ネビルとやらが物凄くイライラしているのが感じ取れる。
「……【ネビル・ノーカス】ですよろしく」
「あぁ、ユウヤ・マワタリだ、よろしく」
……即自己紹介終わったー! なにこれ気まずい。
「で、ユウヤさんは何のクエストを受けたんですか?」
強情娘で空気読めない娘が聞いてきた。ある意味空気読めないのは助かる気がする。
「ゴブリン退治のクエストだ。だが、俺じゃ火力不足でなぁ……。武器があれば1人でもどうにかなると思うんだが、今は武器を買う金すらなくてな」
「ぷっ……ゴブリンすら1人で倒せないとか……」
なんか笑われた。まああれを1人で倒せないとか冒険者名乗る資格ないレベルな気がしなくもないが。だからって笑わなくてもいいのになー、というかこいつは1人で倒せるのだろうか。
「ネビルさん! 人を笑うのはよくないですよ! ユウヤさん、ネビルさんがすみません。ところで、修行で旅をしていたと聞きましたけど、そのときは魔物はどうしていたんですか?」
なぜかセシルに謝られた。まあ気にしてないから全然問題ないんだけどね。
というか、そうだ。俺修行の旅してたことになってたんだった。それが1匹の魔物すら倒せないとか普通に考えておかしいよな。てきとうに言い訳をしておこう。
「武器が壊れてしまったんだよ。素手でもいけるかなと思ったんだが、思ったより硬くてね」
「あの程度の敵で硬いとは、本当に攻撃力のない人なのですね」
またもネビルのイヤミである。というかなんでこいつこんなに俺に対して敵愾心満々なの? 誰か教えてくれ。
「ゴブリンなんて私の魔法で一撃ですわよ? それすら倒せないなんて……」
「でもネビルさん、私が詠唱の時間稼がないと魔法唱えることすらできないじゃないですか」
「くっ……そうですが……」
魔法使いか。火力高そうで羨ましいな。そういう仲間がいたらなあ……ん? そうか。
「そんなに自分の火力に自信があるなら見せてくれないか?敵の攻撃は全てこちらで引き受けるから」
パーティを組んでしまえばいいのだ。このネビルとかいう娘は嫌がる可能性があるがセシルなら
「いいんですか!? 確かに私たちだと、殲滅力はあるんですが、私が壁役だといまいちでして……。その点ユウヤさんは100のゴブリンに囲まれても耐えたくらいですものね!」
また顔を赤くして熱弁している。もしかして結界を使う人物とかこの世界では珍しいのだろうか。それならこの娘がいつも顔を赤くして話すのも理解できる気がするが。
「ふん、いいわよ。私の魔法が見たいっていうなら見せてあげるわ! その代わり盾としてしっかり私たちを守りなさいよ!」
意外なことにネビルまでも賛同してくれた。よほど自信があるんだなこいつ。
「任せろ、結界師として仲間を守るのは当然だからな。お前らには一発たりとも攻撃は通さないさ。セシルはフォローを頼めるか?」
「はい、大丈夫です。もし打ち漏らしとかがあったら私が担当します」
「はっ、この私が打ち漏らすわけないでしょう!大船に乗ったつもりでいてくれていいですわよ!」
自信家だなこいつ。その自信少し分けてほしい。あと火力も分けてほしい。
そうして、即席パーティでゴブリンへのリベンジをすることになった。