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SAMURAIブルーに恋をして  作者: 柏田華蓮
38/43

37 キミの矛盾を (1)

ひっそりup

 あの夏は初めてだらけの経験をした。

 紆余曲折。


 そんな言葉がお似合いな時間の中で

 交わした言葉たちを今も覚えていますか?



 ******



「や、やだなぁ~。逃がさない、とか」

「佐倉、逃げるな」

「逃げてな「逃げたから今、ここにいる」


 かぶせるように紡がれた言葉は、どこか真剣見を帯びていて私の背筋をギクリとさせた。

 戸惑う私を他所にかなさんは、ミーハー心がくすぐられるのか、キョロキョロ目線を走らせている。

 でも助けを呼ぶ私には目もくれず、何故だか一人頷いて唇を三日月形に描きながら、そっと階段を降りていった。


「……なんで、ここにいる?」


 さっきのちょっとニュアンスの違う言葉をかけられて、さらに萎縮させられる。

 やはり、何でここまで追いかけて来ているのか、と聞かれた。


「えっと、……決して耕大くんの邪魔をしようとか、追いかけて来た訳では」

「そうじゃなくて」

「そう、そうじゃないよね。正直な話、そうじゃなくて……そうじゃなくて?」

「正直な話?」

「…………え?」

「ん?」


 二人して顔を見合わせて頭に疑問符を浮かべる。

 どうも、


「話が噛み合ってない」

「確かに」


 お互いに頷いて、沈黙が落ちる。

 気まずいような、そうでもないような。

 わからない空気に急に笑いが込み上げた。


「ふふ……っ」


 思わず笑い声が漏れてしまって、急いで咳でごまかしてみる。でも、既に耕大くんにバレているのか、私を見下ろしてポカンとした顔をしていた。

 その仕草がどこか可愛く思えて、さらに笑みが浮かんできた。


「えっと、ごめん。説明するにはちょっと長いと言うか……。部屋、入る?」

「え。…………や、何つうか、もう少し……」


 最後の言葉がキチンと聞き取れず首を傾げると、耕大くんは何でもないと首を横に振って終わってしまった。


「下で」


 話そう、とは言われていないのに、短くまとめられた意味を今は理解出来る。


「うん。ただ、先にお風呂入って来ても良いかな?香奈さんたち待たせる事になっちゃうし」

「ああ」


 久々に弾んだやり取りに、いつの間にか異母兄(あに)とやり取りして疲れていた事を忘れることが出来た。

 自分で現金なやつだとは思うけれど。




 *




「で?」

「……で、警察から耕大くんが帰ったあと、異母兄(あに)が来まして、ひと悶着あった訳ですよ。内容は佐倉家の歴史から話さなければいけないから、非常ぉーに長くなるので、」

「今に至る、と略したいんだな」

「ええ、全くごもっとも」


 なぜか正座しながら、彼の言葉に頷いて返すと、


「略さずに話せない事?」

「え?」

「聞きたい」


 逆に真剣な眼差しを向けられて、私の方が焦らされる。


「佐倉の過去を聞いちゃ……ダメか?」


 珍しく質問で返されて心臓が羽上がる。

 どうして知りたいのか。

 ただの好奇心か、同情か、判断が付かない。

 そして、戸惑いを隠せずにゆっくりと視線が落ちそうになっていく。

 沈黙が二人の間に落ちて、時計の針の音がリビングに木霊する。


「違う」


 静けさを破ったのは、何か考えをまとめて意思を持った耕大くんの声だった。


「知りたいんだ。俺は……梓桜の事」


 名前を呼ばれて目線を上げると、そこには今まで見たことのない切ない顔が浮かんでいた。

 心臓を鷲掴み。


 その表現が正しいほど、胸が締め付けられると同時に喜びに変わる。

 ニヤつきそうな顔を隠して、彼をじっと見つめる。すると、今度は彼が目線を下げて崩した足先をいじり始めた。


 錯覚だろうか。

 何だか耕大くんが照れているように思える。


 勘違いだろうか。

 何だか私を知りたがって独占欲を出してるみたい。


 思い上がりそうになる自分の気持ちを精一杯コントロールして、静めていく。


「……どうして?」


 意地悪な質問だ。

 勝手に期待をしてる。彼の言葉に。

 なんてわがままだ。


 でもほら、彼は……


「佐倉は、ファン一号」


 義理堅い、私の最高の"応援相手(サッカープレイヤー)"だ。

 膨れ上がった期待が萎んで自嘲する。毎回の自分のバカさに呆れんばかりだ。

 そう思って顔を上げると、彼は真剣に顔を覗き込んできて、さらに続けた。


「……ってだけじゃなくて、気になるから」


 ――俺の(ここ)に浮かぶから。


 言われて、私はひっそり思った。



 ……この人もしかして、天然垂らしかしら、って。

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