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SAMURAIブルーに恋をして  作者: 柏田華蓮
37/43

36 絡まる赤い糸 (9)

大変お待たせ致しました。

2015年最初の「絡まる赤い糸」Ep.です。

 頭の中、真っ白ってこう言う事かな……?


 私は彼を視界の中いっぱいに写して、茫然と立ち尽くした。

 耕大くんもそれは同じようで、あんぐりと口を開けたまま私を見ていた。


 いやいや、梓桜。しっかりして。

 これはもしかしたら夢かも知れない。

 友利にも遭遇して今日は疲れてるのよ。

 ドアを閉めてまた開けたら、耕大くんの影なんて居なく……、


 思いながら、ドアノブに手を掛けてドアを閉めようと腕を動かしていく。

 でもドアを閉じていきながら、私の頭の中ではある一言が呼び起こされていた。


 ――『臨機応変に対応してね?』


「うわ!」


 ドア向こうの人が逆に、集中を切らせていた隙をついて、腕がドアと共に脱衣所の中に引き込まれていく。


 ちょ、ちょ、ちょちょちょー!!!!


 ペチッと音がして、手のひらにしっとりとした感覚があった。

 その状況に身体がピキリと音を立てて硬くなる。

 状況を把握する事を脳が拒んで、視線を上へ向けることが自分では出来なかった。


「…………さく、ら?」


 私を呼ぶ声が真上から聞こえる。けれどホントにキャパオーバーで待ってて欲しかった。

 だって、

 だって……

 男の子の裸とか見る始めてだし! 心臓飛び出そうだし! 何かヤバい状況だし!


「なんで…………」


 けれど、間近から聞こえる声も同じように、戸惑っていると感じた。すると徐々に冷静さを取り戻して行けそうだった。但し、触視からもたらされる感覚はすべてシャットアウトして。


「忘れよう」

「え?」

「そう、夢。……今、耕大くんは疲れてる」


 私は目をつぶって、自分の着替えをキチンと握りしめてそろそろと彼から手を離した。

 突然の事に腕を掴んでいた彼の手も離れて、ゆっくりと距離を一歩二歩と開けていく。


 後ろ手にドアを確認すると、私は覚悟を決めた。


「目の前の私は幻覚だからっ! 部屋へ帰って早く寝ましょうっ!」


 そして素早くドアを開閉して、捕まらないように走って階段を駆け上がった。


 自分の部屋に入ると、心臓が耳の裏に有るんじゃないかってくらいに大きく音を立てていた。


「……最悪だ……」


 好きな人にカッコ悪い所ばかり見せてしまっている。

 きっと告白を断ったのに、(こんなとこ)にまで追いかけてくんのかよ、って思われてるかもしれない。また一段と嫌われたかも。ウザがられてるかも。


 ガックリと額を膝小僧に押し付ける。

 溜め息だけが暗い部屋に響いている。


 人を好きになってそして拒否された後の今、もう一片たりとも彼に嫌われたくないのに、全然上手くいっていなかった。

 臆病で意気地無し。そして諦めが悪い。

 人を好きになるって事はある意味で自分を弱くしているのかも知れない。


 ――コンコンッ


 もたれ掛かっているドアからノック音を立てて部屋に響くと、驚きに肩と心臓がが羽上がった。


 |《梓桜ちゃん、いるー? もしもーし》

「香奈さん?」


 声の主に耕大くんじゃないことを認識すると、ゆっくりと立ち上がって呼び掛けに応えた。

 そしてドアノブを回して、自分の方へと引き寄せると廊下の光がまず目に飛び込んできて、眩しさに目が眩んだ。


「……あぁ、いたいた!」


 明るい香奈さんの声に微かに笑みを浮かべてみるものの、後ろの存在を確認して血の気が引いた。


「よぉ」


 今度はきちんとティーシャツを着て、首からタオルを掛けた耕大くんがこちらをじっと見ていた。

 蛇に睨まれたカエル。

 その表現が体現されたような構図に冷や汗は隠せない。

 逃げたい。

 その四文字ばかり頭に浮かぶ。


「ど、……なん……」


 どうして、なんで。

 そう言いたいのに口は上手く回らない。

 それを悟ったかのように、耕大くんは私を見て目を細めながら言った。


「逃がさない」


 私の心を鷲掴みするおまじないの言葉を。



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