表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SAMURAIブルーに恋をして  作者: 柏田華蓮
19/43

18 呼吸と体温と (7)

お久しぶりです。短くてすみません。

 少し汗ばむ陽気も日が傾けば落ち着いて、逆に風が吹けば肌寒くも感じる。


 あれから閉館までの一時間、耕大くんを交えて歴史対策を一通(ざっと)りすると時間が経つのは早かった。

 教えている間、ずっと左に感じる彼の真剣な顔や体温が、私の心臓を刺激し続けて挙動不審だったと思う。


 閉館後、四人で下足棟へ向かいながら途中にある自販機の前で足を止めた。


「もーぉ、二時間頭に詰め込みっぱなしで疲れたー…」

「おー、後藤。俺にもー」

「やだよ、自分で買いなよ」


 根を上げながらコインを投入して、愛子が一番にボタンを押した。


 ガコンッ


 落ちてきた紙パックのジュースを取りだし、そそくさと飲み始める姿に疲れてるんだな、としみじみ感じて微笑が零れた。


 ガコンッ


「あーもぉー、明日テスト無いかな。俺の頭から数学抜けていきそうなんだけど」


 渡部くんはよっぽど喉が渇いていたのか、取り出したカフェオレのパックを瞬く間に飲み干して凹ませていた。


「そしたらノリは、英語赤点、部活参加停止だな」

「ちょ、え!? コータ、そんな不気味なこと言う!?」

「ははっ、バカー」


 愛子が渡部くんを指差しながらからかうようにして言うと、「後藤、コノヤロウ!」と鋭い視線を向けていた。


(いいなぁ。羨ましい)


 三人が賑やかに話している空間を、私は一歩引いて羨ましく思いながら見ていた。

 男の子と仲良く明るく話せる愛子が、私には眩しく見えていたから。

 耕大くんと冗談言ったり、笑いながら話をしたいんだと思い知らされるから。


 眩しく見える三人を見ていると、ふと視線を向けた耕大くんが「佐倉?」と私を呼んだ。


「疲れた?」


 頭ひとつ分背が高い彼が私を見下ろして、首をかしげて聞いてくる。


「……そだね、さすがに今日は張り切りすぎたかも」


 テスト対策初日からこんな気持ちに気づくとは思わなかったから。

 勝手に一喜一憂してる。嫉妬して、心が弾んでる私の一日なんて、想像してなさすぎて頭は混乱しかねない。


 日が落ちる前に撫でられた髪に感じた優しさを思い出すだけでも頬は熱を持つのだから。




*****



 静けさの灯る帰り道で、私はさっきの明るい空気を思い出していた。

 そして悩んでいた。

 どうすれば、仲良く出来るのかとか、笑い合いながら、空間を共に出来るのかとか。


 人柄的に自分はあまり融通の効く方では無いし、マイペースだし。

 深緑に変わってしまった並木道を悶々と考えて歩く。

 左手側にある川は穏やかに流れているのに反して、私の気持ちは塞き止められた水のようで、何とも言い表すことが難しい。


 前後に二人ずつで並んで歩いていると、右隣から微かに息を吐く音が聞こえた。


「耕大くんも疲れた?」


 言葉を出してから視線を上げると、彼は私をじっと見ながら歩いていた。


「…………」


 沈黙で返事をされるとは予想だにしていなくて、少し焦る。

 前後の列でこんなにも会話の温度が違うといたたまれない気持ちにもなる。


 ネガティブが湧き出てきては、ダメな自分にまた落ち込む。


 そして視線を下げようとした時にかけられた言葉で、私の胸はまたも簡単に喜びで跳ね上げていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ