14 呼吸と体温と (3)
前話追筆しています。リターンお願いします。
翌日、耕大くんとの約束がどうなるのか、夜考えて居たのはいいけれど、結局計画が立たずに朝を迎えてしまっていた。
学校の中間・期末テストの対策を練るにもいろいろと準備は必須になる。
一番肝心なのはノート。
ノートには自分の授業への理解がしっかり書き込まれていなければ、その科目で、どの単位が理解不十分なのかが判断し切れない。
予習はするに越したことは無いけれど、授業を受けたからには予習してきたまんまの状態では非常にマズイと思う。
授業中に書き込まないノートほど、自分が理解し切れていない証拠になるからだ。
授業を受けて黒板に書いてある事柄をメモするだけなら誰でも出来る。
でも、成績優秀者というのはどんなノートをつけるのか。
その違いは、ノートの四隅のメモにあると思う。
今まで自分がやって来た事から思い起こせば、板書は最低限の事柄しか書き込まない。
けれど授業を行う先生によっては、黒板に書かずに口頭でテストに出そうなキーワードを含んで話す人も居るし、他には別の解法だって教えてくれる人も居る。
けれど、現時点での問題は、そのメモを耕大君は一体ドコまで書き込めているかにある。
化学の授業を見ている限りでは、最低限のことは出来ていると思うけれど、その他の授業に関しては全く私が目にしているわけでは無いから、未知と胸を張って言える。
それがどうだろうと結局……今日のテスト対策の第一歩目は、そこから始まるかもしれない、と新緑が深まった並木道を歩きながら、一人どこか浮かれつつも緊張感を持った心持でいた。
授業合間の休み時間に勉強を見ることは無いと思って、堂々と休憩を取っていたけれど、昼休みになっても耕大くんはF組の教室に現れることは無かった。
放課後、どうしたものか、と帰宅準備をしながら机でぼーっとしていると、急に右の視界が白いもので埋まった。
「佐倉」
耕大くんだった。
彼を机から見上げて答えようとすると、そこにはまた昨日のような引きつった顔がそこに張り付いていた。
「……? どうしたの?」
僅かな彼の反応を見逃したくなくて、私が聞けば耕大くんは一度頷いて私だけに見えるように小さく手招きをして、教室から抜け出した。
耕大くんの背中を追って、自分の教室から五メートルほど離れたところに出ると急に彼が振り返って私の顔を見つめた。
「ごめん」
「え?」
急に言われた謝罪の意味が分からずに、首を捻ると気まずげな顔をした耕大くんが更に言葉を続けた。
「あ、のさ。佐倉を誰が呼びに行くかで、かなり待たせた」
「……? 誰が呼びに行くか……? って、耕大くんと渡部君の二人、だよね?」
「や、あの。そのはず……だったんだけど、さ」
言葉を濁す耕大くんの反応にイマイチ理解できない私は、「?」をたくさん浮かべながら、彼の顔をじっと見つめた。
すると、急に後ろから圧し掛かるような重みを感じ、予期していなかったことにバランスを崩して、耕大くんの方に前のめりに倒れかけた。
「梓桜ぉー!」
「うわっ!」
それをとっさに耕大くんが肩を抱くように受け止めてくれて、無事に至ったけれど、急に起こった事に驚きの余り心臓がバクバクと急加速した。
「えっ、え!? 愛子!?」
後ろからの重みは、愛子が私のタックルをしてくるような体制で私に飛び掛った所為だった。
「びっくりしたー」
「ごめん、ごめん」
笑いながら謝る愛子に、少し呆れながらも頭は急に今の状況を把握するほうへと持っていかれた。
自分の頬に感じる温かみと肩に感じる力強い重み。
手の平に感じる呼吸で上下する肉の感覚。
それを意識するだけで、自分の呼吸が止まるくらいに胸も頭の中もいっぱいいっぱいになった。