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SAMURAIブルーに恋をして  作者: 柏田華蓮
14/43

13 呼吸と体温と (2)

 昼休みのチャイムが鳴り、私は教室で愛子たちとお弁当を広げていた。


「あははっ! でさ~」


 でも、愛子と私以外の人たちは自分の彼氏の話で大盛り上がりで、二人して何だか気後れになっているのが分かった。

 私は自分のお昼を食べ終えて、日頃の日課にしているアンブロ君たちの自主練風景を思いっきり堪能しようとお弁当を片付けしていた時だった。


 いつもならこの時間に廊下にはいないはずの人物が居て、思わず凝視してしまった。

 久しぶりに見る顔と、醸し出している雰囲気に懐かしさと嬉しさと、ここ最近の悩みだった戸惑いが交じり合う。

 でも、相手も私を探していたようで視線が合って、笑みを浮かべてこちらに向かって来ようとして急に足を止めた。


「?」


 こちらに目線を合わせたまま、相手の耕大君は、何か躊躇いを持っているように感じた。

 ちらちらと私の周りに視線を移しては、「行きたくても、行けない」……困った顔をしていた。

 どうやら彼は私の周りに気を使っている、そんな感じがした。


 言葉にならないことを読み取って、私はグループから抜け出して、教室の扉のところで踏みとどまっている彼の元に向かった。


 後から愛子に聞けば、それは突然現れた低気圧のような光景――、だとか。

 タイミングの良さは日本代表で一番なだけあって、彼は私の心の準備が出来てないのに正面から向かってきたのだから、それも当たり前である。


 私がグループを抜けてきたと分かってか、耕大君は明らかに安心した顔を向けた。

 その優しい顔がまた私の心拍を上昇させる。


 上手く言葉が出せるだろうか。

 口の中はいつの間にかからからに乾いていた。


「ど、どうしたの? 珍しいね、昼の自主練して無いなんて。……あっ」


 自分の放った言葉が失敗だったと、気づいたときにはもう遅かった。

 言った直後、自分が彼の自主錬を見ていることをばらしてしまっているも同然だと思った。


 でも、彼はそれに気づく事無く、いつものマイペースでただ頷いて返事をした。


「佐倉。図書館、好き?」

「え?」


 自分の失態に動揺していた私は、聞き返してしまった。


「テスト……なんだけど」


 ポツリと言われた言葉を理解するのに、時間がかかる。

 言葉足らずな耕大君の一言一言に注意して、頭の中で整理が付くとふと選択授業の時に勉強を見ることを約束していたことを思い出した。


「あっ!」

「よろしく」


 小さく耕大君が会釈程度に私に頭を下げると思わず、フフッと笑みが出てしまった。


「こちらこそよろしく。あ、そうだ」

「?」

「耕大君の入学テストの成績ってどうだったの? もし良かったら、勉強を教えるときの参考にさせてくれないかな? そっちの方が対策取れると思うし」


 私が両手を合わせて耕大君を見上げて言うと、彼も安心したように頷いて見せた。


「分かった。じゃぁ、明日持ってくる」


 貴重な笑顔を見せる彼に思わず、さっきまで感じていた凝り固まった緊張が解れる感じがして、その証拠に嬉しさに心臓がドクリと跳ね上げた。

 用件が済んで満足したのか、耕大君は足早にその場を離れてグラウンドへ向かって行った。


 振り返って自分の席へ向かおうとすると、急に教室がざわめきだす。


 それを余所に私は一つ、頭に疑問が浮かんできた。


「明日の、いつだろう?」


 私も周囲のざわめきなんか気づかずにマイペースにそんなことを思っていた。



 私は疑問に首をかしげながら自分の席に着くと一緒にお弁当を食べていた全員かこちらに目を向けていた。

 更に言えば、朝のことがあって愛子は余計に笑みを深くしている。

 居た堪れなさ半端無い雰囲気に私は、どもりながらも口を開いた。


「ど、……どうしたの? こっち向いちゃって」


 苦し紛れな話の反らし方に、全員が全員何かを感じたらしく、にやりと口の端を上げた。


「梓桜ちゃん、翠田君と一緒に勉強するの?」

「テストまで、あと一週間だもんねー」


 笑顔で私に聞いてくる泉ちゃんや朝子の明るく、語尾に音符を撒き散らす言い草に、恥ずかしさで文句すら出なかった。


「今更だけど、球技大会の練習のとき何はなしてたの?」

「わー! それ、あたしも聞きたいッ!」

「わわわ、何も! 普通だよ、普通のこと!」


 慣れない事に、急に耕大君との話を振られて、どうしたらいいのかとっさの判断が付かなかった。


「わ、渡部くんだってその後すぐに来たし! 二人だけで話してたわけじゃないよ?」


 慣れないイジリを受けながら、必死のフォローを導き出して言った時に、突如、隣から湧いた愛子の黒い笑顔の一言が、瞬間的に空気を凍らせた。


「やー、でもそれはさあ? 渡部くんが空気読めなさ過ぎだからでしょ」


 何だかそのまま放って置いてはいけない一言が、周りの時間を瞬きの間止めた。


「……え?」


 何かの聞き違いだと思って、もう一度愛子に聞き返してみると、「三人っていつも仲良いよねー」と表面上ではあるけれど、いつもの愛子に戻っていた。



<追筆>2013.08.05

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