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SAMURAIブルーに恋をして  作者: 柏田華蓮
13/43

12 呼吸と体温と (1)

 お待たせ致しました。

*********




 あの頃は、彼が触れただけでも


 胸がドキドキと高鳴っていた


 目が合えばときめいた

 すべてが虹色に輝く日々だった


 手を伸ばせば届く距離に彼はいたけど


 この距離が堪らなくもどかしかった


 彼の中の私は何色だったのだろう




*********




――春過ぎて 夏来にけらし……


 古典の授業中、先生の声が教室中に眠りを誘っていた。

 そんな中、私はひとりぼんやりと授業を耳に入れながら窓の外を眺めていた。

 「ゆとり教育」の言葉すら無かった様に、城聖でのゴールデンウィークは課外授業のお陰でほぼ潰れ、ハイスピードかつハイレベルに授業は進んだ。


 空は私の心を読み取った様に梅雨入りをしてから、ずっと止む事を知らずに雨が降り続いていた。


(あぁ…どうしたら良いんだろう)


 灰色の部厚い雲がピカリと光って、風がざわめいている。

 風に揺さぶられる木々を見ていると、まるで私の心を見透かしているように落ち着かなくなる。


 校舎裏で耕大君とキスして以来、まともに顔を合わせて話せていない。

 耕大君を見る度に、互いの瞳に映った自分を見た瞬間の事、肌に感じる呼吸、そして触れた体温を思い出してしまう。

 「思い出す」事を想像している自分も恥ずかしくて居た堪れなくなる。そうなると今度は、放課後の練習を観ることも出来なくなった。

 そして初夏の新緑の芽吹きに感動することなく、とっくの昔に五月は終わってしまっていた。


 気付けば中間テストが一週間後に迫っていた。

 殆どの部活が活動を停止して、自主練に切り替わっている。だから、サッカー部もいつものような(ホイッスル)の音は聴こえない。

 使われないサッカーグランド。

 人気(ひとけ)の無い広い緑の芝生に何だか違和感を覚える。


 内心ほっとしたのは事実だった。

 耕大君を見て、心臓がドキドキして持たない事がしばらくの間は無いから。

 でも反対にがっかりもしていた。

 F組との合同授業は、体育と化学の時間しかない。そして、男子と体育の場所が違えば、週に三回しか会えなくなる。


 彼を見ると気持ちが向上して明るくなっていたのが、今では複雑に霞んで下降している。



 ――キーンコーンカーンコーン……


 授業の終わりのチャイムが鳴った。


「んー! 眠かったぁ~! はぁ。あら?」


 前の席で船を漕いで眠りこけていた愛子が、猫のように背筋を反らせて伸びをすると私の方に振り向いた。


 愛子が私を見て首を傾げると、苦笑しながら「元気ないなぁ~」と言った。

 突然言われたから、私は何の事やらと思って同じように首を傾げて見せた。


「……誰が?」


 念のため確認するために尋ねてみると、予想通りの名前は挙がった。


「梓桜に決まってるじゃん」

「私?」

「そーだよ。最近元気無いよ~?」

「そうかな? 雨のせいじゃない?」


 そう言ってまた外を見ると、愛子も外を見た。

 彼女は普段の性格は姉御肌で明るいけれど、何だかんだ言って愛子は私といると静かかもしれない。

 こんな風に二人で窓の外を眺めているのが多い。


「……球技大会から、何かあった?」

「え……っ」

「あれから梓桜、何かそわそわしてるみたいだもん」


 小声でそしてピンポイントで指摘されて私は息を詰まらせた。


「あの時、翠田こ……君の試合見るって言ってたでしょ? その後から、様子がちょっと違うなって思ってさ。……普段羨ましいくらい話が盛り上がってて仲良しなのに、最近は話が弾んでないみたいだし」


 愛子は私を見ながら苦笑するように、遠慮がちに言った。


「どうしたのかなって。あたし、梓桜たちが仲良く話してるのを眺めてるの好きだからさ」


 カールがかった髪に指を絡めて、返事を待ってる。そして私は今の気持ちを言うべきか、頭の中で考えていた。

 だけど、気持ちが定まっていない。


「何て言うか、ただ自分勝手に一喜一憂してるだけなんだよね……」


 そう一言洩らすと、愛子は驚いたように目を見開いて、好奇心一杯の瞳で私を見ていた。


「どうして?」

「え……? うーん。どうしてだろう?」


 何かを感じ取っているのか、いつもはない深い部分まで追求してきてしまった。


 今までに無い、人に恥ずかしくて言えない部分を見透かされる感じがして心臓がドキリとする。

 あまり人に見せないような自分の気持ちだからこそ、言いづらくてそして羞恥心も湧いて来る。


 言い渋っていると、愛子はふと軽く笑って前のめりになっていた体を元に戻した。


「あたしね、実は梓桜が翠田……君を好きだと良いなって思う」

「……好き?」

「そう。翠田君って実はさ、梓桜が居ない時めっちゃ怖い顔してんの。知ってる? こう、眉間に皺寄せちゃって、『近寄んなー!』ってオーラびんびん立てちゃってさ、むーって睨んでんの。見たこと無いでしょ?」


 愛子は自分の指で眉間に皺を作って見せてくれた。

 綺麗に巻かれた髪も一緒に揺れて何だか微笑ましい感じになっていた。


「でもね、梓桜が翠田君の近くに居て喋ってる時はさ、何て言うか……、尖った近寄んなオーラが和らぐと言うか……。兎に角、『あれ? ホントはお喋りなの?』ってくらい雰囲気が変わるんだよね。だから、翠田君って梓桜に心許してると思う」


 もし愛子の言葉の通り、耕大君が私を好きだとして、私の気持ちは彼とどうなれば一番良いのか、想像して心臓がドクリとね上げた。




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