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SAMURAIブルーに恋をして  作者: 柏田華蓮
12/43

11 強制に近い懇願 後

 アリーナか外の試合会場から試合終了の笛が鳴って、どこかのクラスが優勝に喜んでいる声が聞こえる。


 それを聞きながら私たちは校舎を背もたれにして、二人で横に並んで座って居た。

 でも、耕大君は少し気だるそうに空を見ていた。もしかしたら、体調が良くないのかも知れない。


「耕大君、気分悪かったら寄り掛かって寝て良いからね?」

「うん」


 戸惑うかと思いきや、あっさりと短く返事をすると、素直に私の右肩に頭を乗せた。

 覗き見れば、ちょっと蒼い顔をして目を瞑っている。肌が日に焼けているのに、蒼く見えるって相当だと思う。

 そっと右手で明るい茶色の髪を撫でれば、微かに瞳を開けて軽く笑みを浮かべた。


「……俺、佐倉に甘えっぱなしだと思う」


 耕大君は撫でられた頭を「もっと」と、強請(ねだ)るように私に体重を掛けて押し付けた。

 その仕種(しぐさ)に内心ドキリと胸が弾む。

 思わず可愛いと思ってしまった。


「良いよ。いわゆる、ファンサービスになるんじゃない?」

「………」


 私がふざけて言うと、耕大君はそっと顔を上げて、間近にある私の顔を凝視した。

 撫でるのに気持ち良かった髪が、するりと手から離れていって、少し残念な気持ちになる。

 もう少し撫でて居たかった。そう思った。

 名残惜しく横を見れば、軽く鼻先がぶつかる数センチの所に耕大君の顔があった。


「「……」」


 世界が一瞬止まったかと思った。

 目の前には、私が映る瞳があって、すぐ近くで呼吸と体温が伝わってくる。


 恥ずかしさを覚えて、視線を反らすように瞳が閉じ掛けたと同時に、柔らかいモノが唇を包んだ。


 一瞬の出来事は夢でも見てるのか、幻なんじゃないか、私が勝手に造り上げた妄想に耕大君を捲き込んでないか、夢と現実の境目に戸惑った。


 でも、何度瞬きしても変わらない光景に現実だと感じさせられる。

 耕大君の右手の熱さが、生々しく頬から伝わる。

 さっきは触れるだけだった柔らかいモノが、今度は私のモノを挟んで啄まれた。


 ――どう言うことだろう……?


 頭は混乱と同時に悦びを感じる。

 見開いていた目を硬く閉じれば、直接触れた部分が敏感に脳に刺激を伝えた。

 今、触れている体温が好きだと思う。

 今、触れている体温を独占したいと思う。


 そして、自分の急な変化に戸惑う。

 触れた部分から熱が離れていくと、合わさった視線を離さずに聞いた。


「これも、ファンサービス……?」


 ただ、言葉にして後悔した。

 そして、気付いてしまった。


 甘えて欲しいのは、耕大君だけだ、と。

 弱い部分を独占したい、と。

 彼の特別になりたい、と。


 ただの、ファンで居たくないと。


 声が掠れてしまった質問に、耕大君はただ頬に当てたままの手で私の髪をかき揚げた。

 少しだけシャギーのかかっている部分から、髪の毛が滑り落ちるのを二人して黙ってみていた。


 何か聞けるのかな……、淡い期待に目を閉じてみた。すると、


()っっっ……てぇ~………っ!」


 急に苦痛に悶える声が上がって、慌てて目を開くと右の脇腹を押さえて、(うずくま)る姿があった。


「……え? ちょ、大丈夫!? どっか触っちゃった?」


 顔を覗き込めば、額に玉の汗を浮かべて顔をしかめている。


「や、……ちょっと蒼痣に触っただけ」


 本気で痛そうに潤んだ眼をして、声が少し震えていた。

 耕大君の反応で、さっきまでの戸惑いに満ちた空気がガラリと霧散してしまって、結局、『答え』は貰えなかった。


 それからすぐ、アリーナから耕大君を呼ぶ声が聞こえた。


「コータぁ~? どこ行ったぁ~?」


 試合が終わったのか、渡部くんが自分の逃げたペットでも探すかのように、キョロキョロと辺りをしゃがんだり、跳び跳ねたりしながら声を出していた。


「渡部君」


 丁度、二人で座っていた場所の前を渡部君が通り過ぎようとした時に、窓の外から声を掛けて呼んだ。

 呼び止めた時、「何でそんなとこに居んの?」と驚かれたけれど、事情は後から説明しようと思って、先にこちらに来るように頼んだ。

 校舎裏に来た渡部君が最初に見たのは、蒼褪めた顔色耕大君だった。


「おい、コータ大丈夫か?」


 耕大君に駆け寄って、その脇に座り込んだ渡部君が、「痛むのか?」と怪我の具合を確かめて立ち上がった。


「痛み止めの薬飲んだのか?」

「………あれ、嫌いなんだよ」


 ブスりと答える耕大君は、さっきとはまた違う声で渡部君と話していた。


「でも、痛いんだろ?」

「………飲みたくない」


 端から聞けば、飲め飲まないの押し問答ばかり繰り返す会話だけど、嫉妬するくらい仲が良い二人だから、遠慮も無く耕大君自身が安心しているのが一目で分かる。


 安心度合いを比べると何だか負けてる感じがする。

 突き付けられた事実がショックで内心、哀しくなる。私は半歩、そこから退くとふと耕大君がこちらに目を向けた。


「佐倉?」


 訝しげに眉間に皺を寄せて尋ねる耕大君に、私は苦笑しながら答えた。


「……とりあえず、丹羽先生を呼んでくるね」


 二人の間の見えない壁を前にして、いじけた子供のように、回れ右をして(グラウンド)へ走った。


 ――耕大君の一番は、私じゃない。


 めげた感情なまま、二人と一緒に居れなさそうだった。

 あぁ、何で私は男の子じゃないんだろう、そしたらもっと近い距離でいれるのに。そう、生まれて初めて思ったかも知れない。





誤字脱字有りましたら、お知らせ下さい。

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