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SAMURAIブルーに恋をして  作者: 柏田華蓮
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09 球技大会&体力測定 後

「う~んと? どうしちゃったの、かな?」

「………」


 体育館(アリーナ)外の渡り廊下。その人は困ったように眉尻を下げて尋ねた。


「耕大、どうした?」

「………、」


 測定結果での勝負に負けてパシリから帰って来た渡部くんは、耕大君の横で頬を膨らせている私を見た。それから、尋ねられた本人も何か言い難そうに私の方をチラリと確認して、右手で自分の後頭部をカリカリと掻いていた。


「佐倉さん?」


 答えを催促するように名前を呼ぶと、しぶしぶと口を開いた。


「アンブロ君が、」

「え?」


「アンブロ君が私に……」

「おい、耕大。何か、やっちゃったの?」


「アンブロ君が私に隠し事してた……」

「えぇ!?」

「え、いや」


 珍しくおろおろした耕大君をもう少しだけ見たくて、かなりショックを受けたように項垂れて見せると、彼は慌てた様に今にも泣きそうな目をした。

 すると渡部君は、珍しい耕大君の姿を驚いたように見て固まって、逆に私が驚いた。


「し、新鮮な光景……」


 目をキラキラさせた渡部君は、目尻に涙が浮かんでいて「え?」と私は目を点にさせた。


「耕大がうろたえてる……」

 

 何だか話が逸れ過ぎてきて、私のショックが引っ込むと耕大君が安心したような表情をした。

 私の視線の先を気にしてか、渡部君の方へ目を向けると今度は「うわっ……」と嫌そうな声が聞こえるような顰めた顔を見せた。


「何、ノリ」

「え? 初めてお前のうろたえてる場面を見て、俺は感動してたよ」

「キモ……ッ!」

「で? 佐倉さんは何を耕大に隠されてたの?」


 渡部君は「キモイ」という耕大君の言葉を賞賛と受け取るような表情をして、耕大君に自分が買ってきたお昼ご飯を渡しながら嬉々として聞いて来た。


「そうそう! 考えてみれば、渡部君も私に隠し事してたよ!」

「え!? 何を?」

「どうして、アンブロ君が『スミダ コウタ』だって言ってくれなかったの? 私ずっと勘違いしちゃってた!」


 彼らは袋の中のパンを覗き込みながら、「え?」と短く発してポカンと目を点にした。


「……どういうこと?」


 耕大君がポツリと呟くと渡部君も一緒になって頷いた。


「『スミダ』君ってサッカーがすごく上手いって聞いてた」

「うん?」


「世の中のスミダさんは殆ど、墨汁か、隅田川か、衣食住の方の『スミ』って漢字じゃない? だから、私はずっとアンブロ君とスミダ君を別人物だと思ってた。そのスミダ君よりもアンブロ君の方がサッカー上手いのにって、悔しいって思ってたのにそれが、……アンブロの耕大君だったなんて……」

「……だったなんて?」


「『灯台もと暗しってこう言うことを言うんだわ~』って……実体験して学習したのよ……」


 私が力説を終えると二人は顔を手で覆って、肩を震わせると思い思いにその場に力なく横たわった。

 挙句の果てに渡部君が「やっぱ、佐倉さんって貴重だ……」と語尾を震わせながら小さく呟いた。






「痛て……ッ」


 その一言は、何ともない言葉だと思う。

 でもこの時の耕大君の一言が、柔らかかった空気を一気に凍らせた。

 その元となったのは渡部くんの顔。


 普段、ニコニコと柔らかい笑みを浮かべている彼が、耕大君の「痛い」と言う言葉に笑みを消して敏感に反応したからだ。


「……大丈夫? どっか打った?」


 うつ伏せになりながら、グッと脇腹を押さえる耕大君に尋ねた。

 すると彼ら二人はハッとした様に互いにアイコンタクトを取ると、一瞬だけ躊躇いつつも答えた。


「……いや、何でもない」

「成長期だから、関節痛じゃないかな。耕大、三センチ伸びたって言ってたし」


 驚異の早さでいつもの笑顔へと戻る渡部くんを凝視しながらも、私は「そう?」と敢えて騙される事にした。


 二人の間には見えない絆で繋がっている。

 私にはまだ、その輪の中には入れない強い結び付きが。

 今まで、心から信頼出来る友達と言うのが居なかった私には羨望(せんぼう)の領域にいる二人だ。


 何を隠しているのか、きっとここでは聞けないだろう……。

 半ば諦めに入って寂しさを募らせる溜め息をついた。


 間もなくして愛子が練習場所を確保したと知らせに来て、私は彼らの仕草を気にしつつも短く「行くね」と声をかけてアリーナへ向かった。


 背を向けた私に渡部くんは何かを言いかけて、それを耕大君が腕を掴んで言うなと留めていたとは後から知った。




 ――試合が始まった。

 昼休み、愛子たちに倣って練習したは良いものの、意思統一の欠けた付け焼き刃のチームでは、一回戦敗退を余儀なくされた。


 一方、練習試合も出来るほどの気合いを見せていた、耕大君のいるE組はあっさりとF組(ウチ)の男子を破り、順調にトーナメントを駆け登った。


 F組バスケチームは男女とも一回戦敗退に終わり、時間を持て余す結果となった。


 サッカーの方は、担任の丹羽先生が張り切ってコーチングしてたため、良いチームワークを発揮してクラスの応援にも力が籠っているみたいなんだけど……。


 でも、私は昼休みに見た耕大君の様子が気になって、クラスの応援に行かずにまだアリーナに留まっていた。


 名前をちゃんと知ってから、何となくがっかりした気分になる。

 それは勿論、耕大君の噂と現実の事で失望した訳じゃない。


 ――耕大君を応援する人の多さに、悲しくなったんだ。


 耕大君の試合になるといつの間にか、人集りが出来ていて、四方八方から耕大君を応援する黄色い声が上がる。

 背も高くて脚も長いし、顔もイケメンな上に左目尻の小さな涙黒子が普段ならセクシーに感じる。


 そんな人を女子はまぁ、見逃す筈もなく、耕大君の一挙手一投足にきゃぁきゃぁしている。

 今も試合を順調に進め準決勝になり、さらに観客を増やして試合をしている。


 他の試合があってる間、耕大君に話しかけようにも群がる女子に割って入る勇気はどこにもなくて、ただ、アリーナの二階で彼の活躍を見守っているしか出来なかった。


 耕大君は、整列して挨拶を交わす時に私の方を見てアイコンタクトをくれるけれど、心の中でしか頑張れと言えなかった。


 




 準決勝の試合が始まって、五分くらいした頃。順調にパスワークを施していた耕大君の動きが鈍くなったのが分かった。

 ゴールしてからのリスタートの時に一瞬、相手からのプレスがキツくなった後だった。


 脇腹を押さえて、手を挙げるのが辛そうに見えた。

 それは昼休みに一瞬だけ「痛い」と訴えた箇所。

 一緒に出場している渡部君は心配そうにチラッと耕大君をきにしているのが分かる。


 それは明らかに怪我での不調だと確信するしかない。


 ワンターンが終わると耕大君はメンバーチェンジし、サッと人目を掻い潜る様にアリーナから出ていった。


 それを目で追って確認すると、下で試合をしてる渡部君の視線を感じて言葉ではない、「自分の代わりに耕大君を追ってほしい」様な意思を受け止めて彼を追った。





ノリ……? もちろん「ドS」です。ドMは勘違いですよ。

別に耕大がMって訳ではないです。耕大はノリに合わせてるだけ。


【2013.06.17】サブタイトル一部変更 柏田

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