プロローグ
「さぁ!お次はウルフマンの登場です!」
ステージ端に立っている黒くて長いシルクハットを被った長身の男がそう言うと、ステージ真ん中にある檻から頭は狼、体は人間で身長は2mはあるであろう生き物が出てきた。
会場の観客たちががざわついた。中には甲高い叫び声をあげる人もいる。
「彼には火の輪くぐりを見せてもらいましょう!」
天井から半径1m半ほどの火の輪がつるされていて、それが5m間隔で5つ並んでいる。ウルフマンは火の輪めがけて四足歩行で走っていき素早く、華麗に5つの火の輪をくぐり抜けた。
観客から盛大な拍手が。中には「素晴らしい!」とか「かっこいい!」などの声をもらす者も少なくはない
「ウルフマン!火の輪くぐりお見事でした!お次は腕が6本ある男、Mr.グロウドの登場です!」
ステージ右端からカバンを持った男が出てきた。彼は普通の2本の腕に加えて両肩の付け根あたりからもう2本、さらに両側の腰のあたりから腕が2本はえている。彼はカバンからナイフを15本取り出して観客に見せた。
「おおっと!なんと彼は15本ものナイフでジャグリングをするそうです!」
Mr.グロウドと呼ばれる男は6本もの腕で華麗にジャグリングをしだした。少したったあとに手伝い人が彼の正面から5mほどの場所に大きな的を運んできた。すると彼はジャグリングをしながら一本ずつナイフを投げていき全てを的の中心へと刺した。
会場が拍手の音でいっぱいになる。
「ジャグリング技術に加えてナイフ使いの腕前も相当なもの!Mr.グロウドありがとうございました!会場のみなさん!お次で最後となります!翼のはえた女性ディア!」
無数の風船で会場の上部がいっぱいになる。するとステージに白い翼をはやした女性が現れ、羽をはばたかせて飛び始めた。彼女は風船を次々と壊していくと、風船の中から紙ふぶきやキラキラしたものがたくさんでてくる。
「演目はこれにて終了です。みなさんお楽しみいただけたでしょうか!?次の公演も機会があったらどうぞいらしてください!いままでにない、最高のサーカスをお見せしましょう!本日はまことにありがとうございました!!!!」
いままで以上、会場が揺れるほどの歓声と拍手が鳴り響く、サーカスは大成功だ。
「はぁあ、俺も早くあのステージに立ちたいなぁ・・・」
公演後の片づけをしながら奇怪サーカス<フリークス>で入団時期が一番遅い、いわゆる下っ端の少年レントは呟いた。
「あんたねぇ、そういいながら全然練習しないじゃない。サボってばっかりでさ」
レントの隣で一緒に片づけをしながら話しかけてくるのは翼のはえた女性ディアだ。
「なんでディアは俺とたいして入団時期も年齢も変わらないのにステージにたてるんだよ・・・不公平だ。団長に直談判しに行くしかないな・・・」
「またぁ?それ何度も失敗してるじゃない。それに私のほうが2年も入団時期が早いし、年齢だってあんたより一つ年上の18歳だしね。ステージに立てない理由は自分でもわかってるでしょ?特技がないのよ、あんたは」
わかってる。僕には他の団員たちのような特技がない。ただ見た目がヴァンパイアに似てるということだけだ。つりあがった目、とがった耳と歯。ただそれだけなのだ。
「俺だってなぁ、頑張ってるんだよ。必死になにかできないか模索しているんだ」
すると後ろから声をかけられた。黒くて長いシルクハットを被っている長身の男、団長だ。
「レントくん、ディアさん。明日の朝にはこの町を出て次の目的地を目指しますよ。なのでゆっくり休むためにも早めに片付けてくださいね。それと次にサーカスをやる町はもっと大きな町の予定です」
「あっ、団長!いいところにきた!俺を次のサーカスで使ってくれ!」
ディアがやれやれといった表情でレントに言う
「だーかーらー、あんたには特技がないでしょう!そういうことは何か一つでも身に着けてから言いなさい!!!」
深夜、のどが渇いてしまったのでコンビニにでもいって飲み物を買おうかと思ってでかけたときのことそれを目撃してしまった。
コンビニに行く途中にもう潰れてから5年ほどたった廃工場があるのだが誰もいないはずのその廃工場の中から声というか・・・獣のうめき声みたいなのが聞こえてきて気になって入ってみたんだ。
どんどんその声のする方、工場の奥に進んで行ったんだ。そこにいたのは何やら毛むくじゃらででかい・・・狼?いや体つきは人だ・・・何か食べてる・・・
ぐちゃぐちゃと音をたてながらそいつは夢中で何かを食べている。そのときそいつの口からはみ出ているものが見えた。それを見たとき恐怖からか心臓の鼓動がどんどんはやくなっていく。あれは・・・人の指だ・・
そのとき、やつがこちらを見た。
無我夢中で走りだした。はやくこの工場からでなければ!殺っ・・・
そう思ったときやつが後ろから喉に噛みついてきた。苦しい。息ができない。
おびただしいほどの出血。生ぬるい液体が服の中にまで入ってきた。
ギギッ、ゴギゴギッ、バギャ
僕が最後に聞いたのは自分の首の骨が砕かれる音だった。