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第77話 合同軍事演習 その2 <上> 

翌日、軍事演習の場所には俺たちの将、兵全員と孫堅陣営の炎蓮、雪蓮、蓮華、冥稟、祭たちともう一人、とても小柄な少女が来ていた。


「ん……? 粋玲の奴はどこ行った? 今日は粋玲まで呼んだんだが……。」


炎蓮が疑問形で皆に聞いていたが、皆わからないようだった。おそらく真名だろうけど誰の真名なんだろうか。


「ここじゃ!」


いきなりそう言って屋根の上から風林火山の旗に弓を射ってきた女性がいた。


「させません!」


そう言うと、愛紗は俺には到底できない反応速度で、弓矢を周りの兵や俺たちに危害を加えないような場所へ安全に叩き落とした。


「あれを防ぐとは……。関心関心。我が名は程普。以後よろしく頼」


屋根から降りてきて程普さんがそう言おうとすると、炎蓮の拳骨が飛んだ。今の拳骨、火花出るんじゃないかってレベルだぞ。


「馬鹿野郎! 何が”以後よろしく”だ!! 次に何かやったら斬り殺すぞ!! 土下座して詫びろ!! そして梨晏の馬鹿も呼んでこい!」


「炎蓮様、お待ちください。本当はお前にも行ってほしくないが……。それは雪蓮、お前の仕事だ。」


ブチ切れた炎蓮を冥稟が止めに入った。何か目的があるのだろうか……? しかし旗狙ってくるとは……。昨日の蓮華の忠告があって本当に良かった。油断してたら危なかったかもしれない。


「!? なんで私が梨晏を呼びに行かなきゃいけないのよ!?」


「お前が儂のことで何か言うとはのう。何か目的でもあるのか?」


「黙れ。黙って冥稟の言うことを聞け。」


炎蓮って怒るとこんなに怖いのか……。圧が凄すぎる。


「粋玲殿、貴女には、我々のように参戦するのではなく、炎蓮様のもとで『けん』に徹していただきたい。これから来る梨晏殿も同様に。」


「何じゃと!?」


「従え。あと、今日この時をもってお前たちが『四天王』などと名乗るのは禁止だ。」


「たかが旗を狙ったくらいで……。」


「少なくとも、兵の命よりは重いぞ。」


「口を挟むようで申し訳ないけど、それはない。人命より重いものはない。


ただ……。これまでは一度も落とされたことはない。」



少なくとも炎蓮にはそう見えてるのか……。本陣に翻る、最強の旗。それがこの『風林火山』の軍旗だ。


「その重みがわからんようではな……。まあいい。一つ、お前のおかげで俺の腹は決まった。そこだけは褒めてやる、しかしここまで馬鹿だったとはな……。


一刀君、皆、本当にすまなかった。」


炎蓮はそう言って深々と頭を下げた。しかし俺が気になったのは前半部分。それを言った瞬間、若干冥稟の顔が曇った。何のことを言っているのかはわからないけれど、相当重要なことなのだろう。


炎蓮が深々と頭を下げたことで周囲はざわついていた。


「結果論ではあるけど、旗は落とされなかったし、将や兵の命に何か危機が及んだわけでもないから大丈夫だよ。雪蓮も戻ってきたし、まずは自己紹介からいかないか?」


その流れで全員の真名までひとまず交換した。小柄な将は周泰さんで。梨晏が韓当さん。武将ではあともう一人、祖茂さんという人がいるらしいのだけど、今回は別の場所を守備しているとかで不参加らしい。まあ揚州は広いからなあ……。


なぜ冥稟は粋玲さんと梨晏さんを炎蓮の本陣において、実質不参加とさせたのだろうか。その意図が気になるところだけど、聞くのも失礼だし仕方ない。


「水軍の戦いといっても、大きく分けて2種類ある。そこで使うのは、楼船ろうせん艨衝もうしょうだ。他にも船の種類はあるが、戦い方を網羅するだけならこれで事足りる。簡単に言ってしまうと楼船は戦の指揮をとるための本陣に使う船で、艨衝は敵に実際に攻め込むための船だ。艨衝はこの通り、船首に突起がついている船で、敵の船に体当たりして壊し、撃沈させるのが基本となる。」



そう言って冥稟は2種類の船を紹介してくれた。楼船はいわゆる赤壁の戦いで曹操の陣営が本陣に使って、龐統の献策で鎖でつないで燃え上がったでかい船。艨衝の戦い方は、世界史の西洋史ででてきた三段櫂船さんだんかいせんの戦い方とほぼ同じ、敵の船に穴をあける単純なものだった。


「要するに、敵船に穴をあけて勝つか、敵船に乗り移って野戦をして勝つかの二択ということか。なるほど……。」


そう言って俺たちは皆頷いていた。


「一刀殿や朱里殿たち、何か改善点というか、より楽に勝つ方法を考えるのは何かあるだろうか?」


「今のところ特に何も……。」


「これ、当たり前だけど木でできた船なんだよね?」


「鉄の船では沈んでしまうからな。」


「一刀さん、どうかされたのですか?」


「いや、穴開けるにしても何にしても木よりは鉄のほうが硬い分効率いいかなーと」


朱里たちが特に何も思いつかないと言う中、俺はそれが気になっていた。俺のいたとこでは鉄の船があって空母にせよ軍艦にせよ豪華客船にせよ、水に浮いていたけど、そんな技術を俺が伝承できるはずもなく……。


それを言うと雪蓮たちは笑っていたが、冥稟だけは真面目に頷いていた。


「なるほど、その手があったか。さすがは一刀殿。今回の演習中には無理だろうが、次までには必ず実現させてみせる。


というわけで炎蓮様、申し訳ございませんが次回の軍事演習もこちらで行っていただきたく思います。時期は私の思い描いたものが完成したときに。」


「何か思いついたのか。まあ桃香殿たちが問題ないなら構わんぞ。」


「もちろん問題ないですよ。」


というわけであっさり3回目の軍事演習が孫堅領で行われることが決定したのだった。


そうして始まった合同軍事演習。俺は桃香と軍師たちと一緒に本陣でのんびり見学中だった。一応お目付け役兼護衛の愛紗と女媧もいる。



しかし……。



「なんで初日なのに私や祭より扱いが上手いのよー!!!!」


鈴々は大苦戦していたけど、星と悠煌の部隊の水軍の扱いは初日にして雪蓮や祭さん並み。雪蓮に言わせれば自分より上。冥稟に迫ろうかというレベルだった。いやおかしいだろ。


「酔わないか心配していたのですが、慣れると案外楽しいものですね。」


「酒には酔いますが船酔いはしませんな。兵たちも問題ないようで一安心。しかし鈴々よ、もうちょっとなんとかならんのか?」


悠煌にそう応じたのは星だった。


「星たちが上手すぎるだけなのだ!! どうやったらそんなに上手くなれるのだ!?」


「一番上手いのは冥稟殿だからな。それを見て真似られるように頑張るしかない。技は盗むものだ。」


「技を……盗む……。」


鈴々の嘆きに星が答えたけど、それに対する星の答えはこの軍事演習にいる者全員に衝撃を与えたらしかった。





「そういえばさっきから水晶さんは何の絵を描いてるんです?」


「絵?」


本陣でこっそりと朱里が水晶にそう聞いた。確かに水晶はこの演習が始まってから特に参加せず、俺のノートにシャープペンで絵を描いていた。


「折角の機会ですので、楼船と艨衝だけでも我々だけで生産できるようにしておきたいなと。冥稟さんのあの口ぶりからするとおそらく船の種類は他にもあるのでしょうが、一刀さんの言葉を借りれば『企業秘密』もあって然りでしょうからね。」


「冥稟さんは余裕をもって指揮されてますもんね……。まだ全力ではないのでしょう。」


100%を出して真似られては、底が見えてしまうということか。そこまでできる冥稟、本当にすごいな……。

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