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チートでチートな三国志・そして恋姫†無双  作者: 山縣 理明
第1章 ”天の御遣い”として
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第4話 結盟

「ここから少し歩くと桜桑村という村があります。そこでご主人様に「これからのこと」についていろいろと考えていただきたいのですが……。」(※1)



村(桜桑村というらしい)へ向かう途中、桃香がそんな話をしてきた。


「これからのこと」か……。



”天の御遣い”という称号を上手く利用して、最初は俺たちが注目を浴びるきっかけにする。そこからは徐々に”中山靖王・劉勝の末裔”である劉備、つまり桃香だけがクローズアップされるようにもっていく。このことを桃香たちにどう伝えたものだろうか。


俺たちがこれから勢力を築いていくにあたって、桃香にはそんなことを言うわけにはいかないけれど、「”漢王朝”をいかに利用するか」が大きな鍵になっていくだろう。


”深く”臣従している”フリ”をしておけば、上手くコトを運べるだろう。ただ、あくまで”フリ”だということを俺たち――といっても、俺たちの中でも伝えるべき人を見極めなければいけないだろうけど――がしっかり理解していれば、他の勢力は「漢に固執するバカ」とみたり「忠臣」とみたりしてくれる可能性が高いはずだ。そうなれば俺たちには断然有利になる。ただ、それが”フリ”だということを見抜く連中がもし居るならば、そいつらが俺たちの敵となっていくのだろう。



とはいえ、まずは食事かな。お腹が空いたし。


「そうだね。でも、”腹が減っては戦は出来ぬ”とはよく言ったものだし、まずはご飯を食べよう。その後に”桃園”で結盟をしよう。」


「そうですね。まずは食事処へ行きましょうか。」


俺の言葉に愛紗がそう応じた。そんな話をしたり色々考えながら歩いていくと、村が見えてきた。荒らされた形跡もなく、子供も外へ出てはしゃいでいる。ここだけ見ると”乱世”には見えないな。


「あれが”桜桑村”か……。のどかな村のようだね。」


「そうですね。ここは北に公孫瓚さんが太守を務める北平があり、南にはちょっと遠くではありますが袁紹さんが南皮の刺史としていらっしゃいます。ですから、賊にとっては手の出しにくい場所になっていますので、今のところは平穏を保てています。それと、ここは桃香様の故郷でもあるんです。」(※2)


「故郷?」


「ええ。生まれ育った地ですし、一族の形見である”靖王伝家”という刀を預かったところでもあるんです。これは”中山靖王・劉勝の末裔”であることを示すただ一つのものです。」


そう言って桃香は一本の小刀を取り出した。それには、鞘と柄にそれぞれ”中山”と”靖王”という刻印があり、刀の部分には”靖王伝家”という文字が刻まれていた。


なるほどなあ……。とはいえ、実戦では役に立ちそうもないからその2本の剣をもっているわけか。”二刀流”っていうのもすごいな。



「これはすごいな……。絶対になくさないようにしないと駄目だね。」


「勿論です! 肌身離さず持っていますし、愛紗ちゃんと鈴々ちゃん以外で見せたのはご主人様と甄姫様が初めてです。


それにしても、白露ちゃんが羨ましいなあ……。廬植先生の下で一緒に勉強していたのに、いつの間にか北平の太守になっているし、民衆の評判もいいし……。」


「桃香様……。」



その徹底的な管理の方法を聞いてほっとした。と、そんなことを桃香がつぶやいた。


文脈と俺の知る歴史から察するに、白露=公孫瓚なのだろう。同期だった人が出世するっていうのは喜ばしいことでもあるけど、やっぱり内心では忸怩たるものがあるのかな……。だから”天の御遣い”に縋った、ということでもあるんだろう。


ふと、頼られたのが、俺で良かったな、と思ってしまった。


”天の御遣い教”の”教主”のようにふるまい、彼女たちを洗脳するやり方もありうるだろうし、都合が悪くなったら全部桃香に押しつける……ような方法をとるような人もいるだろう。桃香の”劉”性を利用しようとしているのだから、俺もそいつらと大差ないといわれれば、それはそうなのだろうとは思うけれど。つまるところ俺のやり方の肝は桃香を前面に出して、それを俺が後ろからいかに操るか……ということなのだから。まずはこの場の落ち込んだ空気を変えなければいけないようだ。こういうのは鈴々が適任かな。


「白露ちゃんって誰?」


「あ、ごめんなさい。白露ちゃんっていうのは公孫瓚さんの真名です。」(※3)


「頼むから、”真名”を不用意に言うのは止めてくれないかな……?」



さっき、それで殺されそうになったんですよ?


わかってますか? え?


と聞きたくなったけれど、”郷に入っては郷に従え”だから、俺が慣れる必要があるんだろうな……。


「ご、ごめんなさい……。」


「さっきから言ってるけど、とりあえず食事にしようよ。お腹が空くと疲れも溜まるし。」


「そうなのだ! まずはご飯を食べることなのだ! 鈴々はお腹が空いたのだー。」


また桃香がちょっと落ち込んだけれど、俺の目論み通りに鈴々が元気を取り戻させてくれた。それにしても、こんなときに”ストレス”と言えたら楽なのにな……。という”無い物ねだり”をしてしまう俺の虚しさ。


俺の世界では、コミュニケーションの手段として普段から何気なく色んな外来語を使っている。でも、この世界ではそれが何の役にも立たない。”ストレス”を”精神的疲労”と訳して言っても、そもそも精神的な疲れなんてものが定義されてすらいないだろう。脳内で全てを訳してから会話しないといけないんだから、なかなか大変だ。それでも全く通じないよりははるかにマシだけど。



「ところで、私はいつまで”コレ”を持っているといいのだ?」


俺の内心の葛藤などお構いなしに女媧はそう聞いてきた。”カバン”を持たせているからだ。


「仙人を何だと思っておるのだ……?」


とも


「そもそも、女性に荷物持ちをさせるなど」


ともとれるような表情と口調だけど、俺の”物理的な”疲れくらいは取り除いてもらわないとやってられない。


「ずっと。」



「”護衛を引き受けた”のはいささか軽率だったやもしれぬな……。まあ良かろう。」


良いのかよ。このお方、何気に優しいんだよなあ。



そんな話をしながら歩いていると、ようやく村の中に着いた。


賊から頂戴した五銖銭は100枚くらいだけど、これでどのくらい生活できるのだろうか? ”相場”は全く判らない。


「食事をしたり、お酒を買うのにってだいたい何枚くらい使うの? あと、馬を買うときとか。」



「そうですね……。馬は一頭で800枚分くらいはするんじゃないでしょうか。食事はだいたい2枚くらいですかね。ちなみに、お酒を買うのには3枚くらいです。」



やっぱり馬は超高級品だな……。単純計算だと50食分の食事だ。けど、お酒も入るし、だいたい食事40食分くらいだろう。1回の食事で5人分が基本だから、一日3食として……。


げ。3日保たないじゃん。早く次の所へ行くか、収入を確保しておかないと路頭に迷ってしまう。”次”は公孫瓚のところに行くのがいいかな。”コネ”も最大限活用すべきだろう。それに、公孫瓚のところには関羽と並び立つ至高の将軍が居るはずだし。


愛紗や鈴々は強いとはいえ、”実戦で兵を率いて戦う”ことに関してはまだ何とも言えない。多分大丈夫だとは思うけど、慣れておくに越したことはないだろう。それまでは”賊”狩りでお金を稼ぐのが一番良いはずだ。


幸いにして? さっきの連中みたいなのがたくさん居そうだ。鈴々はともかく、女媧、愛紗、桃香、俺のこの”服”も含めて、餌になるのなら利用してやればいい。“飛んで火に入る何とやら”だ。


「さて、どこかオススメの食事処はある?」


「ここです!」


俺の問いに桃香はそう元気よく答え、大きな店を指さした。美味しそうな料理の香りが漂い、客もたくさんいるようだ。


フレンチや和食が無いのは当然として、おそらく中華さえないのだろうけど、とても美味しそうな香りが漂っている。”空腹は最大の調味料”とはよく言ったものだよなあ……。



そして、そこで出てきたものは何と、”野ウサギ”と”鹿”だった。いわゆる”ジビエ”か。


多少の驚きを感じたけれど、食べてみると……。ヤバイ。マジで旨い。フレンチとかだとバジルとかを使った気がするけど、この料理には香草の香りはしない。調理実習で扱ったからバジルやローリエくらいなら香りも覚えてるんだけど。あれ、でも、この香りは嗅いだことあるような……? そうだ、八角”だ。(※4


「ご主人様、ここの料理はどう?」


「めちゃめちゃ美味しいわ。すごい。」


それにしても、”ウサギ”と”鹿”がこれだけ旨いとはなあ……。それに、料理が口に合うっていうのは本当にありがたい。



「ところで、桃園で結盟し、その後はどうされますか?」



そう愛紗が訊いてきた。もうどうするかは決めたし、あとはそれをちゃんと説明すればいいだけだ。



「とりあえず、公孫瓚さんのところに行こうかと思う。桃香の知り合いというなら、その繋がりで客将としておいてもらえるように頼んでみよう。俺や桃香はともかく、愛紗や鈴々なら大きな力になれるだろうから。”兵を操る”感覚を掴むためにもそれが良いと思う。公孫瓚さんのところに着くまでは山賊を狩ってお金を稼ごう。」



「なるほど……。さすがご主人様! 白露ちゃんなら許してくれると思います!」



「鈴々、我らにはあまりお金がないのだぞ……。今回は”ご主人様が出して下さる”とはいえ、今後は一人で三人分も食べてはならぬぞ。次からは一食で我慢するのだ……。」


「むー。ちゃんと食べないと力が出ないのだ……。」



愛紗、がんばって説得してくれ……。桃香たちの手持ちもそれほど多くはないし、マジで俺たちの財政は危機的状況なんだ……。顔が引きつるのを隠すだけでも大変だ。


カバンの中身の詳しい確認は……愛紗たちが居ないときのほうが良いだろうな。”天界”の技術の噂が立つのは困るし。とはいえ携帯の電池は……切れてるな。案の定だったけど。「これからのこと」について話していろいろなことを思い返しながらお昼は終わった。そうして、代金を払い、徳利に入ったお酒と盃を買い、この店を後にした。


”金が無い”


ことをこれ以上考えるのはやめよう。何せ、”桃園”での結盟があるのだから。


「桃園はあそこですよ。」



そう言われて桃香が指さす方を見ると、桃の咲き誇っている場所が見えた。



「ほう……。なかなかに美しいな。風雅な場所だ。」



その美しさには、女媧でさえ感嘆の声をあげた。本当にきれいだ……。凄い……。”結盟”を、燦々と照る太陽とこの桃の木たちに見届けて貰ってから、酒を飲んで花見といこう。



「それで”結盟”なんだけど、俺と甄はこの国を統一した後には、天界に戻らなければいけないんだ。だから、桃香たち3人で結ぶものと俺たち5人で結ぶものに分けよう。


終わったら、結盟の証として桃香、キミのその一対の剣のうち1本を俺にくれないか? もし、桃香が剣は2本必要だというなら、とりあえず俺のボロ剣を使ってくれ。」


「わかりました。別に私は二刀流というわけじゃないから大丈夫ですよ。」


俺がそう提案すると、桃香は悲しそうな顔をしながら応じ、それでも何とか笑顔を見せてくれた

。そして誓いの言葉を考え、まずは桃香、愛紗、鈴々の3人で盟を結ぶのを俺が見届けることになった。


「まず、俺が見届けよう。」


「はい。」



そう、3人同時に返事をして、武器を合わせて、


「我ら三人、生まれし日、時は違えども、姉妹の契りを結びしからは、同年、同月、同日に死せん事を願わん!!」


と声を合わせて誓った。



これは、小説『三国志演義』でも屈指の名場面であり、それに立ち会うことができた……ということであり、思わず涙がこぼれそうになってしまった。



そして、



「我ら五人を柱石とし、天下を義と法により統一し、安寧たる国家を建国することを誓う!!」



と5人で声を合わせた。



ここから始まるんだ……。


そう思えた。





そして、桃の花を見ながら5人で酒盛りとなった。


仙人は飲酒厳禁……というような話があったような気がしたので、女媧に


「へぇ。仙人でも酒を飲んでいいのか。」


とそっと耳打ちすると、


「う、うむ。”聖水”などというがな。無益な殺生ではない故、黙認されておる。仙界にも娯楽は必要じゃ。」



と焦ったように弁解していた。




そして、5人でとりとめのない話をしながら酒を飲んでいるとあっというまに徳利は空になった。あとは酔いを覚まして出発だろうか。





解説



※1:桜桑村・・・実際にあったかは定かではない。多分存在しない。が、面白いから採用。元ネタは無双シリーズ。今作では劉備の生まれた地ということに。


※2:太守・・・今でいう県知事みたいなものだと思ってください。今作での太守は都市のトップで軍事権を持つ……ということにしておきます。官爵は細かすぎてわからないです(将軍位も)が、有名なのは使います。


※3:白露・・・公孫瓚の真名。白蓮ぱいれんだと”蓮”がつかわれまして、コレは孫家の人の真名にのみ使いたかったので、やむなく変更することにしました。


※4:八角・・・スターアニスとも言いますが、中華料理では基本的なスパイスです。この後漢時代に存在したのかはわかりませんが、パラレルワールドですから許容して下さい。

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