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第50話 究極のお茶

曹操のところでこれ以上ないほど見事に用を済ませ、無事帰ってきた星、悠煌、椿の報告を聞き、曹操がどんな人物なのか3人に聞いてみた。


「曹操ですか……。第一印象は“迷い”のある人物、というところですかな。炎蓮と比べると小物感は否めません。臣下の武官とも何人か会いましたが、我がほうの将と比べると申し訳ないですが数段落ちます。強いて印象に残っている将を挙げるとすれば徐晃、許褚、典韋でしょうか。ただ……。」



「文官の荀彧・荀攸・司馬懿の3人だけは底知れぬ人物でしたね。あとは“団結力”これは我々ほどではないにせよ、相当のものを感じました。」


「私も同じですね。あの3人の言を受け入れ、進む道を決めれば相当の敵になるだろうと思います。私はもちろん、朱里たちとも競えそうな人物でした。」


そう3人が言った。曹操の胸中はわからないけれど、水晶の言うことを考えれば、自分の道に迷っているということなのだろうか。しかし、“許褚”季衣か。懐かしい。無事仕官できて元気なようで何よりだなあ……。


「なるほど……。将来どうなるか注視していく必要がありそうだね。」


「そうですね。」


さて、愛紗による“竹類”の読み上げも終わったし、“太守”と“配属武将”について考えるか。といっても、太守は星と悠煌以外あり得ない。民衆の支持も高く、最もバランスに長けたウチの二枚看板だろう。事務処理能力も高く、ある程度のリーダーシップも期待できる。それでいて桃香のことをきちんと立てられるから適任だ。問題はその下をどうするか。現状では鴻鵠を北海に置くくらいしか決まっていることはない。どうしたものかな……。ずっと下邳城に全員を集めてのんびり会議をやっているわけにもいかない。目下最大の課題はそれだった。


それから数日、ひたすら悩んだり、朱里たちと話をしたり、お忍びで町に出て評判を聞いたりする日々が続いた。下邳でも評判はかなり改善されていたことには驚きもあったけど、それ以上に嬉しかった。



そんな日々が破られたのは兵からの通達。“曹操の使者がこちらへ向かってきている”というものだった。その一行は数日かけて下邳へ着いた。代表?は荀攸で護衛は楽進が務めていた。内容は“先日、両親を丁重に送り届けてもらったことに対するお礼”と“これからよろしく”ということだった。


「ねえ一刀、どうして私は今回もお留守番なの? 炎蓮とは会ったけど、今回は会うことすら許されなかったし……。」


あの2人について考える前に、膨れっ面をした桃香がそんなことを聞いてきた。あのなあ……。


「どうしてため息なんかつくの~!?」


「桃香様、これからは少し自分の立場というものも考えていただきたい。」


「愛紗……ちゃん?」


「一刀さんや水晶たちの思っていることは要するに“小物とは会う必要なし”ということでしょう?」


愛紗もわかってきたなあ……。いいことだ。


「そう、支配地域が増えた俺たちの頂点である桃香と、たかが陳留の太守の使者じゃ格が違いすぎる。相手がどんなに優れた人物だとしてもね。ある種“無礼”な訪問をしてきた炎蓮と会わせたのは彼女が“揚州牧”だったから。それに尽きる。


だんだんそういうことも考えていかなくてはならなくなってきたんだよ。」


「そっかぁ……。“見合った振る舞い”できるようにがんばるね!」


「一刀さん!」


“お礼”として彼女たちが持ってきたものを検品していた朱里が血相を変えて走ってきた。


「どうしたの? そんなに慌てて?」


「これ、これを見てください!」


「何それ? 茶葉?」


大紅袍だいこうほう


その茶葉の放つ香りは過去の記憶を思い出させた。


ゴールデンウィークの中日。多忙な早坂さんが唯一空けられた日に藤田さんや不動先輩、羽深さんたちと遊んだ後“珍しいものがあるから”といって早坂さんの家へ行った。名古屋市内を一望できて、名古屋城も見られる超高層マンションの25階。40階?建てマンションだから、エレベーターに入るまでは“中途半端な階数だなあ”と思ったけど、入って初めてその理由がわかった。1階で1つの家。他の階は普通にいくつもの部屋がある。しかし、5・10・15・20・25階だけはぶち抜き。最初はあまりの広さに不動先輩たちでさえ絶句していた。それを「一括で買った」というのだからすさまじい。


そこで出されたのがこの中国茶“大紅袍”だった。なんでも、現存する原木は樹齢300年をこえるものが4本あるだけ。曰く、20gで300万近い値がついた。これほどニセモノの多い茶葉も珍しい。


どうやって手に入れたのか聞いたら、昨日まで中国にいて“要人”――あの7人のうちの一人――と会ったときにもらったのだそうだ。毎年これを50gもらうんだよ。『いつも同じもので申し訳ない』と言いながら寄こす、と笑っていた。


“早坂”の威光はそんなに凄いのかと思ったけど、それは不動先輩の祖父と会ったパーティで否定された。羽深さんが自嘲気味に『私には見向きもしませんから』と呟き、『彼の両親、祖父母、誰一人として彼ほどの影響力は持たん。自分で切り開いたんだよ』と不動先輩の祖父が言ったのをよく覚えている。


それは今まで飲んだことのないお茶だった。


「このお茶だけは兄自ら淹れてくれるんですよ」そう羽深さんが言っていた。その――今となっては――懐かしき記憶。




「一刀さん?」


気づくと、突然涙をこぼした俺を皆が心配そうに見ていた。


「ごめん。ちょい昔のことを思い出してた。しかし、これは皇帝に献上されるようなお茶だよね? どうやって手に入れたんだろう?」


「曹騰経由での横流しでしょうね。」


水晶がそう答えた。そうか、今は原木もそれなりにあるんだろうし、曹操の祖父、曹騰は有力な宦官だ。なんとか手に入れる方法を持っていたということなのだろう。


「それだけ私たちに気を遣っているということなのだと思います。」


「あまりに高級なものなので、私も実物を見るのは初めてなのですが、本物なのですか? 茶葉の形を本で見ただけで……。」


「間違いないと思う。」


「知っているということは、淹れ方もご存じなのですか?」


「ごめん。全く覚えてない。“気位の高い茶葉で、ご機嫌を伺うのがめんどくさい”とか聞いたけど、理解できなかったなあ……。


確かに高級なものだから淹れるのにも苦労しそうだけど、“香りを楽しんで味わいながら飲む”ことができればそれでいいと思うなあ。今回しか手に入らないというわけじゃないだろうし。」


「そういえば都務めの長い人は……霧雨さんしかいませんね……。」


「私に茶の淹れ方なんぞ期待するでない。そういう時間とは無縁だったのでな。」


「で、では淹れられる人は!?」


思わず愛紗がそう言っていた。いくら高級な茶葉を貰っても、淹れ方がわからないんじゃ笑い話にしかならないぞ……。


「一応、風は淹れられると思いますよ。さすがに大紅袍は初めてでしょうが。」


「!?」


「水晶ちゃんへの贈り物にお茶がたまにありましたので……。自分なりに淹れ方の研究をしたりもしましたし。これは初めてですが、先ほど一刀さんが言ったことで何となく理解できました。」


俺、何か言ったっけ?


「まさか“気位の高い”というやつですか!?」


「ですー。要は“茶の淹れ方は茶葉に聞け”ということなのでしょう。もちろん“基本”はありますが、“大紅袍”といっても茶葉は一枚一枚すべて違いますし。料理だって、肉の脂の入り方が一切れ一切れ違うのと同じだと思います。」


「なるほど……。」


風のその言葉には頷けることばかりだった。“食材に聞け”というのはそういうことだったのか……。


「で、この茶葉どうします? 私たちで全部飲んじゃいます?」


「というと……?」


水晶の問いには悠煌が疑問の声をあげた。


「どこかに渡すときの“切り札”にもできるのでは……? と思いまして。」


「それはやめておこう。どういう経路かということでいろいろ面倒になりそうだよ。曹操か、“あの3人”がそれを見越している可能性もある。」


「それもそうですね。一回で何煎か淹れられますし、のんびり楽しみましょう。」


そうして皆でお茶を飲んで会話を楽しんだ。風の淹れたお茶は絶品だった。時代による茶葉の差もあるのだろうけど、それよりなにより古代中国で飲んでいるというそのことがより強く影響したのかもしれない。そのうち銅雀台どうじゃくだいのようなものを建てて、そこで味わってみたいなあ……。



夜、眠ろうと思ったら戸をたたく音が聞こえた。


「あいてるよ。」


「無用心だな。」


「それだけここが安全だということだよ。急にどうしたの?」


来たのは女媧だった。


「”望郷の念”というやつが少し気になってな。大丈夫か?」


「ああ。“小説”って読んだことある?」


「何冊か。量は多くないが」


「そこで、主人公やヒロインら登場人物が何かの拍子に過去の印象的な記憶を思い出すシーンがある作品って意外とたくさんあってね。まさか自分の身にそれが起こるとは思わなかったなあ……。


あのとき断ち切ったつもりだったけど、やっぱりまだ“未練”みたいなものがあるのかな……?」


「あって当然だろう。お前のような状況下でそういうものが存在せぬ者のほうが珍しい。」


「そっか……。わかった。今日はゆっくり休むよ。」


「そうするといい。」



さて、寝よう。




解説



銅雀台どうじゃくだい:曹操が造った宮殿の名前。

なんだか某美食マンガのようなタイトルで申し訳ありません。“大紅袍”があの時代(後漢時代)からあったのかはわかりませんが、“中国茶の最高峰”を出さないのは勿体ない気がしましたので出しました。

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