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第49話 オレは平賀源内になる!!

非常に短くて申し訳ないです・・・。

ここは下邳城の一室。居るのは俺、女媧、愛紗、福莱、水晶、風の6人だ。目的は単純で、これまで概略しか聞いていなかったこと――俺たちがいなかったときに決めたこと――などを把握するために書類(竹類?)を読んで理解するためだ。ところが……。


「どうかしましたか?」


「い、いや。なんで草書で書いてあるのかなーって。」


意図せず、棒読みになっていた。竹の最後に、書いた人の名前(朱里・藍里・椿・玉鬘)だけは楷書で書かれているからこの議事録を誰が書いたのかはわかる。しかし……。議事録そのものはミミズがのたくったような字で書かれているのだ。楷書の白文なら読めるだろうという俺の考えは粉々に打ち砕かれた。厳密には「楷書」ではなく「隷書」なのかもしれないけれど、今はそんなことどうでもいい。


「議事録のように全ての発言をきちんと記録するには、早書きに適した草書しか選択肢がないのですよ。 !? まさか、読めないのですか!?」


「で、でも一刀さんだって買い物や食事はきちんとできるでしょう!?。それにこの間の炎蓮との条約だって……。」


「店や食事処に書いてあるのは精々数語の“単語”だろう? それに、炎蓮との条約にしても、あるいは水晶と風に書かせた手紙にしても、文章化したのは福莱だし……。」


水晶と福莱の問いにはそう答えるしかなかった。漢代の草書体なんて専門に研究している学者が文献や辞書と照らし合わせてようやく解読するものだろう……? それを俺が読むなんて……。


「そうだ、平賀源内になろう。」


「?」


「誰です?」


「異国の言葉がわからないから通訳に任せた俺の国の有名人だよ。」


「つまり、誰かにこれを訳してもらう……と?」


「いや、読み上げてもらうだけで大丈夫だよ。正直、これは勉強してどうにかなるとか、そういう次元じゃない気がするんだよね……。」


「しかし、誰が……?」


「甄しかいないでしょ。」


「いや、私はお断りだ。」


「は?」


今なんつった!?


「この“バター”や“生クリーム”そして“オムレツ”を食べるので忙しいのでな。このようなものを食べる機会はまずないので我が世の春を謳歌させてもらう。


心配するな。あのクズ共のことはきちんと探っている。」


何じゃそりゃ……。仕方ない。ここは……。


「愛紗だな。」


「は?」


「いや、一度言ってみたかったんだよね。


それはそれとして、これらの読み上げ係を愛紗にやってもらおうかな、って。」


「あの、ご主、いえ一刀さん、ご自分で勉強しようという気はないのですか……?」


「ない。というと嘘になるけど、正直草書はそう簡単にわかるもんじゃないと思うんだ。支配都市が下邳・小沛・北海の3都市、要は徐州全域と北海に増えた。太守を誰にして、どこに誰をおくかを始めとして課題は山積している。だから、字の勉強をするよりはその時間で政務を頑張った方が良い、というのが結論かな。今のところ、それが絶対に必要ということでもないし……。」


「なるほど。わかりました。しかし音読となると2人でやったほうがいいでしょうから、一刀さんたちは先に政務を頑張ってきてください。とりあえず我々3人で読んでおきますので。」


「わかった」


水晶にそう言われ、愛紗と2人で部屋から出た。なんだか遠回しにうるさいから2人でやってくれと言われたような……。



「さて一刀さん。まずは何をしますか?」


「ようやく愛紗も“一刀さん”って詰まらずに言えるようになってよかったよ。まずは間者の報告を聞くことからかな。何としても曹操の両親を探し出さなくてはいけない。」


「か、からかわないでください!! なぜそこまでこだわるのかはわかりませんが、曹操に恩を売ることにもなるし良いことだとは理解できます。」


すると、親衛隊の一人が俺を探しに城内まで来ていた。曹操の両親を見つけ、城内まで連れてきて今は紫苑が護衛中とのことだった。


「よし。星と悠煌と椿を呼んでくれ。多少の贈り物と一緒に曹操の陳留まで送らせよう。」


「そこまでするのですか!?」


「あの3人がいたんじゃ、“もしも”は起こらないだろうからね。」


「なるほど……。ところで、この間の会議で一刀さんが仰った基本的な施政方針が


“治に居て乱を忘れず”



“李下に冠を正さず”


なのはなぜですか?」


「一つ目は今の情勢そのままだよね。俺たちの居る“今、ここ”は平和だけれど、いつ何時何が起こるかわからない。“李下に冠を正さず”に関して言えば、政治家の基本がそれだと思うから、かな。自分の評価は自分がすれば良いのだけど、実際は相手が評価する。客観的に評価できる人なんてまずいないと俺は思う。そのときに、“どういう人だと周囲から思われているか”がとても大事になると思う。


俺たちは冠をつけていないからわかりにくいかもしれないけど、公人がすももの木の下で冠をいじると、“あ、コイツすもも泥棒だ”と思われてしまう。『私はすももなんて盗っていない』なんて言っても通じない。


“政治家はどのような行為でも最悪の意味で解釈される可能性を考えて行動を律せよ”


というふうに言われているわけだから、基本に持ってくるべきだろうな……と思ったんだ。いわゆる“汚職”をなくすにはそれが一番重要になるんじゃないか、ってね。」


「頷けることばかり。凄いです!! でもどうして一刀さんはこれだけ考えられたのですか?」


「実はね、俺の国では正反対なんだよ。それを反面教師にしよう、とかそんな感じかな。政治の情報を得る手段は沢山あるけど、それを聞いていると、正直なところ“癒着”がどうの、“裏金”がどうの“天下り”がどうのという話や、しょうもない利害の対立でぜんぜん前に進まないようにしか見えないんだよ。二院制で参議院の力が強すぎるというのがあるにせよ、それにしたって合意形成のやりかたとかもっとやりようあるだろう、って歯痒くてさ。だからこの国では上手くやりたいな、という思いが大きいんだと思う。


幸いにして意思決定を俺たちだけでやれるという非常にありがたい側面もあるし。」


「なるほど……。一刀さんの世界でも色々とあるのですね……。」


「たぶん、どこでも変わらないよ。人が二人居れば喧嘩する。それだけの話さ。」


「虚しいですがその通りです……。」













解説



治に居て乱を忘れず:平和な世にいても、万一のときに備えることを怠らないようにせよということ



李下に冠を正さず:人などに疑われるような事はするなということ。 ※ 瓜田かでんくつれず、李下に冠を正さず とも

作中では「文字の勉強中」なる描写がありましたが、私が実際に草書を見た感想では(35話の後書きにも少し書いてあるのですが)絶対無理。というものでしたのでこんな話になりました。「ミミズがのたくったような字」は下手な字のことを言うのですが、朱里たちの字は滅茶苦茶上手ですからね! 一刀が初めて草書を見た感想としてああなりました。

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