2 再会
佐倉を取り巻く女子社員の歓声は佐倉の声をかき消して僕には届かなかった。僕には見えないところで話しは盛り上がり佐倉が「今晩は盛り上がろうね」と言った声だけが聞こえた。わざわざショールームまで下りてきたのに何も収穫がなかった。
エレベーターで五階の営業部に戻ると部内でも佐倉の話題で盛り上がっていた。
「みんなちょっといいかな」とチーフが言ったので話しが中断された。
「今晩なんだけど、佐倉の飲み会に出席してもらえないかな?」チーフが仕事以外のことを僕たちに頼んだのはこれが初めてだった。もちろん僕はOKした。他の営業部員も大半がチーフの申し出を快く受けた。その日の業務はいつものようにてんこ盛りだったけど、皆が定時までに終わらせたい思いがあったので全員が普段見られない協力体制を築いた。お陰で定時の十分前には終了した。
その日の飲み会は驚くほど盛況だった。店頭では主役のはずの佐倉が受付をしていたので来場者は全員喜んでいた。僕は入場の列に紛れて日陰の存在だった。しかし、佐倉は僕を見逃さなかった。
「おっ!もしや蒲田ではないか。久しぶりだねぇ。元気だった?」佐倉は僕を見つけると大声で再会の言葉を述べた。
「あぁ、久しぶり」と僕が言うと佐倉は僕の手首を掴み「受付手伝いたいでしょう?」と聞いた。
「何を手伝うんだよ」と僕が聞くと佐倉はダンボール箱に入っていたビンゴのカードを指差した。
「それをそっちのプログラムと一緒にして私に渡してほしいんだよね。二枚一組だよ。OK?」佐倉は予想以上の来客だったので二枚一組セットの準備が間に合わなかったのだ。
「OK、渡せばいいんだな」と言うと佐倉は右手の親指と人差し指で円を作ってOKのサインをした。
「蒲田、手際が良いねぇ。助かる、助かる」と言いながら佐倉は来客に愛嬌を振りまいていた。
「盛況だな」と僕は言った。
「こんなに来るとは思わなかったよ。ビンゴの景品少なかったかな?まぁいいか」佐倉の言葉は独り言のようだった。
「お前インドで何をしていたの?」僕は佐倉に聞いた。
「毎日、絵を描いていたよ。たくさん描いたなぁ。見たい?」佐倉はインド生活を回想しながら話しをした。
「見せてくれるのか?見たい。見たい」と言うと佐倉は「いいよ」と言った。
「蒲田さぁ、あさって見においでよ。ちょうど飲み会があるんだよね。男性社員二名、調達してきてね。場所は渋谷でいいからさ」佐倉は勝手に予定を決めていた。
「あさって?」僕は突然の申し出に困惑しておかしな声をあげた。
「そうだよ。お願いね」と佐倉が言った。佐倉は全ての来客を出迎えると会場に足を向けた。
「蒲田も早く行こうよ」と言って佐倉は颯爽と歩いて行った。




