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前世の記憶を取り戻したら、断頭台に固定されている乙女ゲームの悪役令嬢だった。  作者: 有郷 葉


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1/2

アシュリー、詰んだ状況で前世を思い出す。


 気付けば私は断頭台に固定されていた。

 いや、正確に言えば、前世の記憶を取り戻して気付けば、だ。

 そして、この世界で生きた記憶も合わさってすぐに理解する。

 私は乙女ゲーム『恋のマジカル・バトルロワイヤル』(通称、恋のマジバトル)の悪役令嬢アシュリーに転生したのだと。


 こ、これはゲームの数あるエンディングの中でも一番えぐいアシュリー断罪ルート!


 ヒロインと王子との恋仲に嫉妬したアシュリーが悪逆非道の限りを尽くし、最後は斬首処刑されるという多くのプレイヤーをどん引きさせたやつだ……。

 うん、私も、いくら舞台が中世西洋風ファンタジーの世界だからって乙女ゲームで斬首はないわ、とどん引きしたからよく覚えている。


 なるほど、私はアシュリーに転生して、今あの最悪のエンディングを迎えているのか。


 じょ、冗談じゃない!

 確かに、悪逆非道の限りを尽くした記憶はある。でも、まるで別の人格が犯した罪のように全く実感がないんだけど!


 ……前世の記憶を取り戻して私は別人になりました、と言えば許してもらえる?

 無理だ! まず絶対信じてもらえない!


「では、これより罪人アシュリーの処刑を行う」


 静かだった処刑場に執行人の声が響いた。


 まままま待って!

 記憶を取り戻して速攻で死にたくない! 何とかこの場を切り抜けないと!


「……私を処刑してしまって、本当によろしいのですか?」


 私が咄嗟に発した言葉で処刑場の空気が固まった。

 思わず口から出たセリフだけど、これで少しは時間が稼げる! 今のうちに前世で得たゲームの知識を総動員して活路を見つけるしかない!


 改めて私は処刑場となっている部屋を見回した。といっても断頭台に固定されているので、正面しか分からないわけだけど。


 この場所は位置的には、牢獄とつながった王城の地下になる。

 目の前では私の悪逆非道な行いで被害を受けた者達が処刑を見守っていた。ヒロインの少女に、彼女と恋仲になった第一王子(私も彼を好きなはずだったんだけど、今は何とも思わない)、その弟や妹の王族達だ。

 ……揃って私の首が飛ぶところを見学とか、鬼畜か? 中世社会って恐ろしい……。


 それにしてもこのヒロイン、すごいピンク色の髪だね。イラストだから許容されていたものの、リアルな人間になったら違和感が半端ない。

 そしてヒロインらしく悲しそうな顔で私を見つめているけど、泣きたいのは今この状況の私だからね?


「アシュリー、何とか助かろうと適当なことを言っているんだろう? もう君の悪逆非道の数々は全て明らかになっているんだ」


 席から立ち上がった第一王子がそう沈黙を破った。

 くっ、まったくその通りだけど……、私は活路を見出した!


「……王家の秘宝、片方はまだ行方不明のままですよね?」


 私の発言は、今度は王族達をざわつかせた。


 私アシュリーは悪逆非道な行いの一つとして、王家に代々伝わる二つの秘宝を盗み出している。

 計画ではそれをヒロインの犯行に仕立て上げ、彼女をこの断頭台に送りこむはずだった。しかし、ヒロインを慕う者達の奮闘で計画は破綻。秘宝の片方である聖剣が私の元より発見されたことにより、ここに至る強力な物的証拠となってしまった。


 ゲームで描かれているのはここまで。

 もう片方の秘宝である宝玉については一切触れられていなかった。

 では、宝玉はいったいどこに行ったのか?

 もちろん私がまだ持っている。しかも、ストーリーと齟齬が生じないように念入りに隠した記憶があった。


「私をここで処刑すれば、宝玉は永遠に見つかりませんよ!」


 こう告げると処刑場のざわめきは一層大きくなった。


 さあ、早くこの断頭台から私を解き放って!

 執行人の手元がちょっと狂っただけで取り返しのつかないことになるんだから!


 ところが、周囲の面々はざわざわと相談し合っているのみで、一向に決断しようとしない。


 ……埒があかない。

 こら、ピンク頭、慈愛に満ちたヒロインなんだから「ひとまず命は助けてあげてください」くらい言ってよ。なぜひたすら悲しそうな顔をしているだけだ。


 駄目だ、このままじゃ結局首をはねられかねない……。

 もう一押し、何か必要か。

 できれば、あの中の誰かが私を助けたくなるような強力な一手……。

 そうだ!


 私は王女の一人をまっすぐに見つめた。


「ミラフィナ様、私の遺言を聞いてください」

「え……、どうして私に?」

「まあ、聞いてください。『あの女だけは許せない。平民のくせにうまく取り入って。どんな手を使ってでも邪魔してやる。あんな女に私の大好きなお兄様を』」

「待って待って! な、なぜあなたがそれを……!」

「現在ミラフィナ様がおつけになっている日記は私がすり替えた物です。元の日記は私が死ぬと同時に公開される手はずに」

「なんですってー!」

「秘宝の宝玉、大事ですよね?」


 私の問いに、ミラフィナ様は冷や汗を流しながら硬直してしまった。


 第二王女のミラフィナ様は、実の兄である第一王子に対して密かな思いを寄せている。

 とあるルートではその思いが暴走してヒロインを妨害する役どころに。

 やっていることはちょっとした嫌がらせ程度で、逐一日記につけていたりと、私に比べればかなりの小物ではあった。けれど、今の私には彼女以外に頼れる者がいない。

 悪いけど力になってもらおう。


 しばらく停止した後にミラフィナ様は突然座っている椅子から立ち上がった。


「い、一旦彼女の処刑は中止にしてはいかがでしょうか! 宝玉についてもう一度きちんと取り調べをしてからでもよろしいのでは!」


 ミラフィナ様は必死に兄や姉の説得をしてくれた。

 これによって、私はとりあえず牢獄に戻されることに。ついに固定されていた断頭台から解放された。


 ……はぁ、本当に焦った。

 完全に詰んだ状況だったけど、やれば何とかなるもんだ……。





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