表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

09:闇と粘体

09:闇と粘体


 魔王城の大広間は、朝から騒がしかった。

 原因はただ一つ――元・闇の勇者リュゼリアの機嫌が最悪だったからだ。

「なんでサルヴァン様が、そんな雑用みてぇなこと(任務)しなきゃいけねぇんだ!」

 黒い髪を逆立て、リュゼリアは大広間の中央で怒鳴っていた。

 その声は強い魔力を帯び、空気を震わせる。

「リュゼリア様、落ち着いてください……」

 側近の魔族が宥めようとするが、リュゼリアは聞く耳を持たない。

「落ち着けだぁ?落ち着けるわけねぇだろうが!帝国(アストリア)の偵察隊が魔族領に侵入しただと?国境警備のやつらは何してやがるっ!サルヴァン様のお手を煩わせるなんざ、言語道断!今からあたしが行って皆殺しにしてやらぁ!」

 どっちを?とは聞けずにサルヴァンが困った顔でリュゼリアを宥める。

「まあまあ。魔王軍(うち)も人手不足だしねぇ。それにリュゼリアには別の仕事を頼んでるだろ?」

 確かにリュゼリアは、一昨日、サルヴァンから国内で暴れる双頭竜の対応を依頼されていた。

「あら。それでしたら――もう解決済みですわ。」

 リュゼリアは練兵場のほうに目を向ける。サルヴァンが窓から練兵場を覘くと、頭部のない竜の巨体が転がされていた。

「うんうん。そっかぁ。そういうことならリュゼリアにお願いしようかなあ」

「但し――」

 彼の視線が、部屋の隅に立つゼラへ向けられる。

「ゼラを連れて行ってね」

 といったやりとりがあったのが二時間ほど前。今は国境に向けてゼラを背に乗せたリュゼリアが高速飛行中である。

 「なんでお前が同行するわけ?弱いし、気持ち悪いし!この足手まといが!」

 ゼラは肩をすくめた。

「……俺だって行きたくないですよ」

「だったら来ないでよ!」

「サルヴァン様の命令ですから」

 その一言で、リュゼリアは言葉を詰まらせた。

 サルヴァンの命令には逆らえない。

 それは幹部六名に共通する絶対の掟だ。

「……チッ。」

 急に黙ったリュゼリアにゼラは苦笑した。

(……絶対、俺のこと嫌いだよな、この人)

 

 * * *

 

 向かう場所は、魔族領の外れにある“黒煙の谷”だった。

 帝国の偵察隊が谷に潜んでいるという情報があり、その調査を命じられたのだ。

 まだ表立って帝国とコトを構えるつもりのないサルヴァンは、自ら調査と称して、偵察隊にはお帰り頂くつもりだったのだが、リュゼリアに任せることになった以上、ゼラをつけて何とか穏便に済ませられないかと考えていた。リュゼリア単体だと、発見と同時に殲滅してしまうに違いない。

 国境付近で地上に降り立ち、谷へ向かって歩く途中、リュゼリアはずっと不機嫌だった。

 「その鎧、カッコイイですね」

 ゼラは機嫌を取ろうとリュゼリアに話しかける。リュゼリアの胴鎧は緋色を基調に、前面に牛か羊を思わせる、ねじれた角の生えた頭骨が取り付けられ、背面からは竜の尾骨が生えていた。

 「ああ。これはゾルドランの骨で作った」

 無愛想に答えるリュゼリア。飾りだと思っていたのは、前代魔王の遺骨だったらしい。

「ねぇ、あんた。なんでそんなにのろのろ歩くの?」

「スライムですから……」

「言い訳すんじゃねぇよ!」

 ゼラは心の中でため息をついた。

(……この人、絶対俺のこと嫌いだ)

 だが、嫌われる理由は分かっていた。

 サルヴァンはゼラを特別扱いしている。長きに亘り忠誠を誓う幹部たちよりも、後から来たゼラを信頼している。

(でも、それは俺が前の世界の知り合いだから、なんだけどな……)

 そんなことを考えていると、リュゼリアが突然立ち止まった。

「……見つけた」

 谷の奥から、複数の気配がある。

 帝国の偵察隊だ。

 リュゼリアは口角を上げた。

「ふふ……やっと暴れられるわ」

 闇の魔力が噴き出し、空気が熱を帯びる。

 「いや。サルヴァン様から簡単に殺すなって言われましたよね?」

 ゼラは思わず後ずさった。

(……やばい。怒ってるときのリュゼリア、怖すぎる)

 帝国兵が姿を現した瞬間、リュゼリアは叫んだ。

「わかってる!できるだけ苦しむように殺し尽くしてあげるわ!」

「いや。わかってねぇ!」

 影が刃と化し、帝国兵を襲った。

 リュゼリアの言葉とは裏腹に、帝国兵は悲鳴を上げる間もなく両断された。

 ゼラは呆然とした。

(……強すぎる)

 だが、そのとき――谷の奥から、別の気配が現れた。

「……なんだ?このいやな気配?」

 白いローブを纏った帝国兵が、背嚢からガラス瓶を取り出している。

 リュゼリアは舌打ちした。

「邪魔すんじゃねぇ!」

 影を放とうとするより速く、帝国兵はリュゼリアに向かってガラス瓶を投げつけた。

「リュゼリア様、危ない!」

 ゼラは咄嗟に飛び出した。

 ガラスが割れ、中身がゼラの身体に纏わりつき、粘体に染み込んだ。

 辺りに飛び散った中身は、たちまち蒸発している。

「ゼラ!?」

 リュゼリアの目が見開かれた。

 「ぐっ……!」

 瓶の中身は、帝国で研究開発された病原菌であった。

 病原菌の毒素がゼラの身体を貫く。

 ゼラは必死に病原菌の動きを止めようとのたうち回る。

 粘体が崩れ、形が保てなくなる。

 リュゼリアは叫んだ。

 「やめろォォォ!」

 黒竜の心臓が暴走し、リュゼリアの身体が鱗に包まれる。

 半竜化――彼女が本気になった証だ。

「こいつに触るなァァァ!」

 影の竜人が咆哮し、大鎌が帝国兵の首を刎ねた。

 谷が静まり返る。

 リュゼリアはゼラのもとへ駆け寄った。

「あんた! しっかりしなさいよ!」

 ゼラはかすかに笑った。

「……リュゼリア様……無事で……よかった……」

「なんで庇ったのよ!あんたなんかが、あたしを庇う必要なんてないでしょ!」

 ゼラは首を振った。

「……仲間だから……」

 リュゼリアは言葉を失った。

 ゼラの身体はゆっくりと再生していく。

(疫鼠の力を吸収していてよかった……)

 スライムの再生能力は高いが、過去に経験が無ければ魂が揺らぐほどのダメージを受けていた。

 リュゼリアは震える声で呟いた。

「……バカ。あんたなんかに庇われたって、嬉しくないんだから……」

 だが、その声は弱々しく、どこか泣きそうだった。

 ゼラは微笑んだ。

「……ありがとう、リュゼリア様」

「……っ!」

 リュゼリアは顔を背けた。

「勘違いしないでよ!別に、あんたのことを心配したわけじゃ……」

 ゼラは静かに言った。

「でも、助けてくれた」

 リュゼリアはしばらく沈黙し――小さく呟いた。

「……あんた、嫌いだけど……仲間なんでしょ。だったら……守るのは当然よ」

 ゼラは胸が熱くなった。

 リュゼリアは照れ隠しのようにゼラを睨んだ。

「次に勝手に飛び出したら、あんたを裂くからね!」

「……気をつけるよ」

「気をつけるだけじゃダメ!ちゃんとあたしの後ろにいなさい!」

 ゼラは笑った。

(……この人、本当は優しいんだな)

 リュゼリアはゼラを掴み、引っ張り上げた。

「ほら、帰るわよ。あんたが死んだら……サルヴァン様に怒られるし」

 ゼラは頷いた。

「うん。ありがとう、リュゼリア様」

 リュゼリアは顔を赤くしながら叫んだ。

「それに偵察隊を殺しちゃった罪を、一緒に償ってもらわないとね」

「げ!忘れてた!」

 二人は笑いあった。

 こうして――リュゼリアはゼラを“仲間”として認めた。

 不器用で、素直じゃなくて、でも誰よりも熱い心を持つ元・闇の勇者はゼラの勇気に触れ、ほんの少しだけ心を開いたのだった。

 なお、偵察隊の痕跡はゼラがすべて溶かして、証拠隠滅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ