13:分裂
13:分裂
魔王城の地下ごみ集積場。
疫鼠を処理した翌朝、ゼラはいつものように粘体を伸ばしながら目を覚ました。
「ふぁぁ……昨日は大変だったなぁ……」
体を伸ばした瞬間――ぽとん。
「……ん?」
ゼラの体から、小さな粘体の塊が落ちた。
それはぷるんと震え、ゼラそっくりの形を作る。
「おはよー! ぼくゼラ2号!」
「……えっ!? しゃべった!?」
「しゃべれるよー! だってぼく、ゼラだもん!」
ゼラは頭を抱えた。
(ま、まさか……昨日の分裂能力……!?)
すると、また――ぽとん。
「ゼラ3号、起動しました!」
「いや起動って何!?」
さらに――ぽとん、ぽとん、ぽとん。
「ゼラ4号、今日のごみ処理担当でーす!」
「ゼラ5号、遊びたい!」
「ゼラ6号、寝たい……」
「ゼラ7号、腹減ったー!」
「ちょ、ちょっと待って!? 増えすぎ増えすぎ!」
ゼラは慌てて分裂ゼラたちを回収しようとするが、小さなゼラたちはぴょんぴょん跳ねて逃げ回る。
「やだー! 自由がいいー!」
「ぼく、厨房に行ってスープ飲みたい!」
「ゼラ6号は寝る……」
「ゼラ5号は遊ぶー!」
「お前ら勝手に行動するなぁぁぁ!」
地下集積場は、朝から大騒ぎだった。
* * *
その頃、厨房では――。
「おいスライム! 今日の水は……って、なんだこりゃ!?」
大鍋の前で、オーガが叫んだ。
鍋の縁に、ゼラ7号がちょこんと座っていた。
「スープ、いい匂いー!」
「ぎゃああああああああああ!?スライムが鍋に入ろうとしてるぅぅぅ!?」
「入らないよー! 味見したいだけー!」
「それはそれで困るわぁぁぁ!」
オーガは慌ててゼラ7号を掴もうとするが、ゼラ7号はぷるんと跳ねて逃げる。
「まてぇぇぇ!」
「やーだー!」
厨房は大混乱だった。
* * *
一方、洗濯場では――。
「スライムさん、今日の水は……あら?」
メイドたちの足元で、ゼラ6号が寝ていた。
「すぅ……すぅ……」
「かわいい……けど、洗濯物が干せません……!」
「起こすのもかわいそうですし……」
「どうしましょう……?」
メイドたちは困り果てていた。
* * *
そして鍛冶場では――。
「おいゼラ! 今日の金属は……って、なんだこりゃ!?」
ドランの足元で、ゼラ3号が鉄片を食べていた。
「鉄、おいしいね!」
「食うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?それは今日の仕事の材料だぁぁぁ!」
「えー、だっておいしいんだもん!」
「お前はスライムだろうがぁぁぁ!」
ドランの怒号が鍛冶場に響き渡った。
* * *
その頃、ゼラ本体は――。
「……なんでこうなったの……?」
分裂ゼラたちが散り散りになり、魔王城中が騒がしくなっているのが、体内の感覚でわかる。
(やばい……絶対怒られる……!)
そこへ――。
「ゼラ」
静かな声が響いた。
「サ、サルヴァンサマー!?」
サルヴァンが腕を組んで立っていた。
「……城中が君でいっぱいだね」
「ご、ごめんなさいぃぃぃ!」
ゼラは地面に平伏した。
「分裂能力を得たのはいいけど……まさかこんなに勝手に動くとは……!」
サルヴァンはため息をついた。
「分裂した個体は、どうやら君の“感情”を強く反映するようだね。つまり――」
サルヴァンは指を折りながら言った。
「遊びたい、寝たい、食べたい、働きたい……君の中にある“欲求”がそのまま形になっているんだ」
「……え、俺そんなに欲望まみれなの?」
「君は元人間だからね。スライムよりずっと複雑だよ」
ゼラは頭を抱えた。
* * *
そこへ――。
「ただいまー!」
「遊んできたー!」
「寝てきたー!」
「鉄食べたー!」
「スープ飲みたかったー!」
分裂ゼラたちがぞろぞろと戻ってきた。
「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゼラは泣きそうになりながら叫んだ。
「勝手に動くなって言っただろぉぉぉ!」
「えー、だって楽しかったもん!」
「ぼく、また遊びたい!」
「ゼラ6号は寝る……」
「ゼラ3号は鉄もっと食べたい!」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
サルヴァンはくすりと笑った。
「まあ、慣れれば使いこなせるようになるよ。分裂個体は、君の命令に従うように調整できる」
「ほ、本当!?」
「もちろん。ただし――」
サルヴァンはゼラの肩に手を置いた。
「君自身が“自分の欲望”を理解し、コントロールできるようにならないとね」
「……俺の欲望……」
ゼラは分裂ゼラたちを見つめた。
遊びたいゼラ。
寝たいゼラ。
食べたいゼラ。
働きたいゼラ。
(……俺、こんなにいろいろ抱えてたんだな)
ゼラは深く息を吸い込むように粘体を震わせた。
「よし! みんな、集合!」
「はーい!」
「えー!」
「ねむい……」
「鉄……」
「鉄は食べるな!」
ゼラは分裂ゼラたちをまとめ、ひとつひとつ吸収していった。
「……ふぅ。これで静かになった」
サルヴァンは満足げに頷いた。
「いいね。君はまた一歩、成長したよ」
ゼラは照れくさく粘体を揺らした。
(……俺、もっと強くなれる気がする。ようし、明日からこの能力の特訓だ!)
こうして、ゼラと分裂ゼラたちの騒がしい一日は幕を閉じた。
だが――この能力が、後に魔王軍を救う大きな力になることを、ゼラはまだ知らない。




