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女王蜂  作者:


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第2話 嘘をつく蜜

午後三時。

蜂の巣には、重たい沈黙が落ちていた。


応接室のソファに座る男は、三十代半ば。

スーツは安物だが、妙に背筋だけは伸びている。


「……俺、やってません」


それが、男の最初の言葉だった。


「“やってません”は主張にならないわ」


蜂須賀 愛は、書類から視線を上げずに言い放つ。


「事実か、嘘か。

どちらかを選んで」


男は喉を鳴らした。


今回の依頼は、社内横領の容疑。

被害額は三百万円。

証拠は、防犯カメラと経理データ――どちらも男を犯人だと示していた。


「……やってません」


同じ言葉。

少しだけ、声が震えた。


「綾」


「は、はい!」


蜜嶋 綾は、条件反射のように背筋を伸ばす。


「この人、嘘ついてる?」


綾は一瞬、言葉に詰まった。


愛の問いは、いつも唐突で残酷だ。

けれど、綾は逃げない。


「……全部は、嘘じゃないと思います」


「全部?」


「はい。

隠してることは、あります」


愛は、ようやく男を見た。


「聞いた?

あなた、蜜よりも粘っこい嘘をついてる」


男の顔色が変わる。


「横領はしてない。

でも――口座を操作できる立場にあったのは事実。

違う?」


沈黙。


それが答えだった。


「……会社の金を、守ろうとしただけなんです」


男は、ようやく本音を吐いた。


上司が粉飾決算をしていることに気づいた。

内部告発しようとしたが、逆に罪を着せられた。


「正義感って、便利な言葉ね」


愛は冷たく言う。


「でも、裁判所は“善意”じゃなく“証拠”を見る」


男は俯いた。


「助かりませんか……?」


「条件付きで、助ける」


その一言に、男の顔が上がる。


「嘘を全部、吐くこと。

――私にも、裁判所にも」


愛は立ち上がり、背を向けた。


「綾。

内部告発のデータ、洗い直して」


「……はい!」


その背中に、男は小さく頭を下げた。


応接室を出た後、綾がぽつりと言った。


「……優しいですね、愛さん」


「どこが?」


「嘘をついたままなら、切り捨ててましたよね」


愛は一瞬だけ、足を止める。


「嘘をつく人間は嫌い。

でも――真実を言おうとして潰される人間は、もっと嫌いじゃない」


その横顔を見て、綾は思った。


この人は、

誰よりも冷たくて、

誰よりも正義に不器用だ。


社長室のドア越しに、猶が小さく呟いた。


「……ちゃんと、私の娘ね」


女王蜂は今日も、

甘い蜜の裏にある嘘を、針で暴き出す。

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