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女王蜂  作者:


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第1話 蜂の巣へようこそ

神奈川県川崎市。

駅から少し外れた雑居ビルの三階に、その法律事務所はある。


表札には無骨な文字で

「蜂須賀法律事務所」

とだけ書かれているが、界隈ではこう呼ばれていた。


――蜂の巣。


「……今日もいい顔してるわね」


ドアを開けるなり、冷ややかな声が飛んできた。


黒のパンツスーツ、完璧に整えられたショートボブ。

弁護士・蜂須賀はちすか あい、27歳。


法廷では一切の妥協を許さず、依頼人にも容赦なく現実を突きつける。

その姿勢と眼光の鋭さから、いつしかついた異名は――女王蜂。


「お、おはようございます愛さん……」


書類を抱えたまま、背筋を反射的に伸ばすのは

パラリーガルの蜜嶋みつしま あや、同じく27歳。


愛の幼馴染で、学生時代からの腐れ縁。

そして――


「挨拶が一拍遅い。集中力、落ちてるわよ?」


「す、すみません……!」


ぴしり、と空気が締まる。


綾は怒られているのに、どこか安心したような顔をしている。

それを見て、愛は小さく鼻で笑った。


「まったく……相変わらずね、綾は」


「は、はい……」


この二人のやり取りを、奥の社長室からじっと眺めている人物がいる。


「朝から元気ねえ、愛」


柔らかいが芯のある声。

事務所社長――蜂須賀 なお、57歳。


愛の母であり、この蜂の巣を一代で築き上げた元敏腕弁護士だ。


「元気じゃないと勝てないでしょ。ここは戦場なんだから」


「ふふ、相変わらず物騒な言い方」


猶は微笑みながらも、娘の仕事ぶりには一切口を出さない。

それがこの事務所の暗黙のルールだった。


その時、インターホンが鳴った。


「新規相談です」


綾が少し緊張した声で言う。


愛はジャケットの袖を整え、鋭く目を細めた。


「通して。

――蜂の巣に迷い込んだ以上、覚悟してもらわないとね」


女王蜂は、微笑まない。


獲物を逃がさないだけだ。


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