第4話
放課後の教室に夕陽が差し込む。
今日は弓道部の練習はなし。
望月蓮は鞄を肩にかけ、いつもより早い足取りで昇降口へ向かっていた。
理由はひとつ――妹のかれんだ。
朝、登校前に「今日は早く帰るね」と笑っていたあの顔が、頭の隅にずっと残っている。
心配性だと自分でも思う。
けれど、放っておけない。
かれんのこととなると、いつも少しだけ過剰になる。
「……ただいま」
玄関で靴を脱ぎながら声をかける。
だが返事はない。
母はまだ仕事の時間だ。
となると、家にいるのは早く帰ったはずのかれんだけのはず。
不安が胸の奥で小さく波打つ。
「おーい、かれん?」
リビングに足を踏み入れると、机の上に一枚のメモが置かれていた。
整った丸文字でこう書かれている。
>お兄ちゃんへ
>足りないものがあったから、いつものスーパーに行ってきます。
>ひとりで大丈夫なので、お家で待っててください。
最後の一文に、蓮は小さく息をつく。
――“お兄ちゃんなら迎えに来る”と分かっていて、あえて書いたような気がした。
「……まったく」
呟きながら鞄を置き、上着を羽織る。
そんなの関係ない。迎えに行く。
あの子は方向音痴だ。
スマホも机の上に置きっぱなしだ。
何かあったら――。
胸の奥が一瞬だけ冷たくなる。
蓮はドアを開け、夕暮れの風を切るように外へ出た。
通い慣れた道を早足で進む。
途中で「もし帰ってきてる途中ならすれ違うだろう」と思いながらも、足は止まらない。
スーパーの前に着いても、かれんの姿はなかった。
焦りが喉の奥を締めつける。
近くの公園、駄菓子屋、文房具店――
かれんが立ち寄りそうな場所を順番に回る。
夕暮れの街が異常にうるさく感じる。冷たい風が耳鳴りのように響いた。
(まさか迷ってないよな……)
心の中でそうつぶやいたとき。
「お兄ちゃん!」
その声が、風に乗って届いた。
蓮は振り返る。
そこに――息を弾ませながら手を振るかれん。
その手をしっかり握るもう一人の少女の姿。
かれんの隣で、春の夕陽を受けて微笑む少女。
反対の手にはスーパーの袋。
花咲ひより。
一瞬、時間が止まったように感じた。
風が頬を撫でる。
さっきまで焦りでざらついていた胸の奥を、
夕陽の色によく似た、温かい風が撫でていくようだった。




