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第23話

「……どうしよう、蓮くん」

不安そうな声を出しながら、私は目の前の「私」を見上げた。

でも、口から出た心配そうな言葉とは裏腹に、私の胸の奥は、ドキドキとわくわくが混じって騒がしかった。


(すごい……本当に漫画みたい。私、いま、蓮くんになってるんだ……。)


ふと手元に目を落とすと、そこには見慣れない、でも確かな「力」を感じる大きな手があった。

指の付け根には、弓道の練習でできたんだろう硬いマメが並んでいる。

一歩踏み出すだけで、自分の体よりもずっと重くて、でも頼もしい重厚感が足の裏から伝わってくる。

顔を上げれば、廊下の景色がいつもと全然違って見えた。

ぐんと高くなった視界。

自分が少しだけ強くなったような、不思議な無敵感にふわふわと浮き足立ってしまう。


私の姿をして、真剣に眉間にシワを寄せている蓮くんは、このピンチをどう切り抜けるか必死に考えているみたいだけど。


(中身が蓮くんだってわかってるのに、私の顔であんなに必死に悩んでるの、なんだか不思議な感じ……。あ、今はそんなこと観察してる場合じゃないよね。でも、どうしてもドキドキが止まらないよー!)


蓮くんは私の内心の盛り上がりに全く気づいていない様子で、「やり過ごすしかない」と覚悟を決めたようだった。

重い足取りで歩き出す彼の背中を追いかけながら、私は今日のあの違和感のある始まりの朝を思い出していた。


今朝の通学路。

並木道の間からキラキラした光が差し込む中で、蓮くんと並んで歩いていた時。

「……?」

ふと、背中をなぞられるような奇妙な視線を感じて、私は振り返った。

遠くの電柱の陰。白衣をひらひらさせたおかっぱ頭の女の子が、じーっとこちらを……ううん、私と蓮くんを観察するように覗き込んでいた気がした。


(あの子、誰だろう? なんだか、面白そうなものを見つけた子供みたいな目をしてた気がするけど……)


その時は「気のせいかな」なんて思って隣を歩く蓮くんとの会話に戻っちゃったけれど。今思えば、あの時から不可ちゃんは私たちの事を狙っていたのだろう。


昼休み、学海ちゃんが生徒会の用事で教室を出ていって、私が一人で廊下を歩いていた時。

パタパタと小気味いい足音が後ろから近づいてきた。

「あーっ!いたいた!ターゲットその2、花咲ひよりちゃんね!」

「えっ、あ、はい……えっと、あなたは?」

戸惑う私の前にひょいっと現れたのは、朝に見かけたあのおかっぱの女の子。彼女はニカッと不敵な笑顔を浮かべると、バサリと白衣を翻して胸を張った。

「私は天才発明家、思議乃不可! 君、今すっごく重要な『魂の適性テスト』に選ばれたのよ。世界を救う大実験に協力しなさい!」

「せ、世界を救う……?」

普通なら怪しむところだけど、彼女の目がまるでおもちゃを見つけた子供みたいにキラキラしていて……それに、最近学校で噂の「科学準備室の不思議な子」に会えたワクワクもあって、つい頷いてしまった。

「私にできることなら、いいけど……」

「そうこなくっちゃ! さあ、こっちよ!」

細い指先からは想像もつかないような力でグイグイ手を引かれ、連れて行かれたのは人気のいない空き教室。

そこに置かれた、ピカピカと光る金属製の奇妙な箱。

不可ちゃんはそれを自慢げに叩きながら、私を促した。

「この中に入って少し待ってて欲しいの!そうすれば宇宙の平和が守られるわ!」

「ええっ、そうなの!? わかったよ」

今思えば、私ってば単純すぎ。

でも数分後に箱の外で不可ちゃんに箱に押し込まれた蓮くんの姿を見つけた時。

私は怖さよりも先に、「これから何かが起きる」っていう予感に、どうしようもなく胸を躍らせていた。


(……それでああなって、こうなっちゃった、ってわけか)


教室の扉が目の前に迫る。

私はいつもより大きな自身の手をギュッと握りしめた。


(大丈夫。蓮くんとして、しっかりやり遂げてみせるからね!)

私は気合を胸に、教室の扉に手をかけた。

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