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流海の城  作者: 双鶴


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8話

三日が過ぎた。流海の水面は静かだったが、舟の城の空気は張り詰めていた。小田氏からの最後通告を受けて、民はそれぞれの持ち場で準備を進めていた。舟の配置は再調整され、水門の縄は三重に結ばれ、交易品は板の下に隠された。


沙夜は、民の代表として再び交渉の舟に乗った。同行するのは、弥八、藤兵衛、澪。源蔵と妙蓮は舟の城に残り、万が一に備えていた。


舟が水門を越えると、小田氏の舟が待っていた。前回と同じ家老筋の男が立ち、腕を組んでいた。


「答えを持ってきたか」


沙夜は舟を寄せ、静かに言った。


「塩の一割、薬草の三割まで。水門は譲らぬ。交易は続けたい」


男は眉をひそめた。


「水門を渡さぬなら、交易は断つ。舟の数も減らせ。さもなくば、火を見せることになる」


弥八が前に出た。


「交易を断てば、貴家も損をする。塩は兵糧、薬草は治療。戦を望まぬなら、道を残すべきだ」


男は舟の縁を叩いた。


「道は一つ。従うか、沈むか」


藤兵衛が静かに言った。


「沈むなら、共に沈む。舟は動く。火は消えぬ」


澪は帆を見上げ、風の向きを確認した。


「風は北。逃げ道はある。だが、逃げぬ」


沙夜は一歩前に出た。


「我らは戦を望まぬ。だが、命を渡すこともせぬ。水門は、命の綱。譲れば、民は沈む」


男はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「ならば、見せてもらおう。その命の綱とやらを」


舟を返すと、沙夜はすぐに舟の城へ戻った。民が集まり、報告を待っていた。


「交渉は決裂寸前。だが、まだ火は放たれていない。見せねばならぬ。我らの備えを」


源蔵は板を打ち直し、舟の舳先を高くした。


「舟の姿を見せる。沈まぬ構造を、目に焼き付けさせる」


藤兵衛は鉄板を磨き、櫂を並べた。


「武器ではない。守るための手だと、見せる」


妙蓮は祈りの場を舟の中央に移し、香を焚いた。


「火は消えぬ。心も崩れぬ。それを、見せる」


弥八は交易品を整え、舟の縁に並べた。


「奪われぬように、見せる。隠すだけでは、伝わらぬ」


陸と澪は水路を巡り、舟の動きを調整した。


「動けることを、見せる。逃げぬが、沈まぬと」


その夜、舟の城は静かに灯された。火は高くなく、香は強くなく、舟は揺れずに並んでいた。水門には見張りが立ち、縄は結ばれ、板は厚く、櫂は整っていた。


沙夜は舟の中央に立ち、民を見渡した。


「見せるのは、力ではない。暮らしだ。火を焚き、舟を繋ぎ、水を守る。それが、我らの答えだ」


翌朝、小田氏の舟が再び現れた。今度は旗を掲げず、火も焚かず、静かに停泊していた。家老筋の男は現れず、若い使者が一人、舟を寄せてきた。


「交渉は続ける意志あり。条件の見直しを検討中。水門の件は、保留とする」


沙夜は頷いた。


「交易は続ける。水門は守る。それが、我らの姿だ」


使者は布を巻き、舟を返した。


舟の城では、民が静かに動いていた。火は灯り、水は流れ、舟は揺れていた。


水門は、まだ結ばれていた。


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