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流海の城  作者: 双鶴


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7話

交渉の場から十日が過ぎた。小田氏からの返答はなかった。舟の城では、民が不安を抱えながらも、日々の暮らしを続けていた。水門は絞られ、見張りは交代制で立ち、交易用の舟は外縁に控えていた。


ある朝、澪が水路を巡って戻ってきた。顔に緊張が走っていた。


「小田氏の舟が増えている。旗は伏せられ、弓を積んでいる。数は六艘」


沙夜はすぐに会合を開いた。源蔵、藤兵衛、妙蓮、弥八、陸、澪が集まった。


「交渉は拒まれたと見てよい。年貢の条件を飲まぬ限り、圧力を強めるつもりだ」


弥八が言った。


「交易を断たれれば、物資が尽きる。だが、従えば水門を奪われる」


藤兵衛は拳を握った。


「戦を仕掛ける気はない。だが、脅しには屈するな」


妙蓮は静かに言った。


「祈りの場を守るには、心を崩さぬこと。民が動揺すれば、火は消える」


源蔵は地図を広げた。


「舟の配置を変える。外縁に軽舟を置き、中央に重舟を集める。水門の縄は、三重に結ぶ」


陸が言った。


「水路の分岐に網を張る。舟の進路を絞れば、奇襲は防げる」


澪は帆の調整を提案した。


「風を読めば、逃げ道は作れる。だが、今は動かぬ方がよい」


沙夜は皆の意見を聞き、静かに頷いた。


「交渉は続ける。だが、備えは強める。舟の城は、我らの命の場だ」


その夜、沙夜は再び交渉の舟を出した。白布を掲げ、弥八と陸を伴って水門を越えた。小田氏の舟は外縁に並び、火を焚いていた。前回と同じ家老筋の男が現れた。


「再び来たか。答えは変わらぬ。年貢を納め、水門を渡せ」


沙夜は静かに答えた。


「塩の一割、薬草の三割まで。水門は譲らぬ。交易は続けたい」


男は笑った。


「交渉ではなく、命乞いに来たか。舟の城など、ひと焚きで沈む」


弥八が口を開いた。


「交易を断てば、貴家も損をする。塩は貴家の兵糧にもなる」


男は顔をしかめた。


「ならば、考える時間をやろう。三日後、答えを持って来い。それまでに舟を減らせ。水門の縄も解いておけ」


沙夜は頷き、舟を返した。


舟の城に戻ると、民は静かに集まった。沙夜は言った。


「三日後、答えを求められる。だが、我らの答えは変わらぬ。水門は渡さぬ。舟は減らさぬ」


源蔵は言った。


「ならば、備えを固める。板を打ち直し、縄を増やす」


藤兵衛は櫂を研ぎ、鉄板を打った。


「戦を避けるには、戦を見せねばならぬ」


妙蓮は祈りの場を広げ、香を焚いた。


「火を絶やさぬこと。それが、民の心を守る」


弥八は交易品を整理し、隠し場所を増やした。


「奪われぬように、見せぬこと」


陸と澪は水路を巡り、逃げ道を再確認した。


「動かぬために、動ける準備を」


沙夜は、舟の中央に立ち、地図を見つめた。風は南から吹き、湖面は静かだった。


「三日後、答えを持って行く。だが、我らの答えは、ここにある」


舟の城は、静かに揺れていた。火は灯り、水は流れ、民は動いていた。


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