21話
亡命者の舟が水門の外に繋がれてから七日が過ぎた。流海の水面は穏やかだったが、舟の城の内部では再編の動きが進んでいた。火は灯され、記録板は日ごとに更新され、祈りの場には言葉が残されていた。
沙夜は舟の中央に板を渡し、代表者会議を開いた。源蔵、お咲、澪、弥八、庄吉、藤兵衛、妙蓮が揃った。
「亡命者を受け入れたことで、我らの立場は変わった」と沙夜は言った。「水門を守るだけではなく、命を繋ぐ場となった。ならば、構えを改めよう。舟の配置、記録の仕組み、祈りの場――すべてを、三つの拠点に分ける」
源蔵は水門の図を広げた。「防衛の拠点は北に置く。水門の縄を守り、舟の出入りを記録する。鐘と火で動きを知らせ、鉄板と布で備える」
藤兵衛は配置図を描きながら言った。「防衛の舟は三艘。夜間は水門に固定し、昼は巡回する。亡命者の舟は南に置き、記録板で動きを管理する」
澪は帆の向きを見ながら言った。「交易の拠点は西に置く。白帆と印で目的を示し、香は補助とする。帆の形で塩、薬草、布を分ける」
弥八は帳面を開きながら言った。「交易の記録は日ごとに更新し、出入りの時刻と品目を記す。三方との関係は、帆と記録で示す」
お咲は祈りの場の図を広げた。「祈りの拠点は東に置く。火と水と香に加え、言葉を記す板を設ける。病人の声、願い、祈念――それらを舟の中央に残す」
庄吉は静かに言った。「三つの拠点があれば、動きが見える。守る、渡す、癒す――それぞれが役割を持ち、舟の民の構えとなる」
妙蓮は香を焚きながら言った。「祈りは、場に宿る。だが、場が整えば、心も整う。三つの拠点は、舟の心の形になる」
沙夜は火を見つめ、言葉を紡いだ。「ならば、〈白翔の城〉として、水上自治を宣言しよう。三つの拠点を持ち、記録と帆と祈りで構えを示す。三勢力に、文を送る。水門を守り、命を繋ぐ意思を、外に向けて語る」
三日後、佐竹、大掾、江戸に文が届けられた。舟の構造図、記録板の写し、帆の規定、祈りの場の配置図――それらを添え、〈白翔の城〉の名で提出された。
佐竹からの返答は短かった。「水門の管理を続ける限り、干渉せぬ。交易の道が開かれていれば、旗は求めぬ」
江戸からは条件付きの承認が届いた。「交易の帆が白である限り、出入りを認める。火矢を放った者は、我らの名ではない」
大掾からは祈りの言葉が添えられていた。「火を灯し、香を焚き、水を供える場がある限り、祈りは続く。名を借りずとも、願いは届く」
その夜、舟の城では全体会合が開かれた。火が灯され、板が渡され、民が集まった。沙夜は火の前に立ち、語った。
「三つの拠点を設けた。防衛、交易、祈り――それぞれが、舟の民の構えとなる。水門を守り、帆を揚げ、火を灯す。それが、〈白翔の城〉の名だ」
源蔵は縄を締め、藤兵衛は鉄板を張り、澪は帆を整え、弥八は記録を記し、お咲は薬籠を分け、庄吉は舟を繋ぎ、妙蓮は香を焚いた。
舟の城は、白翔の城として、三つの拠点を持ち、静かに夜を越えていった。




