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流海の城  作者: 双鶴


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20話

南の水門に、見慣れぬ舟が現れたのは、朝霧の中だった。帆は伏せられ、火も香も焚かれていなかった。舟の縁には布が巻かれ、弓も櫂も積まれていない。だが、舟の動きは急だった。水門の外に停泊し、舟の城の見張りに向けて布を掲げた。


沙夜は源蔵、澪、弥八と共に舟を出した。舟が並ぶと、若い武士が顔を上げた。衣は乱れ、声はかすれていた。


「小田の内で争いが起きた。家中が割れ、火が放たれた。我らは、戦を望まぬ者だ。舟を求めて来た。流海に、身を寄せたい」


源蔵は縄を見つめながら言った。「小田の名を掲げて来た者に、縄を渡すことはできぬ。だが、火を避けて来た者に、水を拒むこともできぬ」


澪は帆を見上げた。「風は南西。逃げるには良い向きだ。だが、受け入れるには、帆を張らねばならぬ。舟の向きを、決める必要がある」


弥八は記録板を開きながら言った。「制度は整っている。交易の帆、祈りの場、水門の記録。だが、亡命者の受け入れは、記されていない。新たな仕組みが要る」


沙夜は火を見つめた。「舟を受け入れることは、命を受け入れることだ。だが、争いを持ち込まれるなら、火が揺れる。水門は、命の通路であり、盾でもある」


その夜、代表者会議が開かれた。舟の城の中央に板が渡され、火が灯された。


源蔵は言った。「亡命者は、武器を持たず、帆を伏せて来た。だが、小田の名を背負っている。受け入れれば、北条の目が向く」


藤兵衛は言った。「防衛の舟は、水門の両側に据える。亡命者の舟は、中央には置かぬ。火のそばには、我らの舟を残す」


お咲は言った。「病人ではない。だが、傷を負っている。薬籠を分ける。祈りの場には入れぬが、香は焚く」


澪は言った。「帆は伏せたままにする。交易には加えず、風を読むだけにする。動きは記録するが、印は付けぬ」


弥八は言った。「記録板に、亡命者の欄を設ける。名前、来訪の理由、舟の配置。三日ごとに更新し、火の前に掲示する」


庄吉は言った。「受け入れることは、守ることではない。だが、拒むことは、火を消すことになる。ならば、灯したまま、舟を繋ぐ」


沙夜は火の前に立ち、言った。「〈白翔の城〉は、舟の民の場だ。争いを避け、命を運ぶ者に、水を拒むことはできぬ。だが、火を揺らす者には、帆を許さぬ。水門の影に、舟を置こう。火のそばには、我らが立つ」


その夜、亡命者の舟は水門の外に繋がれた。帆は伏せられ、香は焚かれ、記録板に名が記された。火は灯り、舟の城は揺れながらも沈まなかった。


翌朝、北条の舟が遠くに現れた。帆は高く、火は焚かれていなかった。だが、動きは遅く、流海には近づかなかった。


舟の城は、白翔の城として、火を守りながら、水門の影に舟を繋ぎ、静かに夜を越えていった。


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