表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流海の城  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/25

18話

水門協定が定められてから十日が過ぎた。舟の城では記録板が定期的に更新され、交易の帆は香とともに風に乗り、祈りの場には火と水が絶えず供えられていた。制度は機能していた。だが、若い舟の民の間に、静かな疑問が広がり始めていた。


澪は交易から戻った舟の上で、弥八と向き合っていた。帆を畳み、香を収めた後、澪は言った。


「帆の色で意思を示す。それは分かる。香を焚いて出入りする。それも守っている。だが、動きが決まりすぎて、風を読まなくなっている気がする」


弥八は帳面を閉じた。「記録があることで、安心は得られる。だが、帳面に書かれていない動きが、舟には必要だ。潮の変化、風の癖、相手の気配――それは、制度では拾えない」


澪は帆を見上げた。「火を灯すことが、目的になっていないか。祈るために灯すのではなく、灯すために祈っているような気がする」


弥八は静かに言った。「制度は、守るためにある。だが、守ることが目的になれば、動けなくなる。舟は、動くためにある」


その夜、若手の舟民が集まった。澪、弥八、交易に出ていた若者たち、祈りの場を整えていた薬師の弟子、帆の修理を担う船大工の見習い――火を囲み、言葉を交わした。


「水門の記録は必要だ。だが、三日ごとの報告では、潮の変化に追いつかない」


「交易の帆は白でいい。だが、香の種類で目的を示すのは、風に流されて分かりにくい」


「祈りの場は落ち着く。だが、火と水と香だけでは、心の動きが記録されない」


「制度があることで、動きが鈍くなっている。誰が動いていいのか、迷うようになった」


澪は火の前に立ち、言った。「制度は必要だ。だが、制度に縛られては、舟は漂うだけになる。動くための仕組みでなければ、意味がない」


弥八は続けた。「ならば、見直そう。記録の周期、帆の表示、祈りの形式――すべてを、動きに合わせて調整する。制度は、止まらぬためにある」


翌朝、澪と弥八は沙夜のもとを訪れた。火の前で、若手の声を伝えた。


「記録は三日ごとでは遅い。潮に合わせて、日ごとに更新すべきだ」


「帆の色だけでなく、帆の縁に印を加えたい。香ではなく、帆で目的を示す」


「祈りの場に、言葉を残す板を設けたい。火と水と香に加え、心の記録を残す」


沙夜は静かに聞き、火を見つめた後、言った。


「制度は、守るためにある。だが、守るだけでは、舟は沈む。動くための仕組みでなければならない。ならば、見直そう。記録は潮に合わせ、帆は風に応じ、祈りは心に寄り添うように」


その夜、代表者会議が開かれた。源蔵は記録板の更新周期を変更し、藤兵衛は帆の印の位置を調整した。お咲は祈りの場に言葉を記す板を設け、庄吉は若手の意見を記録に加えた。


舟の城は、制度を整えながらも、動きに合わせて揺れ始めた。


火は灯り、帆は揺れ、香は風に乗り、言葉は板に残された。


〈白翔の城〉は、制度の中に動きを取り戻し、静かに夜を越えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ