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流海の城  作者: 双鶴


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16話

小田氏の奇襲から三日が過ぎた。水門は守られ、舟の城は沈まなかったが、火のそばには焦げた縄の切れ端が残されていた。夜ごとに見張りが強化され、舟の配置は再び組み直された。だが、民の顔に浮かぶのは恐れではなく、静かな決意だった。


沙夜は火の前に立ち、代表者会議を招集した。源蔵、お咲、澪、弥八、庄吉、そして藤兵衛が揃った。


「小田は、誠を力で試した」と沙夜は言った。「だが、我らは誠で応じた。火を灯し、舟を動かし、縄を守った。それは、偶然ではない。備えと意思の結果だ」


源蔵は縄の構造図を広げた。「水門の縄は、三重にして正解だった。一本切られても、残りが支えた。だが、次はない。構造を見直し、縄の結び方を変える。火に強い繊維を混ぜ、結び目を舟の内側に移す」


藤兵衛は頷いた。「舟の縁に鉄板を増やす。軽舟にも防火布を張る。火矢が来ても、燃え広がらぬように」


お咲は薬籠を抱えたまま言った。「奇襲の夜、病人の舟を動かせたのは、火の配置と香の導線が整っていたから。今後は、夜間の移動訓練を定期化する」


澪は帆の向きを見ながら言った。「風は変わる。だが、帆の色は変えぬ。白帆は、誠の印。火を放たれても、帆は揺れなかった。それが、信になる」


弥八は交易品の帳面を開いた。「三方には、奇襲の報を伝えた。佐竹は『旗を立てぬ者が狙われるのは当然』と返した。江戸は『火を放ったのは小田の一派であり、我らではない』と。大掾は『祈りの火が絶えなかったことを喜ぶ』とだけ書いてきた」


庄吉が言った。「つまり、誰も助けには来ぬということだ。だが、誰も敵とは言わなかった。ならば、我らが示すしかない。誠は、守る力だと」


沙夜は頷いた。「ならば、〈白翔の城〉の誠を、形にしよう。制度として、記録として、誰が見てもわかるように」


その夜、舟の城では全体会合が開かれた。火が灯され、板が渡され、民が集まった。沙夜は火の前に立ち、奇襲の夜の出来事を語った。


「小田は、力で縄を奪おうとした。だが、我らは誠で守った。火を灯し、帆を揺らし、舟を動かした。それは、偶然ではない。皆の備えと意思の結果だ」


源蔵が縄の新構造を示し、藤兵衛が防火布の見本を掲げた。お咲は夜間移動の訓練計画を説明し、澪は帆の色と配置の意味を語った。弥八は三方の返答を読み上げ、庄吉は静かに言った。


「誠は、盾になる。だが、盾は掲げねば意味がない。ならば、〈白翔の城〉の誠を、誰にでも見える形にしよう」


沙夜は火の前に立ち直った。「三つの制度を定める。第一、水門の開閉は記録し、三日に一度、全体に報告する。第二、交易の舟は白帆とし、出入りのたびに香を焚く。第三、祈りの火は絶やさず、香と水を供える場を舟の中央に設ける」


民は静かに頷いた。誰も反対しなかった。火のそばに、舟の図と帆の布と香の器が並べられた。


その夜、舟の城は静かに揺れていた。火は灯り、香は風に乗り、白帆は月を映していた。


舟の城は、白翔の城として、誠を盾に、夜を越えていった。


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