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流海の城  作者: 双鶴


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15話

三方会談から五日が過ぎた頃、流海の水面に異変が起きた。夜半、北西の水門近くに舟の影が現れた。帆は伏せられ、火は焚かれていなかったが、舟の動きは明らかに奇襲のそれだった。


見張りの漁師が火を掲げ、鐘を鳴らした。舟の城に緊張が走り、沙夜はすぐに源蔵、藤兵衛、澪を呼び、中央の板に集まった。


「小田だ」と源蔵は言った。「帆の形、舟の造り、動きの速さ――間違いない。沈黙の裏で、準備を進めていたのだ」


藤兵衛は鉄板を抱えて言った。「火矢は積んでいない。だが、櫂の動きが速い。水門を狙っている。縄を切るつもりだ」


澪は帆の向きを見ながら言った。「風は南西。こちらに有利だ。だが、水門を守るには、舟を動かさねばならない」


沙夜は火の前に立ち、言った。「誠を示したばかりだ。だが、誠は弱さではない。縄を守る。それが、〈白翔の城〉の誓いだ」


源蔵は防衛の舟を動かし、水門の両側に軽舟を並べた。藤兵衛は櫂を構え、舟の縁に鉄板を張った。澪は帆を畳み、風を読んで舟の向きを調整した。


奇襲の舟は三艘。中央の一艘が水門に向かい、両側の二艘が牽制の動きを見せていた。舟の城の軽舟が前に出て、中央の舟と接触した。


「縄を渡せ」と小田の武士が叫んだ。「水門は小田のもの。勝手に名乗りを上げ、交易を始めるとは、何の許しを得たのか」


沙夜は舟の中央に立ち、声を張った。「縄は命の綱。交易は誠の道。名乗りは、民の意思。それを奪うなら、誠を捨てることになる」


「誠など、力の前では意味をなさぬ」と武士は叫んだ。「小田の名を忘れたか。水門を渡せ。さもなくば、沈める」


藤兵衛が櫂を構え、源蔵が縄を締め直した。澪の舟が風を受け、奇襲の舟の側面に回り込んだ。


「沈めるなら、共に沈む」と藤兵衛が言った。「だが、縄は渡さぬ。それが、我らの誓いだ」


奇襲の舟が水門に迫った瞬間、舟の城の軽舟が横から体当たりを仕掛けた。舟は揺れ、櫂がぶつかり、縄が水に沈みかけた。


澪の舟が風を受けて中央に入り、火を掲げた。その火は高く、奇襲の舟を照らした。小田の武士たちは顔を隠し、舟を引いた。


「誠を示す火だ」と沙夜は叫んだ。「縄を守る火だ。それを見て、まだ沈めるというなら、我らは沈む。だが、誠は消えぬ」


奇襲の舟は、火に照らされながら静かに後退した。水門の縄は切られず、舟の城は揺れながらも沈まなかった。


その夜、舟の城では火が絶えず灯された。香が焚かれ、祈りが捧げられ、交易の舟は帆を畳んで停泊した。


沙夜は火の前に立ち、民に語った。


「小田は、誠を試した。縄を奪うことで、我らの意思を砕こうとした。だが、誠は弱さではない。誠は、守る力だ」


源蔵は縄を結び直し、藤兵衛は櫂を磨き、澪は帆を整えた。民はそれぞれの持ち場で、火を灯し続けた。


舟の城は、白翔の城として、火を守りながら、静かに夜を越えていった。


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