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流海の城  作者: 双鶴


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14話

〈白翔の城〉と名乗りを上げてから七日が過ぎた。流海の水面は穏やかだったが、舟の民の動きは活発だった。交易の舟は定期的に出入りし、祈りの場では香が焚かれ、水門の縄は三重に結ばれていた。防衛と生活が両立する構えが整い始めていた。


その頃、沙夜のもとに三通の文が届いた。佐竹、大掾、江戸――それぞれの使者から、〈白翔の城〉との正式な会談を求める内容だった。場所は流海の中央、舟を三方に繋ぎ、火を囲む形で行うことが提案されていた。


沙夜は代表者会議を開き、源蔵、お咲、澪、弥八、庄吉と共に文を読み上げた。


源蔵は舟の構造図を広げながら言った。「三方が同時に会談を求めるのは、互いの動きを牽制している証だ。流海が名乗りを上げたことで、均衡が崩れ始めた」


お咲は薬籠を抱えながら言った。「病人の舟を動かすには、交易の安定が要る。会談は、命を守るための道でもある」


澪は帆の向きを見ながら言った。「風は南東。三方の舟が流海に入るには、時間がかかる。ならば、こちらから場を整えよう。火を灯し、香を焚き、帆を畳む。それが、誠の形だ」


弥八は交易品の帳面を開きながら言った。「交渉は言葉だけでは足りぬ。舟の配置、物資の見せ方、火の高さ――すべてが意思を示す。準備は、交渉の一部だ」


庄吉は静かに言った。「我らは拒むだけではなくなった。ならば、語るだけでも足りぬ。聞くことが、誠の始まりだ」


沙夜は頷いた。「ならば、三方会談を受けよう。舟を繋ぎ、火を囲み、言葉を交わす。〈白翔の城〉として、誠を示す」


三日後、流海の中央に三艘の舟が繋がれた。南に江戸、北に佐竹、東に大掾。中央には〈白翔の城〉の舟が据えられ、火が灯された。帆は畳まれ、香が焚かれ、舟の間には板が渡された。


佐竹の使者は中年の武士で、言葉は少なく、視線は鋭かった。江戸の使者は若く、前回と同じ男で、緊張した面持ちだった。大掾の使者は僧衣をまとい、穏やかな笑みを浮かべていた。


沙夜は火の前に立ち、まず言葉を発した。


「〈白翔の城〉は、流海の民の命の場です。交易を開き、祈りを灯し、水門を守る。それが、我らの意思です」


佐竹の使者は舟の縁に立ち、低く言った。「交易の道を開くことは、我らも望む。だが、旗を立てぬ限り、他の勢力は動く。水門の縄を握る者が、責任を負うべきだ」


沙夜は答えた。「縄は譲らぬ。だが、構造と管理の仕組みは示す。水門の開閉は、記録と報告をもって行う。責任は、誠で示す」


江戸の使者は帆を見上げながら言った。「印を求めたのは、誤りだった。帆の色で意思を示すこと、我らも受け入れる。交易の舟には、白帆を認める」


沙夜は頷いた。「交易は、帆の色で示す。印ではなく、意思で繋ぐ。それが、誠の形だ」


大掾の使者は香を焚きながら言った。「祈りは、導くものではなく、共に灯すもの。香取の名を借りずとも、火を絶やさぬこと。それが、我らの願いだ」


お咲が前に出て言った。「祈りは、病を癒す場でもある。香を焚き、水を供え、火を灯す。それを絶やさぬ限り、導きは要らぬ」


三方の使者はそれぞれ頷き、舟を返した。火は消えず、香は風に乗り、帆は静かに揺れていた。


その夜、沙夜は舟の中央に立ち、民に報告した。


「三方は、我らの誠を受け入れた。縄は譲らずとも、責任を示すことで信を得た。帆の色は、印となった。祈りは、共に灯すものとなった」


源蔵は言った。「ならば、〈白翔の城〉は、ただの名ではなくなった。意思を持ち、責任を負い、誠を示す場となった」


舟の城は、白翔の城として、静かに夜を越えていった。


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