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流海の城  作者: 双鶴


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12話

小田氏からの返答が届いてから五日が過ぎた。舟の城では火が灯され続けていたが、水門の外では静けさが続いていた。交易の舟は出入りしていたが、小田の舟は姿を見せず、文も届かなかった。沈黙は、承認とも拒絶ともつかぬまま、流海の水面に重くのしかかっていた。


その間に、他の三勢力が動き出した。


北からは佐竹氏の舟が再び現れた。前回と同じ使者が、今度は二艘の舟を伴って水門の外に停泊した。帆には佐竹の家紋がはっきりと描かれ、火は焚かれていなかったが、舟の舳先には弓が積まれていた。


沙夜は源蔵と澪を伴い、舟を出した。使者は舟を寄せ、静かに口を開いた。


「小田が動かぬ今、流海は空白となった。我らは交易の道を開く意志がある。だが、安定を保つには、旗を立てる必要がある」


源蔵が眉をひそめた。「旗とは、支配の印だ。交易の道を開くために、縄を渡せというのか」


使者は否定せず、ただ言った。「水門の管理を佐竹と共有すれば、他の勢力も手を出せぬ。火矢を防ぎ、交易を守る盾となる」


沙夜は答えを保留し、舟を返した。


その翌日、東の水路から大掾氏の舟が現れた。今回は僧衣の使者ではなく、武装した舟が一艘、香を焚きながら静かに進んできた。舟には香取神宮の神紋が掲げられていた。


妙蓮は舟の縁に立ち、沙夜と共に応対した。使者は舟を寄せ、低く頭を下げた。


「香取の祈りを、流海に戻したい。祭礼の再興は、民の心を繋ぐ。だが、祈りには秩序が要る。導き手を受け入れてほしい」


妙蓮は香を焚きながら答えた。「祈りは、民の中にある。導きは要らぬ。火を灯し、水を供える。それだけで、心は鎮まる」


使者はしばらく黙っていたが、やがて言った。「ならば、香取の名を借りずとも、祈りを絶やさぬこと。それが条件だ」


沙夜は頷き、舟を返した。


そして三日後、南の水路から江戸氏の舟が現れた。今回は火を焚かず、弓も積まず、ただ一艘の舟が静かに停泊した。舟には白布が掲げられ、交渉の意志が示されていた。


藤兵衛と弥八が沙夜に同行し、舟を出した。江戸の使者は若く、緊張した面持ちで文を差し出した。


「我らは、火矢を放ったことを悔いている。あれは一部の過激な者の判断であり、江戸家としての意志ではなかった。交易の道を開きたい。塩と薬草を、等価で交換したい」


弥八が慎重に言葉を選んだ。「交易は歓迎する。だが、火を放った者と、どう区別すればよい」


使者は答えた。「舟に印をつける。江戸の名を掲げぬ者は、我らも敵と見なす」


沙夜は文を受け取り、舟を返した。


その夜、代表者会議が開かれた。源蔵、お咲、澪、弥八、そして沙夜が火を囲んだ。


源蔵は、佐竹の提案を真っ先に否定した。「縄を共有すれば、盾になるどころか、首を絞められる。旗を立てれば、他の勢力は敵となる」


お咲は、大掾の条件に眉をひそめた。「祈りを絶やさぬことは当然だ。だが、条件として課されるのは違う。信仰は、取引ではない」


澪は、江戸の文を読みながら言った。「火を放った者と、交易を望む者が同じ家にいる。舟に印をつけるというが、それで信じられるのか」


沙夜は三通の文を並べ、火を見つめた。「三方がそれぞれ、違う形で縄を求めている。小田が沈黙する中で、流海は裂け目に立たされている」


源蔵が言った。「ならば、我らが先に動くしかない。旗を立てず、縄を渡さず、交易の道だけを開く方法を探る」


お咲は頷いた。「祈りは民の中にある。香を焚き、火を灯し、病を癒す。それを続けることが、答えになる」


澪は帆を見上げた。「風は読める。だが、進むには舵が要る。今こそ、舟の城に舵を据える時だ」


沙夜は立ち上がった。「ならば、明日、民を集めよう。裂け目に立つ今、進む道を共に決める」


舟の城は、静かに揺れていた。火は灯り、水は流れ、風は北へと吹いていた。


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