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流海の城  作者: 双鶴


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11話

返答は、三日後の朝に届いた。小田氏の舟が水門の外に停泊し、白布を掲げた使者が一人、静かに舟を寄せてきた。火も弓も見えず、言葉を交わす意志が示されていた。


沙夜は舟を出し、源蔵、お咲、澪を伴って水門を越えた。舟が並ぶと、使者は巻物を差し出した。文は丁寧で、筆跡は前回と同じ家老筋のものだった。


「交易は継続を認める。塩の一割、薬草の三割、了承する。舟の数は現状維持。ただし、水門の縄は共有とする。開閉の判断は、双方の合議によるものとする」


源蔵は文を読み終えると、眉をひそめた。「共有とは、縄を半分渡すということだ。水門の構造は一体であり、分割はできぬ。合議といえば聞こえは良いが、実質は監視だ」


お咲は、薬籠を抱えたまま言った。「薬草の条件は飲める。だが、水門の縄を握られれば、病人の舟も動かせなくなる。治療の判断を他者に委ねることはできない」


澪は、風の向きを見ながら言葉を継いだ。「舟の数を減らさぬのは助かる。だが、水門が動かせなければ、風に乗ることもできない。帆は風で動くが、舟は水で進む」


沙夜は文を巻き直し、使者に向き直った。「返答は持ち帰る。民の声を束ねて、改めて答える」


舟の城に戻ると、すぐに全体会合が開かれた。火が灯され、板が渡され、民が集まった。沙夜は文を広げ、代表者会議の内容を報告した。


「交易は認められた。塩と薬草の条件も、我らの提案が通った。舟の数も減らされずに済んだ。だが、水門の縄は共有とされ、開閉は合議によると書かれている」


舟の上に沈黙が広がった。やがて、漁師の男が声を上げた。「水門を握られれば、漁の時間も決められる。魚は待たぬ。潮に合わせて動かねば、網は空になる」


農民の女が続けた。「畑に水を引くにも、水門が要る。合議といえば聞こえは良いが、相手が動かなければ、我らは干上がる」


薬師の若者が言った。「病人を運ぶ舟が、水門の判断を待たねばならぬのか。命を合議にかけるのは、違う」


船大工の老人が言った。「水門は構造の要だ。縄を分ければ、責任も分かれる。だが、舟は沈めば終わりだ。責任は一つでなければならぬ」


祈りを捧げる老女が言った。「火を灯すにも、水が要る。水門が閉じれば、祈りの場も消える」


沙夜は、民の声をすべて聞き終えた後、火の前に立った。「交易は続ける。塩も薬草も、条件は受け入れる。舟の数も守る。だが、水門の縄は譲らぬ。共有は、命の分割だ。それはできない」


源蔵は縄を手に取り、火のそばに置いた。「この縄は、民の命の綱だ。誰にも渡さぬ」


お咲は薬籠を舟の中央に置き、澪は帆を広げて風を受けた。民はそれぞれの持ち場で、誓いの印を示した。


沙夜はその夜、再び文をしたためた。交易は続ける。塩の一割、薬草の三割、了承する。舟の数は現状維持。だが、水門の縄は譲らない。合議による開閉は受け入れられない。流海は誰にも属さぬ地であり、民の命の場であることを、一字一句に込めた。


文は翌朝、澪と弥八の手で小田氏の舟へ届けられた。返答はすぐには来なかった。だが、火矢もまた放たれなかった。


舟の城は、裂け目を抱えながらも、誓いの火を灯したまま、静かに夜を越えていった。


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