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第二章 追跡の始まり
通知は間隔を詰め、彩花の背中を押すみたいに届いた。
私、メリーさん。今、交差点にいるの。
私、メリーさん。今、コンビニの前にいるの。
どれも自分が通過した地点。偶然ではない、と心が理解してしまう。
歩幅が自然と大きくなる。耳の奥で、靴音が一拍遅れて付いてくるような錯覚がした。
家の角を曲がると、アパートの廊下灯がぽつりと灯っている。彩花は階段を駆け上がり、鍵を差し込む手に力が入った。扉を閉め、チェーンを掛け、背中でドアを押さえながら息を吐く。
ポケットの中で、また震える。
私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの。
喉が乾いて音が出ない。玄関の覗き穴から外を見た。黒い階段、空っぽの廊下、何もいない。
肩の力が抜け、居間のカーテンをほんの少し開ける。街灯の下、白い息がふわりと流れるだけ。
その瞬間、スクリーンに文字が滑り込んだ。
私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの。
反射で振り返る。何もいない。ただ、落としたカーテンの隙間に、スマホの画面が映り込み、そこには黒いシルエットが一瞬だけ、確かに立っていた。