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第一部 彩花編 第一章 見知らぬ
放課後の空は早くも群青に沈み、街路樹の枝が冷たい風に揺れていた。高校二年の彩花は、駅前で友人と別れたあと、手袋越しにスマホを握りしめて歩き出した。
ポケットの中で、ブルッと短い震え。取り出すと、アイコンのないアカウントからメッセージが届いている。ユーザー名はただ「M」。
私、メリーさん。今、駅にいるの。
既読はつけない。悪戯だ、と指先が判断し、アプリを閉じる。
改札の音、バスのブレーキ、どれも聞き慣れた夕方の雑音だ。彩花は信号を渡り、いつもの書店の脇を抜ける。
再び震える。
私、メリーさん。今、○○書店の前にいるの。
足が止まる。今、そこを通ったばかりだ。偶然にしては出来すぎている。
振り返っても、通りには人影が三つ四つ。誰もこちらを見てはいない。
打ち消すように足を速めた。