実体のある虚構 第7集 intelligence money, break heart 前篇
皇「・・・・えっと、面接ですか?」
大沢「・・・」
丹羽「・・・」
大沢「・・・こんなオバサン、客、取れるかよ?」
オバサン「・・・」
皇「いや、あの、趣味は人それぞれですから、・・・・熟女がいいってお客さんもいますから。」
大沢「瑠思亜ちゃん、流石にそれはぁ、・・・・・そうなの?」
皇「今、お母さんに甘えたいプレイが結構、人気なんですよね。」
大沢「・・・どうするオバサン? 人気だってよ?」
オバサン「・・・はぁ。」
丹羽「今日はそういう話に来たんじゃねぇんだよ、あ! そうだ、お前の部屋、開いているか?」
皇「え? 空いてますけど? あ、入るなら、ちゃんと料金、払って下さいよ、私だって、商売なんですから。」
丹羽「固いこと言うな、固いこと。どうせ客なんかいねぇんだろぉ?」
大沢「丹羽さぁん、それは瑠思亜ちゃんに失礼ですよ。・・・・あ、そうしたら、俺が払うわ。瑠思亜ちゃん、部屋、ちょっと使わせてくれない?」
皇「・・・大沢さんがいいって言うなら、構いませんけど。」
大沢「じゃ、邪魔するぜ。 オバサン。こっちだ。」
大沢「おい、オバサン。適当な所、座っていいぜ。」
オバサン「あ、ありがとうございます。」
皇「今日はどうしたんですか、丹羽さんと大沢さんが一緒なんて、珍しいじゃないですか。」
大沢「そんなに珍しくもねぇよ。」
丹羽「まぁなぁ。」
皇「ああ、そうなんですか。」
丹羽「それより、皇ぃ。お前、新しく入ったユウカって子、いるだろ? あの子、どうなんだよ?」
皇「え? ああ、大沢さんが連れて来た子じゃないですか。」
大沢「まぁそうなんだけどさぁ。 そうじゃなくて、出勤はちゃんとしてるとか、接客はどうとか、客の受けはいいとか、バックで何か、話したりしないの?」
皇「・・・・そうですね。まだ、来てそんなに日にちも経ってないから、慣れてないし、緊張はしているとは思うんですけど。・・・店長から、変な話は聞いてないから、ま、それなりなんじゃないんですか? ただ。」
丹羽「ただ?」
皇「うちみたいな古いソープは、常連客ばっかりだから、給料もそんなに高くないし、・・・・お金は稼げないですよ?」
大沢「それは知ってるよ、瑠思亜ちゃん。女の子を慣れさせる為にここに連れて来たんじゃない。いきなりハードな所に連れて行って、使い物にならなくなっちゃったらそれこそ金にならないからねぇ。」
皇「それより、・・・・あの、そちらの方、どなたなんですか?」
大沢「ああ、・・・・このオバサン?」
オバサン「あ、あの、初めまして。高橋と言います。」
皇「・・・高橋・・・さん?」
丹羽「ああ。ちょっと込み入った話でなぁ。・・・・・ああ、皇ぃ。お前、人探し、得意だろ? どうだ?ちょっと仕事しねぇか?」
皇「え、あの、・・・・なんの話ですか?人探しって?」
丹羽「実はさぁ、・・・・・この高橋さんの息子さんがなぁ、いなくなっちまったんだ。」
皇「いなくなった? ・・・はぁ。」
丹羽「・・・・サラ金に金、借りててな、それで、金、どうにもらなくて逃げたんじゃないか、って話でな。」
皇「サラ金っていうか、・・・・大沢さんのトコ、ヤミ金じゃないですか?」
大沢「バッカヤロウ、瑠思亜ちゃん! 俺達んトコはヤミ金じゃねぇよ。・・・・・友達に、あくまで、友達に、お金を融通しているだけ。警察の前でヤミ金とか言うなよ、人聞きが悪い!」
皇「随分、優しいお友達なんですねぇ・・・・・」
丹羽「・・・・まぁ俺は、ヤミ金だろうが友達どうしだろうが、どっちでもいいんだ。金を借りる借りないは個人の問題だからな。」
皇「あのぉ、法律とか一応、ありますしぃ。」
大沢「瑠思亜ちゃん、問題はそこじゃねぇんだ。チクワブが消えた事が問題なんだ。」
皇「チクワブ?」
大沢「あ、ああ。ああ、高橋。オバサンの息子。そいつのあだ名。俺達、名前なんかどうでもいいからさぁ、あいつ、顔が色白で、細面だったから、チクワブって呼んでんだ。」
皇「友達につける、あだ名じゃないでしょ?それは」
高橋「・・・・。」
大沢「そのチクワブがな、消えちまったんだ。俺達に借りた金、返さねぇで。」
丹羽「そういう話だろ? 大沢達が無理な取り立て、したんじぇねぇか?って聞いたんだよ。」
大沢「あのねぇ、丹羽さん。さっきも話したけど、俺達は紳士なの。そもそも、俺達ぁ銀行より固いんで有名なんだよ? なぁ瑠思亜ちゃん。」
皇「ええ。大沢さんトコの闇金は」
大沢「・・・・友達融資」
皇「あ、ああ、友達融資は、審査が厳しいんで有名なんですよ。まず、返せない奴には貸さないし、十分、担保を用意しないと、相手にしてもらえません。言っちゃ悪いですけど、下手な銀行の方がよっぽども悪徳ですよ。返せる見込みもない中小企業に融資して、ちょっとでも、赤が出れば、取り立てる。ヤクザよりヤクザですよ。」
大沢「俺達は、信用でしか金を貸し借りしないの。 飛んで消えたりされたら損するのはこっちだからな。だから、お客さんとは、お互いに、長ぁ~く信頼できる人とだけお付き合いしてるの。」
丹羽「・・・実際、飛ばれてるじゃねぇか?大沢」
大沢「そこ言われると、つらいんだけどさぁ。 確かに、俺達だって、商売だから、飛ばねぇように注意払って、見てるんだよ。だいたい行く場所も把握してるし、会社もそう、実家もそう、病院だって押さえてるぜ?」
高橋「ですから、私は、お金の問題じゃないんです。照美が借りたお金は全額、お返しします。」
皇「てるみ?」
丹羽「ああ、チクワブさんの本名だ。高橋照美。・・・男だぞ?」
高橋「私は、いなくなってしまった照美を探したいんです。 もし、あの子に何かがあったら、お金の問題じゃないんで。お金よりあの子の命の方が大切だから・・・・・」
皇「ああ。ああ、お金を工面できず、命を絶ってしまう、と。」
高橋「ええ。はい。」
大沢「俺達もさぁ、チクワブが消えたのが分かって、勤めてる会社に電話したんだよ?そうしたら無断欠勤らしくてさぁ。仕方なく、オバサントコに電話したわけ。そしたら、血相変えて飛んできてさぁ。・・・・なぁ?」
皇「まぁ確かに、何かあった後じゃ、取返しもつかないでしょうから。・・・・お母さんの気持ちもわかります。」
大沢「このオバサン。金は返すって言うんだよ。それより、チクワブの居所を教えてくれって、しつこくてさぁ。・・・・知りたいのはこっちだって言ったんだよ。金、貸してるの、俺達なんだからさぁ。仕方がないから、警察に相談しろ、って言ったわけ。」
皇「当然ですよね。」
丹羽「そりゃ警察だって、人がいなくなったら失踪人で捜索はするよ?仕事だから。 でもなぁ、お前、一日に何人、捜索願が出るか、知ってるか?一日五十人だぞ?五十人、失踪人捜索願が出されるんだぞ?受理はするよ、仕事だから。でも、物理的に、その捜査が始められるかって言われたら、いつって約束できないわけよ。他の人も同じだし。他の人も探さなくちゃいけないし。残りの49人、どうするよ?って話。警察官だって人探ししているだけが仕事じゃねぇからなぁ。」
高橋「・・・・・」
皇「ええ。・・・まぁ分かりますけど。」
丹羽「高橋さんの話を聞いてたら、大沢の話が出て来たからさぁ、それで、大沢をとっ捕まえて、話を聞いたら、なんでぇ、話が最初に戻っただけじゃねぇか。俺も大沢も困っちまってなぁ。なぁ?」
大沢「それで、チクワブが、借金のカタに女を預けてたのを思い出してさぁ」
皇「・・・・・借金のカタって言っちゃてるじゃないですか?」
大沢「瑠思亜ちゃん固いこと言わないの。自分の女を、ソープで働かせる見返りに、金を借りて行ったわけだ。その女ならチクワブの行先も知ってるかと思って」
皇「ああ、それがユウカさん。」
大沢「そう、それ。チクワブの女に話、聞きに行ったら、もう、そりゃ話どころじゃねぇんだ。泣くわ喚くわ、ヒステリック、ヒステリックブルーだよ!」
丹羽「ありゃ凄かった。・・・高橋が飛んだんだ。自分を置いて。・・・自分が見捨てられたのが分かった途端、もう、手がつけらねぇくらい暴れまわってさぁ。警察、呼ぶところだったぜ?」
皇「・・・目の前にいるじゃないですか?警察官。」
丹羽「俺ぁはソープの客だよ。警察官でも何でもねぇよ。」
大沢「ああ、瑠思亜ちゃん、俺も言っておくけど。ヤミ金とかそういうじゃないから、今日は、ソープの客だから。」
皇「・・・・はぁ。そうですか。ソープの客ならちゃんとお金、置いていって下さいね。」
大沢「だから払うって言ってんじゃねぇかよ。」
皇「それでユウカさんは大丈夫だったんですか?」
丹羽「・・・・わぁわぁ騒いて最後は落ち着いたけどな。この高橋さんにまで食い掛ってきてな。」
高橋「うちの子が悪いんで。それは仕方がない事だと思います。」
皇「だいたい話は分かりました。・・・・大沢さんの方も行方が分からず、警察の方も、実際、何時になったら捜査が始まるのかも検討もつかない。こりゃ参ったね、っていう話の時に、私と会った、って事ですね。」
丹羽「ま、そういう事だ。どうだ、皇ぃ、人探し、やってみねぇか?」
皇「あのぉ、丹羽さん。私、探偵じゃないんですよ?」
丹羽「んなぁ事ぁ知ってるよ。ただ、ほら警察が当てにならねぇんだ。」
皇「自分で言わないで下さい。」
大沢「オバサンも元気だせよ?熟女人気があるっていうんだからさ、なんだったら俺がここ紹介してやってもいいぜ?」
高橋「・・・はぁ。」
大沢「チクワブの事で、何か分かったら、おたくにも電話するからさぁ。とりあえず元気だそうぜ? 何か食うか?オバサン、俺、奢るぜ? チクワブの母ちゃんは俺の母ちゃんみたいなモンだからなぁ。・・・・ちがうか?ナハハハハハハハハハハ!」
皇「じゃあ私も、それとなく、知り合いに当たってみますよ。」
丹羽「皇ぃ、恩に着るぜぇ。」
マニやん「おおぁ!こっちがスロットで、あっちに闘技場があるぞ!」
トレイジア「もぉ~、お上りさんみたいじゃない~」
アリシア「それにしても凄い人。人ばっかり。」
瀬能「噂には聞いていましたが、娯楽の殿堂とはよく言われたものですね。」
マニやん「そりゃそうだ、ここはあらゆる欲望があつまる町、”ゴールドバーグ”だ! ひゃひゃひゃひゃひゃ! 儲けるぜ!儲けるぜ! ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
アリシア「あのねぇマニやん、カジノは二の次、一番の目的は”龍涎香”よ。その為にここに来たんだから。」
瀬能「ドラゴンから取れる貴重な貴重な石。龍涎香。レア中のレア、レアアイテム中のレアアイテムです。」
トレイジア「ドラゴンの中でも、それを持っている確率は1%以下。」
アリシア「どうしてそんなに少ないのかしら? だからレアアイテムなんだろうけど。」
マニやん「お前、ほんとに何にも知らないんだな。でっかいのはケツだけにしとけよ?」
アリシア「・・・うっるさいなぁ。キャラメイクは拘ってんの!」
瀬能「アリシアさんがかわいいのは分かります。・・・ほら、二十年くらい前のアニメヒロインっぽくて、癒される感じが。最先端じゃない感じが特にいいです。」
アリシア「最先端じゃない言うな!」
マニやん「龍涎香がレアなのは、龍涎香が出来る仕組み自体ランダムだからだ。例え、このゲーム上に存在するドラゴンを全部、倒したとしても、ランダム具合によっちゃぁドロップしない事もある。」
アリシア「・・・・なにそれ?インチキじゃない」
瀬能「龍涎香っていうのはドラゴンの結石なんです。」
トレイジア「胆管結石とか尿路結石とかの?」
瀬能「そうです。・・・本来、リアルな世界の龍涎香はクジラの腸間結石なのですが、このゲームの世界でも、同じようで、ドラゴンの体の中で精製されるレアアイテムとされています。実際の、本物のクジラで出来る龍涎香だって、クジラの腸内環境だったり、食べ物、健康状態、住んでいる場所。腸間結石ですから、なんらか疾患のあるクジラでなければ精製されません。」
アリシア「病気のクジラってこと?」
トレイジア「そうね。健康だったら結石なんて出来ないもんね。人間だってそうよ。」
瀬能「龍涎香は高く取り引きされた例で、1g3万円。」
アリシア「1g3万円ぐらいなら、そんなに、レアってほど、レアじゃない気もするけど。」
瀬能「クジラから取れた量が300g。1g3万円。はい、計算してみて下さい。」
アリシア「300gかける3万円は、900万円?」
トレイジア「言っておくけどねぇ、アリシア。耳かきの耳あかぐらいの量で、3万円するのよ?」
アリシア「・・・うっわ、手の平に乗っかる位の量で、900万円! ブタのコマ切れみたいな量で、900万円!ブタコマなんか300gでせいぜい298円よ!」
瀬能「腸間結石ですから、取れる量も僅かですし、そのマテリアルとしての価値もありますから、高い値段がつくんです。」
マニやん「世の中にゃ価値観がぶッ飛ぶんでるモンもあるわけよ!金、ダイヤモンドだけじゃないんだぜ?香木、牛黄なんかもそうだ。」
アリシア「へぇ。」
マニやん「お前、興味ないのかよ?」
アリシア「実際、現実味がないから。普段、生活していてクジラと会う機会もないし。」
トレイジア「ドラゴンから取れる龍涎香だって、かなり高値で取り引きされるっていうから。狙ってる冒険者も多いのよ。」
アリシア「ドラゴンの内容物ね。・・・そんなもんが高く取り引きされているなんて、えらい世の中よ。」
トレイジア「言い方・・・・・それに、ここはゲームの世界なんだから。」
アリシア「まあそうだけど。」
マニやん「龍涎香を手に入れる為に、カジノでしか手に入らない、”龍巫女の首飾り”を手に入れる必要がある。巫女の力によってドラゴンが攻撃してこなくなるというアイテムだ。」
瀬能「ああ、石ころ帽子みた・・・・フガング」
マニやん「あぶねぇ事、言うんじゃねぇ」
瀬能「何も言ってません。何も。それにしても、凄い人ですね。改めて。みぃ~んな、龍巫女の首飾り目当てなんでしょうか?」
トレイジア「それだけじゃないわ。他にもレアアイテムがいっぱいあるし、ま、単純にカジノが好きな人達も多いからね。金よ、金。」
アリシア「ゲームの世界まできて、スロットやってて面白いのかしら?」
空知「ユウカちゃん? お鍋してるんだけど、食べていかない?」
ユウカ「あ、ありがとうございます。」
空知「ああ、終電の時間とか、用事とかなかったらだけど?」
皇「あ、どうぞ。どうぞ。」
空知「事務所で勝手に鍋やってるの、店長には黙っててね。」
ユウカ「・・・じゃあ、失礼します。」
空知「地味に肉体労働だからね。お腹も減るでしょ?・・・・・はい、これ、お肉。どうぞ。」
ユウカ「・・・ありがとうございます。」
皇「なかなか、慣れないでしょ?・・・・・それとも、慣れた?」
ユウカ「あ、はい。なかなか、ちょっと、大変で。・・・まだ慣れません。」
皇「ああ、大丈夫。連れの人?帰しておいたから。気にしなくて大丈夫だから。」
空知「ユウカちゃん、あれなんでしょ?大沢さんの紹介なんでしょ? あの人、見た目、ああだけど、そんなに悪い人じゃないから。」
皇「・・・いい人ではないですけどね。」
ユウカ「そうなんですか。」
空知「ほら、食べないと体力、つかないよ?」
ユウカ「あの、・・・・お二人も、その、誰からの紹介というか、」
皇「ああ。私も空知さんも、こういうのが好きでやってる人だから、紹介とはまたちょっと違うのよね?」
空知「いろいろやってて気が付いたら長くこの仕事やってた?って感じで、・・・・・天職まではいかないけど、」
皇「空知さんは天職ですよ。」
空知「長くこんな仕事やってるとしがらみとか出来てきちゃうじゃない? 辞めるに辞められなくなってねぇ。お客さんもそうだし、オーナーさんの方もそうだし。・・・・・こういう仕事だから、軽く見られがちだけど、ま、どうせなら女の子達も楽しく働いてもらいたいじゃない?人それぞれ言えない理由はあるかも知れないけど、ここは、ほら、お店の中だし、女の子だけだし、ま、無礼講よ、無礼講。」
ユウカ「・・・・・私、別にこんな事、したくないんです! でも、仕方がないっていうか、やらなきゃ、お金作らなくちゃいけないし、辞められないし、だから、もう、何がなんだか・・・・・・すみません。お二人を前にして、こんな事、言っちゃって。すみません。」
空知「いいの、いいの。そういう子、今まで散々見て来たから。・・・どうにもならない事だってあるわよ。ねぇ瑠思亜ちゃん?」
皇「ん? 聞いてませんでした?」
ユウカ「・・・・・」
空知「ほら、こういう子もいるから。 ほら、ユウカちゃん。毎日、思いつめた顔してるからさぁ。吐き出せる時は吐き出して、ね。ほら、仕事は仕事で、ちゃんとやってもらいたいじゃない?いくらこういう仕事でも、お客さんからお金、貰っている以上、サービス業なわけだし。」
ユウカ「・・・・私に客がつかないからですか? ヤミ金の人に何か言われたんですか?」
空知「ほら。すぐそういう言う。ユウカちゃん。私達、何も言われてないって。あのね、大変そうな女の子をたくさん見てきたから、ちょっとでも、気晴らししてもらおうと思って、やってるだけ。チンピラヤクザとは関係ないから安心して。」
皇「店長もユウカさんのこと、大分気にかけてましたよ。」
ユウカ「・・・・私、ここで働いても、・・・働いたところで、ぜんぶ、あのヤミ金にもっていかれちゃうんです。それは仕方がないのは分かっているんです。けど、何のために、私、ここにいるのかな?って分からなくなるんです。私の意思で来たわけじゃないのに。私が借金した訳でもないのに。・・・・いきなり、ソープで働け!って。おかしいですよ?意味が分からないですよ?いったい何がどうなってんのか、私、分からないんですよ!
それに、私が逃げないようにいつも監視の男をつけて。・・・どこにもいけない!警察にも相談できない!ヤクザにいいようにされてるだけじゃないですか!
・・・・私、もう、死にたいんです。」
空知「・・・・・」
皇「・・・」
空知「わかった、わかった、もう泣かない。泣いても、何も、変わらないよ?ユウカちゃん。」
ユウカ「・・・・・ゥグ ゥェ ウグ」
空知「よしよし、ユウカちゃん。よしよし。」
皇「でも、空知さん。大沢さんと店長と、どういう話になっているか分からないから、うかつな話は出来ませんよ。」
空知「別にユウカちゃんは何も悪くないじゃない? 誰かの借金、肩代わりしたの?」
ユウカ「・・・ゥェ ンゥ ・・・・彼です。」
空知「彼? 彼氏?」
ユウカ「はい。・・・・彼がヤミ金からお金を借りて。それで、消息不明に。」
空知「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? なにそれ、事件じゃない! 大事件じゃない!警察に行かなくちゃ、こんな所にいる話じゃないわよ!」
皇「空知さん、昨日、・・・・・丹羽さんが来てました。大沢さん連れて。」
空知「はぁぁぁぁぁ?どういう状況? 逮捕?逮捕されたの、大沢さん?人身売買で逮捕されたの?」
皇「いや、なんか、あのぉ・・・・・ユウカさんの彼氏のお母さんが」
空知「どういう状況よ? 意味わかんない? はぁ? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
ユウカ「警察は何もしてくれないっ! 警察なんか信用できないぃぃぃぃいいい! 目の前にヤミ金がいるのに、逮捕もしないでぇ、笑ってた! 意味わかんない! なに?結局、警察もヤクザもグルなんじゃない?みんなみぃんなグルなんじゃない? おまけに私に、照美の居場所を聞いてきた!彼氏を匿っているなら教えろって! はぁ?バカじゃない? なんで私がこんな目に遭ってるのか理解できないの? 照美が消えて、借金を返すのに私がソープで働かされてぇぇぇぇ!照美を隠してる?バカ言わないでよ?なんで隠れた照美の分まで私が、嫌な思いしてまでソープで働かなきゃいけないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおおおお! ふざけんじゃねぇぇぇぇぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」
空知「わかった、わかった、わかったから、一旦。一旦、落ち着こう、ユウカちゃん?」
皇「あの・・・・・ユウカさんの彼氏のお母さんが、捜索願を出したみたいで。それで、大沢さんに。丹羽さんは、大沢さんが隠していると思ったみたいなんですけど、大沢さんも行方を知らなくて。・・・・それで、彼女のユウカさんに聞きにきたみたいですぅ。・・・・詳しくはよく知りませんけど。」
空知「なにそれぇ! 酷い! ほんと酷い!丹羽さんも大沢さんも何やってんのぉ? ユウカちゃんをこんな目に遭わせてぇ、許せない! ・・・・一生懸命やってるの、ユウカちゃんだけじゃない!ユウカちゃんは悪くないわ。」
ユウカ「・・・ン・・・・・ゥン・・・・・ウグゥ」
空知「わかった、私が言ってあげる!大沢さんに。ユウカちゃん、関係ないじゃない! 仮に関係があるのは彼氏の方でしょ?借金したのは彼氏の方なんだから。」
皇「空知さんも落ち着いて下さい。・・・・その、彼氏が行方不明だからみんな困っているんですよ。まぁ、そのぉ、彼氏さんが出てくればユウカさんだって嫌な思いしてまで働かなくて済むと思いますし。」
空知「警察もダメなの?」
皇「・・・・行方不明の受理はしたけど、実際、捜査されるかは、運次第だそうです。」
ユウカ「なにそれぇぇぇぇぇ! 警察は照美を探す気がないのぉぉぉぉぉ?」
皇「警察もお役所ですから。」
空知「もう、ユウカちゃんがかわいそうじゃない。もう、いい!私が言ってきてあげる!」
皇「あの、ユウカさん。その・・・・彼氏。彼氏の写真とかあったら見せて欲しいんですけど。」
ユウカ「・・・?・・・」
空知「なに?瑠思亜ちゃん、心当たりがあるの?」
皇「いや、ないですけど。・・・・ないですけど、仮にですよ、仮に、探すにしたって、顔も知らないのに探しようがないじゃないですか?」
ユウカ「・・・・待って下さい。写真が残ってます。・・・・・これです。」
空知「・・・・・・好青年っぽいわね。」
皇「っぽいって何ですか、っぽいって。」
ユウカ「■■■商事に勤めています。」
空知「うわ! 一部上場じゃない!超一部上場じゃない! ああ、ユウカちゃん。いい玉、見つけたのねぇ。羨ましいぃ。」
皇「人の恋人つかまえて、空知さん。いいタマはないでしょう?昭和ですか?」
ユウカ「実際、照美が■■■商事に勤めているから、その社会的信頼性でヤミ金から借金が出来たんです。それに、そんな有名な会社に勤めていたら夜逃げとか、誰もしないと思いますし。いくらヤクザでも。」
空知「ああ、なるほどねぇ。いいところのお坊ちゃんかぁ。・・・・そりゃ、お母さんも心配するわけだぁ。」
皇「一応、転送してその写真、もらっておくね。・・・・それで、何か、行方不明になるような、何か借金以外のトラブルとかあったの?」
ユウカ「いえ? まったく分かりません。私と会っていた時はいつもと変わりませんでしたから。」
空知「だいたいそうよね。消える前に、前触れなんて普通、分からないものよ。分かっていたら、聞くもの。」
皇「空知さん。・・・・・経験者みたいに言ってますけど、そんな、男が蒸発するような経験、ないでしょ?」
空知「あるわよぉ! ひとつやふたつ、いっぱいあるわよぉぉぉぉぉぉぉぉおおお! なめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
皇「はいはい。空知さんはいい女ですよ。」
空知「安心して、ユウカちゃん。大沢さんにも店長にも掛け合ってあげるから。悪いようにはしないから。ね?」
ユウカ「・・・・・・ありがとうございます。空知さん、瑠思亜さん。」
皇「うん。・・・・・・・そうね。」
瀬能「人が消えた? はぁ」
皇「はぁじゃないよ、まったく。」
瀬能「瑠思亜は・・・・・なんで探偵みたいな事、やっているんです?」
皇「は? やりたくてやってんじゃねぇよ、なりゆきだ、なりゆき。」
瀬能「その人がいなくなった原因は分かっているんでしょう?」
皇「ああ。金だ。金。ヤミ金に金、つくって、トンズラだ。仕事も会社も女も捨ててだ。」
瀬能「はぁ。えらく気合が入っている夜逃げですね。」
皇「全部捨てたんだ、新しい人生を歩むか、死ぬか、どっちかだろうな。」
瀬能「まぁ死ぬぐらいだったら、失踪しませんよ。いくらヤミ金とは言え、借りた金をチャラにして、逃げ出したんでしょうね。」
皇「・・・新しく生きていくったって、・・・・そうそうできないだろ?ああ、夜逃げ屋か。」
瀬能「お金を払えば夜逃げを斡旋してくれる、そういう業者もありますけど、ああいうのはたかられて食いものにされるのがオチですよ。よっぽど信頼がおける人か弁護士に頼まない限りは、難しいでしょうね。」
皇「ヤミ金かりる奴が弁護士に相談すると思うか? 一人で逃亡したんだろうよ?」
瀬能「ヤミ金から金を借りるなんて、会社が倒産すると一家心中みたいな切羽詰まった場合と、ギャンブルか、相場は決まっていますけどね。」
皇「・・・・消えた男。一部上場企業のサラリーマンだ。黙って働いていりゃぁ年収1千万クラス。金には困らないお坊ちゃんだ。」
瀬能「会社経営してないなら、じゃあ、ギャンブルじゃないですか?」
皇「ギャンブルかぁ。」
瀬能「ギャンブルは年収も給料も関係ないですからね。注ぎ込めるだけ注ぎ込めますから。配当があるかないかは別問題ですけど。」
皇「ギャンブルねぇ・・・・・・それとなく聞いてみるかぁ。」
アリシア「ああ、もう、軍資金がどんどん減っていくじゃない! 勝てる奴にしないさよ!」
トレイジア「勝てるのが分かってたら、ギャンブルにならないでしょ?」
瀬能「・・・・マニやんはギャンブルに向いてないと思います。」
マニやん「なんだとぉぉ! おいセノキョン! あたしは、レートが高くて一回で儲かる奴を優先してるんだ!その方がコインを稼ぐ効率がいいだろ!」
アリシア「マニやん、それ、・・・・・勝てたらの話でしょ?負けてたら意味ないじゃない!」
トレイジア「とりあえあず、半か丁か、AかBかの二者択一はやめない?リスクが多過ぎるわ。」
マニやん「一回、1億セーンまで化けただろ?」
トレイジア「じゃあなんで今、30万セーンしかないのよ?」
マニやん「・・・・・運?」
瀬能「そうでしょうね。ギャンブルは運ですから。」
アリシア「ほら、まだ、モンスターレースとかモンスターバトルの方が、賭け率が出てて予想しやすいじゃない?いきなり全部なくなるとかあり得ないわ。」
マニやん「そうだな、アリシアの意見ももっともだ。」
トレイジア「オッズが1.0倍の奴とか、固いのに賭けそうだもんね、アリシア。」
アリシア「それでいいのよ、それで。地道に増やしていけば。・・・・ドラゴン討伐のRPGで、私、地道に増やしていって、固いスライムの全装備、揃えたのよ!」
マニやん「お前、よく・・・・・諦めなかったな。クリフトだろ?」
アリシア「そうよ、クリフトの為に揃えたわよ!」
瀬能「あ、そうだ。私、5章のラストダンジョン手前で、セーブしたままだった。ああ、まだ、電池残ってるかなぁ。」
トレイジア「・・・・・ファミコン?まさかのファミコンの話?」
額賀「黛さん、今度、イギリスに行くんだって?」
黛「ああ。ええ。・・・・・イギリスです。もう海外の方が長いです。」
額賀「もう、大沢さんの完全な右腕じゃないですか! いやぁ出世ですね。」
黛「まあ、まあ。まあ、確かに、俺がいないと海外の仕事は、まるで回りませんから、そういう意味じゃ、大沢さんの信頼も厚いと思いますねぇ!いや、そうですとも。」
額賀「是非、黛さん。その勝ち馬に僕も乗せてもらいたいなぁ。」
皇「・・・・黛さん。毎回、死にそうになってますけど、今度は大丈夫なんですか?」
額賀「瑠思亜ちゃん!」
黛「・・・・・。瑠思亜ちゃん。俺は不死身の黛だぜ?俺はいつでも天国から帰ってくる男なのさ。」
皇「向こうのマフィアに殺されそうになったって、この前、言っていませんでしたっけ?」
黛「そこなんだよ、瑠思亜ちゃん。俺が持ってるのは。ほら、俺、そういう星の下に生まれてるじゃん? なんていうの、神が俺を選ぶんだよ。お前はここでは死なないって、な!」
額賀「・・・・かっこいい。流石、黛さんだ。」
皇「その、・・・・イギリスへはどんな仕事をなさりに行くんですか?」
黛「・・・・。・・・・。瑠思亜ちゃん。額賀さんよぉ、あんまり大きな声で言えないんだけどな。」
額賀「はぁ。」皇「・・・・ええ。」
黛「今度は人材斡旋だよ。イギリスで日本人をつかまえて、企業に紹介する仕事だよぉ!」
皇「・・・・随分、まともな仕事もするんですねぇ。拍子抜けしました。」
黛「イギリスだけじゃなくて、その近郊の諸外国からでもいいんだけどな。・・・・・ちょっとした、向こうのマーケットが人材を集めててな。日本人。日本人をとにかく集めてくれって言う話なんだよ。ま、そこで、俺達がエージェントとなって日本人を斡旋するわけぇ。もう、クリーンでホワイトな仕事だろ?俺にピッタリだよ。」
額賀「凄いですね。もう日本に留まらない活躍ですね。」
黛「ま、そゆ事なわけよ。ほら、俺のアシスタントのジュジュちゃん?あの子が優秀でねぇ。向こうのエージェントとツーカーでさぁ。大沢さんもあの子の事は評価してる。うん。あの子は出来るって。ま、俺の次くらいだけどな。」
額賀「・・・・そうですよね、ジュジュちゃん。ジュジュちゃんが優秀だって大沢さんから聞いてますよ。」
黛「ああ、でしょ?俺も鼻が高いよ。」
皇「それでジュジュさんは元気でやっているんですか?」
黛「ま、サポートとしては優秀だよ。俺はただ行くだけ。行けば向こうで仕事が出来るようにセッティング済。助かる。助かる。俺が仕事がしやすいように常に先手、先手で、動いてくれるからさぁ。・・・・あの子は将来、出世するよ。わりとマジで。俺、そういう先見の明、あるから。」
皇「きひひひひひひひひひひひひ。・・・黛さんが黛さんらしくて良かったですよ。」
黛「あれぇ瑠思亜ちゃん、それ、どういう意味ぃ? やっぱり、俺、未来を歩いちゃってる感じ?」
額賀「・・・・・大沢さんの右腕になる人物だ。ははは。」
皇「黛さん。・・・・・なんでまた、イギリスくんだりで日本人が必要なんですか? ぜひコウガクの為に教えて下さい。」
黛「コウガク?そりゃ瑠思亜ちゃんも高額納税者になりたいよなぁ?俺を見習って。・・・・・瑠思亜ちゃん、”アイアール”ってワード、知ってるかい?」
額賀「アイアール?」
黛「JRじゃないよ、JRは電車だろ?IRだよ。IRはカジノ。カジノ。」
額賀「複合型リゾートですよね。」
黛「ちがうよ額賀さん。あんたホストなんだからよく覚えておかないと客に逃げられちゃうぜ?カジノなんだよ、カジノ。カジノの略がIR。」
皇「・・・・・ああ、とっても勉強になります。知りませんでした。IRがカジノだったなんて。」
黛「あのさぁ、はぁ。・・・・俺、溜め息でちゃうよ。おたくら社会人だろ?ニュースのひとつも見ないと時代に置いていかれちゃうぜ? IRでカジノをどうするかモメてんだ、国会で。日本じゃまだカジノは認められてない。なんでか分かるか?」
皇「いや、まったく。・・・・わかりません。」
額賀「パチンコ、競輪、競馬、公営ギャンブルが既に盛んだからじゃないですか?」
黛「ああ、惜しい。さすがホスト。額賀さんは勉強してるなぁ。・・・・それに引き換え、ギャルは。瑠思亜ちゃん、だからギャルはバカだって言われちゃうんだよ?もっと勉強しないと。」
皇「・・・・すみません。勉強不足で。」
黛「じゃあ、教えといてやるよ。接客で、そういう事、言ってくるオヤジとかいるかもしれないから。カジノが日本で出来ない理由は、ズバリ、場所だ! 場所!」
皇「場所?・・・・場所?」
黛「そ、そ、そ。場所。カジノを建てる場所が決まってないんだ。だから出来ないの。場所が決まればすぐだよ?すぐ。カジノが出来れば日本中、ワイノワイノ、毎日、お祭りだよ。」
額賀「あながち、間違って、ないこともない、ような、気もするようなしないような、・・・・なんて言うか、切り口が天才ですね、黛さんは。」
黛「そんなに褒めなくていいよ。気分いいな。やっぱりナンバーワンホストは飲ますのが違うね? ほら、瑠思亜ちゃん。もっと、空けて。空けて。俺、全部、奢りだから。気にしないで飲んで。あははははははははははは!」
皇「それで、イギリスとどういう関係があるんです?」
黛「そうそう。それで、日本じゃカジノは認められてないんだけどさぁ、インターネットでカジノが出来るんだよ。」
皇「・・・・別に、日本にいたって、・・・・・昔からの興行って言ったらいいのか、賭博を生業にしている人だっているじゃないですか?大沢さんなんかそういう関係、詳しいんじゃないんですか?」
額賀「確実に違法賭博だから見つかればアウトだけどね。」
黛「それもある。だけど、今時、そういう人の紹介じゃなきゃ入れないなんて、金にならないわけよ。リスクもあるし。第一、オシャレじゃない。・・・・高倉健みたいなのが半か丁かなんて時代遅れだろ?」
額賀「確かに。・・・・時代錯誤ですよね。今時、そういう世界の人だって、やらないと思いますよ?」
黛「やっぱりオシャレなのはカジノなのよ! ポーカーとかバカラとかさぁ、ディーラーがいてさ、こう、オシャレじゃん? 見た事ある?カジノ?」
額賀「あの、黛さんのおっしゃりたい事は十分、理解できます。かっこいいですもんね。ディーラーさんとか。カードきったりして。」
黛「そう、そう、そうなのよ、さすがわかってるね、額賀さんは!」
皇「・・・ギャンブルもオシャレじゃないといけないって事ですね。」
黛「若い人はオシャレなギャンブルをしたいわけなのよ。インターネットで出来るじゃん?わざわざ、大沢さんみたいな怖い人に紹介してもらわなくったって。あ、これ、大沢さんに言っちゃダメだぜ?俺、殺されちゃうから。」
額賀「・・・・死んでも言いません」
皇「なるほど。インターネットなら、確かに、そういう時代錯誤の親分さんを通さなくてもギャンブルが出来ますね。不特定多数のお客を相手に、場を提供できるメリットもある。」
黛「理解が早いね。瑠思亜ちゃん。そういう事だよ。」
皇「そこまでは分かりましたが。なんでイギリスなんですか?」
黛「だから抜けてるって言われちゃうんだよ。イギリスでイギリス人相手にギャンブルしたって英語が通じるんだから意味ないじゃん。」
皇「?」
黛「だぁかぁらぁ、イギリスで、イギリス人が、日本語しゃべれるなら、別に俺なんか呼ばれないわけぇ。日本語がしゃべれないから、日本人が必要なの? リアリ?アンダスタン?」
皇「・・・・・すいません。私、バカだからちょっと理解できないんですけど。もう少し、噛み砕いて教えていただけませんか、黛先生。」
黛「ああ、もう。わっかんないかなぁ。イギリス人が、日本語、しゃべりたいから、日本人が必要なのぉ!」
額賀「はぁ~。ああ、なるほど。・・・・なんとなく。わかりました。」
黛「なんとなくじゃ困るよ!ここまで秘密、バラしてんだからさぁ。」
皇「イギリスで日本ブームなんですね。きっと。」
黛「そう、そう! ようやく理解した?瑠思亜ちゃん。 イギリスで日本ブームなんだよ!」
皇(んなわけ、あるか!)
マニやん「だからお前に任せていたら金が増えねぇだろ!」
アリシア「3万セーン、増えたじゃない!」
トレイジア「アリシアは固いからな。アリシアはギャンブル向きの人間じゃないよ。」
瀬能「じゃあ、闘技場でモンスターバトル、大穴狙っていきましょう! オッズ50倍とかの奴!ガンガン、賭けていきましょう!」
トレイジア・アリシア「やめろ!」
アリシア「セノキョンねぇ、そんな事してたら、コインが無くなっちゃうでしょ!絶対、勝てないじゃない!」
瀬能「ちまちま賭けていくより、いいと思うんですけど。・・・・負ける時は一瞬ですが。」
マニやん「そう、負ける時は一瞬。・・・・儚いのがいいんだ。」
トレイジア「アホか。そういうのは自分の財布でやれ、バカ。あんた達、ほんと、仲がいいわねぇ。・・・・こういう時だけ。」
瀬能「こういう時だけっていうのが、余計です。」
マニやん「ああ、そうだ。 お前達、私が倍にしてやるから、全額、寄こせよ。」
アリシア「ぜぇ~ったい、ダメ! お財布は私が預かります。私がこのパーティのリーダーですから。」
マニやん「お前、こういう時だけリーダー面すんじゃねぇよ!」
アリシア「ヅラってなによ、ヅラって!」
瀬能「アリシアさんの頭皮が薄くなっているという事ですよ。」
アリシア「そのヅラじゃないわぁ!」
トレイジア「でもアリシア。コインも増えない。”龍巫女の首飾り”も手に入らない。・・・・ニッチもサッチもいかないわよ?」
マニやん「思うんだけどさぁ、今更だけど、こういうお使いシステム、よくないよなぁ。RPGあるあるだけど。本筋じゃないところで時間かけられてる気がして。」
瀬能「・・・お使いが色々ありすぎると、本編のシナリオ、忘れちゃったりしますもんね。」
アリシア「わかる。」
トレイジア「龍巫女の首飾りを別の方法で手に入れるしかないわよ。安易に、カジノで勝って、景品で手に入れようって魂胆がダメなのかも知れないわよ。」
マニやん「でも、カジノの景品で取るのが最短ルートだしなぁ。 カジノでブワァ~って取ってる奴が多いって話、聞くぜ?」
アリシア「そのブワァ~ってなによ?ブワァ~って。・・・・・。・・・・。」
トレイジア「・・・・・。」
アリシア「あの人、なに? 行き倒れ?」
トレイジア「ああ。あんまり見るな。」
アリシア「?」
マニやん「カジノで全部、摩った奴だ。・・・帰る金も気力もねぇんだろ?」
アリシア「・・・・放っておいて大丈夫なの?」
瀬能「十分後の私達がきっと、あんな、感じでしょう?」
トレイジア「嫌な事、言わないでよ! スッカラカンは御免よ!」
マニやん「十分、あり得る話ではあるよな。わははははははははは」
トレイジア「笑えないから。」
アリシア「なんかこっち見てる。 あ! 見てる。こっち来た!」
トレイジア「アリシアがなんか余計な事、言うからでしょ?」
男「あのぉ。・・・・冒険者の方ですか?」
マニやん「だったら何だよ?」
男「不躾ながら私、身ぐるみ、ぜんぶ、剥がされちゃいまして。・・・・丸裸なんです。本当です。見ます?」
トレイジア「なんでよ!」
男「いやいや、さすがに冗談ですけど。」
瀬能「トレイジアさんの立て板に水の如き、自然なツッコミは名人の域ですね。」
男「お金がないのは本当で、もう二日、何も食べていないんです。金がないから、行く事も帰る事も出来ません。・・・・少しでいいんです。少しでいいから、何か、恵んでいただけませんでしょうか?」
マニやん「お前なぁ、自業自得だろ? 金がなくなるまで賭けるなんて、遊び方がなっちゃいねぇんだ!」
瀬能「マニやんはよく人の事が言えますね。パーティの資金を大分、溶かしたくせに。」
アリシア「それは同感」
マニやん「アホかお前等!私は増やしてから、摩ったの。増やした分で摩ったんだから、プラマイゼロだろ?」
瀬能「出た、パチンカスの屁理屈」
マニやん「誰がパチンカスだ!」
男「それはそうと、何か、恵んで下さい。お願いしますぅ。」
マニやん「お前にくれてやるモンなんか何もねぇよ! 帰れ帰れ!」
男「ちょ、ちょっと、ちょっと、待って下さい!」
アリシア「あのねぇ、マニやん。それは酷いわ。酷い。・・・この人だって、お金が全部なくなるなんて思っていなかったのよ?それをそんな言い方しなくても。」
瀬能「・・・チョロイです。アリシアさん。チョロ過ぎます。」
トレイジア「ああ。はぁ。アリシアはこれがなければ優秀なんだけどねぇ。チョロ過ぎるわ。」
アリシア「あの。私達も、そんなに蓄えがあるわけじゃないけど。・・・・もし、良かったら、これをどうぞ。元気を出して、頑張って下さい。」
男「あ、ありがとう、ありがとうございます! かたじけない! ホントかたじけない! あなたは女神様だ! ・・・・こっちの人達は、まぁまぁブサイクだけど。」
マニやん「誰がブサイクだ!」
瀬能「あなた! 見る目、ありますね!」
マニやん「お前、ふざけんなよ! 私がブサイクならお前もブサイクだろ!」
瀬能「はぁ~? ブサイクはマニやん一人で十分ですよぉ?」
マニやん「おいブサイク野郎? なんならここで決着つけてやってもいいんだぜぇ?」
瀬能「ブサやん、ブサイク勝負はブサやんの圧勝ですよ?勝負する前から決着がついているじゃないですかぁ?」
マニやん「んだとぉぉぉ、ブサキョン!」
瀬能「かぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ、秘拳、カマキリ拳! ブサやん覚悟ぉぉぉぉっぉぉぉぉぉおぉ!」
アリシア「なぁ~んで、すぐ、ケンカはじめるのぉぉ?二人はぁ?」
ブサキョン・ブサやん「・・・・だって、コイツがぁぁぁ」
アリシア「あなた、お名前は?」
男「あ、私、ハングオンと言います。・・・・女神様、このご恩は一生、忘れません。」
アリシア「いいのよ。」
ハングオン「・・・・えっと、女神さま、これは、いったい、・・・・・?なんでしょうか?」
アリシア「?・・・・なにって、デコポンの種よ。この種を巻くと、五年も経つと、立派なデコポンが取れるわ。」
ハングオン「デコポン。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アリシア「・・・」
ハングオン「ふっっっっっっざぁぁぁぁぁぁぁぁぁけけけけけぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええんんぁなぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁっぁぁあああああああああああ! このクソアマァ!
なにがデコポンだ! 金だよ、金! 金よこせよ!金えぇぇぇぇぇぇぇぇ! こっちは金ぇ摩って、金がねぇぇぇぇぇぇぇんだよぉぉぉぉぉぉ!」
アリシア「・・・・は?」
マニやん「ほら正体、現したぞ。こんな所で摩った奴にろくな奴がいる訳ねぇんだ。」
瀬能「女神様?デコポンがお気に召さない様ですよ、こちらの方は?」
トレイジア「・・・・デコポンの、実じゃなくて、種、出す所がアリシアっぽいっちゃぽいんだけどね。」
ハングオン「お前達、大人しく、有り金、置いていけば命は取らねぇ。どうだ?」
マニやん「・・・・おいブサイク金なし野郎。こっちはなぁ、お前の命が欲しいんだ。金がねぇんじゃ、命を貰っていくぜぇ?」
トレイジア「もう・・・・・完全に悪役のセリフじゃない。」
ハングオン「お前等、まとめて、粉にしてやる! バカにしやがって、なにが、デコポンの種だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
瀬能「かかかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ちょえい!ちょえい、ちょえい! カマキリ拳、カマキリ拳!」
ポスン! ポスン!
ハングオン「痛い! 痛い! 地味に痛い! やめて! やめて! やめて下さい!やめて、ごめんなさい! ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!」
アリシア「・・・・」
マニやん「・・・・」
トレイジア「・・・・あのさぁ、セノキョン、その、カマキリ拳ってなに? いつ覚えたの、その変な技は?」
瀬能「秘拳、カマキリ拳です。かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、サニーサニー千葉でぇぇぇぇすぅ、かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
アリシア「だから、それはいったい、なんなのよぉぉ?」
大沢「よぉ、瑠思亜ちゃん。」
皇「あ、どうも。」
大沢「ちょっと、ちょっと、待てよ。待ちなさいよ。・・・・つれないなぁ。一杯、付き合えよ?」
皇「・・・・あんまり私が大沢さんと一緒にいると、まわりの人に変な誤解されちゃいますよ?・・・ほら、額賀さんとか。」
大沢「ああ、気ぃ使ってくれてんの?さすがぁ瑠思亜ちゃんだねぇ。」
皇「一杯だけですよ。」
大沢「マスター、レバニラ!追加で。・・・・ここ、レバニラが美味いんだ。餃子もあるけど?」
皇「ありがとうございます。」
大沢「いやぁ、空知さんにたしなめられちゃってさぁ。ユウカちゃんの件で。」
皇「ああ。・・・それで。」
大沢「確かにユウカちゃんには何の落ち度もないし、悪いのはチクワブだし。逃げる素振りもないから、大目にみてやってくれってさ。」
皇「ユウカさんには気の毒だと思いますけど。・・・・大沢さんの方の立場もありますし、空知さんが言う様に、はいそうですか、じゃなかなか、済まされない話だとは思いますけど?正直な話。」
大沢「瑠思亜ちゃんには頭が下がるよ。まったくその通りでさ。」
皇「金に関しては、そのチクワブさんのお母さんが全額返済するって話でまとまったんでしょう?」
大沢「まぁな。」
皇「それで手打ちって話に出来ないんですか?」
大沢「要はメンツだよ。メンツ。・・・・逃げられて、おいそれと済まされる話じゃねぇ。あの子は人質みたいなもんだ。」
皇「でも大沢さん。帰ってこない”走れメロス”じゃ人質の意味がないじゃないですか。メロスが帰って来てセリヌンテウスの役が光るわけで。」
大沢「・・・・そこなんだよ。そこ。俺も落としどころが見つからなくて悩んでるわけ。そしたら、そこに、瑠思亜ちゃんが歩いてたからさ。」
皇「レバニラと餃子で知恵を出せと?」
大沢「あと、633もつけるから。」
皇「そうですねぇ。・・・・・・・あのぉ」
大沢「なに?・・・・・なんか浮かんだ?」
皇「ユウカさん自体、けっこう彼のことを恨んでいる節があるようなんですよ。彼氏に売られたとか、急に消えたとか、言っていましたし。彼女をこっち側に引き込んで、チクワブさんが見つかったら、チクワブさんに全額返済させる。その為のエサになってもらう、っていうのはいかがですか?」
大沢「チクワブを釣るエサ?今だってエサの役割果たしてないのに?」
皇「建前上はエサですけど。事実上は取り立て役です。」
大沢「でもさぁ、男と女なんて分からねぇぜ?今、恨み言ほざいていても、いざ会ったら、焼け木杭に火じゃねぇの?」
皇「・・・・・それは約束できませんけど? お母さんから全額いただいて、本人からも全額いただくんだから、ユウカさんぐらい許してあげてもいいんじゃないですか?」
大沢「・・・・・・。そうだなぁ。ユウカちゃんを引き込めば、そういう理屈もアリっちゃアリだな。うん。そうだな。」
皇「逃げる様な子じゃないと思いますよ。むしろ、真面目だから、条件をつけてあげれば、その条件に従うはずです。例えば、監視を解いてやる、その代わり、遅刻なしで出勤してこいって言えば従うと思います。・・・心理的作用で、約束を約束で返すというものです。逃げればいいのに、逃げるっていう選択肢がなくなるんですよ。」
大沢「・・・・・・瑠思亜ちゃんは悪どいなぁ。ヤクザ以上だよ。」
皇「だから、ソープ嬢をやめていいって言えば、大沢さんの為に一生懸命、働いてくれると思いますよ?」
大沢「なるほどね。・・・・カツ煮、食べる?カツ煮、奢るよ?おい、マスター、カツ煮!」
皇「あのぉ大沢さん。話は変わるんですけど、その、チクワブさん。なんでヤミ金なんか借りていたんですか?やっぱりギャンブルか何かですか?」
大沢「ああ。・・・そういうのはあんまり聞かない様にしてるんだけど、金の使い道を聞くと、トンズラする奴が増えるんだよ。あえて、聞かないようにはしているんだけど、ま、それとなく聞いた話じゃ、・・・・ギャンブルだな。」
皇「ああ、やっぱり。」
大沢「オンラインカジノだってよ。」
皇「・・・オンラインカジノ? 黛さんが話をすすめている、アレですか。」
大沢「・・・・・あのバカ、もう誰彼構わず喋ってるのかよ?」
皇「イギリスで日本ブームが到来しているから、イギリスでギャンブルするって言っていましたよ。」
大沢「・・・・あのさぁ、俺、バカだから今、何いったのか、まったく意味が理解できないんだけど?」
皇「黛さんがそう言っていましたよ。イギリスで日本ブームだから、インターネットで、オシャレなギャンブルするんだって。半か丁かは古いから、かっこいいディーラーさんがいるギャンブルの方が儲かるんだって。」
大沢「・・・アイツ、大丈夫かなぁ。心配になってきちゃったよ。」
皇「大手の商社マンがヤミ金に手を出してまで賭け事をするなら、オンラインのカジノだとは思っていたんですけどね。ただ、・・・・取り返しのつかない所まで行ってますけど。」
大沢「まあな。俺達もお客さんとはウィンウィンの関係でいたいわけよ。この前も話したけど、借りパクされるのが一番ネックだからさ。いっぱい貸して、いっぱい返してもらう。領分を超えない、ギリギリの線でな。」
皇「じゃ・・・・・今回は、大沢さん達も悪い客を引いちゃった事ですね。運が悪いことに。」
大沢「そうなんだよ。ついてねぇ。」
皇「そういう中でも、チクワブさんのお母さんが全額返済してくれたんだから、損切は出来た訳じゃないですか。・・・・ユウカさんはここで手打ちしてあげても、いいんじゃないでしょうか?」
大沢「まったく。・・・・空知さんにも瑠思亜ちゃんにも上手く丸め込まれちまうぜ。あと、黛のバカは本当にバカだな。」
皇「じゃ遠慮なく、ご馳走になります。昼間から飲む633は美味しいですねぇ。」
マニやん「おい、メシ食わしてやったんだから、ニコニコ笑って荷物ぐらい運べ。一宿一飯の恩義って言葉、知ってるだろ?」
ハングオン「・・・・はい、姐さん。」
瀬能「荷物運んでくれたり、モンスターの囮になってくれたり、いい舎弟ができて良かったですね。」
マニやん「メシ、食わしてやったんだから、死ぬまでこき使ってやるからなぁ、はっはっはっはっはっは」
アリシア「あぁ。あなたも、大変な人に捕まっちゃったわねぇ。」
ハングオン「・・・・・はい、姐さん。」
マニやん「お前の名前は今日から、タダメシだ。タダでメシ食ってるんだから、分かりやすいだろぉ?なぁ?」
タダメシ「はい、姐さん。」
トレイジア「ちょっと、マニやん、それは酷くない?」
マニやん「おいタダメシ、文句あるのか?」
タダメシ「ありません。ありません、姐さん。」
マニやん「ないって。」
トレイジア「あなたももう少し、威厳とか尊厳とか、ないの?」
タダメシ「ありません。姐さん。」
アリシア「でも、タダメシさんも悪いよ。せっかくデコポンの種、あげたのに、襲ってくるから。」
タダメシ「あの時はホント、申し訳ありませんでした。自分、どうかしてました。姐さん。」
アリシア「わかればいいのよ。わかれば。」
瀬能「タダメシはどうして、あんな所で行き倒れていたんですか?」
タダメシ「よくぞ聞いてくれました、姐さん。自分、実は”龍巫女の首飾り”ってアイテムをカジノで勝って、手に入れようと思ったんです。」
トレイジア「どこかで聞いた話よね?」
タダメシ「最初は勝って、5千万セーンまで増やしたんです。”龍巫女の首飾り”は9千万セーンですから、あと半分、稼げば楽にアイテムを取れると思ったんです。」
アリシア「益々、どこかで聞いた話よね。」
タダメシ「ところが、急に、潮目が変わったのか全く勝てなくなったんです。それまでどんなゲームでも勝っていたのが、嘘みたいに、勝てなくなりました。持ち金もだんだんと減ってきて、もう、このままカジノでやっていても龍巫女の首飾りは手に入らないと思いました。・・・・それで、迷った挙句、全財産注ぎ込んで一発勝負に出たんです。」
マニやん「お前、ホントに迷ったんだろうなぁ?」
タダメシ「迷いましたよ。だって、負けたら一文無しじゃないですか。帰りの駄賃もないし。でも、勝てば、龍巫女の首飾りも手に入るし、お金に余裕ができれば、もっと良い装備も手に入る。ここは賭けるしかないと思いました。はい、姐さん。」
瀬能「ダメギャンブラーの定型文そのものですね。」
タダメシ「一発逆転で9千万セーンを手に入れるには、レートの高いゲームをする必要がありますから、カジノ中、見て回っていたんです。なんせ負けは許されませんから。そうしたら、黒服の人に声をかけられました。」
トレイジア「黒服? カジノの?」
タダメシ「はい。姐さん。黒服が言うのは、ハイリスク、ハイリターンの、全財産全賭けのゲームがあると教えてくれました。ただし、それ相応のリスクがある。命のやり取りをする覚悟がある人間しか、ゲームに参加することは許されない、特別なゲームがあると教えてくれました。自分はもちろんやる気がありました。生きるか死ぬか、賭けるつもりでした。」
アリシア「デコポンあげた時、斬りかかってきたのを見れば、全力でなんでもやる人なんだなぁとは思ったけど。」
トレイジア「・・・ただのバカでしょ?」
タダメシ「ところがです。自分、全財産をプレイヤーキルされまして、全財産を盗まれてしまったんです!」
マニやん「はぁ?」
タダメシ「いや、ホントです。特別ゲームに招待された別の人間だと思います。全賭けしか許されませんから、たぶん、有り金を増やしていたんだと思います。だから自分、悔して、悔して。・・・自分、全賭けで全財産失うのは、自分で選んだ事だから納得いくと思うんです。でも、まさか、全財産を強奪されるなんて思ってもみなくて。自分の力のなさに嫌気もさして、財産も無くなってしまって、どうすることもできなくて、だんだん気力もなくなってしまって、あそこにいたんです。」
アリシア「それで、カジノのあんな所で、呆然自失とうなだれていたんだ。」
マニやん「お前、とことん、運がねぇなぁ。・・・・勝負してても負けてただろ?」
トレイジア「強盗に遭うとか、余程運がないとしか言えないわ。」
タダメシ「自分、ホント、悔しいんです。わかって下さい姐さん。」
瀬能「・・・・・急に、潮目が変わったっていうのもおかしな話ですよね。パチンコみたいに確率を設定してある機械は別にして、早々、ギャンブルの勝率が変わる事なんてありません。それに、勝てなくなった客を見つけて、ここぞとばかりに出て来る黒服も怪しいですね。」
アリシア「私達は地道に、”龍巫女の首飾り”を手に入れるのよ。まずは”龍巫女”がいる”龍神社”に行って、”龍神主”に会って、病弱な”龍巫女”の為に”龍の水”を汲んで来て、”龍の粉”で”龍の蕎麦”を作り、”龍巫女”に食べさせる。そうすると”龍神主”の好感度が上がって、”松本龍介”という人物を紹介されるから、」
マニやん「だぁかぁらぁ、お使いゲームは嫌だと、あれほど、言ったんだ! 本筋、どこ行っちゃったんだよ?なんだよ、”龍の蕎麦”って!」
タダメシ「自分、どこまでもお供します、姐さん。」
高橋「初めまして。高橋と申します。あの、皇瑠思亜さんからご紹介いただきまして。本当にありがとうございます。」
火野「あ、いえいえ。私は紹介の紹介ですから。どうも、火野と言います。どうぞ、名刺です。それで、こちらが沖さん。”依存症家族会”という組織で活動されていらっしゃいます。」
高橋「初めて。よろしくお願いいたします。高橋と申します。」
沖「私の方こそ初めまして。沖と言います。どうぞ、名刺です。」
高橋「”依存症家族会 第3支部 支部長”?」
沖「ええ。依存症本人ではなくその家族を支える活動を行っております。活動は全国規模で行っておりまして、私は、その第3支部の支部長を行っております。」
高橋「まぁ。」
火野「高橋さん、沖さん、堅苦し挨拶はそれくらいにして、お茶でも飲みながら、お話、させていただきましょう。」
高橋「そうですね。」
火野「簡単に私の方からご説明させていただくと、依存症と言っても、様々なものがありまして、有名な所でアルコール中毒、薬物中毒。こういった物は法律に関わる案件もありますから深刻な問題だったりします。違法薬物なんかは芸能人が逮捕されるケースもありますし、一度、依存症になってしまうと、普通の生活が送れなくなってしまう危険性があります。それに警察は一度、逮捕した人間は、二度三度やると思って、常に監視していますし、こと、家族も安心する事が出来ません。」
高橋「ええ。」
火野「他にも、買い物中毒、SEX中毒、万引き中毒、そして、ギャンブル中毒。そりゃもう多岐に渡る依存症があります。」
沖「依存症は病気ですから、治療が必要なんです。法律に関わるような依存症患者に無知な警察が、ただ、逮捕すればいいと安易に逮捕するおかげで、依存行為と逮捕を、一生、繰り返す、悲惨な人も出てきてしまうんです。それは決して、本人だけでなく、家族も同様。家族も一生、それに苦しめられるんです。私は、依存症患者の家族を救いたい。家族というだけで奇異の目で見られる、そんな、世の中を変えていきたい、そんな思いで活動しております。」
高橋「はぁ。」
沖「ええ。高橋さん。・・・・事前に伺った情報だと、あなたのご子息。ギャンブル依存症だそうですね。」
高橋「あ、・・・・ああ。ええ、・・・・たぶん。」
沖「たぶん?」
火野「沖先生。私の友人が、高橋さんの息子さん。その息子さんが借りているヤミ金の業者に聞き取った情報らしいです。」
沖「・・・ヤミ金の業者と掛け合ったの?大丈夫なの?その人。」
火野「うぅうぅん。まぁ、普通に電話してきましたから。それで、そういう、ギャンブル中毒の支援を行っている人を紹介してくれ、なんて言ってきたくらいですから。割とケロっとしてましたよ。」
高橋「ええ。私も、その、・・・皇瑠思亜さんとおっしゃるのですが、その人から連絡を頂きまして。すがる思いで今日、ここに来ました。・・・・その、皇瑠思亜さん。警察の方ともヤミ金の方とも親しそうに話していたので、関わっちゃいけないタイプの人だろうとは思っていたんですが。まさか、連絡をくださるなんて思ってもみていなかったから。」
火野「瑠思亜はギアが入ると止まらない子なんで。何が琴線に触れるか分からないですしね。」
沖「・・・・金を貸しているヤミ金業者がそう言っているんであれば、そういう事なんでしょう。それで突然、姿を消した、と。そうなるとやはり夜逃げ屋業者の関りが疑われますね。」
高橋「・・・・夜逃げ屋?」
沖「ええ。表立って言えない様な、サラ金ヤミ金の取り立てが厳しくて、何もかも捨てて逃げるんですけど、それを手助けしてくれる業者が少なからず存在します。金さえ払えば、脱出の方法から、新しい定住先を見つける事やその支援、一切合切を行ってくれるそうです。新しい身分証明を偽造してくれたりもするそうですよ。」
火野「・・・・それって非合法って事ですか?」
沖「ごった煮です。弁護士が合法的に行う場合もあれば、死んだつもりで新しく人生をやり直したい場合、合法非合法言ってられないじゃないですか。ヤクザから命を狙われているような場合とかね。財務放棄すれば済むって話じゃありませんからね。それに、そういう借金だけの話じゃなくて、夫や彼氏に暴力を振るわれている。あ、今は女性が男性に一方的に暴力を振るわれているケースばかりではなくなりました。女性が男性に暴力を振るう場合も多々、見受けられます。そういうった暴力からの避難の為に、夜逃げする場合もあるんですよ。」
高橋「では、照美・・・・・息子は、そういう業者に頼んで何処かへ移り住んでいる可能性があるという訳ですね?」
沖「ええ。ヤミ金のヤクザに殺害されていなければ、の話ですが。」
高橋「!」
沖「お母さん。落ち着いて下さい。もしもの場合の話です。ヤミ金業者をどこまで信用していいのかも分かりませんし、過去、そういう殺されてしまった事例もあります。生きていれば運の字と思って下さい。それに、殺されていても不思議ではないんですよ。人間が忽然と消える。・・・・消えるなんて事はあり得ません。自分でいなくなったか、連れていかれたか、どっちかです。」
火野「・・・・・。」
高橋「・・・・・。分かりました。万が一の場合、覚悟を決めたいと思います。」
沖「私の方は、家族を支援するのが仕事です。なによりご家族が苦しめられる必要はないと思っています。他の支部と連携を取り、息子さんの捜索を行いたいと思います。我々には、そういう情報を流してくれるネットワークを持っていますので。」
火野「夜逃げ屋から情報が入ってくるんですか?」
沖「なんて言ったらいいのか、良い夜逃げ屋業者もいれば、違法な業者もある。お互いがお互いに意見があるから、面白くない事もあるのでしょうね。そういう所から我々に情報が入ってくるんですよ。持ちつ持たれつな関係ですからね。」
高橋「沖さん。火野さん。ぜひ、ぜひ、よろしくお願いします。息子をどうか、探して下さい。お願いします。」
火野「・・・お母さん。顔をあげて下さい。」
ヤマナミ「”ゴールドバーグ”はこのゲーム史上最大のカジノ場だ、金の前じゃ、欲も権力も、ひれ伏す。あそこだけは他のルールが通用しない伏魔殿だ。」
瀬能「大分、お金が動いていそうですね。」
ヤマナミ「当然だろ?世界最大の歓楽街であり享楽の巣だ。金で買えないものはない。あそこじゃ命だって金で買うんだ。」
瀬能「ほほぉ。・・・・分かりやすい資本主義ですね。」
ヤマナミ「表向きは、ホテル、ショー、グルメ、そしてカジノ。あらゆる娯楽があの町には揃ってる。まさに不夜城。人間の欲に、1日の時間なんて足りないもんさ。」
瀬能「・・・表向きは、ってことは、裏向きの話もあるんですか?」
ヤマナミ「お前はそれを探りに来たんだろ?」
瀬能「もちろんです。・・・・ただのカジノとは思えない、上手く言えませんが、漫然たる不穏な空気を感じるんですよね。・・・・死臭がするっていうか、生者が入っていってはいけないような、そんな雰囲気がしているんです。」
ヤマナミ「セノキョン。なかなか鋭い嗅覚だ。その感覚、忘れるなよ?
ゴールドバーグは表向き、カジノを中心とした娯楽の町だ。その実、裏では、世界中の人間が群がる闇カジノさ。」
瀬能「闇カジノ?」
ヤマナミ「ああ。ゲーム内のカジノを隠れ蓑に、現実世界の通貨をスワップしてな。リアルマネーが飛ぶように、賭けられている。オンラインゲーム内のカジノは無法地帯だ。現実世界の法律が及ばない。深い、深い、アンダーグラウンドより深い、深淵の世界。表の法律で裁けるはずがない。」
瀬能「オンラインカジノが違法とされている国であっても、オンラインゲーム内のカジノをやったところで、法で罰せられる事はありませんものね。スライムに50ゴールド賭けたからって、逮捕されることはありません。」
ヤマナミ「オンラインカジノが合法の国だって、カジノにはルールがある。ルールが守られなきゃカジノ業者だって破綻するからな。でも、深淵に隠れた”ゴールドバーグ”のカジノは違う。ルールなんかない。あるのは、賭けに勝つか負けるか、それだけだ。
世界中のウジが湧くほど金を持っている連中が、こぞって勝負する世界だ。ただのギャンブルじゃない。・・・・ローマ時代のコロッセオと同じだ。人の命のやり取りに、金が賭けられ、陶酔するんだ。そこに理性なんかないぞ?あるのは欲望だけ。」
瀬能「・・・・勝てば天国、負ければ地獄。陳腐な言葉がよく似合う場所ですね。」
ヤマナミ「・・・金の前では全てが無力。さっきも言ったろ?権力だって金で買うんだ。あそこの町は。一攫千金どころの話じゃねぇ。」
瀬能「負ければ死ぬだけ・・・・ですものね。」
ヤマナミ「ああ。頭のネジが百本はずれた奴等がごまんといる。数百人、数千人、数万人、全部が敵だ。勝者は一人だけ。・・・・・イカれてるだろ?」
瀬能「あはははははははははははははは イカれてますね。」
ヤマナミ「まず勝てない。勝てる見込みはない。奇跡の確率はない。死ににいくようなもんだ。・・・たぶん、正常な思考能力を持っている奴ならそんな場所に最初から近づかないだろうな。生者でいたいなら近づかない事だ。」
瀬能「あの、ヤマナミさん。そもそも、ゴールドバーグってなんなんですか?」
ヤマナミ「冒険者ギルドでもなく、ファ教でもない、第三の勢力。」
瀬能「こんな権力抗争が盛んな世界で、そんな第三勢力が生き残れるんですか?潰されるか、吸収されてお終いじゃないんですか?」
ヤマナミ「冒険者ギルドもファ教も、自分の手を汚さずに、金と客を手に入れる事ができる。金に飢えた亡者を好きに使える。こんな便利な人材派遣は他にないだろ?ゴールドバーグは資金源であり、人材バンクでもある。・・・・それに、これだけ手垢がついちまったら、潰すに潰せないだろ?ゴールドバーグの支配者、GOGは、中立でありがなら、安全圏にいて世界中の金と権力を得ているのさ。厄介な野郎さ。」
瀬能「GOG?」
ヤマナミ「ゴールドバーグを作った人間。それがGOG、”ゴッド・オブ・ゴールド”。皆からそう呼ばれているし、自身でもそう名乗っている女だ。・・・確か”アダルバベーダ”っていう名前だったと思うが、GOGの通り名の方が有名だからな。行けばわかるぞ、町の真ん中に、巨大な像がある。まさしく権力の象徴ともいえる像だ。」
瀬能「ゴッド・オブ・ゴールド?あはははははは、大そうなお名前ですね。お金に憑かれた神様ってわけですか。」
ヤマナミ「それだけじゃない。一番の本質は、奴が世界の、ゲーム内だけでなく、リアルな世界においてもあらゆる勢力同士の均衡を保っているということだ。GOGが動けば、あっというまに、世界のパワーバランスが崩れる。表に出てきちゃ皆、困るんだ。」
瀬能「・・・なるほど。世界の権力者と一蓮托生。殺すに殺せない、殺したくても殺せない。権力者の首を絞めるだけ。・・・・お金をエサに太らせて、肥満した体は、もう爆弾の様に肥大化した。もう、手が付けられない。
・・・・金の爆弾でしょうか。」
ヤマナミ「言い得て妙だね。・・・・ゴールドバーグで闇カジノが横行してようが、取り締まりようがない。合法の底の底にある違法は、・・・・・すでに、合法なのさ。」
瀬能「・・・・・」
ヤマナミ「セノキョン、お前、変な気ぃおこすなよ?」
瀬能「私はいつでも正気ですよ?」
黛「はいどうも。説明会にご参加いただきまして、ありがとうございます。わたくしぃ、広報担当の黛と言います。よろしくお願いします。」
ジュジュ「同じく広報のジュジュと申します。」
黛「では、簡単に、ご説明させていただきます。
私共は、本国イギリスに本社を置く、オンライン娯楽サービス会社と提携する、日本代理店です。今回、日本人向けのサービスを提供するにあたり、現地で、日本人の方を採用しようと求人を募集いたしました。」
男「あの、・・・・では、具体的にはどうのような仕事をするのでしょうか?」
黛「日本人のお客様が、ご不便なくサービスをご利用いただけるように、日本人のアテンダントとして、接していただく仕事です。」
女「?・・・・すみません。よく、理解できないのですが。」
ジュジュ「ええ。日本人のお客様が困った時に、日本語で応対する係りです。イメージしやすいのが、カスタマーセンターやサポートセンターの仕事だと思っていただければご理解しやすいかと思います。」
男「ああ、なるほど。」
黛「日本人は英語アレルギーがありますから、定款なんか英語でかかれていても読まないですからね。まず、文書だと読まないので、皆さんのお仕事が必要になるわけです。ほら、すぐ、電話してくるでしょ?」
男「ああ、わかります。」
女「そうね。」
黛「提携先オンライン娯楽サービスの主軸は、カジノです。日本で言えば競輪競馬と同じ、公共ギャンブルです。私共が提携している会社は、他者と違い、各種ゲームのディーラーが生配信しているという特徴があります。アニメ、CGのキャラクターが行うと、どうしても子供っぽい側面が出てきてしまって」
ジュジュ「日本はアニメ、マンガの文化が浸透しているので、アニメのキャラが出てきてもそれほど不思議に思わないと思いますが、諸外国では、やはり、アニメは子供向けという印象は否めません。ですから、積極的に人間。本物のディーラーに立ってもらってプレイしてもらっています。」
男「そうなんだ」
男「でも、ディーラーの経験なんてないですよ?そもそもカジノに行った事もありませんよ?」
黛「その点はご心配なく。ゲームは全て、コンピュータが行います。ディーラーは定型文がありますからそれを読むだけでいいんです。」
ジュジュ「何千人とアクセスしてきますから、いちいち人間が捌くわけにもいきませんから、すべて、コンピュータで処理しています。」
女「当然といえば当然よね」
黛「集まっていただいた皆さんに、ここで、あえてお話させていただきますが、電話のサポートセンターの仕事より、ディーラーとなって配信してくれる仕事の方が、時給を高く設定してあります。提携先企業としても、今後のアジア拡大に向けて、アジア人のディーラー獲得に躍起になっている事もありますので、高時給で働きたい方は是非、ご検討いただけたらと存じます。」
女「でも、生配信だから顔が出ますよね?」
ジュジュ「ええ。出ます。それでよければの話になるのですが。」
黛「・・・多少、メイクを変えたり、カツラも用意してありますので、あ、もちろん、男性にもですよ。それほど効果があるとはわかりませんが、変装をご希望の方には用意してあります。」
男「ほほぉ良心的だねぇ。」
女「違法とか、あとで、捕まったりしない?ちゃんと法律にのっとってやってるの?」
ジュジュ「ええ。日本人が日本語でディーラー風の仕事を生配信しているだけですから、皆様には何の問題もありません。言い方を変えましょう。適法です。合法です。ここはイギリスの地で、イギリスの法に基づいて、イギリスの会社が運営しているカジノサービスです。もちろんコンピューターサーバもイギリスにあります。」
男「なら、何の問題もないんじゃね?」
男「俺、やってみようかな」
女「時給はどれくらい出るの?」
黛「皆さまは今回、遠方から足を運んで説明会に来ていらっしゃった方々なので、我々も、がんばっております。日本円換算で、時給、3万円相当を最低ラインとして提示したいと思っております。以前、他の会社で同じ仕事をされた方やディーラーをされた方は更に優遇させて頂きます。」
男「すげぇ」
女「・・・・ほんとなの?あり得ない。」
黛「ただし、この条件は、日本人に限ります。日本語がしゃべれるイギリス人や、他の国の人を対象としておりません。日本人のお客様を獲得する為に、わざわざ日本人のサポートメンバーを募集しているわけですから。・・・他の国のお友達がいらっしゃる方はご内密にお願いします。外国人差別になってしまいますから。また、同様に日本人のお知り合いの方がいらっしゃればどうぞ、宣伝していただけたら恐縮です。」
男「はぁどうしよう、本気で考えちゃうかな。」
男「あ、はい!俺、やります。やる!くわしく話、きかせてください!」
女「それじゃあ、私も!」
男「俺も!」
ジュジュ「では、詳しいお話を聞かれたい方は、この後、ここに残っていただいて、契約等の説明をさせていただきます。また、まだご検討の方も、気が変わりましたら弊社までご連絡下さい。本日は誠にありがとうございました。」
黛「ありがとうございました。」
火野「守秘義務とか言っている割にクソですね。」
沖「・・・・ちょっと情報料、積んであげれば、口なんて開くもんよ。」
火野「沖さん。・・・・これがDV被害者だったら、たちまち事件ですよ?せっかく逃げたのにまた捕まっちゃう。」
沖「そうね。夜逃げするにも頼む相手を間違えると、水の泡よ。ま、持ちつ持たれつの関係だけどね。・・・・あ、言っておくけど、弁護士だからって口が堅いわけじゃないのよ。ああいう人だって、ある程度、掴ませてあげれば協力してくれるし。」
火野「はぁ。もう、全体的にクソですね。」
沖「信用は金で買うものよ。」
火野「それで、高橋さんの息子さんは、こちらにいる、と。」
沖「そう。人相と性別から合致しているから、たぶん、ビンゴだと思うけど。」
火野「昔、日雇い労働者が日常的に使っていた安宿。今は、生活保護受給者の賃貸物件。よくこんな所、紹介したと思いますし、知ってましたよね?築何年ですか?築百年ですか?このオンボロアパートは。」
沖「こういうのもツーカーなのよ。夜逃げしてきた人間に、タダ同然の部屋を、高値で貸す。こっちはこっちで金儲け。」
火野「あのぉ、気持ち悪くなる位、潔いっていうか、反吐が出ますね。」
沖「人間の本質なんてこんなもんよ。」
火野「あの、今回、色々取材させていただいて、勉強になるところばっかりです。」
沖「こういう社会運動していると、”きれいごと”に上塗りされて隠れている、小汚いところばっかり見えて来るから。そういうのに耐久性がないと、こういう社会運動はできないものよ。利用できるものは利用する。・・・火野さんトコの取材を受けているのも、私達の活動の宣伝になるからよ。良いピーアールが出来れば、資金も調達しやすいし。お互い様よ。気にしないで。」
火野「ありがとうございます。・・・・・ええっと、この部屋ですか。」
沖「そうね。・・・・・そう、間違いない。この部屋。人がいる? 気配ある?」
火野「ここからじゃわかりませんね。私、とりあえあずお母さん、呼んできますね。」
沖「突入は、ご家族がいた方がいいでしょう。」
火野「あの、こちらです。お母さん。」
高橋「あ、あの、ここに。ここに照美がいるんですか?」
沖「ええ。まだ、中に入っていないので分かりませんが、このアパートを紹介してくれた業者によると、・・・たぶん、ここで間違いないだろうと。」
高橋「・・・・。ありがとうございます。沖さんにはご面倒をおかけしまして。」
沖「まだお母さん、終わったわけじゃないから。まだ、始まってもいませんよ? 依存症っていうのは、根深いんです。」
火野「いっせのせで、突入しますか?」
沖「まずは私はドアを開けます。開けたら最初に、お母さんが入って下さい。そして、息子さんを捕まえて下さい。体で押さえつけるように。」
火野「・・・体で?」
沖「親族の場合、母親に押さえつけられたら、抵抗しないっていうのは動物共通の約束事です。」
火野「動物共通・・・?」
沖「犬でも猫でも、熊でもアヒルでも、母親が抑えると服従してしまうものなんです。これが、父親だと逆上したり反撃を受けたりします。母親っていう所がミソなんです。母は偉大なんですよ。」
火野「母親に手をあげるっていうのも大概ですからね。」
沖「我々二人は、逃げ口を塞ぎます。窓から飛び降りて逃げる事はないかと思いますが、念の為、火野さん、表にまわって、窓の方で待機していて下さい。玄関は私が塞ぎます。・・・・話ができるくらい落ち着きいてきたら、私も話に加わりますから。お母さん、今が勝負ですよ。」
高橋「わかりました。 では、皆さん。いきます。」
火野「じゃ、私、表に回ります。」
沖「お母さん。行きましょう!」
高橋「開けます!」
ガチャ
高橋照美「誰だ!」
高橋母「照美!」
高橋照美「母さん! うわ、やめろ、離れろ!」
高橋母「ダメ! あなた、また、逃げるでしょ!」
高橋照美「わかった、わかったから、わかったから」
高橋母「なんでいなくなったの! なんで消えたの? お母さん、心配したのよ!」
高橋照美「わかった、わかったから、怒鳴らないで! わかったから、わかったから、」
高橋母「お母さん、心配したのよ! なんでいなくなったの! なんで誰にも相談しなかったの? どうして? どうして!」
高橋照美「わかった、わかった、わかったから、」
沖「・・・お母さん、お母さん。落ち着きましょう。・・・・落ち着きましょう。落ち着きましょう。」
高橋母「お母さんは心配したのよ」
高橋照美「・・・・・」
沖「お母さん。・・・・・落ち着きましょう。」
高橋照美「・・・・・」
高橋母「はい、わかってます、わかってます、わかってます、」
高橋照美「・・・・誰?」
高橋母「照美! 照美を探してくれた人よ」
高橋照美「はぁ?」
沖「息子さんも落ち着ていて。落ち着いて。 あの、私、・・・・依存症家族会の沖と言います。落ち着いて聞いて下さいね。私、お母さんから相談を受けまして、あなたを探す事に協力しました。」
高橋照美「・・・・・」
高橋母「照美! あなた、ギャンブル依存症なんでしょ? ギャンブルしてるんでしょ?」
沖「・・・・お母さん」
高橋照美「してねぇよ!」
高橋母「してるでしょ! してるからこうやって夜逃げして逃げたんでしょ!会社にも言わないで、ヤミ金からお金を借りて! どうして嘘、言うの!」
高橋照美「・・・・・」
高橋母「やっぱり嘘なんじゃない! ギャンブルしてるんじゃない!」
高橋照美「だから、ちょっと待って。待って、誰からその話を聞いたの?」
沖「照美さん。あなたは今、警察に捜索願が出されています。」
高橋照美「え?」
高橋母「当然でしょ?突然、いなくなったんだから!会社の人だって迷惑してるのよ?事件だって事故だって、みんな、心配するの当然でしょ?ヤミ金の人だって心配してるのよ?」
高橋照美「はぁ?・・・・・・」
沖「ヤミ金の人は、あなたに逃げられたら困るから、そりゃ行方を捜すでしょうけど、ご家族も、会社の人も、心配しているのは同じよ。」
高橋母「どうしてこんな事したの? お父さんとお母さんに相談してくれれば良かったのに」
沖「お母さん。・・・・・お母さんの方が落ち着いて下さい。感情的になっているのは分かりますが、これでは、照美さんが話す事が出来ません。・・・・いいですか?」
高橋母「・・・・・わかりました。」
沖「とりあえず座りましょう。座って、お話を聞きましょう。・・・・お母さんも、照美さんはもう落ち着かれましたから離れていただいて結構ですよ。」
高橋母「わかりました」
沖「照美さん。あなた今、ギャンブルで借金を抱えているそうですね。ヤミ金にまで借りて。」
高橋母「安心して照美! ヤミ金にはお母さんが全部、返したから。だから、借金なんてないの。だから、帰ってきて。お父さんも待ってるから。安心して帰ってきて!」
高橋照美「ヤミ金に金、払ったのかよ?」
沖「お母さん!」
高橋母「安心して。安心していいのよ?照美。もう借金はないのよ?」
沖「お母さん。そういう話はまだしないで下さい。はぁ。・・・・段取りっていうものがあるんですから。それで、照美さん。あなた、何で借金を作ったんですか?」
高橋照美「・・・・」
高橋母「おっしゃいなさい、照美!」
高橋照美「・・・・カジノ。」
高橋母「カジノ? カジノってなによ?パチンコじゃないの?なんなのカジノって?」
高橋照美「インターネットのカジノ。」
高橋母「インターネット?」
沖「・・・今はスマホでギャンブルが出来るんですよ。これで。この小さい電話で、ここに居ながらにしてギャンブルが出来るんですよ。」
高橋母「え? そうなの?そうなの照美?」
高橋照美「・・・そうだよ。」
高橋母「あんたって子は、バカぁ!」
沖「お母さん。本当に分かってます?」
高橋母「いえ、あんまり。」
沖「はぁ・・・・・あの、照美さん。あなた分かってます?今、自分で、何を言ったのか。」
高橋母「照美!」
沖「お母さんは少し黙っていて下さい。・・・・インターネットのカジノは違法ですよ?それが見つかったら逮捕されるんですよ?」
高橋母「照美ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!」
沖「お母さん。お母さん、落ち着いて。」
高橋照美「・・・・・知ってますよ。知っててやっているんですよ。」
沖「あの、一応断っておきますが、私は警察にあなたを突き出したりはしません。そういうのは警察の仕事ですから。私は、依存症のご家族を支援する団体です。ええ、あなたが突然、いなくなってしまったと言う事と、ギャンブルの依存症の疑いがある為、私が介入する事にしました。ただあなたがいなくなった、それだけでは私共の仕事ではありませんから。あくまで、依存症の家族の支援。それが目的です。」
高橋照美「・・・・」
高橋母「本当にありがたい事よ?」
沖「照美さん、お話、うかがえますか?」
高橋照美「・・・・・・・・・・・・はい。」
沖「照美さん。あなた、ギャンブルで相当借金したそうですね。あなたは大手の商社マンだから、サラ金から好条件で、お金が借りられる。けどねぇ、返済が滞ると一瞬で、業界のブラックリストに載りますよ。」
高橋照美「知ってますよ、実際、そうなりましたから。」
沖「貸してくれるサラ金がなくなる。あ、今は、消費者金融って言いましたっけ。同じことですけどね。金を貸してくれなくなるだけならいいですけど、厳しい取り立てが、始まります。それで、ギャンブルをやめられれば運がいい方。きっと依存症にはなっていなかった。先の事も、会社の事も、家族の事も考えられず、いいえ。考えても、ギャンブルがしたくなってしまったんだからそれは立派な依存症です。ヤミ金の人、心配してたのは本当ですよ。」
高橋照美「・・・きっと、金の事でしょう?」
沖「平たくいうとそうですけど、あなたが借りていたヤミ金。ヤミ金の世界だと、任侠で有名でしてね。今時、ヤクザに任侠なんて言葉つかう人、いませんけど。返せない人には貸さない、よほどサラ金より恩情味があるヤミ金ですよ。ヤミ金の人が言っていました。付かず離れず、長く、金のやり取りが出来る客が上客だって。・・・あなたは、ヤミ金の人にも、見捨てられたんです。あなたからは美味い汁が吸えないって。」
高橋照美「ヤクザに言われちゃお終いですね。」
高橋母「・・・・・」
沖「まったくその通りです。ええ。・・・・・私達は、家族を救う社会活動をしている団体です。あなたを更生させる支援団体ではありません。そこ、誤解が無いように。」
高橋照美「よく、意味が分からないんですけど。」
沖「はっきり言いますね。あなたに拒否権はないんですよ。家族がまっとうに、幸せに暮らしていける為に、あなたを強制的に、依存症から隔離します。」
高橋照美「はぁぁぁぁ?」
沖「現代の医療で、依存症は治りません。タバコの禁煙で辞められた人なんてこの世に、歴史上、いないんですよ。一度、依存症になってしまったら、辞める事は出来ません。十年経とうが、二十年経とうが、ニコチンの悪夢に苛まれるのです。ただタバコを吸っていない既成事実の時間が過ぎるだけで、本質的には何の解決にもなっていないんです。百年経っても、千年経っても同じですよ。脳に染み付いた依存は、死ぬまで、治りませんから。」
高橋母「そんな! 照美に限って!」
沖「残念ですがお母さん。息子さんのギャンブル依存は、治りません。ギャンブルをさせないように、環境を作るしかありません。はい!」
高橋照美「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ、触るななぁぁぁぁぁぁぁ、返せえぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええ!」
沖「はい!」
ゴ ボン!
高橋照美「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、俺のスマホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
沖「はい、物理的に関係を断ちました。これでスマホは死にました。インターネットのカジノは行えません。あしからず。」
高橋照美「おおおおおおおおままままままぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇええええええええええええええええ!」
沖「はぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!」
高橋照美「ぎゃややややややあややゆあやっやややっややややや! 放せぇぇぇぇぇぇクソばばばばばぁぁぁぁぁっぁぁばばばっばぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁああああああああああ」
高橋母「・・・・・ああああああ・・・あああ・あ・あ・あ」
沖「私達はねぇ、ヤクザの人とも話もしますし、チンピラの人とか、ええ、違法なクスリをやっている人とも、相手にしないといけないんですよ。あなたはまだ可愛いもんです。銃で撃ってきませんから。ははははははは。はい、拘束します。お母さん、お母さん?」
高橋母「え? ええええ? は、はい。はい?」
沖「これ、これ。 バンドです。手錠。これで、おたくの息子さんの足と手首、縛って下さい。」
高橋母「ええ?ええ? なにもそんな事までしんたくても・・・・・」
沖「お母さん。・・・・さっきも話しましたけど、もう、息子さんは昔の可愛い息子さんじゃなくなってしまったんですよ。こんなオバサンを襲おうとする、常識の欠片もない人間なんです。・・・・腹をくくって下さい。いいですか?お母さん。息子さんを拘束して、管理して、それなりに平和な一生を送るのか、それとも、これからもギャンブル三昧で、警察に捕まって、捕まるだけならいいですけど、ヤクザは許してくれませんよ?一生、骨をしゃぶられますよ?しゃぶられながら借金は増える。たぶん、一家心中です。殺されるか、自分達で死ぬか、どっちかです。今、その岐路に立っています。お母さん。平和に生きるか、死ぬか、どっちがいいですか?」
高橋母「・・・・・・・」
高橋照美「やめろろぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ、くそばばばばばばばぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!」
沖「ボクちゃん、ちょっとでいいから、黙ってましょうねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、はい、窒息タァァァァァッァイムぅ!」
高橋照美「が・・あ・あ・あ・あ がぁぁ」
高橋母「やります! 照美が、照美が元に戻るなら」
沖「だからお母さん。もう、息子さんは元には戻りません。依存症っていうのは元には戻らないんです。こちらで、依存状態を管理して、その行為をさせないようにするだけなんです。・・・・わかりました?」
高橋母「ええ、あああ、分かりました!分かりました! 照美を、照美を助けて下さい!」
沖「やっぱりまだ分かっていないみたいですね? まぁ、でも、いいでしょう。はやく、縛って下さい。」
高橋母「わかりました。・・・・分かりました。」
沖「はい。これで拘束完了です。お母さん。ご苦労様でした。いくら、クギで破壊したとはいえ、このスマホは没収しておきます。データを解析する必要がありますから。そして、この後ですけど、ある程度、依存症状が改善するまで、我々の施設で暮らしていただきます。」
高橋母「施設?」
沖「依存症リハビリといいますか、治療を目的とはしていません。自分が病気なんだと、依存症なんだと、理解して、そして、それと向き合って社会性を取り戻していく更生施設です。息子さんのようにギャンブル依存症だけでなく、色々な方が入所されています。アルコール依存症の方もいますし、万引き依存症の方もいらっしゃいます。もちろん薬物依存症の方も。まずは認知。認知するところから始めないと、社会生活が送れませんからね。あ、もちろん、我々は家族支援が最大の目的ですから、お母さん。お母さん達ご家族への教育カリキュラムもご用意しております。覚悟して向き合わないと、冗談ではなく、本当に一家心中なんて事、ありますからね。」
高橋母「・・・・・はい。」
火野「沖さん。手際がいいですね。びっくりしました。」
沖「ああ。オバサンに見えるけど、アメリカ陸軍で殺人術を習いました。そうでなければ支部長は務まりませんから。」
火野「・・・・・軍?」
沖「こうやって、見た目で油断させて、制圧するんです。ほら、これ。ランジェリーじゃないんですよ。防弾アーマー。黒いから、セクシーに見えましたか?」
火野「あ、あはははは。 いや、セクシーだとは思いました。」
沖「ほら刃物なんてザラですから。 高橋さんの息子さんは、特に、危険な物は所持していませんから、今日は楽な仕事でしたけどね。」
火野「依存症の支援活動っていうのは、中に入って見るのだと、まるで危険なお仕事なんですね。」
沖「いや。取材を受けた甲斐があります。分かっていただいて幸いです。」
大沢「ああ。裏家業の俺が言うのも何だけど、ギャンブルは勝てねぇようになってんだよ。」
皇「・・・ええ。噂には聞きますけど、賭け事と保険は、胴元が儲かるようになっている、と。」
大沢「ああ、そうだ。勝ったり負けたりするけど、それは個人の掛け金の話であって、全体でみたら、胴元が勝つ・・・勝つって言い方はおかしいな。儲かるようになってんだよ。変な話すると、場所代、あ、使用料って意味な。人件費、光熱費。それを引いて利益分を確保した残りを、分配するんだ。」
皇「赤字が出たら、ギャンブルを運営できませんからね。」
大沢「うまく勝たせて、勝ったつもりにさせて、ながく金を引っ張る。それが、うまい胴元のやり方よ。だから、俺達は、ながく客と付き合いたいから、ちゃんとしている人間にしか金を貸さないの。・・・・この前のチクワブなんか以ての外だ。中毒になっちまったら、金を引っ張れないだろ?」
皇「良心的ですね。」
大沢「だろ?」
額賀「最近はパチンコ屋さんでも倒産する所が増えているみたいですね。公共のが辞めてしまうのだから、ギャンブル自体も、斜陽かもしれませんね。」
大沢「ああ、統計学で利益を生む商売は、母数を増やしてなんぼだからな。慈善事業じゃねぇ。そりゃ、パチンコ屋は開けば客が入る。儲けは出るだろうよ?でもな、経費かんがえたら閉めちまった方が良い場所もあるんだよ。クーラー目当てに涼みに来る奴もいるからな。」
額賀「ああ、なるほど。」
皇「遊技場はお金を使ってもらわないと、商売になりませんからね。」
大沢「実際、宝くじの売り上げも下がっているようだし。人口が減っているんだから、ギャンブルの売り上げだって、そりゃ減るよなぁ。」
皇「インターネットのカジノは逆に客数、売り上げが増えているそうですね。」
大沢「・・・ったく、瑠思亜ちゃんはそういう話はどこから掴んでくるんだよ?なに?あれ、BBCとか見てんの?」
皇「そういう事じゃなくて、世界の人口減少は以前から言われていますし、こと、日本の少子高齢化なんて何十年も前から言われているじゃないですか。なんの商売だって、そう。国内で売り上げを増やそうったって土台無理な話で、世界に売っていかないと商売にならない。だったら、ギャンブルも一緒ですよ。国内の公営ギャンブルより、インターネットを介したギャンブルの方が、マーケットは世界規模ですから、売り上げは誰が考えたって上がるでしょう?」
額賀「でも、まだ、日本ではネットのカジノは法整備が整っていないはずじゃないんですか?」
大沢「俺達は表の商人とは、はなから商売している土台が違うんだ。グレーの方が商売がしやすい。それに、いざ日本が法律を変えて解禁になった時、参入しやすいだろ?今はそのノウハウ集めの時期。」
皇「はぁ~。本当に用意周到ですね。頭が下がる思いです。」
大沢「あのなぁ瑠思亜ちゃん。俺達は、違法な事を違法としてやってるわけ。その為には、法律を勉強しないといけないわけよ。・・・・その為に、弁護士先生もいるんだ。チンピラがみんな頭が悪いなんて思わない方がいいぜ?瑠思亜ちゃんには釈迦に説法だけどな。」
皇「あ、聞きましたよ。・・・・・大沢さんとこのオーナーさん。今度、病院のオーナーになるんですって? 病院にまで手ぇ出すんだって思って、うわぁって思いました。」
大沢「・・・・・親父。そんな事、言ってた?はぁ。親父も口が軽いなぁ。まったく。 まぁインターネットカジノに関しては、合法化されなくても、同じノウハウが株式投資にも使えるから、それでいいんだ。幾らでも潰しが利くからな。」
皇「カジノのノウハウを盗む為に、イギリスへ黛さんが行ったんですね。実質、ジュジュさんでしょうけど。」
大沢「あいつはあれで、使い道があるんだ。向こうのマフィアに殺されても構わないしな。こっちが痛手を負わないから。」
額賀「黛さん、傷つきますよ?」
大沢「瑠思亜ちゃんは、本物の、半か丁かの賭博、やった事あるかい?」
皇「残念ながら、まだ、経験がありません。」
大沢「何度も言うけど、ギャンブルっていうのは、小遣いで遊んでいるくらいが丁度いいんだ。勝って気分がよくて、負けてもまた明日、遊びに来ようかな、くらいの塩梅がな。この塩梅を出すのに、・・・・壺振りがいるんだけど。ドラマで見た事あるだろ?なんとか牡丹お竜とか。」
皇「・・・・はぁ。」
大沢「ベテランの壺振りになると、サイコロの出目。コントロールできるんだ。」
皇「それ、本当ですか?」
大沢「ああ、本当だ。壺振りの姐さんに見せてもらった事がある。別に、壺振りだけじゃねぇ。ミャンマーとかタイのインチキ屋台のババアだって出来る仕事だ。まぁ。技術だよ。技術。イカサマしてサイコロに仕掛けをしているんじゃねぇ。純粋に、そのサイコロで出目をコントロール出来るようになるんだ。どれだけ指先が器用なんだよって話なんだけどな。俺には無理だけど。・・・・壺振りはそれで飯、食ってるわけだからな。場をコントロールして、胴元に利益を高く出させるのが仕事だ。場の空気、客の高揚感。うまくサイコロを振って、勝たせたり負けさしたりして、場の空気を作っていくんだ。」
額賀「へぇ。」
大沢「中には悪い奴がいて、勝たせて勝たせて気分を良くさせて、調子に乗ったところで、どん底に叩き落とす、そういう奴だっている。そういう奴に限って、博打にハマる。借金してでもまた賭ける。・・・・俺はそういうのをカモだとは思わないんでね。親父にもそう教えられた。いいカモは長くネギを持ってくる。一度のネギじゃ、カモネギにしかならねぇってな。」
皇「よく分からないですけど、分かります。 ギャンブル中毒の人が出てくるって事ですよね。」
大沢「そういう事。その、今まで壺振りが、人間がやっていた賭場の空気作りを、イギリスのカジノだと、コンピュータが行うんだそうだ。インターネットだからな。一斉に、何千人と賭けるから、そりゃ、コンピュータで誰がどれくらい賭けたか把握してないと、勝ち負けのコントロールなんて出来やしない。」
皇「あの、大沢さん。つまりコンピュータが出目をコントロールしているって事ですよね。調子に乗っている時の急転直下の敗北は、賭けの中毒症状を加速させますよ。そういうのをオンラインでやっているんですか?何千人、何万人相手に、しかも、リアルタイムで。」
大沢「な、えげつないだろ? だから今は俺達はそういうののノウハウを得るために勉強している最中なの。」
皇「・・・・・借金をする人が増えるならまだいいですけど、ギャンブル中毒者、ましてや廃人だって、生産しますよ。」
大沢「ああ。それは報告を受けている。本国イギリスでも報告されているってよ。・・・・カジノの廃人がな。人間は、コンピュータに精神的に支配されているんだ。気づかないうちに。」
皇「・・・・そういう過程を経て、チクワブさんはギャンブル中毒者になってしまったんですね。」
大沢「ああ。俺達も、何度も奴に、言ってやったんだけどな。ヤミ金の話なんて聞く耳、持たなかったんだろう? まったく親切に教えてやったのによう。」
シュレッダー「”ゴールドバーグ”? ああ、私はそういうの興味ないね。」
瀬能「・・・あら、お金にがめついシュレッダーさんがゴールドバーグに興味がないなんて意外です。」
シュレッダー「私は、冒険がしたいの。賭け事をするために、このオンラインゲームでプレイしているんじゃないの。」
瀬能「その冒険者さんが、なぜ、冒険者ギルドの受付なんていうアルバイトをやっているんですか? 金欠なんでしょう?」
シュレッダー「そうよ、金欠よ! 金なしよ!」
瀬能「聞いたんですけど、あそこは、かなり胡散臭いらしいですね。表の顔とは別に。」
シュレッダー「ああ。・・・・裏カジノ、裏闘技場のこと?」
瀬能「あれ? シュレッダーさん、興味ない割に、ご存知なんですね?そういう話。」
シュレッダー「冒険者ギルドの上層部と癒着しているって、有名な話よ。セノキョン知ってる?」
瀬能「なにをですか?」
シュレッダー「わざと”ゴールドバーグ”に行くように、イベントが仕組まれているって。」
瀬能「・・・・・はぁ。」
シュレッダー「はぁ、じゃないわよ。ゴールドバーグに行くように、誘い水のように、イベントが組んであるの。だから、知らずに立ち寄る冒険者が多い。表向きは豪華絢爛な遊技場。遊んで、食って、楽しめる。中には、ゴールドバーグの罠につかまって、冒険そっちのけで、ギャンブル三昧。・・・・そして、行きつく先は、闇カジノ。」
瀬能「うまく出来ているんですね。」
シュレッダー「当然よ。冒険者ギルドと繋がっているんだから、イベントだって作りたい放題じゃない。」
瀬能「今、お世話になっているパーティが、”龍巫女の首飾り”が欲しくてゴールドバーグに立ち寄っているんですが、それも、実は仕組まれているイベントですか?」
シュレッダー「ああ。うううん。・・・・一番、みんな、立ち寄るイベントじゃない? 取れないでしょ?」
瀬能「取れません。うま~く、負けてしまいます。」
シュレッダー「そういう事よ。龍巫女の首飾りが無くたって、ドラゴン狩りには影響ないじゃない?」
瀬能「それ言っちゃぁお終いですけど。・・・・・でもシュレッダーさん。やけにゴールドバーグには詳しそうですけど。腹に一物あるんでか?」
シュレッダー「セノキョン。・・・・私、昔、攻め込んだことがある。」
瀬能「大胆ですね。そういう所、好きですよ。」
シュレッダー「売り出し中の冒険者だった私は、冒険世界随一と呼ばれるカジノ、そこに眠る金に興味があったわ。」
瀬能「・・・・シュレッダーさん。その嘘くさい自分語りやめて下さい。どうせ嘘でしょ?」
シュレッダー「あ、わかった? そうなの。嘘なの。・・・・・けど、」
瀬能「ケド戦記」
シュレッダー「・・・・・ゴールドバーグに押し入ったのは本当よ。世界中の金という金が集まってる場所じゃない。いわば金庫よ。金庫。黙ってたって、世界中の資金が集まっている場所よ。そんな都合の良い場所、他にある?」
瀬能「ああ。あああ。初めてシュレッダーさんの言った事で感動しました。そうですね。凄く合理的な考え方ですよね。世界一の遊技場は、裏を返せば、世界一の金の集まる所。狙わない必要性がありませんね。」
シュレッダー「そういう事。だから、押し入ったわけよ。」
瀬能「それで? それでどうなったんですか?」
シュレッダー「まぁものの見事に返り討ちよ。ボッコボコのギッタギタにされて、死ぬか生きるか半殺しの状態で、命からがら逃げだした。いやぁヒドイもんよ。
あそこはねぇ、表に出ない殺し屋やら、暗殺者、傭兵。人の命の事なんかこれっぽっちも考えていないような連中が、ごまんといて町を守ってる。鉄壁よ、鉄壁。人が人を殺す鉄壁の要塞よ。」
瀬能「・・・・・ほぁぁぁ。恐ろしいですね。」
シュレッダー「金に目が眩んだ亡者どもが、生者の生き血を啜るところよ。」
瀬能「カッコイイこと言って、シュレッダーさん。ドロボーに入ったわけでしょ?そりゃ向こうの正当防衛が正しいですよ。」
シュレッダー「・・・・まぁねぇ。それを言われちゃうと痛いわねぇ。だっけどねぇ、あそこの表のカジノだって、インチキなのよ。裏でゴールドバーグ側が出目を操作しているんだから、勝てないに決まっているじゃない。」
瀬能「ゴールドバーグもやりたい放題ですね。カジノで違法賭博を行い、借金かかえた客を闘技場で戦わせたり、金を巻き上げ、あまつさえ命まで奪う。はぁ。・・・・人の皮を被った魑魅魍魎の悪鬼です。」
シュレッダー「私はねぇ。汚いお金を表の世界に返してやる、そういう仕事をしたいのよ。」
瀬能「・・・・嘘ですよね。完全に嘘ですよね。自分の懐に入れたいだけですよね?」
シュレッダー「・・・・・わかった?」
瀬能「私も、好きなだけ懐に入れたいなぁ。」
タダメシ「スイマセン姐さん達。これまで面倒みていただきありがとうございました。 このお金は有効に使わせていただきます。ありがとうございました。
そぉぉぉぉぉしてぇぇぇぇ、カジノで百万倍にして返してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! な~はははははっははははははははははは」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。