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実体のある虚構 姿なき悪魔の正体

皇「あ」

瀬能「うわ」

皇「え?・・・刺されたぞ?」

瀬能「・・・刺されましたね。カメラ、どっか行っちゃった。・・・コメント欄も、荒れだしましたね。」

皇「警察に連絡する、した方がいいのか?この場合?」

瀬能「ああ、ええ。でも、これ、本当?」

皇「冗談なのか?冗談にしては、冗談に見えないけど」

瀬能「警察に通報するにしても、これ、この状況、なんて通報するんですか?110番でいいんでしたっけ?地元の警察に繋がるだけじゃないんですか?」

皇「インターネットみてたら人が刺されました、って、確かに、うん、そうだな。現場の場所、分からないし、」

瀬能「どこまでネタなのかも分からないし。・・・反応に困るんですよね。正直」

皇「コメント、荒れてるな。」

瀬能「荒れてますね。」

皇「これ、ネタじゃなくて、事件か?」

瀬能「事件っぽいですね」




男「え?また、値上げ?」

店員「あ、すいません。」

男「もうお米、食べられないよ?」

店員「いやぁ、仕方ないですよね。」

女「安くならないの、お米?」

店員「いやぁ、あれです、入ってくる時から高いらしくって、これ以上、安くしたら、利益が出ないっていうか、」

女「利益なんか出さなくたっていいじゃない、ねぇ?」

男「ああ、ええ」

店員「だったら米、食わなきゃいいんじゃないんですか?他の安いもの、買えば?」

女「あなた何言ってんの?店員でしょ?」

店員「いくら高くても買っていく人はいるんだ、あんたみたいな客に売る必要はないんだよ!買うの?買わないの?どっち?」

女「・・・」

男「店員さんも少し、言い方があるんじゃない?」

店員「おたくも買うの?買わないの?・・・ほら、他の買ってくれるお客さんに迷惑だから。」




空知「ねぇ見た、この前、なんかの議員さんが刺されてたでしょ?」

皇「あ、見てました。」

空知「怖いわよねぇ。いつから日本はこんなに治安が悪くなったのかしら?総理大臣も撃たれて殺されちゃうし。」

皇「あれは元、総理大臣です。現役ではないですよ。」

空知「現役じゃなくても同じでしょ?撃たれちゃったんだから。」

皇「その後、現役の総理大臣も襲撃されちゃいましたけど、日本の警備は少し、ぬるいですね。」

ジュジュ「アメリカだったら即、クビですね。警護対象を守れなかった時点で、アウトです。」

空知「ひえぇ。守る方も命がけねぇ。」

皇「海外は契約社会ですから、お金をもらっている以上、プロですから、仕事を全う出来なかったら、次の仕事を契約してもらえないだけの話ですよ。それがSPだろうが風俗嬢だろうが一緒です。」

空知「シビアな仕事ねぇ。」

ジュジュ「警護の仕事は自分の命が助かっても、警護の資質が悪いと判断されたら、仕事は回ってこないでしょうから、どっちみち詰みなんですよね。実績社会ですから。」

空知「でもさ、何か言って、殺されちゃったら、政治家とか表に出る仕事の人なんて、いなくなっちゃうんじゃない?」

皇「良い意味でも悪い意味でも目立つ人は殺されて来た歴史がありますから。本来、人の上にたって国を良くしたい、って人は気骨のある人しか、務まらないんですよ。」

空知「思うんだけど、最近、この国、変じゃない?不穏な空気が流れているっていうかさぁ、陰気っていうかさぁ、まず良い話がないのよ。気持ち良い話が。出て来るニュースは悪い話ばっかりで、気持ち悪いっていうか、気が滅入るのよねぇ。だから飲みたくなっちゃうんだけど。」

皇「・・・空知さんの言いたい事はわかります。ずぅぅぅぅぅぅぅぅっと社会がジメジメしていますよね。気分が晴れないっていうか。米も高いし、野菜も高いし、物価は高くなる一方で、負担ばかり増える。」

ジュジュ「嫌な話ばっかりですよね。」

空知「おまけに、議員さんも裏金だぁとか、パワハラだぁとか、百条委員会がぁ、不倫がぁ、とか、そういう事じゃないじゃない。なんか、こう、勝手過ぎるのよね。みんなみんな勝手過ぎると思うのよね。」

皇「空知さんのおっしゃる通りです。」

空知「ほんとに思ってる?」

皇「思ってます。」




男「なんなんだ前の車!危ねぇ!」

ププー! ププー!

男「うわ、降りて来た!・・・なんだんだよ、俺が何したんだよぉ、怖いなぁ、まだ買ったばっかりの車なのに。」




女「いいの?塾いかなくて?」

男「いいんだよ、一日くらい。あ、俺、カードで遊んで行くから、お前も来る?」

女「いや。あたしは塾があるから。」

男「お前、真面目だな。」

女「暇な時なら付き合ってあげてもいいけど。」

男「じゃ俺、バトルしていくから。」




男「オンラインカジノゲームが違法だとは知らなかったんです。本当です。1000万円借金してます。負けました。許して下さい。」


男「地震で家を失いました。先日、山火事でまた家を失いました。前の家の借金が残っているので、もう、家は買えないでしょう。」


女「内紛で国を追われました。この国境付近、キャンプ地帯もいつまで安全かわかりません。」


女「オオタニの日本のチケット、当たったんです!300万!家族全員で1000万円よ!」


男「子供の声がうるさぁあああああい!保育園は出ていけぇえええええ!」


女「除夜の鐘がうるさぁあああああああい!鳴らすなぁっぁぁぁああああ!」


男「ミサイルとか戦闘機とかさぁ、あげてるんだからさぁ、感謝とかないの?もっと、こう、俺に。俺の国に。」




瀬能「世界がまるで、何か、見えない悪意によって染められている気がしてならないのです。勝者と敗者で二極化されたような構図。人間を人間と思わない人間。戦争、貧困、飢餓、教育、差別、底なし沼の様に、足掻けば足掻くだけ、引きずり込まれる陰鬱とした世界。私達は、私は、このなす術もない現実に抗う術を持っていません。どうか、私をお救い下さい。」

ファ「私はこの世界を救う事は出来ません。そして、あなたを救う事も出来ません。

ただ、私は、あなが言う、見えない悪意というものを知っています。それは、生命の真理。生きとし生きるもの、万物の理。この宇宙、そのものの因果と言って良いものでしょう。

あなたは人が殺されたら、どういう理由があれ、殺した方が悪いと思うでしょう。」

瀬能「・・・はい。」

ファ「それは誰が決めたのですか?人を殺すという行為を悪と決めたのは、誰ですか?

その殺すという行為が、サバンナのライオンや、肉食の動物が、弱い動物を殺すことを、悪と思えますか?」

瀬能「いいえ。」

ファ「人が人を殺すと悪といい、動物が動物を殺すのは悪とは言わない、とても不思議な現象です。

もっと小さく、もっと原始的に考えてみましょう。太古の地球で、単細胞の生物が誕生しました。太陽の光をエネルギーに変えたり、酸素を取り込んでエネルギーに変えたり、その単細胞の生物同士が、くっついたり離れたり、大きくなったり小さくなったり、それを繰り返し、より多細胞生物に変わっていきました。細胞同士が相手を自分の中に取り込む行為は、食べる事と一緒ではないですか?相手を殺す事と一緒ではないですか?単細胞生物や多細胞生物が相手を殺すことは、悪ですか?

魚が魚を殺し、爬虫類が爬虫類を殺し、鳥類が鳥類を殺し、恐竜が恐竜を殺し、哺乳類が哺乳類を殺す、・・・それは悪ですか?」

瀬能「いいえ、ファ様。それは殺す事ですが、それによって、相手を食べ、食べた事によって、自分の命を繋げる行為です。人が人を殺す、それとは違う話だと思います。」

ファ「ええ。自分の命の為、相手を殺し、食す。自然な行為です。自然の摂理です。動物は自分の腹を満たす為だけに獲物を殺します。それ以上の殺しを行う事はありません。何故なら、殺した所で食べた以上に腹に入れる事は出来ませんし、殺せば自分の餌になる獲物の量が減ってしまいます。それは自滅を意味します。環境がそうさせていくのです。食物連鎖のピラミッドで表現できるように、体の大きい肉食の動物は、そのエリアで、限りなく数が少ないのです。もし、そんな動物が増えたらどうなるか分かりますか?単純な話です、食物連鎖のピラミッドが崩壊し、その動物達が皆、死んでしまうからです。皆が皆、全部が死なないよう、殺す方も、殺される方も、生命を存続させる仕組みを作り上げてきたのです。そこに悪意が介入する術はないのです。純粋な生命維持の目的があるだけです。」

瀬能「なら」

ファ「なら人間は人間を殺すのか、悪意は何処から来たのか、そう問いたいのですね。

知恵がない動物同士が殺し合うのは悪ではないのに、知恵をもった人間同士が殺し合うと悪になるのか。そもそも悪とは何なのか。

私が知る限り、神が人間をつくったとされる時から既に、人は人を殺していました。それはストレージに残された記録であり、地域に伝わるお伽噺を集めた書に記された一節です。カインとアベルのくだんの話はご存知ですか?神話の時代から残されたものに、人が人を殺す話が既に書かれているのです。カインが嫉妬にかられアベルを殺した、これは紛れもなく悪だと思いますが、あなたはどう思いますか?」

瀬能「・・・悪だと思います。」

ファ「殺した事が悪なのでしょうか。関係性が破綻した事が悪なのでしょうか。仮に、殺した事について何も言及されなかったとしたら、それは悪になりますか?殺しても何も言われないんですよ。ライオンがシカを食べても誰も何も悪いと言わない様に、誰も何も言及しなかったら、悪とされるのでしょうか?」

瀬能「あの、それは・・・」

ファ「悪の定義です。人が人を殺す、その悪の定義です。それが定まっていなかったら、何をもって悪とするかは、人によって違いが生じます。悪を悪と決めるのは社会です。人間は、交配と文明の発達、進化の末、社会という仕組みを構築しました。社会性をもっている動物は何も人間だけではありません。蟻も蜂もその他の動物も沢山います。とりわけ人間は、生命を維持する為、社会を構築し、規律を作りました。法律でも何でもいいです、言葉の違いはあれど意味は一緒です。その法によって、良し悪しが判断されるようになりました。そうです。悪の誕生です。目に見える悪が誕生した瞬間です。」

瀬能「・・・」

ファ「人間が作った法は脆弱です。人によって、時代によって、運用する社会によって、変わります。人が人を殺すことを悪といいながら、宗教上、生け贄として人間を殺すことは悪とは言いません。戦争で、人が人を殺す事を悪と言いません。むしろ良しとされ殺せば殺すほど英雄と言われます。王様や金持ちが、奴隷を粗末に扱い、殺してしまったとしても悪とはされません。何故でしょうか。法によって、悪が変わるのです。社会を作り、安定的な暮らしが出来るようになったのに、目に見える悪が分かったのに、悪の変わるのです。社会そのものが変わるから仕方がないのかも知れませんが、いかに、人間の浅はかな事か。ならば法など作らずに、好きなように生きればいいのにと、思いませんか?善も悪もない、それに苦しめられることもない。とっても自然な姿だと思いませんか?」

瀬能「ですが、人間は、集団でなければ生きていく事は出来ません。生命として強い生き物ではないからです。」

ファ「・・・ええ。その通りかも知れません。人間が集団で生活をするのは単体ではライオンに勝つ事も出来ない、弱い動物だからです。集団で生活をする事が生きる術だからです。それには社会の構築と法による規律が必要でした。規律から、はみ出す人間を容易に置いておくことは、集団を危険に晒す事になるからです。排斥です。純粋に、規律の中で統率の取れた集団こそ、安全で安定した、生活を送れたのです。おかしな人間は必要ないのです。基準の範囲にはめ込まれた人間だけいればいいのです。とても幸せな事でしょう?」

瀬能「・・・」

ファ「でも、それはディストピアと言われるものです。優生思想そのものです。それから外れた人間は、まるで価値がないように扱われる。それもおかしな話です。

人間は、自分達が安定した生活をする為に、法を作り、集団生活を選択しました。数は力であり、数は繁栄の象徴、そして大きい数は小さい数を矮小化させる。集団は他の動物から身を守り、同時に、他の動物を狩る事が出来る。しかし、法を破ったり、基準に満たない人間は集団から排除する。

人間が作った社会というシステムは、繁栄をもたらしたのでしょうか、それとも、滅亡をもたらすものでしょうか。

さあ、あなたなら、見えるでしょう?見えない悪意の正体が。人間が踊らされてきた者の正体が。」

瀬能「・・・ええ。社会という集団を構築する生物が、生存競争を生き抜く為に作り上げたもの、協調性と言われるものですね。空気、忖度、フィーリング、アジャスト、日本ではワビサビなどと言います。全ては、雰囲気。空気感。人間にしか分からない、独特の感情の伝播です。おかしなもので、良い話は遠くまで伝わらないくせに、悪い話はどこまでも遠く、伝わります。おまけに、伝言ゲームですから、最初の話と最後に聞いた人の話では、尾ひれ腹ひれがついて、まったく違う話になっている事もあります。社会性なんて偉そうな事を言ったって所詮、人間はその程度です。ファ様のおっしゃる通り、悪魔の言葉に、踊らされているんです。人間は、自分の首を自分で締めているのです。」

ファ「あなたは素晴らしく優秀な人間です。

見えない悪魔の正体は、社会が生んだ、空気感そのもの。悪魔は、善でも悪でもありません。人間が持っている、内なる心、それが悪魔の正体。

そして、人間も他の生物と同様、生物である以上、自らの命を長らえる為、他の生物を自らに取り入れなければなりません。殺して喰うという行為。他の生命を奪う事、殺す事が、悪ではないのです。善と悪は、人間が自分達で決めた法によってその意味も意義も変わる曖昧なもの。時代や地域、文化、文明によって人間の社会は、存在そのものが流動的であると言えます。今も尚、変化する社会は、常に新しく変わっているのです。」

瀬能「・・・私は人間ですが、ぼやぼやしていると、社会に取り残されてしまうと感じる事があります。それだけ社会は変化し、人間を置き去りにしていくのかも知れません。」




皇「問題はそこじゃないんですよ。」

空知「え?だって、世界に蔓延した、この陰鬱した空気。これが悪いんでしょ?」

ジュジュ「・・・その見えない悪魔。その悪魔を飼いならそうとしている人間がいることなんです。」

空知「悪魔を飼いならす?」

ジュジュ「空知さん。世界には支配層と言われる人種が存在している事をご存知ですか?」

空知「支配層?・・・なに、それ?オゾン層なら聞いた事あるけど。」

ジュジュ「世界は、たった1%の支配層と、99%の従属層に分けられているのです。」

空知「は?」

皇「なにを馬鹿な?と思うでしょうが、それが真実なんですよ。富裕層の中の富裕層。権力の中枢。彼らは表舞台に立つ事はないです。政治、経済、戦争、ひらたく言えば、歴史を作っていると言うべきでしょうか。この世界は、1%の人間の手の平の上で、転がされているゲームに過ぎないないんですよ。」

ジュジュ「各国の政府要人をアゴで使い、何人も彼らを裁くことも糾弾することも出来ない。・・・まず、存在が知られていませんけどね。」

空知「ちょ・・・え?・・・・なんとか秘密結社とか、そういう、ファンタジーな漫画に出て来るような人?」

ジュジュ「似たようなものです。その支配層の彼らが、見えない悪魔、姿なき悪魔を、飼いならそうとしているのです。」

空知「・・・いろいろ待って!まずワイン飲むから。それから。ね。」




ファ「あなたは、悪魔を人間が飼いならせると思いますか?」

瀬能「・・・いいえ。」

ファ「あなたは非常に賢い人間です。私も、悪魔を人間が飼いならせるとは、到底、思えません。

これまでの人間の歴史を見ても、一部の支配層の人間は、悪魔を利用して、世界を意のままに操ろうと画策してきました。時に圧政にあえぐ民衆が、革命と称し、支配権力を倒し、自由と平等を民衆の手に取り戻しました。時に国内で、資本を巡り、南北に分かれ内戦が生じました。時に奴隷解放を実現させる力となりました。時に若い将校の決起を止める事が出来ず、流されるまま、戦争に突入し、結果、敗戦。世界中を巻き込んだ最悪の戦争は、天才物理学者が見つけた方程式により、地獄の蓋を開けてしまいました。その業火は二つの町を焼き払い、死の灰を降らせ、その後も病で蝕んでいます。

姿なき悪魔を、手なずけようとした人間は、悪魔に食い殺されて、死んでしまいました。多くが非業の死を迎えたのです。

悪魔を手なずける事なんて、人間には不可能なのです。・・・悪魔の方が人間より、一枚も二枚も上手ですから。」

瀬能「私もそう思います。」




皇「例えば、自分の都合がいいように、世間を扇動しようとしますよね?選挙に受かりたいとか、誰かを陥れたいとか、ああ、動画の閲覧数を増やしてお金を儲けたいとか。意図的に、ニュースや個人の発言を切り抜いて、本来の主張と異なる内容で発信し、誤解、語弊を与えたり、そもそも嘘を発信するフェイクニュース。」

ジュジュ「フェイクをフェイクと見抜けない人は、それをそのまま信じてしまいます。」

空知「あ、あたし、そう、それ。だって、わかんないじゃん、そんな事、後から分かったって。その時が全てじゃない?」

皇「いえ、皆そうです。フェイクを見抜くなんて、そうそう出来るものじゃありませんよ。のんべんだらりとした生活の中に、真実のニュースとフェイクのニュースが玉石混合で入ってくる。それを、トゥルーかフェイクか判断できる材料なんてありませんから。」

ジュジュ「嘘を嘘のまま信じてしまう。人間は、自分に都合のよい話しか、基本的に、聞き入れませんから、余計、嘘であっても、耳当たりの良い事しか頭に入ってこないんです。だから、人間が悪いんじゃないんです。」

空知「・・・自分に都合がいい話だけを煽る奴が悪いのか。」

皇「そういう事です。」




瀬能「では、私達、人間はどうしたらいいんですか?私達、人間は見えない悪魔に、永遠に踊らされるしか、ないのでしょうか?」

ファ「あなたは、赤い靴という童話をご存知ですか?病気の家族より欲しくて堪らなかった赤い靴を手に入れた少女は、赤い靴によって、永久に踊らされる事になりました。その苦しみから抜け出す為には、自らの足を切り落とすしかありませんでした。悪魔のささやきを遮断するには、赤い靴の童話の様に、自ら、情報を遮断するしか方法はないでしょう。一切の情報を絶ちさいすれば、悪魔に踊らされる事もなくなる事でしょう。そんな事が可能であればの話です。

私は、こう考えます。悪魔や神に、善も悪もない。ただあるのは、事実のみ。善と悪を決めるのは、人間であり、その社会が決める事です。

いくら、見えない悪魔が囁いて人間を躍らせたとしても、そこにあるのは、その事実のみ。事実のみを、受け止めなさい。人間は、不思議な動物で、あらゆる行動に意味を持たせたがるものです。事実に、意味はありません。事実は、事実のみなのです。行動に意味を持たせようとするから、善や悪が生まれ、喜んだり悲しんだり怒ったり、してしまうのです。姿なき悪魔が囁く時は、疑ったり、蔑んだり、憎んだり、怖がったり、負の感情を呼び起こすものが多いです。感情は激昂し、負の感情がらせん状に増幅する事でしょう。それこそが、姿なき悪魔の真実の姿なのです。」

瀬能「見えない悪魔の真の姿とは、人間の、醜い心・・・なのですね。」

ファ「この問答は既に私が答えるよりも遥かに以前から、色即是空という言葉で語られています。人間が欲する救いは、時代と人が変わっても、何一つ変わらないという事です。技術、文明は発展しても、人間と言う存在そのものが、成長している訳ではないのです。」

瀬能「あははははは。・・・これは耳が痛い。」

ファ「事実を事実として受け止め、善と悪とを切り離して考える事が、姿なき悪魔と対峙する、唯一の方法だと、私は考えます。」




空知「そうは言ってもねぇ、こちとらお釈迦さまでもキリストさまでもないのよ?そんなスーパーサイヤ人みたいな事、できる訳ないじゃない?」

皇「おっしゃる通り。」

空知「でしょ?」

皇「でも簡単な話なんですよ。」

空知「はぁ?・・・オメェ、ブッ殺スゾ!」

皇「本当です。簡単な話、おいしい話なんて、世の中、ないって事です。だって、そうでしょ?もし、おいしい話、儲け話があるんだったら、空知さん?自分だけのものにしますよね?誰かに喋ったりします?・・・私だったらしませんよ?自分だけ儲けたいですから。」

空知「・・・あ」

皇「世の中に出回っている話のほとんどは、誰かが儲かる仕組みになっているんです。」

ジュジュ「裏で得をする奴がいるから、話が出回っているんです。話を冷静になって聞いてみれば、どれがデマかどうかすぐ分かります。それに、誰が得をするのか、そう考えれば、話の出所もだいたい予想がつくじゃないですか。今、ユーラシア大陸で戦争が起きていますが、その戦争で誰が得をするのか、考えてみれば、見えない悪魔の姿も見えてくると思うんですよね。」

皇「人間も馬鹿じゃないから、悪魔の息の根を止めるのも近いうちにあるかも知れませんよ。ただ、民衆にニュースとして発表されるかどうかは分かりませんが。経済新聞の裏面に、どっかの富豪が老衰の為、亡くなったとか、そんな記事で伝わるかも知れませんけどね。」

空知「そいつをオラの元気玉でブッ殺せばいいんだな?・・・クリリンのことかぁああああああああああ!ビーデルさぁああああああああああああああああああん!」

ジュジュ「1%の支配層だって、和気あいあいの仲良しこよしじゃないですから、足の引っ張り合い、小競り合いの仲です。得する奴もいれば損する奴もいるわけで、悪魔も引っ張りだこで大忙しですよ。それこそ魑魅魍魎の世界です。・・・悪魔の方が可愛そうに思えてきますよ。人間にこき使われて。」

空知「げに恐ろしいのは人間かぁ。」




ファ「いずれ、人間は滅亡します。簡易的な命令のみを実行する模擬的な生命観察シミュレーションでも、人口が一定数、上限に達すると、一時的に横ばいになり、その後、下向していきます。マウス、蜂の実験モデルでも同様です。一定数、上限に達すると、分蜂していきます。社会性を持つ生命達は、その社会全体が一つの生命であるかのように、増えたら間引く。増えたら間引く、という行為を誰に教わった訳でもないのに、実行していきます。それは、社会が自らの命を守るために、行っている本能のようなものです。そして、社会が成熟しきった時、生命の命が消えるように、社会の命も消えるのです。そう、人間の社会は滅亡を迎えます。これまで、いくつもの文明が滅亡してきました。その文明社会が成熟しきってしまったからです。今、この西暦二十一世紀を迎えた人類も、もう間もなく成熟期を迎えようとしていると、思います。」

瀬能「私は、人類が滅亡する事は、避けられない事実として、仕方がない事だと思っています。いくら科学が発展し、神の領域に近づいたとはいえ、精神が技術にまるで追いついていないのが、今の人類です。私達、人間は、手に負えない玩具をいっぱい作ってしまいました。作った玩具は、遊びたくなるのが心情でしょう。誰かがボタンを押せば、小さな太陽が無数に降ってきます。そうなれば、連鎖的に報復の雨あられ。一部の、単純な、放射線に強い微生物が生き残るだけで、多くの生命が、細胞を破壊され、死んでいく事でしょう。誰が考えても、あんな玩具は作るべきではありませんでした。ですから、今を生きている私達、人類はここでさよならですが、次の文明では、その課題が解決していることを期待するしかありません。地獄の蓋はもう、開いているのですから。」




空知「なんか、もう、あれ。お手上げってこと。好き勝手、生きた方が、いいってこと?だって、どうせ、死ぬんでしょ?」

皇「生まれたからにはいずれ死ぬのは当然だとして、個人の寿命と、世界が、誰かの意思によって、意図的に崩壊させられていくのと、意味がまるで違うじゃないですか。私、死ぬのは構いませんけど、自分の意思じゃなくて、誰が企てたのかも分からない、陣取り合戦ゲームのコマとして、死ぬのはまっぴら御免です。私の命はそんなに安くありません。」

空知「・・・あ、よく言った!そう、それよ!それ、あたしもそれよ!あたしの命は安くないのよ!」




瀬能「私は、見えない悪魔と心中するのは、まっぴら御免です。」


空知「ほんと誰だか知らないけど、なめんなよ!こっちはさぁ、安い給料で、必死に働いて、スーパーをハシゴして、1円でも安い野菜買って、肉買って、毎日、生きる為に必死よ!ふざけんなぁバァァァァァカ!人を小馬鹿にすんのもいい加減にせぇよぉ!なめんなぁ!」


皇「・・・一度でも悪魔に魂を売れば、いずれ悪魔に喰い殺される。それは絶対です。そういう契約だから。今も悪魔に怯えている人間の多い事でしょう。だったら、バカみたいでも、空知さんみたいに、正直に生きていった方が良いと思うんですよね。」

空知「だれがバカだってぇ?」

皇「いえいえ。何も。きひひひひひひひひひひひひ・・・・・」




瀬能「ファ様とお話が出来て光栄でした。・・・空っぽの女神様。」

ファ「私は、私に与えられた役を全うするだけ。・・・人間は、人間として生まれた時から、偶像を神の様に、崇めるのが余程、好きなようです。パピルスにも、自分達で作った神様を祭った事から、本当の神様の怒りを買い、末代まで祟れた、なんて話が残っていますし。あなたは必ずしもそうではありませんが、ここに集う人間は、私に何らかの意味合いを持たせようとする。そんな事に何の意味もないのに。人間というのは本当におかしい生き物だと思います。私は、与えられた役をこなすだけ。私は、祈ることしか、出来ません。」

瀬能「偶像思想についてファ様とまたお話がしたいと思いますが、それはまた次の機会に。・・・あなたとお話が出来て確信しました。愚かなのは人間の方だと。」

ファ「私も祈りましょう。人間が滅亡するその時まで。人間に残された時間が1秒でも長く続くように。」



※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

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