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実体のある虚構 第5集 who is not human

オンラインゲームで知り合ったプレイヤーが騙され、海外の犯罪に巻き込まれる事案が発生する。

黛「あぁ~。ああ。こりゃマズイ奴だ。」

サモ「黛サン、アレガ アジト ネ アナタノクニ デ 言ウ ヤクザ? マフィア?」

黛「いやいやいやいや。・・・規模が違うって。」

サモ「ホラ アレ見テ! ミハリ コッチ見テル ヒャハハハハハハ ニゲヨ ニゲヨ コロサレル! コロサレル!」

黛「え?お前、サモ、なんで笑ってるんだよ?ああ?」

サモ「ニゲロ、ニゲロ!」




黛「とんでもねぇ所に来ちゃいましたけど、大沢さん、知ってたんですか?」

大沢「ああ、ちょっと話には聞いてたけど。なぁ?・・・ネコババ野郎の会社があるって話は聞いてたけど、まさか、村一つまるまる詐欺やってるなんて思わないよな?やっぱり外資だな。アウトソーシングだな。あれか、多摩ニュータウンより大きいのか?」

黛「待って下さい。大沢さん。そんな呑気な話じゃないですよ?相手は規模がひとつ違うマフィアですよ?本物のマフィアですよ?・・・俺、殺されちゃいますよ?」

大沢「殺されかけたんだろ?・・・いいじゃないか。これも体験だ、体験。一度、殺されてみるのも。なぁ?」

黛「大沢さん、他人事みたいに言わないで下さいよ?俺、わざわざ、インドネシアくんだりまで来ているんですから!」

大沢「黛、お前の骨は拾ってやるよ。」

黛「ちょっと待って下さい!大沢さぁぁぁあ!」

大沢「日本のホンモノが、戦争に来たってなりゃ、向こうさんもその気になるだろ?・・・いいか?黛。お前には期待しているんだ。俺に恥をかかせるなよ?面倒みてやった恩を忘れるんじゃねぇぞ?いいな。」

黛「俺、そんなタマじゃないですから。もっとそれに似合う人、いるじゃないですか!」

大沢「おい!黛、電波が悪いぞ?ああ?ああああああ?」

プープープー

黛「大沢さあああああああ。もう、ああああああああ。」




アリシア「行方不明事件、解決したんじゃないの?」

トレイジア「ドラゴンが石にしちゃった人達は、無事、帰って来たんだけど、そうじゃなくてプレイヤーそのものが行方不明なんだって話よ。」

マニやん「なんだよ、それ?プレイヤーそのものって?」

トレイジア「だから、行方不明よ。」

アリシア「だからそれって、単純に、ゲームを辞めたんじゃないの?ログインして来ないだけで行方不明とか、大袈裟じゃない?」

トレイジア「そうでもないんだって。私が聞いた話だと、このオンラインゲームだけじゃなくて、他のゲームも同時進行しているプレイヤーさんがいてね。その人の話だと、そっちのゲームでも、大勢、人が消えているんだって。ほら、プレイヤー同士で知り合いっていうのも結構いてね、他のオンラインゲームからもその人が消えちゃってさ。・・・ゲームに飽きたから辞めるなら話はわかるけど、そんなに大勢の人間がゲームを辞めるなんて話、あると思う?」

瀬能「・・・親にファミコン、隠されたとか?」

マニやん「お前、今時の親がゲーム機、隠すかよ?反対だ、親が子供にゲーム機を与える時代だぞ?少しでも時間潰しにゲームで遊んでもらいたいんだ、隠すなんて事しないだろ?」

アリシア「それはそれで問題だけど。」

瀬能「バイオリンの高嶋なにがしみたいに、ゲーム機をへし折るっていう物理的手段で、子供からゲーム機を取り上げる輩もいますから、そうとは言い切れませんよ?」

アリシア「ゲーム機をへし折る?」

マニやん「ああ、携帯ゲーム機を真っ二つにしたそうだ。子供が言う事を聞かなかったから。自分のお金で買い与えたものだから、壊す権利もあるという理屈らしい。・・・高嶋の子供はその件で人生の真理を悟ったと言われている。」

トレイジア「まあ、PCとかさ、スイッチを物理的に破壊されたらそりゃ、そうなるでしょ?でもね、いい大人がだよ?いい大人かどうかは分からないけど、遊んでたゲーム、全部から撤退なんて、普通ないでしょ?しかも、辞めるなら一言くらい言って辞めるのが礼儀じゃない?この前も話したけど。なんの連絡もなしにゲーム辞めるのよ。神隠し、行方不明なんて言われても、不思議じゃないでしょ?」

アリシア「言わんとしている事は分かるけど。」

瀬能「高嶋の件もありますから、一概に事件かどうかも分かりませんね」

トレイジア「・・・高嶋ちさ子から離れなさいよ!」




ジュウオウキ「ありがとうございました。ナックルズさんのおかげでビキナークエスト、攻略できました!」

シャドーダンサー「ホントですよ!ナックルズさん!僕達だけじゃ心許なかったんで。」

ナックルズ「そんな事ないぞ。俺はあくまで支援に徹しただけだ。クエスト攻略は君達の実力だ。」

ヴァーミリオン「そんな事ないです。ナックルズさんのおかげです。」

ジュウオウキ「じゃクエストで集めたアイテムを分配しよう。」

ナックルズ「俺はいい。報酬とアイテムは君達で分けろ。」

ヴァーミリオン「それはおかしいです。ナックルズさんの的確なアドバイスがあったから私達はクエストを成功させる事ができたんです。」

シャドーダンサー「ナックルズさんにしたら、必要ないアイテムかも知れませんけど、是非、受け取って下さい。売れば少しでもお金に換金できると思うんですが。」

ジュウオウキ「そうですよ。」

ナックルズ「いやいい。俺は、レベルの高いクエストを受注するよりも、新しい冒険者の育成に魅力を感じているだけなんだ。」

シャドーダンサー「そうなんですか。」

ナックルズ「確かに強いモンスターと戦うのも面白い。それはこのゲームの正しい在り方だと思うが、俺はそれよりも、プレイヤー同士の横の繋がり、ネットワークやコミュニケーションの方が本質だと気づいたんだ。」

ヴァーミリオン「あ!それは分かります!私もその通りだと思います。ただ敵を倒すって、違うと思うんです。何の為のオンラインで、世界中と繋がっているのだから、クエストを通して人と人が、ゲームで楽しむことがこのゲームの本当の面白さだと思うんです!」

ジュウオウキ「なんだかなぁ。そう言われてみればそういう気もするなぁ。」

シャドーダンサー「君は呑気だなぁ。」

ジュウオウキ「ユーザー同士で、共闘したり、対戦したり、それにランキングがあったり、確かに、一人で遊ぶよりも、はるかにユーザー間の横の繋がりを意識しているゲームだとは思うけどね。」

ヴァーミリオン「情報を共有したりしてね。初見殺しのトラップもあるし。プレイヤー同士の助け合いが鍵になったりすものね。・・・それにしてもナックルスズさんにお世話になりっ放しなのも、パーティとしては死活問題だけど。」

ナックルズ「だから俺は何もしてないって。」

ジュウオウキ「俺達の気持ちですから、アイテムだけは公平に、持って行って下さい。俺達の気も収まらないので。」

ナックルズ「わかった。わかった。それじゃあ遠慮なくもらうとしよう。・・・ま、また機会があれば、一緒にクエストをやろうじゃないか。」

シャドーダンサー「助かります!」

ジュウオウキ「是非その時はよろしくお願いします!」




ヤマナミ「カメレオンキッド?」

瀬能「知っていますか?」

ヤマナミ「教団の中堅神父だ。・・・なに?また、何か、企んでるわけ?」

瀬能「いいえぇ。」

ヤマナミ「叩けば、叩く程、ホコリが出てくる教団だ。今更、何が出てきても驚きはしないけど。」

瀬能「ちょっと面白い物を拾ってしまいましてね。そこにカメレオンキッドさんの名前があったから、どんな人物だろうと思って、聞いてみただけです。私、ファ教に知り合い、いないんで。」

ヤマナミ「そうかぁ?・・・教団に縁のないセノキョンに話すのもおかしいと思うけど、教団のライトナンバーズ。シルバースター、ヒットビット、レッドタン。その三人が騎士称号剥奪。俺と同じ、最末端の信者にまで格下げだそうだ。」

瀬能「へぇ。教団騎士って何千万人いる教徒のトップなんでしょ?そんな偉い人が何故、称号の剥奪なんて?」

ヤマナミ「剥奪の理由は単純明快。教団トップのファ様の護衛に失敗したからだ。話ししただろ?ファ様の教会再建行脚。その旅の途中で、賊にファ様が襲われた。只でさえファ様を危険に晒し。更に護衛団、数千人が殺された。それだけじゃない、その三人の騎士も殺されたんだ。奇跡的にファ様は無事だったが、事態を重く見た騎士団は、事後の鎮静化と責任を取らせる意味で、かの騎士三人の首を切ったんだ。」

瀬能「そんな事があったんですね。知らなかったわぁ。」

ヤマナミ「・・・お前、有名な話だぞ?」

瀬能「私が興味があるのは、カメレオンキッドさんです。」

ヤマナミ「とりわけ敬けんな神父ではないそうだけど、教団で中堅と言われる男だ、並みの奴じゃあない。」

瀬能「その、なんとか騎士さんとまではいかなくても、数千万人いるファ教の中堅ですものね。あははははははははははははははは。これは面白くなりそうですね。」




皇「見せてみろ。はぁ、mm、th、id。なんだこりゃ?」

瀬能「例のリストです。フロッピーに入れてた物の。」

皇「ファ教からいただいた、ってやつか。」

瀬能「これ、何だと思いますか?何かの用語か、略語。もしくは」

皇「クローズドサークルの隠語だろうな。自分達だけ分かればいいって、あれだ。

瀬能「自分達だけの言葉を作られてしまうと、秘匿性が高くなりますからね。他人が見た所で意味が分からなければゴミですから。」

皇「東京大学か防衛大学か、エニグマが置いてあったろ?」

瀬能「そんな骨董品。エニグマは実機がなくても既に理論的に解析されていますから、解読は可能ですよ。それに文字数は変わらないから、分かった所で二文字の言葉って、だいたい略称ですから、同じことです。」

皇「mmってミリメートル、th?、idはアイディ番号のことか?さっぱり、わけわかめ。」

瀬能「他にもkr、kp、cn、np、vn。jp。・・・jp?」

皇「jp?ドットjp?・・・ドットjp。jp。インターネットのドメインか?日本たばこ産業の可能性もある。」

瀬能「日本たばこ産業はjtです。」

皇「・・・jtか」

瀬能「jpっていうのは日本。mm?・・・まじむかつく?」

皇「お前だよ、まじむかつくのは。今、グーグル先生に聞いてみるから。えっと。mm、・・・・mmはミャンマーだ。th?、、、、thはインドネシア。idはタイ。」

瀬能「ビンゴじゃないですか!」

皇「国のドメイン名っぽいな。krは韓国、kpは北朝鮮、cnは中国。npはネパール。vnはベトナムで、jpは日本。」

瀬能「じゃあ、my、bd、in、rn、khは何処の国ですか?」

皇「杏子、お前、自分で調べろよ。」

瀬能「my・・・マレーシア。bdがバングラディシュ。inはインド。それからrnはおお、ロシア。khはカンボジア。これって何?」

皇「これが国名だって分かった所でなんだ?って話だよな。」

瀬能「国のドメイン名が複数あるんだから、ファ教の教徒リストでしょうか。どこからアクセスしているかっていう。」

皇「アクセスポイントか。そんなん知ってどうするんだよ?オンラインゲームじゃ何処の国からアクセスしたって行きつく先は同じだろ?」

瀬能「国によって布教率が違うとか。端的に言って、国ごとの信者数が分かります。過去、キリスト教が世界中に宣教師を派遣したのと同じ理屈です。信者がいないところに宣教師を送りつける手法なんじゃないですか?」

皇「確かにそういう見方も出来なくはない。杏子、これ、リスト、これだけか?」

瀬能「他にもありますけど、とりあえず開いていみたカメレンキッドという人のリストはこれだけです。」

皇「カメレオンキッド?・・・思ったんだけどさ、これ、国に偏りがないか?」

瀬能「偏りって言いますと?」

皇「地球儀!地球儀、みせてみろ!」

瀬能「月の玉しか持ってないです。」

皇「お前、バカだな。月球儀なんて持ってて何に使うんだよ?」

瀬能「いずれ月に住むときに、早めに住所、押さえておいた方がいいかなって思いまして。あと、ダークサイドムーンがどうなっているか気になって。」

皇「これ。月の裏側。・・・予想だろ?予想で適当に描いてあるだけだろ?誰も見た事ないのに。」

瀬能「いやいやいや、NASAが。」

皇「地図、地図、持ってこい。世界地図。・・・パンゲア大陸の地図とか持ってきたらぶっ飛ばすからな。」

瀬能「ピリ・レイスの地図もありますけど。はい、これ。今の世界地図。」

皇「おい、どうしてモルワイデ図法なんだよぉお!」

瀬能「なんかカッコイイし、NHKスペシャルで地図だといつもこれだったので。つい。」

皇「いいよ、もう、なんだって、地図なら。ほら、ここ、みてみろ。それからリスト。・・・リストに載っている国が、アジアに集中していないか?」

瀬能「ああ、確かに。言われてみれば。日本、中国、タイ、韓国、ベトナム。・・・アジア圏ですね。偶然でしょうか。」

皇「偶然なわけあるか。リストにしているって事は、意味があってリストにしているんだ。あのオンラインゲーム、別段、アジア圏だけで可動しているゲームじゃないだろ?」

瀬能「ええ。ワールドワイド、サテライトです。」

皇「世界中にユーザーがいて、こいつはアジア圏だけのリストを持っている。・・・アジア特任大使でもないだろうしな。」

瀬能「アジア専属宣教師。」

皇「ファ教って言うのは、現実世界の宗教以上に信者獲得に熱心なのか?・・・どっちにしろアジア圏に何かある。」

瀬能「何かって何でしょう。」

皇「知るか。」

瀬能「そんな殺生な、一緒に考えて下さいよ。」




瀬能「行方不明、とな?」

シュレッダー「ああ、そうなのよ。この管轄地域でも行方不明のプレイヤーが出て、ギルド本部のお達しで、冒険者の監視を行うことにしたんだって。」

瀬能「へぇ。」

シュレッダー「ま、受付やってるあたしには関係ない話だけどね。」

瀬能「冒険者ギルドも大変ですね。」

シュレッダー「そりゃそうよ。プレイヤーが突如いなくなるんだもん。大手ギルドの一つだから、放っておく訳にもいかないんでしょ?」

瀬能「でもそういうのって本来は、ゲームの運営会社が行うものなんじゃないんですか?」

シュレッダー「そこは知らないけど。」

瀬能「シュレッダーさんは呑気ですねぇ。」

シュレッダー「そういう話はプレイヤーじゃなくて、もっと上の、雲の上の人達が考える話でしょ。末端のプレイヤーであるあたし達には全く関係ない話じゃない。正直、ゲームがどうなろうとあたしには関係ないし。」

瀬能「そういう考え、私、好きです。やはりシュレッダーさんはシュレッダーさんですね。尊敬します。」

シュレッダー「褒めてる?」

瀬能「尊敬に値します。」

シュレッダー「それでね、冒険者ギルドは、プレイヤーの観点から、楽しく安全にゲームを遊ぶ事を目指しているから、そういう話には敏感なのよ。特に社会問題になっている話題には。実際、人が消えている事だし。ゲームの中だけって言うわけにもいかないんだろうね。」

瀬能「聞いた話だとこのゲームだけじゃなくて、他のオンラインゲームでも同様のプレイヤー行方不明事件が起きているそうです。」

シュレッダー「それじゃあ益々他人事じゃあ、ないじゃないの。」

瀬能「人が消えるなんて本当にあり得る話なんでしょうか?にわかに信じがたい話なんですが。」

シュレッダー「冒険者ギルドもどういう原因で人が消えるのか分からないし、対策の立てようもないから、警ら隊を組織して、冒険者に注意喚起して回っているけど、それくらいしか手立てはないわよね。上の人達も頭が痛い問題よ、きっと。」

瀬能「神隠し、行方不明、きな臭い言葉です。自分から消えるのか、誰かがさらっていくのか、事件なのか事故なのか謎は深まるばかりです。」

シュレッダー「どっちにしても早く解決して欲しいわ。人が消えるとかなんとかの所為で、煩雑なギルドの仕事が増える一方だし。」

瀬能「それはお気の毒です。」




大沢「あぁあ、はいはい、大沢です。どうも。ええ、報告なんですが、どうも、黛がアタリを引いたようで。ええ。はい。はい。そうなんです。ええ、インドネシアで。ええ、ええ、はい。はい。黛の奴には、行けと指示を出しておきました。まあ、たぶん、あいつは腰が引けているから行かないと思いますが。ええ。え?・・・ああ、ああ、はい。たぶん、割ると思います。あれ、だって、口が軽いじゃないですか。どう考えても、捕まったら軽くしゃべっちゃいますよ?ええ。しゃべられた所でどうにもならないと思いますけど。あ?あああ、あああ。なるほど。確かに、こっちで警戒はされるでしょうね。でも、下っ端の方じゃ、こっちの名前を聞いた所で、知らないでしょ?え?いやいやいや。俺、そんなに有名じゃありませんから。ホントですって。俺なんかチンピラに毛が生えた程度ですって。考えようによっては、黛が、一人で乗り込んで行って、名刺を置いて来るようなもんじゃないですか?向こうも、名前を憶えてくれる機会になれば、お互い、喧嘩にならないって言うか、融通し合える所は融通しあえると思うんですよ。要するに、国内で何かする時は、うちを通せと。マージンよこせ、と。そゆことです。反対の反対に、うちが海外で何かする時は筋を通させていただきますよ、って話なだけなんですよ。そうでしょ?え?あ、はい。はい。はい。・・・はい。あとは、黛次第でしょうか。たぶん行かないと思います。え?俺ですか?俺ぇ?俺、飛行機苦手なんですよ。向こうがこっちに来るんなら挨拶してやってもいいですけど、こっちから行くのは、違う人間を充ててもらえると助かります。俺、ほんと、飛行機だけはダメなんです。高い所、ダメなんですよ。いや、笑う所じゃないですよ。船なら行きますよ。船なら。何か月かかってもいいっていうなら、俺、行きますよ?ついでにマグロ、取ってきますから。いや、笑う所じゃないですよ。本気ですから。はい、お疲れええええええええ様でええええええええええす」




黛「ちょっくらゴメンよぉ」

ナガマサ「あ゛、あ、なんなんだ、おたくら?警備は?警備はどうした?・・・日本人!日本人か?」

黛「サモ、他に人間はいるか?」

サモ「イナイネ ミンナ グッスリ ネ」

ナガマサ「なんなんだよ!お前らぁはぁ!」

黛「そりゃこっちのセリフだ。おたく、えっと、えっと、えぇぇぇぇっと、面倒臭いなぁ。何ページだっけ?」

サモ「黛サン。ナガマサ、アサイ・ナガマサ。ここ、ここ。3ページ。」

黛「ナガマサさん?」

ナガマサ「だから何なんだよ?」

黛「いいか、質問しているのはこっち。おたくは答えればいいの。ナガマサさんか、ナガマサさんじゃないかだけ答えろ。」

ナガマサ「・・・」

黛「サモ、そのPC、やれ」

サモ「オーケー、オーケー、イッテイイヨ! ヤッテイイヨ!」

ダン!

ナガマサ「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

黛「おいおいおい。動くなよ、動くと鉄の棒が当たっちゃうよ?おい、サモ。全然、壊れてないじゃんか?もっと真剣にやれよ!ほら、俺みたいに」

ガァッァァァァァァァァァァン

マガマサ「おい、何してんだ、てめぇえええええええええええええ!」

サモ「テモト、クルッタネ コンド ハ シッカリ狙ウネ! イッテイイヨ! ヤッテイイヨ!」

ズダァァァン

ナガマサ「ちょっと待って、待ってくれ、やめて!やめて下さい!やめて、やめて、やめてぇええええええ!待って下さい。お願いします。すいません。すいません。すいません。すいません。すいません。本当に待って下さい。お願いします。お願いしますぅ。お願いします。お願いします。すいません。すいません。すいません。すいません。」

ズダン ガン バゴォオオオン ガン

黛「おたく、ナガマサさん?合ってる?」

ナガマサ「マガマサです。マガマサです。すいません。すいません。すいません。その通りですナガマサです。すいません、すいません。」

黛「別に謝らなくていいんだよ。サモ、その辺でいいよ。ハードディスク、回収できなくなっちゃうから。」

サモ「ワカッタヨ ユルセヨ」

黛「マガマサさん。俺達、なんでおたくの所に来たか分かる?」

ナガマサ「分かります。分かります。分かります。分かります。あの、金ですよね?日本でやった金の。」

黛「じゃあ、早く、出して。」

ナガマサ「僕、指示するだけなんで、僕、金は持ってないんです。本当です。本当です。すいません。すいません。すいません。本当です。すいません。本当です。嘘じゃないです!」

黛「じゃあさ。おたくの次の流れ先、教えてよ。」

ナガマサ「あの、えっと、」

黛「いいんだよ、いいんだよ、幾ら時間がかかったって。俺達、暇だから。待ってるから。まあ、でも、サモ。俺は日本語わかるけど、こっちのサモは日本語、得意じゃないからさ。日本語たまに通じない事があって、やっちゃう事もあるかも知れないわけよ。・・・言っておくけど、脅しじゃないからね。腕の一本でも使えなくしとくか?サモ?」

サモ「イッテイイヨ! ヤッテイイヨ!」

ナガマサ「あああああああああああああああああああああ!えええええええええええ!あの、あれです。銀行です。インドネシアの銀行に振り込むように指示を出していただけです。本当です。嘘じゃありません。本当です。待って下さい。これ、証拠です。これ、マニュアルです。このマニュアル通り、僕、言っただけです。本当です。信じて下さい。本当です。本当です。すいません。すいません。すいません。すいません。」

黛「・・・インドネシアの?」

ナガマサ「嘘じゃないです。嘘じゃありません。本当です。信じて下さい。本当です。」

黛「分かったから、分かったから。もう。」

サモ「アア、コレ、バラック ネ。黛サン、コノ ギンコウコウザ、バラックッポイネ マニュアル モ バラックノモノネ」

黛「バラック?なんでもう当たり、引くかなぁ。・・・ああ。クジ運、悪いなぁ。俺ぇ。・・・ナガマサさん。なに?バラックと取引してるわけ?」

ナガマサ「いいえ、いいえ、ちがいます、本当です、信じて下さい。本当です。何も知らないです。本当です。すいません。すいません。すいません。すいません。」

黛「だってさぁインドネシアに住んでて、バラック、知らないハズ無いじゃん。」

ナガマサ「あの、僕だってバラックは知ってますよ。ただ、バラックに関わっちゃいけないと思っているんで、直接、関わらない様にしてます!本当です、信じて下さい!」

黛「直接?」

ナガマサ「あの、僕に指示を出してくるコバヤカワさんっていう人がいるんですけど。コバヤカワさんは、バラックの中の人なんですけど、その人から、指示を貰って、やっているんです。コバヤカワさんの指示なんです。命令なんです。本当です。嘘じゃないです。」

黛「コバヤカワ?・・・でもナガマサさんもバラックの指示で動いているんならバラックの中の人じゃないの?普通に考えて。」

ナガマサ「いやいやいやいやいやいや、違います。違います。そこは違います。・・・ホントに僕は下請けなんで。僕みたいな下請けが幾人もいるみたいなんですよ。本当です。嘘じゃないです。コバヤカワさんは、僕みたいな人間を使って、金を集めているんです。本当です。本当です。」

黛「あ、そう。でも、あれでしょ?バラックにしてみたら金集めなんて、ぬるい方でしょ。金だけ集めてきてくれる日本人がいるんだから、バラックにしてみたら良いお客さんだよ。ナガマサさんも、良いマージンとかもらってるでしょ?金じゃなくても、換金すると高額になるクスリとかさ?」

ナガマサ「いいえ、いいえ、そんな事はありません。本当です。本当です。嘘じゃありません。僕はコバヤカワさんに言われた通りの事しかしていません。僕も命が惜しいので。バラックに必要以上に目をつけられたくないので。金だけ。必要な金だけもらっていて、後の事は何も知りません。本当です。本当です。すいません。すいません。すいません。」

黛「別にナガマサさんを責めてるわけじゃないから。話は変わるんだけど、俺も手ぶらじゃ日本に帰れないのよ?・・・ナガマサさん、俺にお土産、何か恵んでくれないかなぁ?できればかさばらないで済む物がいいんだけど。」

ナガマサ「あ?あ、はい。はい。只今、いますぐ。いますぐ!あの、これです。これです。これで勘弁して下さい。すいません。すいません。すいません。すいません。」

黛「・・カード?」

ナガマサ「ええ。あの、僕の銀行のカードです。これに全部入ってます。・・・あの、よろしかったらどうぞ?お持ちになって下さい。」

黛「いいの?もらっちゃって?」

ナガマサ「あの、ええ。どうぞ。そんなものでよければ。どうぞ。遠慮なく。はい。」

黛「あ、そう。じゃあ、遠慮なくもらっておくけど。あのさぁ、ナガマサさん。・・・パスポートある?パスポート。」

ナガマサ「パスポート?・・・僕のですか?」

黛「他に誰がいるの?一応、預かっておくからさ、出してくれない?」

ナガマサ「あの、あの、それは?」

黛「ナガマサさん。・・・俺もさ、遊びでこんなインドネシアの端っこ迄、来ているわけじゃあないんだよ?わざわざ日本から、おくた等が横取りした金を、こうやって取りに来てるわけ。本来ならおたく等が、返しにくるのが筋なんだよ?おわかり?逃げても、逃げられないのよ。分かるでしょ?警察だったら此処まで取りに来る事もないけど、俺達、警察じゃないからさ、優しくないのよ?俺も命令で金を取り返してこいって言われたら、何処までも行かなくちゃいけないんだわ。下っ端だから。ああ、日本じゃ、相当、おかんむりよ?日本って、海外は知らないけど、メンツ、気にする人、多いじゃん?おたくら、そういう人達のメンツ、綺麗にツブした訳だからさぁ。ま、俺は下っ端だから関係ないけど。」

ナガマサ「・・・」

黛「俺は金さえ回収できれば、それでオーケーなのよ。おたくがどうなろうと、さ。一応、こっちにいる間、おたくが飛ばない様に、パスポートだけ預かっておくわ。俺、帰る時に返すから。ほら、ナガマサさん。おたくのパスポート。出して。」

サモ「ナガマササン ワルイ コト イワナイ ハヤク ダセ」

黛「おたくが、どれだけ貯め込んでんのかは知らないけど、バラックに目ぇつけられても逃げられるだけのタマはあるんだろ?そこら辺は見逃しておいてやるわ。」

サモ「ナガマササン ブジ イノッテル ヨ。デモ、バラック コワイヨ。アジアイチ サイアク ノ マフィア ネ。」




ジュウオウキ「え?ヴァーミリオンと連絡がつかない?」

シャドーダンサー「ああ。まったく音信不通だ。」

ジュウオウキ「困るだろ?うちの回復役、ヴァーミリオン頼みなのに。ええ?」

シャドーダンサー「そう言われても、連絡がつかないんだから仕方がないだろ?メッセージ送っても返ってこないし、そもそもログインしているかどうかも怪しいところだ。」

ジュウオウキ「うぅう。そうなのか。・・・でも、連絡がつかないんじゃどうしようもないしな。クエストだって受けて、俺達もレベルアップしていきたいし。」

シャドーダンサー「ヴァーミリオンともパーティを組んでいるんだから、彼女を無下に出来ないだろう?いくら連絡がつかないからと言って。」

ジュウオウキ「確かに。それも一理ある。パーティを組んだ手前、仲間外れは度し難い。」

シャドーダンサー「そうだろう。」

ジュウオウキ「シャドーダンサーよ。冷静になって考えてみろ?連絡が取れないって、結構、異常事態なんじゃないか?こんなゲームでも、パーティを組んでいるんだ、用があればメッセージの一つも送るのが礼儀なんじゃないか?」

シャドーダンサー「ジュウオウキ、お前、まともな事、言えるんだな。」

ジュウオウキ「失敬だな、君は」

シャドーダンサー「仮にだ。ヴァーミリオンの中で、ゲームより大事な事があれば、それは優先する事もあるだろう?俺ならそうする。」

ジュウオウキ「本当に失礼な奴だな、君は」

シャドーダンサー「俺の中ではゲームはそんなもんだ。」

ジュウオウキ「確かに。・・・俺もヴァイオリンの発表会があったらそっちを優先しちゃうけどな。」

シャドーダンサー「え?ジュウオウキ、お前、ヴァイオリン、弾けるのか?」

ジュウオウキ「え?ああ。今、習っているところだ。ママが携帯ゲーム機を真っ二つに折ったから、やる事と言えば、このゲームかヴァイオリンの練習しかないんだ。」

シャドーダンサー「ママ?真っ二つ?」

ジュウオウキ「え?何かおかしな事、言ったか?」




ナックルズ「久しぶりだな、お前達。」

アリシア「ナックルズさん。お久しぶり。」

トレイジア「どうも。」

マニやん「音速の変態のお出ましか。」

ナックルズ「誰が音速の変態だ!」

瀬能「いや、音速の裸体ですよ。鎧、壊されて、裸になって、敵陣を駆け抜けた様は、まさに武人。いや裸人!魔界村も真っ青です。」

トレイジア「だから裸人ってなによ?」

ナックルズ「相変わらず、無駄口だけは一人前の奴等だな。それにしても、まだ、序盤のクエストに手こずっているのか?」

アリシア「まぁそんな所です。私達は私達のペースでやっているんで。」

マニやん「おい、ナックルズ!お前が途中で離脱したから、こんな事になっているんだぞ!わかってんのか!テメェ!」

アリシア「マニやん、落ち着いて。」

トレイジア「マニやんの言いたい事も分かるわ。よく顔が出せたわね!あんた、噂は聞いてるわよ。いろんなパーティにちょっかい出して、上がりの良いクエストやってレベル上げしてるって。そりゃ強くもなるわよ。一緒に戦えば連座で経験値貰えるんだから。」

ナックルズ「戦い方も、キャラクターの成長の仕方も、すべて自由なはずだ。最初からずっと同じパーティで強くなるもよし、俺みたいに、クエスト毎にパーティを変えてアタックしてもよし、更に言えば、一人で冒険してもそれは構わないシステムになっている。本当にこのゲームは素晴らしい。まるで現実世界の様に開かれているのだからな。」

マニやん「お前みたいのは、ハイエナ野郎って言うんだよ」

トレイジア「・・・逃げるのも自由かも知れないけど、一回、パーティを組んだ仲間を置いて逃げるって、それ、あり得ないから。」

マニやん「裸だって何だって生きてれば、一人で経験値とアイテムを全部、持っていけるんだもんな。音速の変態さんよぉ?」

ナックルズ「なんとでも言え。俺は速さにパラメータを注ぎ込んでいるんだ。それも生きる術の一つだろ?何の問題も無い。」

マニやん「もうちょっと仲間思いの奴かと思ってたけど、やっぱり、ハイエナ野郎はハイエナ野郎だな。」

ナックルズ「まあ待て。俺はお前達と争いに来たのではない。・・・有益な話を持って来たんだ。」

トレイジア「なにそれ、有益な話って。」

ナックルズ「お前達、ゲームばかりして遊んでいるが、金はどうしてる?」

瀬能「お金ですか?」

アリシア「現実の話?」

ナックルズ「そうだ。現実の金の話だ。お前達だって金があれば、マシンの性能を上げる事も出来るし、最新のゲーム機を買う事もできる。インフラだって整える事も出来る。むしろゲームは、マシンの性能より環境の方が、中身を左右すると言っていい。」

瀬能「それは言えています。」

ナックルズ「コントローラー、キーボード。マウスの類だって、千円の玩具から、数万円のものまで大差がある。よい物は高いのだ。それに部屋の環境だってそうだ。エアコン、空気清浄機、光源。デスク、チェア、ふとん、座布団、拘れば拘るだけ金はかかる。お前達に言っても仕方がないが、世界のトップランナーはそういう些細な事を積み重ねる事で、数億という金を得ているんだ。ゲームの世界も金が金を呼ぶ。それが現実だ。」

マニやん「お前、現実でもハイエナ野郎なのか?反吐がでるぜ。」

ナックルズ「まあいい。・・・俺が言いたいのは、俺について来れば、儲けさせてやる。俺とお前達の仲だから特別だ。一緒に、チンケなスライムに逃げまどって戦った仲間だからな。」

瀬能「ナックルズさん。お金、くれるんですか?」

トレイジア「それ、このゲームの中の話よね?」

ナックルズ「いや、そうではない。リアルな話だ。・・・俺、一人では捌ききれない仕事の案件があってだな。それを手伝って欲しい。業績によって報酬を分けてやる。頑張れば頑張った分だけ高い報酬を用意しよう。ゲームと一緒でシンプルな考え方だろう?」

マニやん「偉そうに!」

瀬能「偉いんだから仕方がないじゃないですか。お金、くれるって言うし。」

マニやん「お前は黙ってろ、バカ!」

瀬能「はぁああああああ?バカはどっちですかカバ?」

マニやん「カバにカバって言って何が悪いんだ?カバかお前は?」

トレイジア「カバにカバって言ってもいいと思うよ?」

アリシア「・・・どんな仕事内容か分からないけど、私達だって、普段の生活があるわ。仕事だって当然しているし。それこそナックルズさんの言う通り、昔のよしみで、お仕事を手伝える所は手伝ってあげてもいいけど。」

ナックルズ「まあ、そうだな。・・・気が向いたら俺に連絡をくれればいい。なかなか結構な案件でね。人手が足りないのは本当だ。」

トレイジア「こっちも戦士が足りないんだから、協力する気になったら、協力しなさいよ?」

マニやん「バカかトレイジア?こんな奴、こっちから願い下げだ。」

ナックルズ「口だけは減らない奴だ。・・・考えておいてやってもいい。俺は優しいからな。」

瀬能「私はお金だけくれれば、それでいいです。」

アリシア「・・・セノキョンさぁ、ちょっとは遠慮しようよ。こんな奴でも。」




シュレッダー「え?」

ジュウオウキ「だから、行方不明の捜索をお願いしたいんですよ。」

シュレッダー「ああ、またぁ?」

ジュウオウキ「またってどういう事ですか?」

シュレッダー「だから、プレイヤーが行方不明になる事件が多発しているの。あのね、ギルドだって注意喚起してんでしょ?見た?張り紙。クエスト受注の掲示板にも、入口にも、壁にも、ほら、至るところに張り紙、貼ってあるでしょ?あんた達、見てないの?」

シャドーダンサー「・・・気が付かなかった。」

ジュウオウキ「そうだな。宿屋で話には聞いたけど。実際、自分達のパーティから行方不明者が出るとは思わなかったからな。」

シュレッダー「みんな、そう言うのよ。あそこ、見て、あそこ。」

シャドーダンサー「クエストの隣ですか?」

シュレッダー「そう。みんな行方不明者の情報提供を呼び掛けるビラ。」

ジュウオウキ「あれ、全部ですか?」

シュレッダー「全部よ、全部。まったく呆れちゃう話よね。ドラゴンとか凶悪魔法使いを倒すはずのゲームが、いつの間にか、行方知れずの人を探す依頼ばっかり。・・・平和は何処いっちゃったのよ?ああ、そうだ。コレ、書いて。探している人?パーティ?パーティの人だったらここに丸、つけて。そう。でさぁ、人探しの情報が欲しいんでしょ?」

ジュウオウキ「はい、そうです。」

シュレッダー「懸賞金っていうの?」

シャドーダンサー「お金、かかるんですか?」

シュレッダー「ほら、懸賞金をかけた方が情報は集まってくるのよね。世の中、善人ばっかりじゃないからねぇ。でもね、懸賞金をかけたからと言って、情報が集まるとは限らない。も一回、見てみなさいよ、あれだけ人を探している人がいるのよ?運が良ければ、誰かが情報をくれるかも知れない。タダより少しでもチップをあげた方が、情報提供する方も気分がいいじゃない?」

シャドーダンサー「相場は?」

シュレッダー「百セーンくらいが相場。」

ジュウオウキ「それで、どれ位、情報が集まってくるんですか?」

シュレッダー「やれやれよ。ほとんど無いわよ。・・・いっとくけど、ここ、ゲームの世界の話だからね。本当に人を探すなら、現実に戻って、本物の警察に相談した方がいいわよ。あたしに言わせれば、ゲームの世界と現実の世界とごっちゃになってない?って思うけど。ま、これ、私の仕事だからこれ以上は何も言えないけど。」

シャドーダンサー「ジュウオウキ、だからと言って、仲間を放っておくわけにもいくまい。何かしら情報が得られるならそれも良しだ。」

ジュウオウキ「そうだな。じゃあ、あの、これ。懸賞金、百五十セーン。」

シュレッダー「・・・受領するけど、期待しない方がいいわよ?あと、フィールドに冒険者ギルドの警ら隊がいると思うから、会ったら、情報交換しなさい。ギルド支部に入る前の早い情報、くれるから。」

ジュウオウキ「ありがとう。そうするよ。」




コバヤカワ「あ゛あ゛あ゛あ゛ヤロウ、電話に出やしねぇ!クソォオオオオオオオオオオあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

あ、すいません。すいません。申し訳ありません。大きな声、出しちゃって。あの、使っていたナガマサって奴が消えまして。ええ。そうなんです。消えまして。あ、今、考えています。

そこはご心配いりません。ナガマサに任せている金の回収はほとんど終わっていますから。ええ。あ、はい。すいません。100%じゃないです。仕事、幾つか、回してあるんで、その分の回収は終わっていません。ええ。ええ。はい。ああ、なるべく100%回収します。あ、いえ、なるべくじゃなく、全部、完全に、100%回収します。はい。そこら辺は任せて下さい。間違いなく回収します。

だいたいいる場所は分かっているので。ええ。行って。

そうですね。ホテルとかそっちも探させます。はい。日本人が行きそうな所は限りがありますから。最悪、空港で張っていれば、出て来るでしょ。金は必ず回収します。はい。すいません。すいません。すいません。はい。よろしくお願いします。」




カメオンキッド「さあ、敬けんな信徒諸君、共に祈るのだ。」

信徒「はい」「はい」「ええ」「はい」「仰せの通りに」「はい」

カメレオンキッド「ファ様は言った。正義なき正義は正義ではないと。我々はファ様の言葉を胸にしまい、ファ様と共にあることを知るのだ。我々は一人ではない。仲間がいる、そして、なにより、ファ様がいて下さるのだ。ファ様こそ真理。ファ様こそ世界の真理だ。聞け!信徒諸君。ファ様はこれまで、歴史上、誰も成し遂げられなかった教義による世界の統一を果たされた。見よ、現実世界では戦争、貧困、差別!どこに正義があるのか!どこにも正義はない!我々はファ様を通じて世界に新たな秩序をもたらす者だ。ファ様が望む真なる世界を。そう、すべてはファ様の為に!」

信徒「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」


テラドライブ「盛況だなカメレオンキッド。」

カメレオンキッド「これはまた司教殿がお見えになるとは。」

テラドライブ「なに新興勢力を偵察するのは管理職としては当然の行為だとは思うがね?」

カメレオンキッド「へぇへ。・・・ですが、俺があんたに就くとは思わない方がいいんじゃないんですか?」

テラドライブ「まあ別に私はお前と組むつもりはない。だが、お互いに仲良くするのは、悪い事じゃないだろう?・・・ファ様もそうおっしゃっておられる。」

カメレオンキッド「俺は未だに、遠目からしか本物のファ様を拝んだことがないんでね。ただファ様っていうのが実在しているのは知っている。ただの偶像じゃねぇって事は確かだ。」

テラドライブ「私ですらお目にかかれたのは数回しかない。教団内であっても壁は厚いという事だ。時には助け合いも必要だろう。・・・私は手柄が欲しいわけではない。お前の手柄を横取りするほど野暮じゃないんでね。」

カメレオンキッド「・・・そうですか。なら何が望みで?」

テラドライブ「壁を乗り越える事だ。教団幹部の壁の厚さはお前も分かるだろ?少しでも幹部に顔を知ってもらわないと出世できないからな。」

カメレオンキッド「左様でござんすか。俺の商売の邪魔をしなければ何でもいいですけど。・・・それにしたって幹部クラスも揉めてるって話でしょうに。天下無敵の騎士様がやられて称号の剥奪。没落したんだろ?」

テラドライブ「その通りだ。シルバースター、レッドタン、ヒットビットの三騎士だ。・・・今は席が三つも空いている。どうだ?私がその椅子に座れるように力を貸してくれないか?」

カメレオンキッド「おたくみたいに堂々と腹ん中、さらす奴は初めてだ。くくくく。俺の商売の邪魔にならないように、コバエ共を追い払ってくれるならいいぜ?年がら年中、先輩面した神父やら司教どもがやってくる。ちょっと痛い目あわせりゃ二度と面ぁ出さねぇが、いちいち相手するのも面倒なんでね。どうだい、用心棒やってみるかい?」

テラドライブ「交渉成立だな。」




サモ「黛サン、イッタン ジャカルタ アタリ モドッタホウガ イイト オモウ ガ?」

黛「どうして?」

サモ「ヤッパリ 黛サン バカダネ」

黛「バカは昔からだからいいけど、どうして?」

サモ「バカッテ イッテ オコラナイ ニンゲン、黛サン クライネ ホント ノ バカダネ」

黛「だからサモ!俺は昔からバカなのは自分で分かっているから、そういう話はいいんだよ。バカにバカって言ったって本当の事だろ?ハゲにハゲって言っても本当だし、チビにチビって言っても本当だし、女にブスって言ったらキレられるけど、それ以外はだいたい嘘じゃねぇんだから、怒る話じゃないだろ?インドネシア人っていうのはバカなのか?」

サモ「黛サン、アナタ、オシャカサマ ネ。オシャカサマ ノ ウマレカワリ ネ」

黛「拝むなよ?本題だよ、本題。サモ。どうしてジャカルタに行くんだよ?」

サモ「バラック ニ 関ワッタカラネ。トウゼン、ナガマササン バラック ニ 泣キツクネ。報復ネ。イナカジャ ニホンジン スグ バレル。ジャカルタ ナラ マダ日本人 イッパイ居ル。マダ カクレル。」

黛「なるほどね。」

サモ「バラック 目ヲツケラレタラ シヌ。バラック、軍、警察 ト ヅブヅブ ネ。」

黛「え?」

サモ「シラナカッタ カ?」

黛「あいつ等、戦争以外はなんでもやるって聞いてたけど、軍も警察も手懐けてんのか?」

サモ「ソリャソウネ。バラック ノ アジト 警護シテルノ 本物ノアーミーネ。アイツラ、ツカマラナイ ノハ 警察ガ グル ダカラ ネ。」

黛「せめて警察ぐらいは、イイモンであってくれよ。」

サモ「ソレハ日本ノ教育ガ? イヤ、チアン? 法律ガ ヨイダケネ。ココジャ 法律ガ 守ッテクレルモノハナニモ無イ。命マモル モノハ コレ ネ。」

黛「マネー、マネーか。お安いお命だことで。」

サモ「炭酸ソーダ。・・・近隣アジア圏カラ人ガ集メラレル。誘拐、詐欺、泥棒、強盗、ナンデモヤラサレル。ツカエナクナッタラ、健康ナ人間ハ臓器売買。顔ノイイ人間ハ人身売買。ココデハ豚ノ命ヨリ人間ノ命ノ方ガ安イノサ。」

黛「またぁ怖いところに来ちまったなぁ。・・・ハズレだよ。大ハズレ。」

サモ「黛サン、シンパイ スンナ。モラッタ カネノブンハ 命 マモッテヤル。」

黛「サモ。お前いい奴だな。いくら小さいマフィアとは言え、見ず知らずの日本人に、ここまで親身になってくれるなんて。」

サモ「商売デ日本ノ販売ルートヲ開拓シテモラッタ義理ガアルト ボスガ 言ッテタ ネ。黛サン死ンダラ、ウチノ販売ルートガナクナッテシマウカラ 重要警護対象者ネ。」

黛「ああ。なるほど。そういう事ね。あああああ。なるほど。俺の命も軽いんだな。俺の命よりマフィア同士の契約の方が上か。」

サモ「ソンナトコロ ネ。」




皇「それって人身売買じゃないですか?」

額賀「人聞きが悪いな。向こうで保護して、日本に連れて帰ってきたの。邦人の救済活動ボランディアさ。」

皇「額賀さんとこ、そんな国際救助隊みたいな善良な活動してましたっけ?」

額賀「成り行きって怖いよね。物乞いかと思ったら若い女の子で、しかも日本人だったんだってさ。オーナーも驚いたって聞いたよ。・・・ジュジュさん。こっちこっち!ほら、ジュジュさん。こちらのお客さんにお注ぎして。」

ジュジュ「はじめまして。ジュジュです。場違いで申し訳ありませんが今、勉強中なんです。よろしくお願いします。」

皇「ホストクラブに、ホステス?・・・大丈夫なんですか?」

額賀「いま話したインドネシアで保護した子だよ。いきなり女の子の世界に入れても、揉まれてしまうだけだから、一旦ここで預かって、勉強させているんだ。・・・僕は雇われだから、オーナーに言われたら言われた通りにするだけだから。ね。」

皇「ジュジュさん。大変でしたね。」

ジュジュ「いえ。あの時、助けてもらわなかったら今頃どうなっていたか。オーナーさん達には感謝してもしきれません。こんな事でご恩返しができるなら安いものです。」

皇「ああ。そうですよね。」

額賀「ジュジュさん。ホリデーなんだっけ?数年、働けるビザで海外に行ってたら、向こうの日本人に騙されて。」

皇「騙されて?」

額賀「そう。仕事を斡旋するって言って騙されて、ついていったら、マフィア。」

皇「マフィア?・・・え?」

ジュジュ「ええ。人身売買するマフィアで。・・・日本人の女は高く売れるらしくって。私の他にも、ワーキングホリデーで来ていた女の子が同じ様に、捕まってて。・・・怖かったです。」

皇「あの、・・・額賀さん?」

額賀「?」

皇「こんな、ろくに繁盛もしていないホストクラブで話していていい話じゃないと思うんですけど?」

額賀「えぇええ?瑠思亜ちゃん。繁盛してないっていうのは酷いなぁ。」

ジュジュ「そうですよ。」

皇「いやいやいやいやいやいやいや。うちの特殊入浴店の方がお客、いますよ?」

額賀「そうなの?瑠思亜ちゃんとこのお店、常連客ばっかりじゃない。半分、家族みたいなもんじゃない?」

皇「・・・裸の付き合いですからね。うちは健全なソープですから素股のお付き合いです。」

ジュジュ「お客さん。面白いですね。」

額賀「ジュジュさん。この人は特別。よく覚えておいてね。上得意のお客様だから。このお客さんのボスがうちのオーナーと懇意でね。良くしてもらっているんだよ。」

ジュジュ「ああ。なるほど。お世話になります。」

額賀「まぁそれで、ジュジュさんは、インドネシアの方に売り飛ばされそうになったんだけど、運良く、大麻の密売捜査が入ってね。一斉摘発、一斉検挙!凄かったらしいよ。バンバンバ~ンって!」

ジュジュ「初めて拳銃で撃たれている人、見ました。たぶん死んでたと思います。」

皇「うわぁ。それは凄惨な場面に出くわしましたねぇ。」

額賀「人身売買もするし、違法薬物の売買はするし、聞いただけでもこっちとやる事全部、規模が違うから、凄いと思うよ。向こうは。」

ジュジュ「軍警察の検挙が入った時、何人かで逃げ出して、フラフラしている所を、ここのオーナーさんに助けてもらいまして、現在に至ります。」

皇「あのぉ、基本的な質問なんですけど、そのまま警察に保護されていれば、すんなり日本に帰って来られたんじゃないんですか?」

額賀「そう思うよね?」

ジュジュ「オーナーさん、多方に顔が利く方で、法的にグレーな所を交渉してくださって、無事に日本に帰る事が出来たんです。後から聞いたんですけど、違法な薬物を検挙した軍警察もマフィアとそんなに変わらなくて、勢力争いをしていたに過ぎなかったそうです。」

額賀「警察がマフィアと権力抗争するんだよ?どんな世界だよ?・・・奪い取ったその大麻だって何処に行くか分かったもんじゃありゃしない。」

皇「・・・ああ、分かりました。ああ、そういう事ですか。それで、オーナーさんは、遊びか仕事か存じ上げませんが、ひょんな所で同胞と会って、身請けをしたと。いきさつは察しますが。」

額賀「そんな所だね。人身売買なんて人聞きが悪い事、言わないでよ。うちのオーナー。」

皇「それは大変、軽率な事を言ってしまいまして。申し訳ありませんでした。」

ジュジュ「いえ、いいんですよ。」

皇「ジュジュさんは水商売初めてなんですか?」

ジュジュ「接客は初めてではないんですが、水商売は初めてです。これでも、海外の要人をもてなす仕事をしていましたから。やっていた事はほとんど水商売のホステスさんと変わらなかったですけどね。はははははははははははは。」

皇「・・・そうなんですね。あれですか?ジュジュさん、もともとお勤めだったのは、霞が関とか永田町の方ですか?」

ジュジュ「どうして分かるんですか?・・・凄い。お客さん、凄い。」

額賀「凄いんだよ、瑠思亜ちゃんは。」

皇「そりゃあ、どんな手を使っても欲しい逸材ですよ。真の価値が分からない人間には、只の売女にしか使い道がありませんが、その実、外国の要人とパイプを持っているエリートだとは思いもよらないでしょうからね。ひひひひひひひひひひひひひひ。オーナーさんは実に運がいい。」

額賀「僕もそう思うよ。」




シュレッダー「警ら隊が特に注意しているのが、初心者パーティにくっついている冒険者。」

瀬能「初心者パーティに?」

シュレッダー「そうよ。冒険者ギルドもこれだけ被害者?っていうの、なんていうの、行方不明の事件が問題視されているから、動かないわけにいかないじゃない?」

瀬能「その通りですね。」

シュレッダー「ほら、そこ、見て。壁。いっぱい紙、貼ってあるでしょ?あれ、全部、行方不明者の捜索願い。情報求ム、って奴。」

瀬能「いっぱいですね。」

シュレッダー「本部はそれを精査してみたところ、面白い共通点を見つけたのよ。その共通点が、なんと、初心者パーティ!」

瀬能「これ全部、初心者パーティですか?それはちょっと無理があるんじゃ?」

シュレッダー「まあまあ、いいから。聞いて。初心者パーティから人が消えてるじゃない?それで本部は初心者パーティを中心に監視を行ったのよ。そうしたら何故か、初心者パーティに貼りつく冒険者の存在に気付いたってわけ!」

瀬能「初心者パーティに貼りつく冒険者?ですか。」

シュレッダー「ほら、あれよ。ゴルフ練習場にいる、なんちゃってレッスンおじさん。初心者にあれこれ、言う、レッスンおじさんいるでしょ?あんな感じよ。初心者パーティにくっついて、ああだ、こうだ、手取り足取り腰取り、口出しするのよ!自分は中堅の、そこそこのベテランだから。」

瀬能「一番厄介な人種ですね。」

シュレッダー「そうなの。気が弱いゲームを始めたばかりの初心者は、何も言えないじゃない?それで初期のクエストを一緒にやって、自分で育てている感覚になって、それが快感らしいのよ。始末に悪いでしょ?」

瀬能「ああ。思いっきり心当たりがあります。・・・今、ご厄介になっているパーティに、そういう人がいまして、最初は私達パーティよりレベルが上だから、頼りになる存在じゃないですか。ある程度、私達が強くなると、始末に負えないのか、なかなか顔を出さなくなってしまったんですよね。」

シュレッダー「セノキョンだけだって始末に悪いじゃない?」

瀬能「私だけじゃないですよ、みんなクセが強いプレイヤーばっかりですよ。うちのパーティは。おまけに、そいつ。ナックルズと言うんですが、私達が全滅すると、経験値とお宝を持って、逃亡するんです。まるで私達が全滅するのを待っているみたいに。だから嫌われちゃって。」

シュレッダー「・・・凄いな。うぅううん。人間としてどうかと思うけど。」

瀬能「味方殺しと名高いシュレッダーさんだって、同じ事しているんじゃないんですか?」

シュレッダー「失礼ね!あたしは、味方殺しって言われて疫病神あつかいされているけど、義理は通す方よ!裏切りは許さない!故に裏切りはしない。どう?真理でしょ?」

瀬能「・・・まあ別にシュレッダーさんに裏切られた所で私は痛くも痒くもないですから。私の方が強いですし。」

シュレッダー「はああああああああああああああああああああ?」

瀬能「事実を言ったまで、ですが。」

シュレッダー「なに?セノキョン、やる?勝負する?ねぇ?どうするの?やる?やんの?」

瀬能「ああああ、ああああ。シュレッダーさん。ほら、ギルドの受付、やんないと。ほら、仕事、仕事。・・・私、いつでも相手になりますから、まずは定時までアルバイトしないと、またクビになっちゃいますよ。」

シュレッダー「うるさいな!うるさいな!わかってる、わかってるわよぉおおおお!もう全部、お金がないのが悪いのよおおおおお!お金があれば、こんな地味なアルバイト、しないのにぃいいいいいいい!あああああああ、もう、嫌んになるぅううううううう!」

瀬能「それで、初心者パーティを警護しているんですね、冒険者ギルドが。」

シュレッダー「そうよ。そう。・・・あたし、関係ないし。どうでもいいし、そんな事。」

瀬能「そうかも知れないですけど、ねぇ。・・・そうだ、シュレッダーさん。これいります?レアアイテム、ヤツメウナギのドロップ。HPの最大量が増えるんです。夜も眠れなくなるようですが。興奮して。」

シュレッダー「ああ、なんでももらっておくわ。暇だし。それでさ、リスターって奴が逃げたらしいのよ。警ら隊に見つかって。」

瀬能「その初心者パーティと一緒にいた中堅冒険者?」

シュレッダー「そう。・・・警ら隊の話だと、そのパーティに何か勧誘してたらしいわよ?儲かる話があるから、乗らないか?って。」

瀬能「儲かる話?」

シュレッダー「そう。な~んか、具体性にかける話よね?今時、儲かるとか言っちゃってさ。」

瀬能「私、その話、聞いたばかりです!・・・先日、その冒険者が私達のパーティに来て同じことを言いました。儲かる話があるって!」

シュレッダー「なになになになに!・・・面白い話じゃない!俄然、興味が出て来たわ!」

瀬能「確実に同じ手口です。」

シュレッダー「よぉおおおし!手配だ、手配だ、手配書だ!そいつを捕まえて、ギッタンギッタンにして吐かせてやる!名前は何だっけ?」

瀬能「ナックルズです。」




ヤマナミ「カメレオンキッドは清都にはいないんだ。清都は偽清教でも特権階級の奴等だけしか滞在が許されていない。」

瀬能「この時代、カースト制ですか。」

ヤマナミ「似たようなもんだ。ファ様と、最高幹部の騎士団。加えて、準幹部の司教。騎士っていうのはファ様を頂点としファ様を護衛すると同時に、偽清教の最高意思決定機関。教徒の表に出るライトメンバーズと、表に出てこない、よごれ仕事を司るレフトメンバーズに分かれている。好戦的で始末に悪いのがレフトメンバーズだ。だからと言ってライトメンバーズがレフトメンバーズに戦力で劣ることはない。そして、教徒の管理、運営、布教を行うのが司教だ。教団の実働部隊と言っていいい。司教長を中心に、各地域のエリア長、ブロック長。その下に幾人もの一般司教、神父が、何千何万人の偽清教教徒を束ねている。それはそれは強固なんだ、偽清教って奴は。」

瀬能「清都っていうのは、ファ教の中枢って事ですね。」

ヤマナミ「そう。ファ教の総本山だ。俺みたいな一般の下っ端教徒でも、礼拝に行くことは出来る。だから巡礼教徒でいつも清都は賑わっているんだ。」

瀬能「そういう事なんですね。その気になれば、清都に入る事は可能であると。それで、一番重要なカメレオンキッドは何処にいるか、ヤマナミさんはご存知ですか?」

ヤマナミ「砂漠に近い都市にいるって聞いた事がある。その都市の中に、バラックっていう礼拝堂にいるっていう噂だ。」

瀬能「バラック?」

ヤマナミ「バラックはそれ一つで町一個分ぐらいある巨大な礼拝堂で、言ってしまえば要塞だ。カメレオンキッドが住まう要塞と考えて良いだろう。」

瀬能「お城の王さまってことですか?」

ヤマナミ「セノキョン、気を付けろよ。カメレオンキッドは只の神父じゃない。実力で、のし上がって来た。伊達に数千万人いる教団で、中堅まで登って来たんだ、舐めてかかると痛い目に合うぞ。有名な話だが、奴の強さの秘密は変身にある。」

瀬能「変身するんですか?」

ヤマナミ「カメレオンキッドは複数の形態に変身して戦うんだ。変身によって能力も変化する。カメレオンキッドが変身して戦うなんて皆、知っている。でも、勝てない。何故なら、奴が強いからだ。分かっていても太刀打ちする事ができないんだ。」

瀬能「状況に応じて戦術を変える。まさにカメレオン、カメレオンキッドですね。もしくはロックマンかカービーか。」

ヤマナミ「変身するなんて反則以外の何物でもないけどな。」

瀬能「それは言えてますね。こっちも変身するしかないですかね。変身して戦うのは乙女のポリシーですから。」




皇「誘拐っていうのかな?自発的にいなくなるって誘拐って言うのか?」

瀬能「自発的にいなくなるのなら、家出とか蒸発とか、そういう言葉になると思いますが、言葉の定義より、海外の犯罪者に捕まっちゃう時点で、誘拐でしょうね。騙して、連れて行くのは、すべからず誘拐だと思います。」

皇「そういうのが多いらしい。外国で、まず日本人が接触してくる。外国で邦人と会うと何故か、親しくもないのに警戒感が薄れて、騙されるんだそうだ。儲け話とか、邦人同士の懇親会があるとか言って誘いだして、着いていった先は、人身売買の犯罪組織。向こうにしてみりゃ、カモがネギしょって歩いているようなもんらしい。」

瀬能「そんな簡単に騙されるんですか?」

皇「どこにいても、金に困っている奴、タガが外れちゃってる奴、ざらにいるらしい。」

瀬能「へぇ。瑠思亜、見てきたように話しますね。」

皇「ああ。実体験の人から直接、聞いたんだ。リアリティがあるだろ?」

瀬能「・・・なんて言ったらいいか分かりませんけど、命があって良かったですね、その人。」

皇「その人は運が良かっただけだとは思うけどな。なんでも、日本人は高く売れるらしいぞ。」

瀬能「そんな手塚治虫が描いた漫画みたいな話、あるんですか?日本人が高く売れる?・・・もしや、ヤマト民族の純血種を探しているとか?」

皇「お前なぁ、日本人と限られた民族にしか持っていない特殊なDNAがあるとか、そういう日本人のルーツはどこか?って話じゃないんだよ。特殊詐欺、強盗、窃盗で日本人を使うんだ。・・・杏子信じられるか?」

瀬能「なにを?」

皇「人身売買のマフィアに捕まって、殺されるかも知れないのに、日本人は、そういう時でさえ、生真面目なんだそうだ。言われた事を言われた通りする。電話の詐欺をしろと言われたら電話の詐欺をするし。高級腕時計店を強盗しろと言われたら強盗するし、金があると噂の年寄りの家に押し入れと言われたら押し入る。犯罪だと分かっていても生真面目にそれを行うんだ。そういう点が評価されて、人身売買組織は日本人を高値で、売り買いしているんだ。」

瀬能「マフィアも、高い金出して買っても、使い物にならなかったら意味ないですものね。しょうもない話だとは思いますけど。」

皇「ただ、その日本人も、衣食住には文句をつけてくるらしい。犯罪は犯すが、快適な居住、美味い飯、そして綺麗な服。売られてきたはずの日本人なのに、その事だけは、マフィアに対して断固、注文をつけるんだそうだ。」

瀬能「・・・そういう空気を読まない所も日本人らしいですね。第二次世界大戦中の、捕虜になった日本人も、待遇改善をアメリカに求めたって話がありますけど。日本人って、大儀より自分が大事なのは、今も昔も変わらないのかも知れないですね。それこそ世界が求めるヤマト民族、ヤマト魂!」

皇「話、ややこしくすんな!・・・ああ。それにしても、塩サウナって熱くないって言ってたけど、流石に熱いな。」

瀬能「もうちょっと我慢です。出て、炭酸を一気飲みしてこそ至福。これぞ希望!」

皇「ああ。熱ぃぃぃぃ。・・・塩サウナ。私とお前だけじゃねぇか。人気ないのか?・・・おい!やめろ!やめろ!」

瀬能「塩を塗るんですよ!こうやって」

皇「気持ち悪いからやめろ!塗るな!・・・だから、塩は揉み込むの!揉んで、揉むの!塩を!お前、塗りたくってるだけじゃねぇか!」

瀬能「一緒でしょ?」

皇「違うわ!お前、ほら、こうやるんだよ!」

瀬能「いやぁ!・・・痛い、痛い!痛い、やめてぇ!」

皇「皮膚が赤くなるまで揉み込むの!・・・出る時、シャワーで塩を流すんだ。」

瀬能「はぁはははぁぁ。痛い。もう。ああ、赤くなっちゃってるじゃないですか!私の柔肌がぁぁぁぁ」

皇「杏子、先に出るぞ。もう熱い。」

瀬能「私も出まぁす」

皇「ついてくんな」




カメレオンキッド「さあ諸君。共に祈ろう。ファ様の御心のままに。」

教徒「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

カメレンキッド「現実世界の欺瞞、偽善、そして分断。社会は、世界は、いつから業に身をやつした世界になったのか。俺はそれを知っている。魑魅魍魎が住まう世界だ。人は知らないうちに、畜生以下の魍魎と化した。この世に正義はなくなった。この世は地に落ちたのだ。

それを救うのは誰だ。そうだ、ファ様だ。お前達の中にも、貧困に苦しむ者もいよう。勉学にいそしみたくてもそれが許されない者もいよう。学がないから安い身銭で働かされている者もいよう。一方的な侵略で我が家を、父を、母を、失った者もいよう。すべては繋がっている。

救って下さるのはファ様しかいない!違うか!

お前はどうだ?お前は?・・・そこのお前はどう思う?・・・今、もし、苦しみから逃れられない者がいたら、俺の手を取れ!それはファ様の手だ!

俺が救ってやる!そうだ、ファ様が救って下さる!

金が欲しければ好きなだけ持っていけ!食い物がなければ好きなだけ食え!働く場所がなければ、ここで働け!そうだ、ファ様は、お前達の苦しみを取り除いて下さる術を既に用意して下さっている!

さあ俺について来い!」

教徒「本当に、金がもらえるのか!」「・・・食べ物をくれるの?」「難民の私がここから脱出できるの?」「私は虐待を受けている!ここから逃げ出す方法はあるの?」

カメレオンキッド「ああ。そうだ。ファ教は全世界に信徒をかかえる、今や、世界最大の教義だ。民族も、国も、性別も、年齢も、何もかも関係ない。ファ様を信じる者が、それがすべてだ!欲しい物はくれてやる!欲しい物は全てここにあるのだからな!さあお前達、ファ様を称えよ!祝福せよ!」

教徒「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


教徒「私は難民でどこへも行く当てがない。ただ安全に暮らしたいだけなんだ。」

カメレオンキッド「ならばインドネシアへ来い。住む場所も仕事もファ教が用意する。何も心配はいらない。旅費もチケットも全てファ教が用意する。」

教徒「私は本当は学校に行きたいの。学校へ行けば勉強が出来て、もっとちゃんとした所で働ける。文字が読めて計算ができればもっと良い所で働ける!そして高い報酬を得る事が出来る。」

カメレオンキッド「母国のファ教へ来い。学校の支度金を出してやる。お前が学校に行っている間、働けない分の金を用意してやる。それならば両親も納得してお前を学校に行かせてくれるだろう。それでもダメなら下宿付きの学校を紹介してやろう。これはお前へ将来の投資だ。・・・そうだ、移動にかかる経費を出してやるから今すぐに俺の国に来い。そして最高の教育を受けるのだ!」

教徒「俺はもっと稼ぎたいんだ!」

カメレオンキッド「母国を離れる勇気があるなら、俺の所に来い!お前が望むだけの報酬で仕事を与えてやろう!そうだ、俺が旅券を用意してやってもいい。」

教徒「異常気象で米も取れない、野菜も取れない、物価は上がる一方だ。国は国民を見捨てた。私達は飢えて死ぬしかないのか?」

カメレオンキッド「ファ教にはいずれ来るであろう未曽有の世界的危機に対して、膨大な量の食料を備蓄している。核戦争が起きてもファ教信徒は助かる計画を立てている。その食料を与えよう。未来の危機よりも今、迫っている飢餓の方が心配だ!・・・もし時間がないなら俺の所に避難しに来い。旅費も全部、出してやる!」

瀬能「私、ニートなんです。」

カメレオンキッド「・・・そうか。・・・。」




ジュウオウキ「あの、受付さん。この、ナックルズさんに懸賞金がかけられているのは本当ですか?」

シュレッダー「え?ああ。本当よ。この人、初心者パーティにコバンザメして、」

シャドーダンサー「コバンザメ?」

シュレッダー「・・・ええっと、寄生して、いいや、なんて言うの、初心者パーティを狙った誘拐犯。平たく言うと。」

シャドーダンサー「平たく言うと?」

シュレッダー「あれだよね、目つきも悪いし、いかにも極悪人みたいな面しているもんね。これは犯罪を犯す顔よ!」

ジュウオウキ「いやいやいやいや。あの、俺達、この人に、世話になったんですよ!ナックルズさんに限って、誘拐なんて、あり得ないです!」

シャドーダンサー「俺もそう思う。」

ジュウオウキ「何かの間違いじゃないんですか?」

シュレッダー「あのね。実際、被害に合っているパーティがあるの。被害報告が出てるの。いい?・・・初心者パーティに、ベテランを装って、装ってないけど、実際、ベテランらしいから。それで、色々、指図してくるんだって。ああした方がいいとか、こうした方がいいとか。冒険の仕方、クエストの受注の仕方、モンスターの戦い方、ゲームのプレイの仕方とか、いろいろ。いろいろ教えてくれるんだって。最初は親切だなと思っていたら、ちょっと高い難易度のクエストをわざと受注して、パーティを全滅させて、経験値とかアイテムとか根こそぎ、奪っていって、そのままドロンよ。ドロン。消えちゃうんだって。悪質極まりないと思わない?懸賞金百万セーンだって安いくらいよ!けっこう色んなパーティで同じ事してるみたいだから、故意ね。故意!情状酌量の余地なし!」

ジュウオウキ「そんな!まさか、ナックルズさんに限って!」

シュレッダー「あんた達だって、仲間の一人が行方不明なんじゃなかったっけ?・・・このナックルズって奴。ゲーム中のハイエナ泥棒行為だけじゃなくて、現実世界で儲け話があるから、ついて来いなんて、うさんくさい話も持ちかけて来たそうよ?あんた達の仲間、見つかってないんでしょ?このナックルズって奴に騙されてどうにかされちゃったんじゃないの?」

シャドーダンサー「そんな、馬鹿な話あるか!俺は信じないぞ!」

ジュウオウキ「俺も信じたくはないが、、、、でも、ヴァーミリオンがいなくなって連絡も取れないのも事実だ。おかしい。シャドーダンサー、これはおかしいぞ?俺達もナックルズさんを追うぞ!ナックルズさんから真相を聞かなければ、何も判断できん!」

シャドーダンサー「・・・確かにそうだな。信じるも信じないも、ナックルズさんを捕まえない限り、何も分からん。・・・いくぞ、ジュウオウキ!」

ジュウオウキ「そうだな。」




黛「サモ!サァァァァァァァァァァァァァァァァァァァモォオオオオ!」

サモ「マッテ下サイ 黛サン 私 ソンナ 趣味ナイネ」

黛「サモ、良かったぁ!良かったよぉ! 俺、もうここで死ぬと思ったよぉおおおおおお!」

サモ「マアマアマア黛サン。死ヌカドウカハマダ分カラナイケド、会エテヨカッタヨ。」

黛「え?」

サモ「ダカラ、私。黛サント一緒ニイルコト許サレタダケ 何モ状況カワッテナイ」

黛「なんだよそれ!助かったんじゃないのかよ!」

サモ「黛サン。甘イ 甘イ バラックガ ソンナ簡単ニ逃ガストハ思ワナイネ スグ殺サレナカッタダケ運ガ良カッタト 思ウネ。」

黛「・・・でも、サモに会えてよかったよ。こんな知らない所で一人だよ?俺、心細かったんだよ。ほんとだよ!」

サモ「マア 黛サンハ、バラックノ金ヲ横取リシタ張本人ネ スグニハ殺サレナイネ」

黛「待てよ?サモ!横取り?・・・いやいやいや。こっちの電話詐欺野郎が俺達の金を横取りしたのが先だろ?それを取り返して何が悪いんだよ?」

サモ「ソンナ理屈通ラナイネ 日本人ガ、インドネシアマデ来テ 金ヲ横トリシタ ソレダケネ タブン、見セシメニ大勢ノ前デ殺サレルネ」

黛「なんでだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

サモ「諦メルネ 黛サン 最大手ノマフィア、バラックノ金ニ手ヲ出シタネ 殺サレテ当然ネ」

黛「おいサモ!どうにかしてくれよ!お前、ここの、人間だろ!なんかそういうマフィアの繋がりがあるだろ?俺、死にたくないんだよぉおおおおおおおおおお!」

サモ「殺サレル前、人間、ミンナ同ジコト 言ウネ」

黛「そんな事、言うなよ、サモォオオオオオ!」

サモ「・・・黛サン。短イ間ダッタケド、一緒ニ仕事デキテ良カッタネ」

黛「金か?金を返せばいいのか?金は返す!金は返すから、命はどうにか助けてくれ!サモ、頼むよ!お前、現地の人間だろ!」

サモ「イヤァソウイウ問題ジャナイネ。マフィアモ日本ノヤクザモ一緒ネ 日本語デドウイウ言葉ダカ分カラナイケド、メンツネ。メンツ。・・・自分達ノ縄張リヲ勝手ニアラサレタネ ソレハ許サレル話ジャナイネ」

黛「サモ。メンツ?・・・お前、日本語、日本人より知ってるじゃねぇか。」

サモ「イッパイ日本人ト仕事シタカラネ ココ、黛サンガイル牢屋 最高ノ牢屋 鉄格子サエツイテナケレバアメリカノ三ツ星ホテルト同ジ内装ラシイネ 最高級ノオモテナシネ」

黛「嬉しかねぇよ!」

サモ「日本人ハ特別待遇ネ 日本人ハ稼グカラ」

黛「サモ!・・・バックレるぞ!」

サモ「バックレル?・・・ドウイウ意味ネ?バックドア?」

黛「バックドアだ、バックドア。殺される前にバックレる!いいか!サモ、俺は逃げる。日本人を助けたとなればお前にも罪がかかる。ただ、裏口のドアをちょっとだけ開けておいてくれ。それくらい、手伝ってくれてもいいだろ?ほんのちょっとだ、ほんのちょっと。ベリーベリーイージー?OK?俺はバックドアだ。・・・たぶん、ここでサモとは契約終了だ。最後に会えて良かったよ、サモ。」

サモ「黛さん。脱獄する気か?大丈夫か?」

黛「ここにいてもいずれ殺されるんだろ?なら自由に向かってレッツラゴーだ。裏口っていうか、コックルーム、飯つくる部屋あるだろ?そこのドアでいい。」

サモ「・・・黛サンニハ世話ニナッタカラ。ソウダナ。バックドア開ケテオイテヤル 黛サン 元気デナ」

黛「ああ、サモもな」


サモ「Dia melarikan diri」

バラック警備員「Apakah kamu bodoh?」




シャドーダンサー「ナックルズさん、正直に教えてくれ、ヴァーミリアンは何処に消えたんだ?もし何か知っているのなら隠さず教えてくれ。」

ナックルズ「悪いが、人違いじゃないか?俺はあんた等の事を知らないのだが。」

ジュウオウキ「おい?嘘をつくな、ナックルズさんよぉ。俺達だよ、一緒にクエストをやったじゃないか?忘れちまったのか?」

ナックルズ「いやぁ。そう言われてもな。俺は、・・・雇われ傭兵だ。頼まれればどんなパーティにも参加する。だから、細かい事は覚えていないんだ。とにかく多いんだ。・・・悪いな。」

ジュウオウキ「待てよ!」

ナックルズ「なんだ、つっかかるな、小僧。」

ジュウオウキ「俺達はあんたに世話になった。それは紛れもない事実だ。」

ナックルズ「なら良かったじゃねぇか。」

ジュウオウキ「あんたがいろんなパーティにハシゴするのは構わない。あんたの自由だ。だけどな、俺達は、パーティメンバーが一人、いなくなっているんだ。しかも、あんたに疑いがかかっている。」

ナックルズ「はぁ、疑い、だと?・・・ああ、冒険者ギルドから聞いているぞ。俺にあらぬ懸賞金がかかっているってな。・・・もしかして、お前達。あれか?賞金稼ぎか?俺の首をとって、賞金を稼ぐつもりか?やめとけ、やめとけ、俺は強いぞ?」

ジュウオウキ「賞金なんか関係ない!」

ナックルズ「なら、なんだ?俺は忙しいんだ。用がないならそこをどけ!」

シャドーダンサー「用はある。俺達のパーティメンバー、ヴァーミリオンについてだ。」

ナックルズ「・・・ヴァーミリオン?知らないねぇ。まったく覚えがない。残念だな。」

シャドーダンサー「ならば押して通るまで。」

ナックルズ「やるのか?俺と?・・・いいぜ?」

ジュウオウキ「ヴァーミリオンの事を思い出させてやる!」

トレイジア「なに?こんな飯屋で喧嘩?・・・もういい加減にしてよね。ゆっくりご飯も食べられないじゃない。」

アリシア「・・・川魚定食。ひもじい。もっと良いものが食べたい。HPだって回復しないよぉ。」

マニやん「喧嘩か、面白そうだな。」

トレイジア「やめておきなさいよ。HP削られるだけ損よ?・・・だいたいプレイヤー同士の喧嘩なんて生産性がまるでないじゃない?」

アリシア「もしかしたら、そういうイベントなのかも知れないわよ?」

マニやん「食堂で喧嘩?・・・機械伯爵でもいたのか?」

トレイジア「じゃあミルク、飲ませてあげなよ?大人しくなるから。」

ガッシャーン

客「喧嘩なら表でしろ!」「俺の飯があああああああああああ!」「ふざけんな!」

マスター「ああ、私の店があああああああああああ!」

客「あいつ、指名手配書の男だぜ?」「ほんとか!」「ナックルズだ!」「まじか!」「賞金首だとよ?」「捕まえるチャンスだ!」「こんな所でチャンスに恵まれるとは思わなかったぜ」「ナックルズ?」「いい小遣い稼ぎだぜ!」

ナックルズ「ちぃ!・・・他の客にまで気づかれた!」

シャドーダンサー「逃げる気か!ナックルズ!」

ナックルズ「状況が変わったんだ!」

マニやん「おい、ナックルズ。こんな所で会うなんて、奇遇だな!」

ナックルズ「・・・お前達!」

トレイジア「なんでもう、つまんない所で会うかなぁ。」

アリシア「ナックルズさん。あなたに冒険者ギルドから懸賞金がかけられています。何をしたのかは知りませんが、あなたに賞金がかけられている以上、私達はあなたを捕まえます!」

ナックルズ「ほほぉ。一番、まともだと思っていたアリシアがまさか俺に牙をむくとはな。これは面白い。」

ジュウオウキ「あんた達には悪いが、あいつは俺達の獲物だぜ?」

マニやん「はぁ?・・・あいつはあたし達の獲物よ!邪魔すんな!」

ジュウオウキ「だから、俺達の獲物だって言ってんだろ!クソ女ァ!」

マニやん「なんだと、この、包茎チェリーが!」

トレイジア「ほらほら、どっちでもいいから早くしないと逃げらちゃうわよ?」

アリシア「マニやん・・・見たの?その、ナニを?」

トレイジア「・・・その話はどうでもいいでしょ?」

シャドーダンサー「・・・日本人男子の八割は包茎だ。カッコ俺調べ。カッコ閉じる。だからジュウオウキ、むしろ多数派だ。安心しろ!」

ジュウオウキ「お前等!今、そんな話、している場合」

カツン

ジュウオウキ「ぐわぁぁあああああああああああああああああ!」

ナックルズ「ほほお。耐えたか。」

ジュウオウキ「卑怯だぞ!」

アリシア「確かに卑怯ね」

マニやん「今度はこっちからいくぜ!この早漏ヘナチョコ野郎!」

トレイジア「もっとさ、綺麗な言葉つかってよぉおおお!」

アリシア「ねぇ?見たの、その、早さを?」

トレイジア「知らんがな。」

シャドーダンサー「ジュウオウキ、いつまで寝ている!俺達も加勢するぞ!・・・仮性なだけに」

ジュウオウキ「お前、うるさいよ!いくぞ、シャドーダンサー!」

ナックルズ「五月蠅い蝿どもだ!」

アリシア「ハエはうるさいと書くでしょ?」

トレイジア「書く、けれどもぉ、ほら、逃げられたわよ!」

マニやん「追うぞ!」

ジュウオウキ「逃がすな!」

アリシア「私達も行きましょう!」

トレイジア「私は関わり合いたくないんだけどぉ。」


アリシア「あ!」

トレイジア「あらら。」

シュレッダー「あら、みなさん。懸賞金はあたしがいただいたわよ。ごめんあそばせぇ~ おほほほほほ」

マニやん「・・・クッソ」

ジュウオウキ「ギルドの受付さん。」

ナックルズ「・・・」

マニやん「こんなんじゃ、くたびれ儲けじゃない。ああ、もう、損した!」

トレイジア「まあまあ。」




イマガワ「それじゃあ、このリスト通り、上から電話、かけていって。」

黛「この、TANAKAとか、いう」

イマガワ「そう、タナカ。」

黛「タナカか!英語だから分からなかった。」

イマガワ「いや、わかるでしょ?あなた、こういう電話詐欺、はじめて?」

黛「え?あ、はい。やったことないです。どっちかっていうと、直接?対面でやるタイプの仕事だったんで。」

イマガワ「あぁウケコ。受け子ね。・・・受け子って捕まるリスク高いって聞くけど?」

黛「あ、いえ。俺はそういうのじゃなくて、なんて言うんですかね。・・・集金?上の人の命令でお金を集めて回る係りだったんで。」

イマガワ「え?もっとヤバイ奴じゃん。大丈夫だったの?・・・大丈夫じゃないから、ここにいるのか。あっはっはっはは」

黛「えぇええ?笑う所ですか?それ。」

イマガワ「ここにいる日本人は、みんな、高い金が稼げるって騙されて連れて来られた人間ばっかりだよ。」

黛「俺はこっちで、バラックの連中に捕まりまして。」

イマガワ「うわっ?なに、拉致?誘拐?・・・ああ、どっちにしろ大変だったね。騙されて連れて来られるならまだ、分かるけど、直接、誘拐するって、相当治安悪いね。」

黛「・・・そうですね。」

イマガワ「僕は別だけど、中には、金を持ち逃げして来ちゃったから、ここにいた方が安全な人もいるみたいだよ?ここにいればマフィアが守ってくれるからね。」

黛「いろんな人がいるんですね。」

イマガワ「遠隔詐欺だから。やっている事は昔と変わらない。古典的な手法だよ。こんな詐欺に誰が騙されるんだって僕は思うけど、ここ見て、まるでコールセンターだよ。会社だよ。この部屋だけで何百って人間が詐欺の電話を日本にしているんだ。電話代だってバカにならないと思うけど。それでも騙して稼げる金の方が大きいんじゃない?」

黛「・・・規模が日本と段違いですね。」

イマガワ「そりゃそうだよ、アジア圏でナンバーワンの犯罪組織だから。このバラックというマフィアは。この部屋は日本人向けの電話詐欺専用。ほら、タナカ。Tの字で始まる人の詐欺だ。隣の川が、U。そんな感じで分業、分業で遠隔詐欺を行っている。別の部屋に行けば、違う国の連中が、同じ手法で詐欺を行っている。ミャンマー、タイ、ロシア、中国、カンボジア、インド、マレーシア、バングラディシュ。ネパール人もいたかなぁ。ほんと詐欺も国際色豊かだよ。」

黛「・・・日本の電話詐欺が子供騙しに思えてきますね。」

イマガワ「使えない奴は、体から部品を抜き取って、売るだけさ。残りは、牛だか豚の餌になる。・・・先進諸国も真っ青なリサイクルシステムだよな?最後は骨も残らない。骨は粉にして畑にまけば、肥料になるからね。」

黛「・・・え?」

イマガワ「ここで死んだら文字通り、何も残らない。証拠が出ない。だから警察も探しようがないんだ。・・・警察だって軍だってバカじゃないから、この村ぐらい大きいマフィアの施設が怪しいと思っていても、証拠が出ないからどうするこも出来ない。その前に金で言う事をきかせているけどね。」

黛「殺され損じゃないですか?」

イマガワ「骨も残らないって事は、ある意味、人間の体が完全に消滅するって事だ。それは抜けた魂が戻って来れない事と同義だ。後は天に召されるだけ。どこの宗教よりも手厚い死の儀式だと思わないかい?・・・僕はね、救いがあるとするならば、どんな社会的な救いよりも、この世から完全に消滅できる喜びの方が、魂の救いだと考えるけどね。」

黛「はぁ。俺、学がないんで、そういうのいまいち、理解できないんで。すいません。」

イマガワ「解放だよ、魂の解放だよ。あっはっはっはっはっはははははは」

黛「あははははははは・・・・・・タナカさんから電話します。はい。」




信徒「あなたは本当の神だ!」「これで家族が救われる。」「この絶望から脱出できるのね!」「国際援助なんてあったって俺の所に届いた試しがない。あなた方は現代に現れた救世主だ!」「苦しみから逃れる事が出来るのね!」

「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「ファ教!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」「カメレオンキッド!」

カメレオンキッド「そうだ!お前等を救うのは、この俺だ!はーはっはっはっはっはっはっははっははははっははっはっはっはっはっははっはっはっはっはっはっはっははっはっはははっはっはっはっはっはっは!」

瀬能「こんな所に本物の救世主様がいらっしゃったとは。」

カメレオンキッド「お前は確か、ニートだったな?どうだ?家を出て、俺の所にくれば、ニートなんかよりもっと素晴らしい生活が出来るぞ?」

瀬能「ニートより素晴らしい生活が、あるんですか?」

カメレオンキッド「お前は、部屋の中だけの世界しか知らない。世界は広い!部屋から出て世間を見ろ!・・・もっと良い生活ができる!もっと良い物が食える!欲しい物が好きなだけ買える!男も女も、何もかも、手に入る!金さえあれば、飢えも教育も差別も国籍も自由も安全も、何もかもが手に入る!俺はその全てをお前に与える事が出来る!はーはっはっはっはっははっはっはっはははっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!

俺は神だ!この世に天元した神だ!」

瀬能「私、・・・あなたが言った、ほとんどのものを今、持ち合わせているんです。とても幸福な事だと思います。」

カメレオンキッド「・・・なんだと?」

瀬能「日本に住んでいるとその事に気づかない人も多いでしょう。与えれた幸福が、世界の中では軋轢の中にあって解決されない歴史的な問題も未だ根強く残っています。見て見ぬふりをしている、という人もいるでしょう。実際、そうなので仕方がありません。

ひとつだけ言える事は、あなたが神だか何だか知りませんが、人が欲する欲望は際限がありません。あなたが救ったと言っている人は、愚かではありませんよ。いつかあなたを反対に喰い殺す事でしょう。」

カメレオンキッド「はぁ?お前、何言ってんだ?・・・あんなゴミ共が、金に群がる羽虫共が、俺を殺す?はーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!俺は神だぞ?ゴミクズ共は俺の足元で這いずり回っているのがお似合いだ!

お前は部屋から出て、もう少し社会を勉強した方がいいぞ?忠告だ。所詮ニートなんてパパとママに毒づくことしか出来ない負け犬だ!社会のお荷物、働くことも教育をうけることも飯をつくることも何もかも放棄したんだ!いつまでもそこにいられると思うな?パパとママが死んじゃったらどぉするんでちゅかぁぁ?ボクちゃん死んじゃうしかぁないんでしゅかねぇえええ?はーっはっははっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはは!部屋の中だけ威勢がいいイモムシ野郎があああああ!死ぬまでママのおっぱいを吸ってろぉおおおおおお!

お前に部屋から出て来る勇気なんて微塵もないだろうがなぁああああああ!ああ、日本は幸せだ!お前みたいな食ってクソを作るだけの人間を国が税金を使って飼ってやっているんだからなぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」

瀬能「あなたバカなんですか?さっき私が言った事を反復しているだけじゃないですか?その通りですよ。あなたのおっしゃる通りです。何も反論する必要もありません。」

カメレオンキッド「はぁっ?」

瀬能「・・・私は今の生活を謳歌しているので、あなたから何かを施していただくものはありません。」

カメレオンキッド「なんだ?・・・お前、言い返す事も出来ないのか?俺が憎く思わないのか?悔しくないのか?・・・だからクソニートは。」

瀬能「あ、そうだ。これ、私から差し上げます。どうぞ、受け取って下さい。神様への貢ぎ物です。喜んでいただけると幸いです。」

カメレオンキッド「!」


カメレオンキッド「・・・?」


カメレオンキッド「なんだ、これは?なんなんだよ、これはぁあああああああ!おい!お前の仕業か!おいぃいいぃぃぃぃいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

瀬能「礼拝堂に入る前、うろうろしていて、煩わしかったので、つい。」

カメレオンキッド「テラドライブ。・・・自分の出世の為に俺に近づいてきて、本部の内部対立に巻き込まれやしないかとヒヤヒヤしていた矢先、どうも姿を見せねぇと思っていたんだ。姿どころか首だけになってたとはなぁ。こいつも因果応報だぜ。なぁ、クソニート?」

瀬能「聞いていないことまでペラペラしゃべってくれて、あなたの教団内の立ち位置まで分かりました。」

カメレオンキッド「へぇ、そうかい。じゃあ、俺もこいつの首輪が外れて、自由ってことだ。お前のおかげでな?くくくくくく。実に気分がいい。」

瀬能「信者の皆さんには、自分は神だとか言っておいて、あなたも、結局、教団の内部抗争に使われていた道具だったってことじゃないですか?とんだ神様ですね。」

カメレオンキッド「ああ、そうだ。お前と一緒だよ。俺も教団っていう檻から出られない、囚人なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

ギギギン!

瀬能「あなたの秘密は知っています。変身する事で能力を変化させるんでしょう?」

カメレオンキッド「ああ、その通りだ。だがな、それは秘密でもなんでもない。当然、みんな、知っている事だ!俺の戦うスタイルを見て、尚、俺に殺されるんだ!何故だと思う?変身とかそんな能力の問題じゃねぇ。・・・俺が単純に強いからだ。俺は捕食者だ!だからみんな、死ぬんだよおおおおおおおおお!」

ガギン! ダ ジギュン!

瀬能「・・・あなたは弱いです。」

カメレオンキッド「はっ?」

瀬能「あなたは自分に自信がないから、変身する事で、相手の能力を封殺して戦う事しか出来ないのです。自分に自信があるなら、一つの戦闘スタイルだけで十分なはずです。」

カメレオンキッド「俺は挑発には乗らねぇぞぉ!サァアアアアアアアアアアアアアアアイクロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


カメレオンキッド「・・・」


カメレオンキッド「なんだ、どうした、動かないぞ?おい、動け!動け!動け!どうしたんだ?おい、どうしたんだ!サイクロン!サイクロン!サイクロォオオオオオオン!おい!おい!おい!」

瀬能「自慢の変身はどうしたんですか?早く竜巻で攻撃してきたらどうですか?」

カメレオンキッド「おい!何をした!何をしたんだああああああ!サイクロン、サイクロン、サイクロン、サイクロン、サイクロン、サイクロン、サイクロン、サイクロン、サイクロン、サイクロン!」

瀬能「神様。見苦しいですよ。」

カメレオンキッド「おい、待て!待て!やめろ!待て、待てったら!サイクロン!サイクロン!サイクロン!サイクロン!おい!動け!動け!」

瀬能「すぐに司教様と同じにして差し上げますよ?・・・あとで、お二人のお顔を祭壇に飾ってあげます。・・・あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

カメレオンキッド「待て!よせ!よせ!やめろ!やめろ!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

サク




ジリジリジリジリジジリジリジリジリジリジジリジリジリジリジリジジリジリジリジリジリジジリジリジリジリジリジジリジリジリジリジリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

黛「あ、すいません。電話の途中なんですけど。はい。すいません。・・・イマガワさん!イマガワさん!」

イマガワ「・・・なに?」

黛「この音、なんですか?この非常ベルみたいな音?・・・電話の向こうにも聞こえちゃってるんですけど?消せません?」

イマガワ「いや、消せないでしょ?非常ベルだよ?」

黛「何の非常ベルなんですか?・・・あ、すいません。すいません。こっちの話で。なんか緊急事態で。ええ。あ?すいません。じゃあ、一旦、電話、切りますね。また、お電話しますので、その時はまた、よろしくお願いします。はい。西湾岸署のトシイエです。またお電話します。失礼します。」

イマガワ「火事か、漏電か、どっちかじゃないか?」

黛「あ、もう。ッチ。非常ベルの所為で一件、いけそうだったのに。・・・火事ですか?大丈夫なんですか?」

イマガワ「いや、わかんないけど。・・・うわぁ、あれ、外、窓!」

黛「煙!煙でてるじゃないですか!・・・イマガワさん、イマガワさん、どうしたらいいんですか?俺達、どうしたらいいんですか!」

イマガワ「えぇ?僕に聞かれてもなぁ。かなり煙、出てるよ?まずいんじゃない?これぇ。火ぃ出てるよ!うわぁ、うわぁ、うわぁ。」

黛「こっち、こっち、火ぃまわって来ちゃうんじゃないですか!ねぇ、イマガワさん!こういう時のマニュアル、ないんですか?」

イマガワ「いやいやいやいや。僕、いやいやいやいやいやいや。ええええ?」

黛「なんでここにいる皆さん、逃げないんですか?えええ?そっちの方が、えええええ?死んじゃいますよ?あの、俺、行きますけど?すいません、俺、死にたくないんで、行きますけど?」

イマガワ「待って、待って、待って、僕も一緒に行くよ?待って、待って、待って、待ってよ!」

黛「イマガワさん、死んで成仏したいって言ってたじゃないですか?あれ、嘘だったんですか?」

イマガワ「そんな事一言も言ってないよ?・・・ああ、もう、どんどん煙があがってくる!ここも、火ぃ燃えうつるんじゃない?」

黛「イマガワさん、短い間だったけど、いろいろ教えてくれてありがとうございました。俺、バックレます。・・・バックレます。さようなら!」

イマガワ「待ってよ、待ってよ、待ってよ、ねぇ!待ってよ!」




アリシア「ナックルズさん、冒険者ギルドから永久追放っぽいね。」

トレイジア「当然でしょ。・・・犯罪者じゃん。本物の犯罪者じゃん。普通、アカウントを抹消されて永久追放が妥当だと思うけど、運営側も甘いよね。いくらゲーム内では証拠不十分であっても、本物の誘拐犯よ?おかしいでしょ?」

瀬能「ゲーム内の会話はログに残っているから、証拠って言えば証拠になると思いますけど。いくらゲーム内で、相手をそそのかして、犯罪に加担させても、ゲーム内では犯罪は行われていない。だから、お咎めなしっていうのは道理から外れている気がします。」

マニやん「お前、珍しく真っ当な事、言うな。」

瀬能「マニやんがナックルズを捕まえる絶好のチャンスを逃したって聞いていますけど。」

マニやん「お前こそ、その場にいなかったくせに、何言ってんだ?ああああ゛?」

瀬能「私は人気の神父様に、ありがたいお言葉を賜ってもらっていたんです。それはそれはもう、ありがたいお言葉で。つくづくニートでいられる幸せを実感したんですから。ありがたい、ありがたい、日本に生まれて良かったぁぁぁぁぁぁあああ!」

マニやん「織田裕二か、お前は!」

瀬能「キターーーーーーーーーーー! あ、ちなみにこれはモノマネの山本高広の方です。」

トレイジア「・・・知らんがな」

瀬能「日本に生まれて良かった、も実は山本」

マニやん「うっさいわ!」

アリシア「このゲームの中で、目ぼしい人を見つけて、声をかけて、外国に連れて行って、電話の詐欺をさせていたって、聞いたわ。国際犯罪者じゃない。」

トレイジア「電話でオレオレ詐欺をさせている間はいいけど、下手したら、人身売買で、どこかに売られちゃうって話もあるらしい。」

アリシア「・・・怖ぁい。本当?それ。」

トレイジア「女だったら売春とかさせて金を稼がせて、男だったら強盗とか直接的な犯罪をやらせて、いよいよ使えなくなったら、臓器をくり抜かれて売られちゃうんだよ?」

アリシア「やめてよ、そういう怖い話は!」

瀬能「事実です。事実。・・・CNNのニュースなんかでよく見ますよ。」

アリシア「セノキョン、CNNなんて見るの?英語、分かるの?」

トレイジア「なんとなくでしょ?」

瀬能「なんとなくです。」

トレイジア「臓器売買なんて、対岸の火事みたいなもんで、日本にいちゃ嘘か本当か分からない話だけど、あれは、富裕層が買うものだからね。そういうバイヤーが闊歩しているって。」

アリシア「うそ?」

瀬能「貧困、難民、いわゆる声をあげられない弱者を標的にしたビジネスです。二極化して分断化がすすんで、見えない壁の向こうから富裕層であり経済的な強者が、臓器を買うのです。悪徳コーディネーターが一枚噛んだだけで、富裕層の人は、弱者から臓器を買っているという罪悪感が一切なくなるのです。自分、家族が病気で苦しんでいて、臓器を交換すれば治るって言われれば、幾らでも金を出すでしょう?その臓器、どこからやってきたのでしょう?そんなタイミングよく臓器が提供されるものなのでしょうか?・・・臓器を買っているんじゃありません。人間を買っているんですよ。」

マニやん「胸糞悪い話だぜ」

トレイジア「・・・アリシア?どうしたの?」

アリシア「ごめん、・・・気持ち悪くなっちゃった。・・・ウォエェェエエエエ、ボオオエエエ!」

マニやん「吐くなら、向こうで吐けよ」

トレイジア「大丈夫、アリシア」

アリシア「ほんと、ごめん、だって、そんな人と、この前までクエスト、やってたと思うと、気持ち悪くて、ウボェエエエゴボボオボエエエエエエエエ!」

瀬能「アリシアさんは免疫が無さ過ぎますよ。」

マニやん「お前は免疫あり過ぎなんだよ!」

瀬能「ないより、いいでしょう?」

トレイジア「ナックルズの他にも、何人か、冒険者ギルドから追放されたみたいね。」

マニやん「ゲームはゲーム。現実は現実。分かっちゃいるけど、なんか、納得できる話じゃないんだよなぁ。」

アリシア「ボエエエオエエエエエエゲェエエ」




皇「杏子、これ、凄いな。火事か?うぁわぁ、爆発してる。」

瀬能「日本ですか?このニュース?」

皇「いや、どこ?・・・海外っぽいんだけど。うわぁ、また爆発した。どこ?マレーシア?」

瀬能「インドネシアですよ。工場でしょうか?・・・日本だって、化学工場が時々、謎の爆発事故、起こしますからね。特に製粉工場は危険がいっぱいです。」

皇「一度、火がついたら消えないからな。化学物質は、水じゃ消えない。」

瀬能「わらわら人が逃げて出てきますね。生中継ですか?」

皇「生。生。生。うわ、ボカン、ボカン、言ってる。物凄い規模の工場だな。団地まで併設して。」

瀬能「こりゃ、消火が追いつきませんよ?空撮なんかしてないで、早く、火を消せばいいのに。」

皇「・・・消火設備、無さそうだもんな。全部、燃え尽きるまで、火ぃ消えないぞ。これ。あ、また、爆発した。」




サモ「ヨク生キテタナ、黛サン」

黛「ああ。あそこにいた連中はみんなバカばっかりだからな。自分が死ぬなんて思っていない、危機感がゼロの連中ばかりだ。」

サモ「黛サンハ、危機感ガアタミタイナ、言イ方ネ」

黛「小学校の頃やった避難訓練が役にたった。あんなもんでも真面目にやっておくべきだな。」

サモ「避難?ナンダソレ?・・・日本人ハ ソウイウ事ヲ勉強スルノカ?」

黛「勉強が出来る奴ほど馬鹿にするんだ。映画で見なかったか?ダイハード3。ああいう奴だ。俺は勉強が好きじゃなかったから、そういうイベントは大好きで、勉強しなくてすむから、ノリノリでやってたんだ。おかげで、なんとか、真っ黒こげにならずにすんだ。」

サモ「意味ガ分カラナイガ、ソレハ、日本人特有ノジョークカ?皮肉トカイウ奴カ?」

黛「いや、真剣に言っている。たぶん、9.11の貿易センタービルにジェット機が突っ込んで、倒壊した時も、同じ、感覚だったんだろうなと思ってな。何が起きているか理解できない人間が大勢いて、気が付いた時には、ビルが崩れたり、煙に巻かれて死ぬんだ。そうじゃなくても、自分だけは助かるって楽観的な奴も死ぬ。火が出て、煙が出てるのち、詐欺電話に夢中の奴、ばっかりだったよ。」

サモ「・・・日本人ハ生真面目ダカラナ。ダカラ重宝サレルンダ。」

黛「俺はとにかく出口に走って逃げたんだが、ほら、鉄格子が填まってて開かないだろ?警備の連中も、煙が充満してるのに、あたふたしているだけで逃げようとしない。あの連中、なんだ?マフィアの本部のくせに、まるで統率も取れてなければ、指示も命令もない。みんな死ぬわ。」

サモ「黛サンハドウヤッテ助カッタネ?」

黛「ああ、おれは、厨房で助かった。」

サモ「ソウ言エバ、黛サン。キッチンノ裏口カラ逃ゲルトカ言ッテタネ。」

黛「ああ、でもキッチンにはコックがいるから、逃がしてくれないのは分かってた。他にもクルーもいるしな。それで、俺は、生ごみのゴミ箱にダイブしたんだ。」

サモ「ダストボックス ニ カ?」

黛「そうだ。ゴロゴロ転がって、死ぬかと思ったけど、敷地の外に出られて、後は、川まで走って、そのまま泳いで逃げた。泳げないから、溺れていた所を地元の人に助けてもらった。テレビで見たけど、他にも大勢、助かった奴がいて良かったよ。俺だけじゃなくて。」

サモ「黛サンハ運ガイイ。アノ川、ワニ ガ イル。」

黛「・・・やめろよ、サモ。そういうの言うの。」

サモ「本当ノ事。嘘ジャナイ。黛サン、運ガイイ。ワニ ニ 食ベラレナクテ。今頃、ワニノ餌。」

黛「サモは運が悪いな。今度は俺と逆の立場だ。俺が牢屋の外にいて、お前は牢屋の中だ。・・・あの時、お前が裏切らないで俺について来ていれば、こういう事にならなかったんだ。」

サモ「バラックノ連中ニ楯突イテ、良イ事ナイ。アレハ最良ノ選択ダ。俺ハ賭ケニ負ケタ、ダケダ」

黛「そうは言うけど、俺はサモに世話になった。サモがいなかったらこの国で俺は仕事が出来なかった。サモには感謝している。それは事実だ。」

サモ「日本人ノソウイウ考エガ理解デキナイ。裏切ッタラ殺サレルダケ。殺サレナイノハ運ガイイカ、使イ道ガアルダケ。黛サン、アナタガ生キテイルノハマダ使イ道ガアルカラ、ダケネ。地ベタ這イズリ回ッテ殺サレナイ様ニ生キテイクノガオ似合イネ」

黛「あはははははは。そうだな。その方が俺には似合っているかもな。」

サモ「日本人、ジョーク、通ジナイ。死ネ。」

黛「ああ、そうだ。サモ。これ、俺からのラブレターだ。・・・今回かかった経費の精算だ。お前の命で、収支を合わせてやる。ありがたく思えよ?じゃあ、そういう事だ。日本のマフィアも舐めると痛い目に合うぜ?」

サモ「クソジャップ!」




大沢「おお、俺だ。大沢だ。お前のおかげで、黛の奴が、なんとかなった。あれだけの事故だろ?火事か?テロ・・・。どっちでもいいんだけどさ、村一つ、火で無くなったわけだろ?あれだけの火に巻き込まれて、かすり傷程度で済んだんだから、あいつも、相当、運がいいと思うんだよ。そうだろ?そうそう。内部犯行だったらしいな。俺に言わせれば、そういう内部犯行を起こさせるような連中を一緒くたにしていたのが悪いんだ。お前、公安とか知ってる?学生運動とか活動家とか、そういう人をマークする。そうそう。爆弾つくれる奴を、マークしておかない時点でアウトなんだよ。聞いたら、火元、電子レンジだったんだって?だから、電子レンジをちょろっと改造して、電子レンジ爆弾を作ったんだ。一度、火が出れば建物の内装なんて燃える材料ばっかりなんだから、どんどんどんどん火が強くなるわな。あんな違法な建物に、しっかりした消火システムなんかある訳ないだろ、誰が考えたって。一度、火が出たら詰むんだよ、あの手の建物は。マフィアのアジトに消火システムがある方が笑えるわ。なぁ?そう、それで、お前が上から話をつけてくれたおかげで、黛が自由の身になれたんだ。あいつ、顔が茶色かったって言われたぞ。人間って、死ぬのが分かると、青ざめた後に、紫になって、赤くなって、黄色になって、最終的に茶色の顔色になるんだってさ。笑えるだろ?黛の奴、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、わりぃわりぃ。インドネシアで、死ぬ思いして、軍警察に捕まって、今度こそ、殺されると思っていたみたいだったからさ。ああぁ腹が痛てぇ。痛てぇ。お前と向こうのお偉いさんにパイプがあってホント良かったよ。黛の命も助かった。今度はベトナムに飛んでもらう予定だ。あいつからは礼が言えないから代わりに俺が、礼を言ってやろうと思ってな。

それで火が出た場所が、人身売買マフィアのアジトだったろ?間の悪いマフィアだよな。村一つ分燃えちゃって、大火事になったら軍警察だって動かないわけにいかないだろ?中には、人身売買で売ろうとしていた人間が数千人監禁されてたって話だし。人身売買だけじゃねぇ、臓器売買、電話詐欺、カード詐欺、強盗、恐喝、違法薬物の売買。アジア圏の犯罪見本市だ。地元警察が動いて、今じゃ、インターポールまで出動したって聞いてるぞ。ルパンか?銭形?・・・笑いが止まらねぇよ。漫画だよ、漫画?あひゃひゃひゃはひゃひゃはっひゃひゃ!

黛の奴、アジアいち、大きい、犯罪組織を潰したんだ。お手柄だぜ。

俺だったらノーベル平和賞?国際平和賞?あげちゃうよ?まじで。いやぁ。まいった、まいった。じゃ、ほとぼりが冷めるまで額賀の店で、働いていてくれ。これからもお前には期待しているからな。じゃ、そゆことで。

あ、そうだ。今日、焼き肉行くぞ?あ?・・・だから、焼き肉に行くって言ってんだろ?そう、額賀に伝えろ、いいな。お前も行くんだよ。焼き肉に。いいな。じゃな、はい。おつかれぇええええええ。」




皇「おい、行くぞ。」

瀬能「待って下さい。お金、降ろしていかないと。」

皇「早くしろよ。」

瀬能「ええ。待ってて下さい。せっかく、司教さんが寄付してくれたお金なので。」

皇「司教?」

瀬能「この前、お世話になった神父さんの上役みたいな人で、司教さんなんですが、どうしても私に寄付をしたいと言ってくれて、幾らか、いただいたんです。無下に断るのも悪いですし。まるで、紫の薔薇の人ですよね。」

皇「・・・お前、いい風に言うな。」

瀬能「どうせ、神父の上前を撥ねていたんでしょうから、良いお金では決してないとは思うんですけどね。」

皇「金に色はないからな。良いも悪いもない。それで幾ら、貰ったんだよ?」

瀬能「その神父さんも、ニートは大変だから金銭的な支援をしてくれるって言ってくれたんですけどね。好きなもの買ってくれるって。」

皇「そんな都合の良い事、言う神父なんていないだろ?フツー。」

瀬能「いたんですよ。でも結局、神父さんは口先だけでしたけどね。」

皇「それで、幾ら、カンパしてもらったんだよ?」

瀬能「・・・数・・・マン・・・ドル?」

皇「あくどいなお前は」

瀬能「司教さんからはお金を恵んでもらいましたが、神父さんからは、その、ファ教とは別に活動している組織の情報を沢山いただきました。マルチな企業体みたいで様々な取り引き先と、お付き合いがあるみたいです。人の流れ。文字通りの人の流れ、金の流れ、そういうものが書いてあって、お金以上に価値のあるものだと思います。まだ全部に目を通していないんですけどね。」

皇「まぁいいけどさ、お前、羽振りがいいなら、今日、おごれよ。いいな。すき焼きがいい。すき焼き。今日はすき焼きだ。」

瀬能「えええ?どうして、ですか?」

皇「すき焼き行くぞ、すき焼き!ほら、はやく、金、降ろせよ!」

瀬能「ああ、待って下さい!」




黛「あの、それで、郵送しておきました。」

大沢「あ゛?郵送?」

黛「あの、FAXじゃ何百枚もあるから、電話代、幾らかかるか分からないから、国際郵便で送っちゃいました。」

大沢「お前バカだな。一度、日本に帰ってくればいいだろ?国際郵便で、船だか飛行機だか分かんねぇけど、どこ回って、日本に着くか分からない便に乗せたら、いつ日本に到着するか分からねぇじゃねぇか!」

黛「すいません。すいません。そこまで考えていませんでした。」

大沢「まぁ、いいよ。黛!お前らしくって。そういうところ。宅急便で届くんだろ?気長に待ってるよ。」

黛「ありがとうございます。火事の最中、日本人の電話部屋で使われていた名簿、あらかた、取って来たんで、この名簿は金になると思うんです。アジア最大の人身売買組織が使っていた電話詐欺名簿ですよ。資産価値が高いと思うんですよね。」

大沢「お前は使える奴だとは思っていたけど、いやぁ、本当に使える奴で、俺は鼻が高いよ。・・・ベトナム回って、次、カンボジア、バングラディシュ。あとロシア、中国も行っておくか。お前、外交官になれるぞ。俺達の期待の星だ!」

黛「え?あの、ちょっと大沢さん!待って下さい!俺、一回、日本に帰らして下さい!」

大沢「あれぇえええ?電波があああああ、あれえ?」

ガチャ




ヤマナミ「シュレッダーが小遣い稼ぎに、賞金首を捕まえたそうだな?」

瀬能「ええ、そう聞いてます。シュレッダーさんなら別段、不思議じゃないと思いますけど。」

ヤマナミ「あと、ファ教の神父、カメレンキッドが殺されたって専らの噂だ。・・・セノキョン、お前の仕業だろ?」

瀬能「まぁ、何の事やらさっぱり分かりませんが、ヤマナミさんにはいつも貴重な情報を教えて頂いているので、私も、少しだけ、聞いた話をお話します。あくまで聞いた話ですけど、」

ヤマナミ「聞いた話ねぇ」

瀬能「カメレオンキッドは九つの形態に変身します。相手に合せて、適切な戦闘スタイルを変化させるのは有効な戦い方だと思います。物理攻撃に特化していたり、遠距離から砲撃してきたり、また、守備力を高めて防御に特化した形態もありますし、非常に厄介な相手であるのは確かです。ですが、どんなに姿かたちを変えようと、動けなければ、意味がありません。今回はカメレオンキッドの動きを封じる作戦を実行したと聞いています。その方法ですけど、例えば、2Dのゲームの場合、スプライト数に限界があります。スプライトを重ねれば重ねるだけ、処理速度が落ちます。3Dも同様でオブジェクトの数が増えれば増えるだけ処理速度が落ちます。全部計算しなければなりませんから当然、処理速度が低下します。具体的に何をしたのかと言えば、死ぬ程オブジェクトの数を増やし、グラフィックに負担をかけたというだけの話です。昔、シェンムーというゲームがありした。律儀にガチャガチャのカプセル、一つ一つをモデリングしていた為、ガチャガチャを回せば回す程、処理が落ちました。シェンムーの凄い所はカプセルだけでなく、中の玩具にまでモデリングしていた為、グラフィクに至るストレスが半端ではなかったと言います。それと同じです。カメレオンキッドが動けなくなるまで、オブジェクトモデルを増やしたんです。百個でダメなら、千個、千個でダメなら一万個。十万個というように、ガチャガチャを回したんです。そりゃもう腱鞘炎になるくらい、ガチャガチャを回しました。いくら最新のグラフィック演算と言ったって限界がありますから、ついに、処理落ちが始まり、最後には動けなくなりました。3Dオープンワードゲームの売りである、リアルタイム処理が仇となりました。それだけ律儀に全部、演算処理しているのですから、頭が下がる思いです。」

ヤマナミ「そんなんじゃセノキョンだって動けないだろ?」

瀬能「心配はありません。負担がかかっているのは画面に表示させるグラフィックの演算のみです。負担がかかるなら、抜いて外してやればいいのです。そうするとグラフィックに関わる負荷がなくなるので、その分、こっちがほんのちょっとだけ素早く動けるのです。後は簡単。敵に対して軸さえ合わせておけば、画面なんて無くても、攻撃ボタンを連打するだけ。相手が防御していなければ一発ヒットです。ヒットすれば音で分かりますし。カメレオンキッドは、自分が動けないと焦り、自ら勝機を失ったのです。例えば、金縛りにあったとします。その時、冷静にそれが夢だと思えるのか、現実なのか、判断できていれば、結果は違っていたと思います。」

ヤマナミ「セノキョンは無茶な事をするなぁ」

瀬能「そうでもありませんよ。視覚を遮断して音だけを頼りに進めるゲームなんて、山ほどありますし。現在は視覚に頼り過ぎるゲームが多いと思います。

カメレオンキッドも命乞いをしてきましたが、その前に、テラドライブがペラペラと聞いていない事まで話してくれていたので、カメレオンキッドには一早くご退場いただきました。」

ヤマナミ「・・・テラドライブって奴も出世ができるタマじゃないな。ま、今回改めて思ったのは、セノキョンを敵に回さない方がいいって事だけだな。」

瀬能「私もヤマナミさんとは何時までもお友達でいたいので、これからもよろしくお願いします。ね。」




ファ「さあお前達。お茶休憩にしましょう。」

侍女「はい」「かしこまりました」「ありがとうございます、ファ様」

瀬能「ファ様がお飲みになるお茶はいついただいても美味しい。」

侍女「あなた!ファ様より先に口をつけるなんて!」

ファ「構いません。今は皆、休憩の時間なのですから。」

侍女「はぁ。ファ様がそうおっしゃられるなら。」

瀬能「今、紛争や大国同士の戦争で世界中に難民が溢れています。その難民を食い物にし、安全な国に亡命させると嘘をつき、なけなしの金を巻き上げたり、あと少しで亡命できる国まで辿り着いても、国境付近で野良犬を殺す様に、安全保障の名の下に人間を殺す。」

侍女「まぁ怖い」「そんな事があるの?」

瀬能「弱者は常に虐げられ、搾取され、日々、貧困と暴力にさらされているのです。誰がこんな世界を作ったのでしょう。誰がこんな社会にしたのでしょう。まるで見えない悪意が形になって、人々を操っているようです。これがゲームなら、その親玉である竜王やハーゴンを倒せば、世界に幸せは訪れる事でしょう。しかし、現実は、二極化された強者が、ゲームの駒をあやつるように、自らの手を汚さず、ウォーゲームを行っているのです。」

侍女「まぁ」「・・・そうね」「最近の発言は許せないと思うわ」「うんうん」「言えてる」

瀬能「画面越しに見る人間の形をしているものは、人間ではないのでしょうか? 痛み、飢え、恐怖、嘆き、苦しみ、その声にすらならない弱者の声は、人間のものではないのでしょうか?

私は、この歪な世界の中で、押し潰されそうで怖いのです。何も知らなければそのまま幸せのまま死んで行ける。ただ私は知ってしまったのです。

どうかファ様。私をお救い下さい。」

ファ「・・・私はあなたと共に苦しむ事しか出来ません。私は常にあなたと共にあります。さぁ私の手を取りなさい。」

瀬能「ファ様」



※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

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