実体のある虚構 第2集 クモノイト、タコノイト、blank is it
オンラインゲームから現実世界に信仰が波及したファ教。瀬能杏子はゲーム中のコスチュームで布教活動をするファ教と遭遇する。
アリシア「セノキョン、回復ありがとう!」
瀬能「いえいえ」
アリシア「いい?左から足元、狙っていくから、膝ついたら、一斉攻撃よろしく!」
瀬能「了解しました!」
トレイジア「オケ、オケ!」
マニやん「わかった!」
トレイジア「コイツ、全然倒れないじゃん!」
アリシア「固てぇ固てぇ」
瀬能「即死魔法!」
マニやん「お前!ボスに即死魔法が効くか!」
アリシア「セノキョン、ガッツ!」
マニやん「お前、ほんと、ふざけんなよ!」
瀬能「私にそんな口を聞いていいんですか?・・・マニやん死ね!即死魔法!」
トレイジア「喧嘩しないでよぉ!」
マニやん「セノキョンてめぇ!・・・早く生き返らせろ!」
アリシア「ダメ、こっち、蘇生の薬、空っぽよ!」
トレイジア「ああ、こっちも魔力、尽きそう!」
アリシア「ああああああああ!・・・やられた!」
瀬能「アリシアさんは可愛そうなので蘇生してあげます!」
アリシア「ありがとう」
瀬能「残念、マニやん!私のMPはゼロになりました。あなたは蘇生できません。このまま死んでて下さい!あはははははははははは」
トレイジア「もうこういう時にパーティアタックしないでよ!・・・撤退しよ、撤退!」
マニやん「絶対、あとで後悔させてやるからな!」
瀬能「私に頭を垂れ、許しを請うなら蘇生してあげますが?・・・ほらほら、経験値もアイテムも取れませんよ?」
マニやん「くそぉ・・・ゆるしてよぉ!もうゆるして!ねぇ?何でも言う事、聞くからぁ!セノキョン、大好きぃぃぃぃぃ!」
瀬能「仕方がない。・・・蘇生の薬です。」
ピラリラリ~ン
マニやん「おおおお!復活したぜ!・・・セノキョンてめぇ!復活したらこっちのもんだ、死ねぇ!絶対ぃ許さねぇからなぁああああ!」
トレイジア「だから、パーティアタックやめてよぉ!」
アリシア「セノキョンもマニやんも撤退するわよ!撤退、撤退!」
瀬能「マニやん、命拾いしましたね?」
マニやん「それはこっちのセリフだ、バカ!」
トレイジア「仲がいいのは分かったから、逃げるわよ!」
マニやん「ほんと、お前がいると、勝てるボスも勝てねぇじゃねぇか!」
瀬能「本当ですよ、トレイジアさん。」
トレイジア「あたし?あたしの事、言ってんの?あんたの事でしょ?」
瀬能「私でしたか。」
マニやん「お前だよ!お前以外に誰もいないだろ?」
アリシア「やっぱりアタッカーが足りないのかしら。」
トレイジア「そう言えばナックルズさん、見かけないね。」
アリシア「しばらく見てないわね。・・・ログインもしていないみたいだけど。」
マニやん「なに?友達登録してるの?」
アリシア「うん。・・・ほら、だからログインしてたらお知らせ、くるんだけど、まったく来ないから、ゲーム自体、やってないのかもね。」
瀬能「ゲームはこのゲームだけじゃないですからね。他に遊びたいゲームもあるのでしょう。」
トレイジア「このゲームだって、場合によってはサービス終了だってあり得るのよ。・・・楽しくゲームするのが目的なのに、ゲームしながら、違うゲームの事を考えるとか、どれだけゲーム廃人なのよ?」
アリシア「サービス終了しちゃったら嫌でもゲームから追い出されるものね。・・・ユーザーもゲームの渡り鳥。落ち着いた環境で楽しく遊びたいものね。」
瀬能「そうなるとオフラインしかなくなってしまいますよ。私も積みゲーが山ほどあるので、このゲームも含めてですが、オンラインになかなか顔を出せません。」
マニやん「お前は暇なんだからパーティに貢献しろよ!・・・たまにしか来ないくせに、即死魔法かけやがって!」
瀬能「今、私、殺人事件を追いかけていまして。」
アリシア「え?本当?」
トレイジア「ゲームの話よ。きっと。」
瀬能「新宿公園で起きた奴と横浜港の奴と、いやぁ、まったく、犯人が分かりません。・・・だいたい探偵やっているような奴に、おっぱいが大きい美人秘書がいる自体、おかしいんですよ?」
マニやん「お前、神宮寺なんてやってんのか?・・・犯人はヤスだ!」
トレイジア「それは違う殺人事件の犯人よ!」
瀬能「私は桂文珍があやしいと思っています。」
トレイジア「それは、さんまの迷探偵!」
マニやん「今日もトレイジアはキレキレだな。」
アリシア「ナックルズさんもセノキョンみたいに、たまには顔を見せてくれてもいいのにね。協力してくれたら猶更いいんだけど。」
トレイジア「ゲーム自体やめちゃったり、他のゲームに行っちゃったり、そうそう。死んでる場合もあるらしいわよ。」
マニやん「あ゛、どゆことだ?」
アリシア「怖い話だったらやめてよ!」
トレイジア「有名な話、知らない?ゲーム中に、プレイヤー本人が殺されて、そのままゲームのキャラが動かないまま、ゲームの世界で生きているって話。もうプレイヤーがいないから動かないんだけど、ログアウトも出来ずに、そのままキャラクターだけゲームの世界で生きているんですって。」
アリシア「・・・なにそれ?新種の怪談話?」
マニやん「実話だ、実話。」
アリシア「怖いからやめてよ。」
瀬能「他のプレイヤーが供養がてら、その動かないキャラクターに、蘇生の魔法をかけるんです。」
アリシア「・・・なんでよ?意味わからない」
マニやん「生き返らせてあげたいんだろ?・・・現実世界で問題があった人間かも知れないが、ゲームの世界じゃ仲間だからな。」
トレイジア「仲間かどうかは怪しいけど、有名なプレイヤーだったみたい。それに、コロナで死んでしまって、それっきり音沙汰がないプレイヤーだって大勢いるのよ。」
マニやん「死んだらゲーム、出来ないしな。私達に、現実世界のプレイヤーの生存確認なんて出来ないからな。・・・その、誰だっけ?」
瀬能「ナックルズさん」
マニやん「そいつだって死んでる可能性だってある訳だろ?ログインしてこないんだから。」
アリシア「だぁかぁらぁ、怖い話、やめてよぉ!」
トレイジア「まぁ、じゃあ、今日はこれで解散ね。・・・討伐、また今度、がんばろう。」
マニやん「セノキョン、お前、足、引っ張るなよ!」
瀬能「足を引っ張っているのはトレイジアさんです。」
トレイジア「あんた達、二人でしょ!」
瀬能「朝、徹夜明けのラーメンは美味しいですね。」
皇「お前に付き合っていたら体が保たねぇよ!」
瀬能「菊池俊輔縛りカラオケ!・・・いやぁ、面白かったです。今度は渡辺チューメー縛りやりましょう!」
皇「やらねぇよ、バカ!」
瀬能「瑠思亜もノリノリだったじゃないですか」
皇「三時回るとハイになるんだよ!・・・徹夜カラオケのあるあるだな。」
瀬能「世間の人が動き出す時間に、無労働者の我々が、頭にガツンとくる濃いラーメンを食べる背徳感。」
皇「無労働者はお前だけだ」
瀬能「この背徳感はクセになりますね。頭に直接、糖分を入れている感じがします。」
皇「・・・お前だけだろ?そういうのは。」
瀬能「・・・。」
皇「・・・。」
瀬能「・・・なんですか、あれ。何人いるんですか?・・・何かのストライキですか?コスプレして。」
皇「お前、知らないのか?あれ。」
瀬能「あれ、と言われても。」
皇「ファ教だよ。」
瀬能「ファ・・・キュ?」
皇「・・・ファ教。お前、今、英語圏でよくない言葉、言おうとしただろ?・・・よく分からないけど新興宗教の類の連中だそうだ。」
瀬能「ファ教?・・・知りませんね。」
皇「お前、物理的な世間知らずだもんな。」
瀬能「あははははははははははははははははははは。瑠思亜、面白い事、言いますね。その通りです。」
皇「超有名なオンラインゲーム知ってるか?そこのファ様っていうキャラクターがいて、そのファ様を祭り上げている連中が、ファ教。ファ教徒だ。ゲームの熱狂的プレイヤーがああやって、現実で布教しているんだと。」
瀬能「んん?・・・何を言っているんですか?」
皇「私、今、おかしな事、言ったか?」
瀬能「ゲームのキャラクターを、ああやって、大勢で活動しているんですか?」
皇「まあ、平たく言えば。そうなるな。」
瀬能「コミックマーケットやワンダーフェスティバルでなら見た事ありますけど、ゲームマニアの人達って事ですか?」
皇「だから只のゲームマニアがコスプレして行進しているんじゃないんだって。ゲームの中に出て来る宗教に感化されて、その宗教を、現実的に布教しているの。・・・マニアとは違うの。なんて言ったらいいんだ?だからゲームの宗教を信じている奴等だよ。」
瀬能「・・・マニアより怖いですね。だって、ゲームの中の信仰を、そのまま信仰しているのでしょう?」
皇「ああ。そう。そういう事。」
瀬能「だから、ああやって、ゲームのコスチュームの格好をしているんですね。あの格好じゃないと意味がないっていうか、信仰を守れない。」
皇「コスプレって言っちゃえば、それまでだけど。だけど、もう、コスプレ集団の域を超えている。社会問題になっているって話だ。」
瀬能「社会問題?」
皇「だから新興宗教みたいだって言っただろ?ゲームの中の宗教を、ああやって、現実で布教活動してるんだ。下手な新興宗教より信者が多い。オンラインゲームのユーザーは世界規模だから、信者はもちろん世界中にいて、何千万人って存在しているらしい。」
瀬能「布教って言っても、何を布教しているんです?・・・ゲームを買えとか?」
皇「ファ様の教えだよ。世界中の信者がファ様の信仰に共感しているんだから。」
瀬能「ファ様・・・ねぇ。」
皇「偽清教っていう宗教団体だ。偽清教っていう名前よりファ様のファ教って言った方が、世間では浸透している。・・・偽清教の教えは、正義なき正義は正義ではない、という教義だってよ。」
瀬能「なんだか、ふわっとしている話ですね。その教えに世界中の人間が熱狂していると?」
皇「そうなんじゃないか?・・・私、そのゲーム、やってないから知らないんだよ。ネットとか動画配信で見聞きしているだけだから。」
瀬能「そういう、ふわっとした考えの方が、今の世の中、刺さるんでしょうね。・・・三分くらいの会議で出て来たフレーズっぽいですけど。」
皇「まぁなぁ。・・・ゲームやってない人間からすれば、大勢で、同じ白装束のコスチュームで練り歩いているんだ。何の団体かっていぶかしげに思う人間だって多くいるだろうよ?」
瀬能「本人達が楽しいならそれでいいですけど。・・・凄いですね。ゲームから現実世界に影響を与えるなんて。」
皇「スターソルジャーの全国キャラバンだって似たようなもんだろ?あと、ぷよぷよの大会とかも。」
瀬能「ええ?それはほら、ゲームじゃないですか。腕前を試すっていう。あの人達は、ゲーム中の信仰を、現実でやっているんでしょう?・・・理解に苦しむ部分もありますが、理解できる部分もあって、共感はできませんが、凄いとは思います。」
皇「・・・確かに真似は出来ないわな。」
アリシア「ファ教?」
瀬能「ファ教です。」
トレイジア「ああ、有名だよね。あたしもテレビで見たよ。」
マニやん「・・・このゲームの三大ギルドの一つだろう?」
トレイジア「ギルドって言えばギルドなんだろうけど。もう規模が大き過ぎる団体だって聞いてるけど。」
マニやん「ああ。所属しているユーザーが多いから、運営会社にもかなり発言力があるらしいな。あいつ等の言う事は無視できないってな。」
トレイジア「信者数が一千万人、二千万人いるって。」
アリシア「それって本当なの?物凄い数じゃない。」
瀬能「クレーマー団体なんですか?」
トレイジア「クレーマーじゃないよ。ただ、ファ教の人達は、人数が多いから、何かと、発言力があって、ゲーム開発にも影響力があるっていう話を聞いたわ。」
マニやん「あいつ等、あいつ等だけで経済圏、作ってるからな。」
アリシア「セノキョンはファ教に興味があるの?」
瀬能「いえ。今日、朝、ファ教の人達を見かけたので。」
トレイジア「朝。」
瀬能「朝、環七のラーメン屋で、ラーメンを食べていたら、目の前を歩いていて。」
アリシア「リアル?・・・リアルの話?」
瀬能「ええ。現実の話です。」
マニやん「お前、朝からラーメン食ってんのかよ?よく入るな?」
トレイジア「そのカンナナっていう場所がどこか分からないから、何とも言えないけど、デモ行進してたんでしょ?」
瀬能「そうです。・・・初めて見たので驚いたんです。お揃いの白い、白装束で、」
マニやん「白い、白装束、頭痛が痛いとか、」
瀬能「・・・即死魔法!」
マニやん「お前ー!」
アリシア「リアルで、そんな目立つ格好で歩いていたの?」
瀬能「しかも結構な人数で、ですよ。新手のコスプレ集団ですよ。」
トレイジア「まあ、驚くよね。」
瀬能「あの人達の目的は何なのでしょうか?」
アリシア「ほら、蘇生薬。」
マニやん「お前、ぶっ殺すぞ!セノキョン!」
瀬能「そっくりそのまま、そのセリフ、返しますよ?私に勝てるつもりですか?マニやんさん?」
トレイジア「だからさぁパーティアタックやめなよ。不毛だよ?不毛。」
瀬能「マニやん、頭がおハゲになっているって言ってますよ?」
マニやん「誰がハゲだ!不毛って言ったんだよ、不毛って。」
瀬能「そのファ教っていうのは、どこに行けば会えるんですか?」
トレイジア「・・・え?会いたいの?」
マニやん「・・・あれだろ?清都にいるだろ?」
アリシア「清都って何よ?そんな所、知らないけど。」
トレイジア「建国したらしいわよ?」
アリシア「建国?・・・そんな事、できるの?」
マニやん「あいつ等、世界中にユーザーがいるだろ?資材も資金も集め放題。なんせ信者に出させればいいんだからな?それで自分達の都市を建国したんだよ。」
アリシア「お布施って事?」
トレイジア「一人一人のお布施の額は小さくても、ユーザー数が一千万人だから、そりゃぁ、国を一つ作るくらい訳ないよね。」
マニやん「運営会社も手を出せない、完全独立国家だそうだ。アホだろ?」
瀬能「・・・そんな事、可能なんですね。」
トレイジア「清都がファ教の総本山なのは間違いない。」
瀬能「行ってみたいですね。」
アリシア「行きたい?私、行きたくない。怖いもの。」
マニやん「セノキョン、お前、清都に着く前に殺されるぞ。噂じゃラスボス手前より強いプレイヤーが、清都を守っているって話だ。」
アリシア「・・・怖い。今の私達じゃ近づく事も出来ないじゃない。」
トレイジア「そうね。ちまちま、レベルの低いクエストを受注しているようじゃぁ無理ね。メインシナリオだって攻略出来てないのに。」
瀬能「マニやんがすぐ死ぬからですよ。」
マニやん「お前がプレイヤーキルしてくるからだろ!」
瀬能「ひどい。言いがかりです。しくしく。四九三十六!」
アリシア「・・・セノキョ~ン」
マニやん「コイツ、締めようぜ!」
瀬能「いいんですか、マニやん!私に喧嘩を売っても?・・・買いますよ!買いますよ!私はオンラインの世界に咲く、うるわしき美少女魔法使い、セノキョン!回復魔法はぶきっちょだけど、即死魔法だけはレベルマックス!」
マニやん「・・・お前、最低だな。」
シュレッダー「あれ、セノキョンじゃない」
瀬能「あ!シュレッダーさんじゃないですか。・・・いつから冒険者ギルドの受付なんかやっているんですか?」
シュレッダー「・・・バイトよ。バイト。」
瀬能「味方殺しのシュレッダーが、アルバイト。面白い冗談です。」
シュレッダー「・・・そう言わないの。誘われたパーティでエリアボス討伐に行ったんだけどさ、ボスに盲目魔法かけれて、そこまでは良かったんだけど。そのパーティ連中に金とアイテム、武器防具、全部ふんだくられてさぁ。あいつ等見つけたら絶対許さねぇ。」
瀬能「ああ。災難でしたね。」
シュレッダー「そうなんだよ。それで、スッカラカンになっちゃったから、ギルドでアルバイトよ。・・・時給、安いけど、裸と一緒だから。なにも持っていないから。ここで稼いでまた冒険に出るのが夢なのよ。セノキョン。」
瀬能「シュレッダーさんになら、すこし、融通しますよ?」
シュレッダー「あんた、闇金もやってんの?」
瀬能「シュレッダーさんは信用がありますから、貸してあげてもいいと思っています。どうしてもお金が必要になったら言って下さい。・・・他の、相場の半分でいいですよ?シュレッダーさんと私の仲ですから。」
シュレッダー「・・・怖い。あとで厄介ごとになりそうで怖い。」
瀬能「あはははははははははははははははははははは。・・・良い判断です。まあ、でも、本当に困ったら相談に乗ってあげますから。」
シュレッダー「それで今日は何?・・・依頼の受注に来たの?」
瀬能「そんな所です。あの。」
シュレッダー「なに。」
瀬能「このクエスト、何なんですか?」
シュレッダー「ああ。人探しね。」
瀬能「人探し?・・・探偵か何かですか?」
シュレッダー「うぅうん。最近、人が消える、って噂なのよ。」
瀬能「人が消える?」
シュレッダー「そう。人がいなくなっちゃうの。それで、こうやって、冒険者ギルドに依頼を出して、人を探しているって訳。このジノーグって人も、ダーナって人も行方不明。」
瀬能「ゲームの中で行方不明って、どういう状況なんですか?」
シュレッダー「それは知らないけど。ある日、突然、パーティ仲間が、いなくなっちゃうんだって。最初はゲームにログインして来ないだけなんじゃないか、って話だったんだけど、それにしても、唐突過ぎるんだって。ゲームを辞めるにしてもさ、最低限、辞める挨拶ぐらい普通あるでしょ?それまで仲間だったんだから。」
瀬能「はぁ。確かに。」
シュレッダー「ゲームのバグなのか、それ以外のトラブルが起きているか、まったく分からない状況で。それで、何としても情報が欲しいから、こうやって人探しのクエストを依頼している、って話よ。」
瀬能「なるほどね。・・・理解しました。私がお世話になっているパーティでも、最近、顔を出さないプレイヤーがいて、皆、心配してましたね。」
シュレッダー「そうなんだ。・・・私はソロ中心だから、そういう気づかいされないから、分からないわ。」
瀬能「でもシュレッダーさん、身ぐるみ、剥がされたんでしょ?」
シュレッダー「・・・思い出すと腹が立つ。いつかあいつ等見つけて、皆殺しにしてやるわ。・・・ま、気安くパーティなんか組むもんじゃないわね。やっぱりパーティ組むなら信頼関係がないと。」
瀬能「それは言えてます。」
シュレッダー「キルタイム(kill time)の異名を持つセノキョンがパーティねぇ?・・・どういう風の吹き回し?」
瀬能「それこそキルタイムですよ。」
シュレッダー「キルのタイム(殺しの時間)じゃないのね?」
瀬能「どっちでしょうねぇ。・・・でも、その、ゲーム内の人が行方不明っていうのは、興味がある話です。それって本当にプレイヤーなんですか?ノンプレイヤーじゃなくて?」
シュレッダー「ええ。本物のプレイヤーって話よ。・・・飽きて別のゲームをしているんじゃないの?って話するんだけど、そういう人じゃないって。」
瀬能「私だったら、飽きて別のゲーム、やりますけどね。」
シュレッダー「オンラインの世界は、義理人情よ。飽きて他のゲームに行くなら、行くと伝えないと、仮に別のゲームで会ったら、我田引水よ?」
瀬能「・・・四面楚歌ですね。」
シュレッダー「えええ?我田引水、塞翁が馬じゃないの?」
瀬能「流石シュレッダーさん。頭の中が、会わなくても一目瞭然。かっぱエビ煎。」
シュレッダー「?・・・褒めてる?」
瀬能「似たようなものですけど。・・・また、面白い情報が入ったら教えて下さい。」
シュレッダー「ええ。いいけど。暇な時はここでバイトしてるから。」
瀬能「あ、そうだ。清都って所に行きたいんですけど、どこにあるか、ご存知ですか?」
シュレッダー「清都?・・・偽清教関係?」
瀬能「ファ教とか、聞きましたが。」
シュレッダー「ま、どっちみち同じ意味だけど。あそこは、近づかない方がいいわよ。おかしな噂、あるし。」
瀬能「・・・またまた興味深そうな話ですね。」
シュレッダー「偽清教は熱狂的な信者連中が世界中から集まって来るって聞くわ。下手にちょっかい出すと、簡単にあの世逝きよ?」
瀬能「・・・あの世逝き。」
シュレッダー「信者の規模が増え過ぎて、運営会社も手が出せないって話だし。」
瀬能「運営側が?」
シュレッダー「そうよ。・・・ゲーム外で、偽清教の連中が、運営会社に資金提供しているって話もあるくらいだから。」
瀬能「現実世界で、ですか?」
シュレッダー「そう。資金援助を受けているから、運営側も、あの連中には多少の事じゃ、大目に見ているらしいわ。あくまで噂だけど。」
瀬能「主従逆転しているじゃないですか?」
シュレッダー「プレイヤー団体の規模じゃ、とっくに冒険者ギルドを超えているんだって。冒険者ギルドも偽清教には苦言を呈しているけど、相手にしていないみたい。・・・喧嘩しても偽清教じゃ喧嘩にならないもの。数が違うから。」
瀬能「ユーザー団体同士で、仲が悪いのも考えものですね。」
シュレッダー「ま、私も今は冒険者ギルドにお世話になっているから、あまり強く意見できないけどね。」
瀬能「益々、ファ教に興味を持ちました。」
シュレッダー「つつけば何が出るか分からないわよ。鬼が出るか、蛇が出るか、ま、セノキョンも気を付ける事ね。」
皇「おい杏子、ハーゲンダッツ、買ったか?」
瀬能「ええ?私はスーパーカップでいいですよ。スーパーカップの方が量、多いし。」
皇「・・・そう言われると、私もスーパーカップにしようかなぁ。」
信者「募金をお願いします!ぜひ、募金をお願いします!」
瀬能「・・・。」
皇「ファ教だ。募金活動もやっているんだな?」
瀬能「慈善活動なんて大したもんですね。ゲームの世界だけじゃなく現実でも、そういう事、やっているなんて。単なるコスプレ集団ではないですね。・・・・よし、募金してこよう。」
皇「おい、待て」
信者「募金、お願いします!募金、お願いします!」
瀬能「募金、しまぁす」
信者「ありがとうございます。募金、いただきました」
信者「いただきました」
信者「これ、良かったらどうぞ。」
瀬能「?」
信者「ああ、シールです。ファ教のシールです。良かったら貼って下さい。」
瀬能「ありがとうございます。瑠思亜、シール、もらいました。」
皇「待てって。もう。・・・シール?」
信者「お友達ですか?よろしかったら募金、お願いします。あと、これ、ファ教のシールです。」
皇「あ、どうも。・・・じゃあ、これ。少ないけど。」
信者「ありがとうございます。」
信者「募金、いただきました」
信者「いただきました、ありがとうございます。」
瀬能「この、キャラクター、何なんです?」
皇「ファ様だよ。」
瀬能「ファ様?・・・へぇ。」
信者「こちらが、我々の女神、ファ司教様です。」
瀬能「ニュースで見ました。これが、ファ様。」
信者「よろしかったらもう一枚、どうぞ。」
瀬能「これはどうも。・・・ところで、これは、何の募金活動なんです?」
信者「ええ。ファ様の進言により、飢餓と伝染病の根絶に、助力したいと、募金を募っております。」
瀬能「頭が下がる思いです。」
信者「我々ファ教は、ゲームを超えて、ゲームを通じて知り合った仲間を通じて、全世界の人が、幸福であるように働きかけているんです。飢えや病気がなくなって、皆が、楽しくゲームが出来る環境を作りたい、っていうのが目標にあるんですよ。」
瀬能「・・・もう少し募金します。感動しました。これ、どうぞ。エラー五十円玉です。硬貨以上の価値があります。どうぞ。」
信者「貴重なものを。ありがとうございます。」
信者「募金をいただきました。」
信者「いただきました。」
皇「もう、いいだろ?アイスが溶ける。いくぞ。」
瀬能「ああ、待って下さい!」
皇「お前、私の小銭で募金したな」
瀬能「細かい事、言わないで下さい。返しますよ、三十円くらい。ほら。・・・あまりにお涙頂戴の話に、なけなしのエラー五十円玉まで寄付してしまいました。」
皇「・・・お前、さっきの、信じているのか?」
瀬能「え?」
皇「だから、さっきの募金だよ。本当に慈善活動に使われていると思っているのか?って聞いてんの。」
瀬能「う、ううううん。難しい所ですね。たかが、三十円くらいの募金でも嫌な顔しないで、こんなノベルティくれるんですよ。たぶん金銭が目的じゃない気がします。だから本当に慈善活動の為に使っているとも考えられますが、だいたいの場合、こんな駅のコンコースで募金やっているんですから、募金は名ばかりで、自分達のアルバイト代に使っているんだとは思いますが。」
皇「ま、そうだろうなぁ。」
瀬能「ただ、団体がゲーム発祥ですから、ゲーム好きな人が、好意で募金してくれる可能性もありますし、そんな裏側まで考えないで、好きなゲームのキャラクターだから何も考えずお金を入れてしまう場合だってあります。何かのイベントと勘違いして。」
皇「だいたい街角で立っている様な連中は、面が良い奴ばっかりだろうからな。あたりも柔らかい奴だったし。」
瀬能「たぶんですけど、こうやって、慈善活動のフリをしているだけでも売名行為になるんでしょうから、定期的にやっているんでしょうね。あんなコスプレの派手な格好で、募金していたら目立ちますもん。それにほら、見て。」
皇「・・・ん?」
瀬能「コンコースの隅っこに、ガタイの良い男が立っているじゃないですか。あれ、ボディガードですよ。変なイチャモンつけてくるような奴がいたら、すぐに飛んできますよ。それで路地裏に連れていかれて」
皇「ボコボコにされるって寸法か。」
瀬能「意外に計算高い連中です。完全に組織で動いています。・・・これ、実際にゲームから生まれた団体なんですか?これだけの組織力をみると、そうとは考えづらいんですけど。」
皇「もう、ゲームから逸脱しているのは間違いない。社会問題化している時点でね。・・・宗教団体とは関わらない方が身のためだ。くわばら、くわばら。」
瀬能「ニュースで読みましたけど、政党団体に寄付しているって」
皇「・・・この国、政教分離じゃなかったか?」
瀬能「そこなんですけど、事実上、まだ宗教団体じゃないじゃないですか。」
皇「・・・あぁ。そうか。そうだな。」
瀬能「あれだけの規模で活動していて、ゲームマニアっていう扱い。だから政治団体に寄付をしても、何ら、問題じゃない。」
皇「反対に宗教法人になる方が、足枷がつくもんな。あいつ等、政治団体を動かして、何が目的なんだ?」
瀬能「そこまでは知らないですけど、ただのコスプレゲームマニアじゃない事だけは確かです。」
トレイジア「失踪?」
瀬能「ええ。ゲームから忽然と人がいなくなる、という事案が増えているそうです。行方不明だとか。」
アリシア「物騒な話ね。」
瀬能「情報に応じて、懸賞金がもらえるそうです。」
マニやん「・・・リアルと変わらねぇじゃねぇか。」
トレイジア「そうね。ナックルズさんも、行方不明なのかしら。連絡が取れないままだけど。」
アリシア「そこまで深刻に考えていなかったわね。また、ふらっと戻ってくると思っていたから。」
マニやん「ナックルズが顔を出さなくなって、ふた月くらい経つか。」
アリシア「そうね。・・・こういうオンラインゲームだと、やっぱり、飽きて辞めちゃう人も多いから。別にゲームはここだけじゃないしね。」
トレイジア「そこなのよ。このゲームだけがオンラインゲームじゃないし、なんだったらもっとユーザーフレンドリーで親切なゲームだって沢山あるんだから、このゲームにこだわる必要性も、あたしが言うのも変だけど、無いじゃない?」
マニやん「あたしも惰性でプレイしているだけだしな。」
瀬能「一度、課金しちゃうと、なかなかやめられませんよね。」
マニやん「そうなんだよ。微々たる金でも課金は課金だからな。やめちゃったら、お金をかけた意味がなくなるからな。」
トレイジア「あんた達、ゲームにお金つかうの、ほどほどにしなさいよ?他のゲームで何百万って課金しても、翌週、サー終なんて話、あるんだから。しかも大手。」
アリシア「それ、ユーザーを置いてけぼりよね。」
マニやん「ゲーム運営会社なんてあたし達から、金を巻き上げるだけ巻き上げるのが仕事なんだから、そこら辺は、腹をくくっとかないと、精神的にやられるぜ?」
トレイジア「マニやん、ドライね。」
マニやん「そんなん何度も経験しているからな。レべル上げても、サービス終了しちまったら、そこでお手上げだ。オフラインで遊べる訳でもないし。」
アリシア「廃れたゲームだと、ログインしてくるの一人きり、とか聞いたことあるわ。運営会社もサーバーが生きてるの忘れてた、とか。」
トレイジア「サービス終了するくらいなら、捨てサーバーをプレイヤーに開けておいて欲しいわよね。」
マニやん「サーバーだって、動かすのに電気も金もメンテもかかる。只で遊ばせるわけないだろ?」
瀬能「オンラインゲームは、サービス終了しても、物理的に何も残らないから、なるべく、息がつづく限り、長く運営してもらわないと、困りますね。」
トレイジア「だからそれは一部のマニアだけなんだって。多くのユーザは飽きたら別のゲームに行くだけなんだから。」
マニやん「ゲーム会社だって売れる、儲かる、ゲームを常に考えているし。このゲームだって、いつまで保つか分からねぇぞ。」
アリシア「私は他のゲームに移る体力がないから、まだしばらく、このゲームで遊んでいるわ。・・・それに少し強くなってきたばっかりだし。」
トレイジア「このゲームは、ファ教みたいな一部熱狂的な信者がいるから、しばらくは大丈夫だと思うけど。」
マニやん「あれは異常だ。・・・噂だと運営会社にゲームの方針について、意見しているらしいぞ。」
アリシア「はぁ?いちプレイヤーが?いちプレイヤーが運営会社に意見できるの?」
トレイジア「まぁ、彼らはとにかく数が多いから。ゲームの運営にも意見できるのよ。」
アリシア「それはそうとマニやん。この、アイテム、鑑定してちょうだい?」
マニやん「そうだな。スキル、鑑定!」
チャッチャラチャラ~♪チャッチャラチャラ~♪ドドン、ドンドンドン♪
中島誠之助「うぅ~ん。この色合い、この釉薬。いい仕事してますねぇ~。間違いなく、本物ですぅ。・・・大事にして下さい!」
トレイジア「あのさぁ、アイテムを鑑定する度に、その、おじさんに変身するの、なんなの?」
瀬能「マネーロンダリングにオンラインゲームが使われた?・・・そんな嘘みたいな話、あるんですか?」
皇「オレオレ詐欺で使われたらしいぞ。」
瀬能「オレオレ詐欺で?・・・はぁ。」
皇「オレオレ詐欺だけじゃなくて、SNSを使った強盗、詐欺、薬物売買。そういった犯罪で、オンラインゲームが使われているって聞いた。・・・しかも、日本だけじゃない。世界中で日常茶飯事に使われている。」
瀬能「世界中でオレオレ詐欺が横行しているんですか?」
皇「電話で親族に成り済ましてお金を取る詐欺なんて日本特有だけど、海外じゃもっと直接的に、強盗したり、違法ドラッグの売買に、SNSだけじゃなくて、オンラインゲームが使われているそうだ。」
瀬能「日本も物騒になってきましたね。」
皇「ちょっと前まで、素人には手を出さないっていうのが、犯罪者なりのルールがあったが、今は、犯罪を犯している方も素人らしいからな。治安が悪くなる一方だって。・・・知り合いの警察官が言ってたわ。」
瀬能「へぇ」
皇「特殊詐欺の奴を捕まえたら、オンラインゲームを隠れ蓑につかって、マネーロンダリングをしていたんだってよ。」
瀬能「オンラインゲームで、何をどうやって、現金を洗浄するんですか?しようがないでしょう?」
皇「お前、頭、固いな。ゲーム内でアイテムを買うだろ?そのアイテムをまた、お金に戻す。払い戻せばいいだけだろ?」
瀬能「ええぇえっと。いや、意味は分かりますよ。瑠思亜の言っている意味は分かりますけど、お金の流れってそんな単純なものなんですか?一度、ゲーム内に、現実のお金を入れてしまったら、ゲーム内のお金を現実のお金に戻す事なんて不可能じゃないですか?それが出来たら苦労しませんよ。ビットコインなんかの暗号通貨ならまだ理解できますが、オンラインゲームですよ?どうやるんですか?」
皇「だから、やり方は、さっき説明した通りなんだって。お前が言いたいのは出口。現実世界に払い戻せないって所だけだろ。マネーロンダリングってくらいだから、綺麗なお金にして、戻せなければ意味がない。ただ、ゲーム内でお金を使っただけって話になるからな。」
瀬能「さっきからそう言っているじゃないですか。」
皇「お前、現実のこの世の中で、このお金。硬貨。紙幣でもいいや。この硬貨の価値ってどうやって決まるか知っているか?」
瀬能「国が、その国で流通しているお金の資産価値を担保しているから、その硬貨の価値が出てくるんです。国が担保しているんですよ。」
皇「ゲーム内の通貨も同じ事すればいいだけだろ?誰かが、ゲーム内通貨の価値を担保してやればいい。」
瀬能「そんな銀行みたいな事をする輩がいるわけ・・・」
皇「いたんだよ。ゲーム内の通貨の価値を担保する、担保できる連中が。そいつらは、まさにゲーム内の国際銀行だ。下手したら、小さい国連加盟国程度の国家予算を保有しているそうだ。一般人がオンラインゲームで楽しく遊んでいる裏で、表に出ない金が常に動いているんだ。・・・オンラインゲームで綺麗になった金で、また、違う犯罪の資金源になるって寸法。オンラインゲームはもうただのゲーム世界じゃない。もう一つの経済圏なんだ。」
瀬能「悪党に国境なしですね。」
皇「国の法律で、カジノを作るとか作らないとか、やっているよな。カジノって賭博だから。でも、実際、ゲームをみてみろ?小学生や保育園児が遊ぶロールプレイングゲームで平気に、ギャンブルが行われているだろう?モンスター同士を戦わせるとか誤魔化すものもあれば、直接、スロットを回すゲームもあるし。そういうオフィシャルのギャンブルを、裏で、本当の金を使って賭けをするのも、当然の様に行われている。ゲーム世界に現実の法律は適用されないからな。」
瀬能「・・・アンダーグラウンドとは良く言ったものですね。」
皇「アンダーだったらまだ良いが、メジャーでも、日常的に行われているって話もあるくらいだからな。」
瀬能「当人が気が付かないで犯罪を犯しているっていう話もあながち、嘘じゃなくなってきましたね。」
ヤマナミ「そりゃあお前、教団内で格差はあるさ。」
瀬能「そうでしょうね。あなたを見ていると、そう思います。」
ヤマナミ「お前ねぇ。かつての仲間をそういう目で見るんじゃないの。」
瀬能「仲間って言っても、何度か、ダンジョン探索に出かけたくらいじゃないですか。・・・それに、すぐ死ぬから助けてあげてばかりだった記憶があります。」
ヤマナミ「トラップにひっかかるのも仕事の一つだろ?それでパーティが助かるんだから安いもんだろ?」
瀬能「ものは言いようですね。それでヤマナミさん、いつから、ファ教に入信したんですか?」
ヤマナミ「俺が教団に入ったのは、いつだったかな。だいぶ経つな。教団に入ったからと言って、俺は何も恩恵受けてないからな。俺は末端だし。」
瀬能「末端。」
ヤマナミ「ファ教はさ、このゲームの一大勢力だろ?だから、関係を持っておくと何かと便利だと思って、入信してみたんだけど、末端の信者じゃ何もその恩恵を受けられなくてさぁ。たまに教団オリジナルのイベントをやる時、プレイできるくらいかな。」
瀬能「そんなもんなのですか。」
ヤマナミ「当たり前だろ。信者数が一千万人を超えるんだ。末端の信者なんか相手にしてくれるかよ。・・・たまにある恩恵と言えば、この信者の証。」
瀬能「なんですか?それは。腕章みたいな。」
ヤマナミ「信者になるともらえるんだ。この証をつけていると、同じ、信者同士で、何かと優遇してくれたりするんだ。ファ教は助け合いの精神だからな。ライフが少なくなってたりすると、知らない信者の人が、薬草くれたりするんだよ。」
瀬能「どこかのファーストフード店で、優先してハンバーガーが買える、という話と一緒じゃないですか。」
ヤマナミ「あと、攻略情報なんかが一般より早く伝わってくるな。教団独自のネットワーク組んでるから。」
瀬能「ネットワークが構築されているんですね。」
ヤマナミ「なまじっか、冒険者ギルドよりそのネットワークは深いと言われているぜ。」
瀬能「なんだかんだ恩恵を受けているんじゃないですか。」
ヤマナミ「ううぅうん。ゲームを優位にプレイするようなもんじゃないからな。互助会だ、互助会。無いよりマシってレベルだろ?ただし。」
瀬能「ただし?」
ヤマナミ「ただし教団の幹部クラスになると、手に入らない物はない、地位、名声、金、あらゆる欲望を満たしてくれる、って話だ。」
瀬能「なんですか、その頭の悪い少年漫画みたいなノリは。」
ヤマナミ「実際そうなんだって。ファ教の幹部になれば、運営の連中も逆らえなくなる。」
瀬能「いちプレイヤーですよ?運営会社の方が強いに決まっているじゃないですか?」
ヤマナミ「セノキョンよぉ。だからお前は何時まで経っても野良ゲーマーなんだよ。いいか?ファ教の信者の数は尋常じゃない。運営だってその数の前じゃ気軽に物を言えないんだ。ここまで来たらある種、圧力団体だ。・・・自分達の都合が良い様にゲームを書き換えているっていう話もあるくらいだ。」
瀬能「そんな事、出来るんですか?噂でしょ?」
ヤマナミ「ああ。噂だ。・・・たかがゲームだけどな。そのゲームで神のように振舞える、特殊なコードを持っているって聞いた。運営から賄賂として貰ったとか、なんとか、な。」
瀬能「コード?デバックコードみたいなものですか?自分達で好きな様にデバック出来るなら、そりゃ神様と同じですよね。好きな様にプログラムを書き換えられるわけですから。」
ヤマナミ「ま、どこまで本当か俺も知らないけど、教団じゃ有名な話だぜ。頭角を現せば、教団内で出世できる。強い奴はより強くなる。だから、教団内で出世レースが起きている。」
瀬能「ヤマナミさんはそのヒエラルキーのレースに参加しないんですか?」
ヤマナミ「俺はそういうの向かねぇって。俺は純粋にこのゲームを楽しみたいの。ゲームを楽しむ為に教団を利用しているだけであって、教団で出世したいとは思わない。それこそ本末転倒だろ?」
瀬能「・・・ああ。そういう純粋な所、私、嫌いではありません。」
ヤマナミ「お前だってそうだろ?ダンジョン攻略したり、イベント攻略したり、そういうのが面白いからこのゲーム、やっているだけで、教団とか、関係ねぇからな。」
瀬能「そもそもなんですが、そのファっていう人は何者なんですか?ファ教をまとめているっていう人は。」
ヤマナミ「お前、知らないの?ノンプレイヤーキャラだよ。」
瀬能「NPC!」
ヤマナミ「そう。ファ様は、ノンプレイヤーキャラ。ファ様って言われているけど、当初、ファも一つのイベントに過ぎなかったんだ。それがあれよ、あれよと、ファの信者が増えて、気が付けば、このゲームの神様だ。彼女に陶酔して、人間が反対に、ゲームキャラの言う事をあまねく様に信仰しだしてな。ファの影響力はゲームを超えて、現実にも及ぼしている。・・・俺は、倒錯しているじゃないかと、思って見ているけどね。」
瀬能「・・・。そのムーブメントは分かりませんが、人間じゃないからこそ、プレイヤーの心を惹きつける何かがあったのでしょう。」
ヤマナミ「それにしたって異常だ。相手は人間じゃねぇんだぞ。只のゲームのキャラだ。どうして人間様がゲームキャラに尻尾をふらなきゃならねぇんだよ?おかしいだろ?」
瀬能「・・・ヤマナミさんは教団で出世は、できませんね。」
ヤマナミ「分かるか?」
瀬能「分かります。ファ様の異様さに気付いている人間は、末端信者のままで、深く信仰している人間は、教団上層部に召し抱えられる構造なんでしょう。現実世界と変わらないじゃないですか。」
ヤマナミ「・・・言われると、そうだな。」
瀬能「そうなるとファ様に会いたいですね。」
ヤマナミ「ああ無理。無理。俺が入信してから、一度もそんなチャンス、無かったぞ。信者でさえ顔が拝めないんだ。一般人じゃ無理だね。」
瀬能「でも、ファは、ゲームのイベントキャラなんでしょう?そのイベントが発生すれば強制的に会えるんじゃないんですか?」
ヤマナミ「それが無理なんだ。イベントは強制発生する。だが、周りにお付きがいて、永遠にイベント継続中になるだけだ。イベント終了なんて、もう、あり得ない。」
瀬能「まるで騎士団ですね。」
ヤマナミ「ああ。女神を守る騎士団だ。・・・しかも、運営から無敵コードをもらっている厄介な連中だ。手も足も出ない。」
瀬能「面白そうですね。」
ヤマナミ「やめとけ、やめとけ。殺されるのがオチだぞ。殺されるだけならまだしも、永遠にアカウント凍結される。奴等に睨まれたらこのゲーム、何も出来やしない。」
瀬能「ヤマナミさん、私のもう一つの名前を憶えていますか?キルタイムですよ。・・・暇つぶしには持ってこいじゃないですか。」
ヤマナミ「お前にこんな話するんじゃなかったよ。どうせ、ファ教が目的だとは思っていたけどな。」
瀬能「またテレビでやってますよ。ファ教が難民支援ですって。」
皇「へぇ。・・・お前、玉子、ぐちゅぐちゅでいいか?」
瀬能「え?やだ。・・・目玉焼きがいいです。」
皇「ああ。・・・杏子、早く言えよ!ぐちゅぐちゅにしちゃったよ。諦めろ。」
瀬能「・・・聞く前にもう混ぜてたでしょ?」
皇「それで何だって?」
瀬能「噂のファ教ですよ。国際医療結社を通じて、中東の難民支援に一億ドルの支援ですって。」
皇「一億円じゃなくて?ドル?・・・いかれてんな。」
瀬能「いかれていませんよ。難民支援ですから、お金はあればあるだけ喜ばれますから。もう、かたがゲーム会社じゃなくなってますね。」
皇「どんな団体だろうと援助してくれるなら構わないんだろうけど。なっと。」
瀬能「カルトと言われている団体だって、社会支援、慈善事業を行っている団体は山の様にありますから。その前に、明らかな犯罪を行っている様な団体は、社会貢献なんてして世間に良いアピールをしませんからね。外のイメージと内情は違うもんです。外からじゃ何も分かりませんよ。」
皇「ほら、出来たぞ。パズーのパン。玉子ぐちょぐちょだけど。」
瀬能「おおお。ベーコン!ベーコン!キム・ベーコン!」
皇「ケビン・ベーコンだろ。誰だよ、キム・ベーコンって。トレマーズの奴だろ?」
瀬能「そうです。よく分かりましたね。・・・ちなみに、キム・ベーコンではなく、キム・ベー・シンガーでした。ナインハーフの。」
皇「愛情、ちゅっちゅ、するか?」
瀬能「愛情いらないからおっぱい下さい。あ、私の脂肪もあげますから、瑠思亜のおっぱい、分けてください。」
皇「嫌だよ。お前みたいに貧祖になりたくないんだよ?お前、脂肪ねぇじゃねぇか。もっと肉食えよ。」
瀬能「貧祖言わないで下さい。」
皇「タンパク質を取らないと血肉にならないの。お前、明らかに栄養失調だもんな。電子レンジでチンして食うもんばっかり食っていると、栄養失調になるんだよ。お前、体だけみたら、この中東の難民と変わらないからな。」
瀬能「先進国の闇ですね。私は闇を体現しているのか。」
皇「消費期限とか賞味期限とかよく知らないけど、食べ物を大量廃棄している一方で、お前みたいな、一部栄養過多、一部栄養失調みたいな、奴が多いんだ。この日本という国は。」
瀬能「瑠思亜は、・・・ちゃんとしているんですか?」
皇「お前より社会性があるからな。あと、これ、食え!」
瀬能「ぐわぁ、なんで、どうして、納豆、かけるんですか!食べられないじゃないですか!」
皇「納豆はな、大豆。食物繊維だ。しかもタンパク質。野菜。おまけに、発酵食品。腸まで届く菌は、キムチと納豆だけだ。だから食え!」
瀬能「その栄養的な話と、トーストに納豆っていう組み合わせは、別だと思うんですけど。」
皇「食え」
瀬能「・・・食べますけど。」
皇「うまいだろ?」
瀬能「その料理の押しつけ、やめて下さい。・・・ああ、おいしい。・・・私、好きかも。」
皇「難民支援ねぇ。これってゲーム会社がお金、出している訳じゃないんだろ?あくまでファ教が出しているなら、どうやって金、集めているんだろうなぁ。・・・この前みたいに、町中で募金、集めてたって、こんな額にはならないだろ?」
瀬能「ファ教は日本だけじゃないって話ですから、世界中で、そういう活動、しているんじゃないんですか?特に、ヨーロッパは意識が高いですから、たかがゲームのマニア組織でも、こういう目で見える形で慈善事業を行っていれば、多額の寄付金が集まると思いますよ。運営会社も注目されるし、広告費も集まるから、少しは協賛していると思いますが。」
皇「ファ教、さまさまだな。」
瀬能「聞いたんですよ。このファ教のトップ。ファ。これこれ、このシールのこのキャラクター。これ、NPCだそうですよ。」
皇「実在してねぇのかよ!」
瀬能「みたいです。ゲームのキャラクターにみんな、信奉しているって話でしたよ。」
皇「信奉って言ったって、そのセリフ、考えているの、ゲーム会社だろ?ゲームの会社が言わせているんだろ?・・・え?・・・私、意味が分からない。結局、人間が言わせているんだよな?それなのに、ゲームの、架空のキャラクターの言う事を信仰しているのか?・・・え?え?」
瀬能「いやいやいやいや。そこは深く考えない方が良いと思います。私は、理解できないでQEDしました。」
皇「ゲーム会社も、このファってキャラが金のなる木って分かっているんだろうな。」
瀬能「そりゃそうでしょう。そうでなければ、暴走です。ゲームのキャラが暴走しているだけの話になってしまいます。」
皇「人間が反対に、架空の人間に踊らされるって話、よくあるじゃん?人間を扇動して、言論を統制してさ、でも、人間はそれを最後まで知らなかったっていう話。時祭イヴだっけ?」
瀬能「八十年代の出来の悪いSFですよ。言い換えれば、そんな話、どこにでもあるって事かも知れませんが。ファ教がどこまでそれなのか、分かりませんけどね。」
皇「一億ドルだぞ?ここまでインパクトがでかい支援していたら、ゲームを知らない人間だって、考えに賛同する人だって集まってくるだろ?人が人を呼ぶ、金が金を呼ぶ、そういう現象。」
瀬能「特にアメリカの富裕層は、こういう話、好きですから、投資先には困らないでしょうね。益々、金が集まりますよ。」
皇「・・・アジア人ってこういう話、好きじゃないよな。民族性の違いなのかねぇ?自分達に利益がない投資には、見向きもしないって言う。」
瀬能「アジア人はアジア人で集まるのが好きな人種ですからね。排他的、対外的、分かりやすいじゃないですか。・・・こういう難民支援に興味あるアジア人は、ファ教のような団体を利用すれば、匿名で、慈善活動に支援できますから、そういう意味でも、必要悪なのかも知れませんよ?」
皇「三大宗教とか言われて、世界中で何かしら信奉している人間がいるのに、難民に興味が無いって、宗教の意味があるのかね?布教だけして信者、集めても、他人に興味が無いんじゃ、それって本当の意味の信奉なのか、って私は思っちゃうけど。無心論者の私が言う事じゃないけどな。」
瀬能「宗教間同士の対立もあるし、人種の見えない壁もありますし、未だ、人類は神の教えに辿り着いていないって事でしょう。そこに突如現れた、電子の女神。あらゆる人類の問題をかるく踏破してしまったんです。ファ様に歓喜し、それに感銘を受けた人間が、これだけ集まっているっていうのも、不思議な事ではないと思います。」
皇「現れるべきして現れた、神ってことか。・・・怖いねぇ。怖い。怖い。」
瀬能「いまや信者はファの言いなりです。人類を抹殺せよ、と言われればその通り、実行しますよ?」
皇「怖い。怖い。怖いから、一円パチンコに行くぞ。五銭でもいいけどな。」
瀬能「あのぉ。玉の貸し賃が安いと回っても大した額にならないですよ。」
皇「昔の北斗の拳が入ったんだ。」
瀬能「そんな昔の台。・・・まぁ、懐かしいからやっちゃいますけど。」
皇「神谷明の若い声が聞けるのはパチンコ台だけだぞ?あと、熱血している、性格不明、意味不明な碇シンジとか?」
トレイジア「へぇ。近くでファ様が見られるかもしれないの?」
マニやん「見られる訳ないだろ?軍隊が警備しているんだ。街道は閉鎖。だから、こうやって事前に通る道沿いに情報を流して、警戒させるんだ。ファ教信者はファ様が無事、通るまでケンケンガクガクだぞ。」
アリシア「参勤交代みたいなもん?」
マニやん「参勤交代を見た事ないから分からないけど。」
瀬能「まじめか!」
マニやん「お前、見た事あんのかよ!参勤交代ぃ!」
トレイジア「なんで、またファ様が直々に会いに行くのよ?偉いんでしょ?向こうから来させればいいじゃない?」
マニやん「お前、バカだなぁ。司祭自ら、祝福を授けるっていうイベントなんだから、行かなくちゃイベントが成立しないだろ?」
瀬能「珍しいですね。そんなイベントがあるんですか。」
マニやん「シスター、プリーストか何か、知らないけどその職業でしか出ないイベントなんじゃないか。ワールドマップでも誰も行かないようなド田舎の教会に行くっていうんだから。」
トレイジア「周りの人は大変でしょうね。司祭様が勝手にイベント執行しちゃうんだから。」
アリシア「道を封鎖したり、町も封鎖したり、イベント以外の騒ぎが起こるじゃない。いい迷惑じゃない。」
マニやん「もう、だから、教団がイベントを仕切るんじゃないか、って言われている。ファ教からしてみれば、滞りなくイベントが終了すれば良いだけさ。途中の町の事なんざ知ったこっちゃないと思うぜ?ただ、やり方が強引過ぎるけどな。」
トレイジア「まあねぇ。冒険者ギルドで聞いたけど、あまり面白く思っていない連中も多いみたいよ。」
マニやん「冒険者ギルドにしてみたら商売敵みたいなもんだからな。ギルドの方は、ファ教に喧嘩売るような事はしないようにしているらしいぞ。揉めても良い事ないから。」
アリシア「なんでそんな大きい顔ができるのよ?変じゃない?」
トレイジア「あんた、何も知らないのね?」
アリシア「うぅうん。私、ゲーム攻略が楽しいからやっているだけで、別に、そういうの興味ないし。」
マニやん「アリシア、お前、たまには冒険者ギルド行って情報集めて来いよ?」
アリシア「ああ。ごめん。クエスト以外興味ないから。」
マニやん「奴等がデカイ顔しているのは、教団の信者数が多いからだけじゃない。その幹部クラスがバカ強いからだ。」
瀬能「バカ強いんですか?」
マニやん「ああ。幹部一人一人がラスボス級らしい。いや、パラメーターが固定されているボスより、プレイヤーの方が強い可能性はある。教団に楯突いたところで、返り討ちに遭うのが関の山だ。あたし等ぐらいのレベルじゃ相手にされねぇよ。」
アリシア「そんなに強いの?私達と一緒のプレイヤーでしょ?」
トレイジア「中ボス相手に、パーティで戦って、逃げ帰って来るようじゃ、相手にならないと思うよ?」
瀬能「どうして、そんなに強いのでしょうか?不正を行っているとか?」
トレイジア「・・・多額の課金をしているって話もあるけど。多額って言っても、尋常な額じゃなくて、一千万円レベルの課金だって。」
アリシア「一千万円?ゲームに?バカじゃない?」
トレイジア「・・・バカなんじゃない?」
瀬能「世界には一定数富裕層がいますから、そういう連中が、金に物を言わせて、特殊なアイテムを購入しているんでしょうねぇ。」
マニやん「株、ガス(石油)、ベンチャー、動画配信、金が金を呼ぶ奴なんてザラにいるからな。シコシコ、安い給料で、安い武器買って、遊んでいる連中とは違う奴も、そりゃいるだろう。」
トレイジア「もうつまらない事言わないでよ?現実逃避する為にゲームで遊んでいるのに、ゲームの世界でも経済格差?アホらしい。バカじゃない。」
瀬能「アホなのか、バカなのか、どっちかにして下さい。」
トレイジア「両方よ!腹が立つ!」
アリシア「確かに腹が立つわね。ゲームまでお金で買う事、ないじゃない。」
マニやん「バカなのはお前等だ。オンラインゲーム、カードゲーム、どんなゲームでも、金をかけてアイテムを買って強くするなんてムーブ、昔からあるんだよ。金をかければすぐ強くなるからな。お前達と根本的に遊び方が違うんだ。」
瀬能「私はやっぱり、無課金でどこまで強くなるかが面白くてやっていますから、その考えは好きではないですね。」
アリシア「セノキョン、無課金おじさんなの?」
瀬能「無課金おじさんです。」
マニやん「お前、おじさんだったのかよ。」
瀬能「無課金おばさんでもいいですが?・・・飯島真理が主題歌でお願いします。」
マニやん「スプーンおばさんだろ?それ。」
トレイジア「・・・おじさんでもおばさんでも、どっちでもいいけど、よく無課金でやっていられるわね?」
瀬能「お金はないけど、時間はありますから。」
アリシア「そうよ、そうよ。それ。私もお金はかけられないけど、時間を使って、ここまで強くなったのよ?」
トレイジア「リーダー、そんなに強くないじゃない。もっと強くなってよ。」
マニやん「ファ教の奴等も、あんまりデカイ顔をしていると、突き上げがあるからな。街道を封鎖して行進だろ。・・・揉めるだろうな。」
瀬能「冒険者ギルドが間に入って、そういう輩を止めたりしないんでしょうか?」
トレイジア「する訳ないじゃん。ギルドとファ教は仲悪いんだから。」
マニやん「下手したら、ギルドがバカを煽る可能性だってあるぞ?・・・こりゃ、お祭りだな。」
アリシア「もう、近づかない方が良いじゃない。そのイベントが終わるまで、近づかない方がいいわ。巻き込まれるのは嫌だもの。どうして、みんなで楽しく、ゲームが出来ないのかしら。」
黛「だから裏金っていうのは表に出ないから裏金って言うの。」
額賀「まあまあ黛さん。そんなに興奮なさらないで。」
皇「言われてみれば、確かに、そうですよね。」
黛「俺も額賀さんも雇われの身だから、そんなに強く言えないけど、下っ端は下っ端で大変だよ。こないだベトナムから帰って来たばっかりなのに、今度はインドネシアだよ。俺は警察じゃねぇんだから、さぁ。・・・もう、そういうの勘弁して欲しい訳よ。」
皇「毎日海外旅行で羨ましいじゃないですか。」
額賀「・・・ルシアちゃん。」
黛「まったく、言うねぇ、ルシアちゃんは。だから俺は好きなんだよ。そういう物怖じしない所。」
額賀「ルシアちゃんも、あんまり、飛ばし過ぎないでね。僕が困るから。ね。」
黛「額賀さんも心配すんな。俺もバカじゃないから。ルシアちゃんとこの上と揉める気ないから。なんか飲む?ルシアちゃん?」
皇「・・・ああ。そうですね。肝臓を気にしているんで、ウコン。ウコンお願いします。」
額賀「ボーイさん。ウコンお願い。・・・ルシアちゃん。ウコンなんて迷信でしょ?効くの?」
皇「胃と肝臓に効くって話ですから。重いものばかり最近、食べているので。もたれている気がするんです。皆さんは平気ですか?そうそう、黛さんなんかベトナムでしょ?食べるものは平気だったんですか?」
黛「なに、ルシアちゃん。俺の事、心配してくれるの?ああ、今度、指名いれちゃう。ルシアちゃん、指名いれちゃうから。」
皇「黛さんは空知さん専門じゃないですか?私でいいんですか?」
黛「そうだ。姉さんにも顔、出しておかないと。忘れてた。また海外だもんな。姉さん、空いてる?空いてそう?」
皇「額賀さんが指名いれなければだいたい空いていると思いますが?」
黛「じゃあ額賀さんが行かない時に行かないと。な。」
額賀「空知さんも喜ぶんじゃないですか?」
黛「やっぱりさ、姉さんの良さに気が付かない奴はまだまだガキだと思うんだよ。なぁ、額賀さん。」
額賀「はぁ。僕は、もう、ガキの頃からお世話になりっぱなしですから。」
黛「ああ、やっぱりぃ?姉さんに男にしてもらった感じ?・・・いやぁ。わかる。俺もそうだった。この気持ち、分かる人がいてくれて俺は嬉しい。額賀さんも飲もうぜ?全部、俺のおごりだ。」
額賀「ありがとうございます。」
黛「やっぱり、なに・・・ホストクラブに男の客がいるとマズイわけ?」
額賀「そんな事ないですよ。色んなお客様にきて欲しいですから。」
皇「でも、あれですよ、黛さん。黛さんがナンバーワンの額賀さんを独占していると、他のお客さんが焼きもち焼くから、適当な所で放してあげないと、額賀さんも困るんですよ。ずっと、インカムで呼ばれているんですよ、あれで。」
黛「ああ、マジ?ごめん!本当にごめん!悪い事しちゃったなぁ。ほら、額賀さんと顔あわせるの久しぶりだったからさ。ほんと、ごめんね。」
額賀「いや、いいんです。黛さん位、お金、使っていただけるお客さんは最近、いらっしゃらないですから。むしろ、僕がお相手をしないといけないんですが。・・・誰か、他のホスト、付けますか?」
黛「いいよ。いい。俺は額賀さんと飲みたいんだから。」
額賀「じゃあまた一回り、回ったら、来ますね。・・・ルシアちゃんもごゆっくり。あと、いくら黛さんでも失礼がないようにね。」
皇「はい。分かりました。」
黛「額賀さんは神経質だからな。ま、ああでなけりゃ、上の人達と上手くやれないわな。」
皇「黛さんも上手な方だって聞いてますよ。」
黛「うまく使われているっていうのと、相手にされていないっていうのが本当だろう?上手くやるっていうのは、額賀さんみたいな人を言うんだ。」
皇「確かに。・・・それで、ベトナムで裏金、回収してきたんですか?」
黛「まあな。あっちの人も、あっちの人で自分達の島を荒らされて、気が立ってる訳よ。お互いにウィンウィンなわけ。」
皇「マフィアみたいな人達ですか。」
黛「コーディネーターだ。コーディネーター。あくまで現地を案内してくれるコーディネーター。ちょっと裏だかそっちの社会に詳しいコーディネーターさんだよ。あっちはあっちの流儀があるだろ?流儀っていうのか、ルールっていうか、ううぅん。日本語じゃ難しいけど、領分があるんだ。それを好き放題やられたら、顔がたたないし、面目が潰れる。俺達もベトナムに逃げた奴を探している。うちの上の考えは、金さえ戻れば、それでいいって話で、見つけた人間を、現地のコーディネーターに渡せば、現地の人間も面目が立つだろ?」
皇「引き渡した後はどうなるんです?」
黛「さぁなぁ。そこまでは知らねぇ。俺の仕事は現金回収だ。隠した現金を回収するっていうな。まさか、ベトナムでやっている奴等も、わざわざ日本から現金回収に来るとは思わないだろうぜ?」
皇「まるでやっている事は警察ですね。」
黛「あったり前だろ。警察より早く奴等を見つけなけりゃ、その金、もっとどっかに消えちゃうんだから。裏金探すのも大変だよ。」
皇「表に出ないお金ですもんね。」
黛「もう電話で家族に成り済ます特殊詐欺とか、強盗とか、そういうチンケな詐欺は、下請けに出している。小っちゃい金が動いているんじゃないんだ。もっと大っかい金。組織も規模も扱う金の量もケタが変わってきた。莫大な金が動いているんだ。ベトナムに限った話じゃないけど。だから今度、インドネシアに行くし、地中海の方も行けって言われているし。地中海の方って本物のマフィアがいる所だろ?行きたくないんだけどね。」
皇「ええええ!現金回収もワールドワイドですね。世界ふしぎ発見ですね。」
黛「なるほどザ・ワールドだよ、まいっちゃうよ。」
皇「大きなお金が動くなら、現地の人も、そりゃぁ気分が悪いでしょう。もっと、現地にお金を降ろしてもらわないと割に合わない。」
黛「あ、ルシアちゃん。鋭いね。そこ。そこなんだよ。俺んとこの上の人は、コーディネーターさん所に、ちゃんと義理、通す訳よ。なんならもうビジネスパートナー。だけど、今でも、現地の人を下に見る人間がいてね。そういう奴等はパカパカパカパカ、やられちゃってるってわけ。」
皇「パカパカ、パカパカ?」
黛「パカパカ、パカパカだよ。パカパカ、パカパカ。でっかい詐欺する詐欺師もそうだし不動産、美術品関係ね、政財界の奴等も、資金洗浄に使ってる。驚くぜ?本当に綺麗さっぱり金が白くなるんだ。魔法だよ、魔法。裏が表に早変わり。」
皇「そんな簡単にいきますか?これまでだってマネーロンダリングするには、ルートの追跡を辿られないように、二重、三重、ルートを変えて、だからそれこそ東南アジアの国で洗浄してきたんでしょう?」
黛「それが魔法のツールがあるんだ。一瞬で黒い金が白い金に変わる魔法が。あの、金の斧、銀の斧の泉の精だよ。泉の精。」
皇「黛さんは、でも、表のお金になってしまったら、お金の回収が出来ないじゃないですか?」
黛「・・・そこ。ほんと、ルシアちゃんは頭がいいね。そこなんだよ。俺が頭を悩ませたのは。魔法で一瞬に、変わっちゃったら、お金、取れないからね。せっかくベトナムに行っているのに。俺も上から怒られちゃうし。・・・魔法使うって事はさ、魔法使いがいるわけじゃん?」
皇「魔法使い?」
黛「そう。魔法使い。その魔法使いと、魔法の薬を取り上げちゃうわけよ。そうすれば魔法使いも魔法が使えなくなるでしょ?」
皇「んん?なんだか訳が分からないですね。マネーロンダリングを簡単に行うツールでもあるんですか?それを、押さえちゃうっていう事ですね。」
黛「簡単に話せば、そうなんだけどね。その魔法使いを見つける方法を、俺が発見したのよ。そりゃもう目から鱗で。現地のコーディネーターさんも驚いてたわ。ただ、それは俺の専売特許だから秘密。企業秘密。俺も、現地で、スーパー営業マンでいたいからさ。な。おかげで俺の現地の人気は不動のものだったよ。マユズミマジックって言われてな。ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
皇「・・・電線か電話線の類でしょ?」
黛「え?」
皇「・・・ウコン、おかわりお願いします。」
黛「え?え?・・・なんで、どうして、ルシアちゃん。わかるの?」
皇「資金洗浄がどういうカラクリかは知りませんが、一瞬で行えるって言ったら、PCの類を使うのが一般的です。PCかスマホかそれは分かりませんが。でも、どちらにしても、安定的にそのようなツールを使うなら電気が必要になります。そうなれば電気を引かなければなりません。電気を引く、すなわち、電柱と電線が増築されると思います。日本人は、当然の様に電気が勝手に使えると思い込んでいますが、発展途上国ではそうはいきません。電気を使うには、それを利用する、環境を整える所からはじめなければなりません。電力会社の選定から始まって、電線を伸ばし、無ければ電柱も立てなければなりません。黛さんは、その電柱と電線を追っていけば、その取引を扱っている人物の所に辿り着ける、という寸法です。家か倉庫か納屋かホテルか、それは分かりませんが。ただ言えるのは、ネットの取引を行うなら、ネットも安定した回線を引かなければなりません。通信が絶たれたら仕事にならないからです。その様な取引を日常的に扱っている人間なら、光ファイバーケーブルを引くと思いますから、電線を見ていれば、あ、これは光だな、と分かると思います。日本では既に光ケーブルなんてありふれていて誰も気にとめませんが、剥き出しの光ケーブルが電柱を伝わっているなら、その手の行為を行っている人物だと、特定可能だと思います。要は、電気と通信手段の物理的な環境、です。」
黛「・・・・あ。あ、そう。・・・・あ、なるほどね。」
皇「・・・。」
黛「ルシアちゃん。ウコン、おかわりする?・・・それから今の話、誰にも話さないでいてもらえるかな。それ、俺の専売特許で、俺、それで、今、商売、がんばってるからさ。」
皇「別に世間話ですから誰にも言いませんよ。言った所でどうこうなる話でもありませんし。・・・でも、そんな簡単に洗浄できるツールがあるんですね。」
黛「ルシアちゃんには隠し事できないから話すけど、オンラインゲームが使われているんだよ。」
皇「オンラインゲームですか。」
黛「オンラインゲーム上に、マネーロンダリングする専門の集団がいてね。そいつ等が綺麗に、お金を白くしてくれるんだ。しかも、日本円だけじゃない。海外の全て。流通していない特殊な通貨も。ドルでもユーロでも、マルクでも、ネット上の仮装通貨、ポイントもそう。あらゆる金を洗浄してくれる。」
皇「噂には聞いていましたけど。」
黛「そのゲームの集団は、自分達が銀行役になって、ありとあらゆる通貨を洗浄してくれる。レートも独自だ。世界の為替と連動していない。かと言って、お互いに損をしない、極めて平等なマネースワップ、ロンダリングだよ。・・・噂じゃ、開発途中の量子コンピュータを導入しているって話だ。スパコンが何台あっても追いつかない計算をやっているんだからね。ま、その組織が、組織かどうかも分からないけど、誰も手が出せないんじゃないのか?」
皇「資金洗浄を行っている末端の人間は捕まえられる事が出来る。そこでお金を回収する事は可能。ただ、その資金洗浄を行っている大本の組織は、未だ、不明って事ですか。」
黛「俺達は、俺達の金が横流しされる前に、回収できればそれでいいんだ。どんな奴等がどんな方法で、マネーロンダリングしているかなんて考えるだけ無駄だからな。」
皇「そんな人達ならば、警察も手が出せないでしょう?極めて巨大な、犯罪組織でしょうから。そうか、犯罪組織ではない可能性もありますね。方法は別にして洗浄自体は合法ですから。客が違法な金を持ってくるだけで。・・・資金洗浄に政財界の人間がからんでいるなら、余計です。そのブラックボックスに手を入れる人間なんていないでしょう。パンドラとも言えますね。・・・黛さんも、あまり、手を出し過ぎないようにした方が賢明じゃないですか?相手が悪いと思います。」
黛「やめてよ、怖い事、言わないでよ。インドネシア、行けなくなっちゃうじゃない。」
皇「自分達のお金を回収する、っていうのを明確にしておかないと何処に連れていかれるか分かりませんよ。欲が出て、その組織の金に手を出せば、楽しくお酒が飲めなくなる事もありますから。何事も、分相応でないと。」
黛「・・・そうする。ルシアちゃんの言う通りにする。俺、欲を出さないよ。うまくやっていきたいもん。」
皇「どんな組織なんでしょうかねぇ。世界中のお金を自由に出来て、そのお金を担保できる資産を保有していて、しかも、バックに政財界、裏社会なんかも付いている。・・・危ない匂いしかしませんね。」
額賀「あれ、どうしたんです?黛さん、顔が青いですよ?気分でも悪くなりましたか?・・・ルシアちゃん、何かした?」
皇「私、何もしていません、て。すぐそうやって私の所為にする。」
黛「いや、俺も、ウコン、もらおうかな。」
シュレッダー「ああ、もう、ギルドはノータッチ、ノータッチ!ファ教はファ教で勝手にやってくれってもんだよ。」
瀬能「近々、ファが軍行してくるとか。」
シュレッダー「大名行列だよ。街道封鎖。それについての警備は教団がすべて自前で行うっていう徹底っぷりよ。」
瀬能「知人が参勤交代?なんて言っていましたが、あながち本当の様ですね。」
シュレッダー「なんのイベントか知らないけど、こっちはいい迷惑だよ。」
瀬能「シュレッダーさん、知らないんですか?」
シュレッダー「知るわけないじゃん。興味もないし。私はギルドの受付係。関係ないもん。ファ様が通ろうがバイト代が上がる訳でもないし。」
瀬能「そりゃそうですが。冒険者ギルドとファ教って仲、悪いって聞きましたけど、本当ですか?」
シュレッダー「ああん?・・・うーん。・・・よく分からん。末端のプレイヤーじゃ関係ないもんね。上の方は知らないけど。」
瀬能「ファを襲撃するって言う、きな臭い話も出ていますけど。」
シュレッダー「まあ、なかには、ファ教のやり方が気に入らない連中もいる事は確かだから。でもさ、セノキョン。襲撃するって言ったって、向こうの幹部、ほぼほぼ無敵なんでしょ?そんな奴にケンカ売ったってしようがないと思うけどな。」
瀬能「そんなに強いんですか?ほぼほぼ無敵って。」
シュレッダー「どんな仕掛けか知らないけど、無敵?不死身?とかなんとかって。戦うだけバカみるから戦う奴なんて今はいないけど。」
瀬能「今はいないっていうのは、前はいたのですか?」
シュレッダー「そりゃぁ、いた。あれだけの信者を抱える教団よ。腕試しで挑戦する奴もいるし、名前を売りたい奴もいるし、単純に、気に入らないっていう理由で戦いをふかける奴もいるし。ふっかけられた戦いを無傷で返り討ちにするんだから、余計、ファ教の名前が売れちゃったのよね。」
瀬能「このゲーム下において、無敵、不死身のステータスがあるんですか?」
シュレッダー「死なないんだから無敵なんでしょ?どういう理屈か知らないけど。」
瀬能「興味ありますね。是非、戦ってみたいですね。そんな異常ステータスのキャラクターと。」
シュレッダー「セノキョン、やめとけ、やめとけ、どうせ殺されて終わりよ。」
瀬能「相手が死なないっていうのは、最初から死んでいるとか、呪われているか、そういう異常ステータスなんじゃないのでしょうか。もしくは、何人も手下がいて、死ねばすぐ蘇生されちゃうとか、そういうインチキしているのじゃないのでしょうか。」
シュレッダー「まあ。そうだなぁ。そういうやり方もあるかも知れないけど、どっちみち一人じゃ分が悪いよ。相手は死なないんだから。こっちがダメージ喰らったらそれで最後。只、死なないだけじゃなくて、火力も強いんだから。ああいう輩は関わらないのが無難よ。」
瀬能「なるほど。こっちもある程度、無敵じゃないと戦えない訳ですね。」
シュレッダー「だからそんな都合の良いものなんか無いのよ。あったら、みんな使ってる。そうでしょ?」
瀬能「シュレッダーさんも、ギルドの受付なんかやってないで、たまには外で暴れてみたくはないですか?」
シュレッダー「さんも、の、も、ってなによ?私は好きで受付係をやっているんだから。」
瀬能「ファ教の幹部を倒せば、大金星ですよ。大大大、大金星。」
シュレッダー「前前前世みたいに言うな。・・・いい、セノキョン。勝てる見込みがあるなら戦うけど、相手が悪過ぎる。一国の軍隊を相手に戦争を起こすようなもんよ。一人や二人で戦える相手じゃない。」
瀬能「シュレッダーさんは冷静ですね。もう少しノリが良いと思っていましたが。残念です。」
シュレッダー「アホか。あんたに付き合って死ぬ程、バカじゃないの。ただ、そういう奴とは戦ってみたいとは思っているけどね。・・・いい、セノキョン。あいつ等はただ強いだけじゃ倒せない。おんなじゲームのプレイヤーじゃないの。準備と覚悟、それと情報がいる。丸腰で戦える相手じゃないのよ。いい?」
瀬能「・・・彼もプレイヤーであることは間違いないはずです。強さに秘密があるだけで。」
シュレッダー「その秘密が皆、分からないから、あいつ等、態度がでかくなっているんじゃない。」
瀬能「どうにか地べたを這い蹲せたいですねぇ。」
ヤマナミ「ファ様が外に出るイベント?ああ。山のシスターに会いに行くとかっていう奴だろ?」
瀬能「そうです。」
ヤマナミ「ドラゴンが住む山があるだろ。なんでも石にしちゃうドラゴン。その山の麓に教会があってな。貧乏な教会で、そんな山の教会だから誰も寄り付かない。どういう目的でそこに教会を作ったのかは、そのプレイヤーしか分からないらしいけど、えらくファ様が感動したらしくって、教会を建て直してあげるとか、なんとか。」
瀬能「教会を建て直す?」
ヤマナミ「ファ教が建て直すんだ。それでこれからはファ教の教会にするんだってさ。ファ教の教会になれば信者が集まってくるから、教会も繁盛するし、ファ教の布教の一環なんだろ?」
瀬能「ファってゲーム内のプレイヤーの事まで把握しているのですか?」
ヤマナミ「俺が知るかよ。教団の話だと、細々と教会を運営しているそのシスターに感銘を受けた。だから全面的にファ教が資材やら資金を提供して、教会を建て直すって事になって、今回のイベントが進行しているだって。ファ様が一プレイヤーの事まで把握しているかどうかは、分からないな。」
瀬能「凄い確率の凄いイベントですね。特殊すぎるイベントだと思います。」
ヤマナミ「宝くじが当たるような確率だろうな。ドラゴンがいる山だから、ドラゴンがらみでもあるとは思うけど。・・・ドラゴン討伐もゲーム内じゃ有名なイベントだし。・・・ファ様をドラゴンから守るんじゃないか?」
瀬能「なるほど。・・・言われてみればヤマナミさんの言っている事は筋が通りますね。ああ、そうかも知れないです。」
ヤマナミ「ファ様を警護するのも大切だけど、やっぱり本命はドラゴン討伐じゃないか?」
瀬能「ラスボスより強い幹部がいたら、ドラゴンなんか、簡単に捻っちゃうでしょうに。」
ヤマナミ「目に見えているけれど。たぶん、きっと、そうだろうな。ラスボスより強いから。」
瀬能「ヤマナミさん。そのファ教の幹部、簡単に倒せる方法、ご存知ないですか?」
ヤマナミ「・・・仮に知っていたら、俺がとっくに倒していると思うぜ?」
シルバースター「何事だ?」
従者「あ、あのぉ。この女が道を塞いでおりまして。」
シルバースター「とっととどかせ。一団の進行が滞る。」
従者「おい女!さっきからそこをどけと言っている!」
シュレッダー「あの、だから、私は目が見えないと、さっきから言っているではありませんか?」
シルバースター「なに?目が見えない、だと?」
シュレッダー「あの、どこのどなたか存じ上げませんが、安全な所まで連れて行って下さい。いつ、モンスターに襲われるか分かりません。お願いします。お願いします。」
シルバースター「ええい。くそ。・・・お前達、早く、その女を遠くに連れていけ!早くだ!急げ!」
従者「は!・・・女、掴まれ、立て、行くぞ!」
シュレッダー「待て待って、そんなに乱暴にしないでぇ!」
シルバースター「早くしろ!」
ファ「・・・なにを、大きな声を出しているのです?」
シルバースター「・・・ッ。者ども、道を開けろ。ファ様がお通りになる。」
従者「は!」
シュレッダー「えっ!・・・ファ」
シルバースター「ファ様だ。」
シュレッダー「ファ様?・・・ええええ!」
ファ「こちらの方は?」
シルバースター「は。ファ様がお出でになるような事ではないかと、存じ上げますが?」
ファ「こちらの方はどうなさったのかと聞いているのです、シルバースター。」
シュレッダー「えええ、ああああ、あああ、わたし、シュレッダーと言います!初めまして、初めまして」
ファ「ええ。こちらこそ。・・・シュレッダーさん?」
シルバースター「こちらの婦人は、目がご不自由だと申されております。」
ファ「まあ、目が。」
シルバースター「そうだな?女。」
シュレッダー「ええ。暗視の魔法をかけれれてしまって。どこをどう歩いてきたか分かりませんが、気が付いたら、兵隊さんに、そこをどけと言われまして。でも、私、目が見えないからどくも何も出来なくて。」
ファ「目がご不自由な方に向かって、そんな乱暴な事を言ったのですか?・・・誰ですか?そんな浅ましい事を言ったのは?」
シルバースター「出て来い。」
従者「え?」
シルバースター「貴様はファ様のお考えに背いたのだ。お前を処分する。そして、お前は教団から抹消する。・・・おい、連れていけ!」
従者「嫌だ!待て!俺は何もしていない!待て、助けてくれぇえええええ!」
従者「立て、いくぞ!」
従者「待て、待ってくれ、よしくて!ファ様!ファ様、お慈悲を!お慈悲を!」
シルバースター「浅ましい。」
ファ「私があなたの目を治してさしあげましょう。魔法で見えなくなった視力なら、同じく魔法で回復する事が可能です。幸い、私にはその能力があります。さあ、シュレッダーさん。顔を上げて下さい。」
シルバースター「女、顔を上げるのだ。」
シュレッダー「え?治してくださるんですか。ありがとうございます。ありがとうございます。」
ファ「さあ、回復の魔法です。」
シュレッダー「あ!目が、目が見える!ああああ!目が見える!あああああ、あなたが、ファ様。本物のファ様?」
ファ「そうです。私がファです。」
シルバースター「女、ファ様はこれから公務で先を急いでいる。すまないが道を開けてくれないか。」
シュレッダー「ファ様に会えるなんて、しかも、目を治していただけるなんて、自慢します。仲間に自慢します、ありがとうございます。ありがとうございます。」
ファ「それは何よりです。」
シルバースター「では、ファ様。先を急ぎましょう。」
ファ「では、シュレッダーさん。またどこかで、お会いいたしましょう。」
シュレッダー「ありがとうございます!ありがとうございます!」
シルバースター「通るぞ。おい女、今度こそ、邪魔になるなよ、いいな!」
瀬能「・・・シュレッダーさん。上手くやりましたね。あははははははははははははははははははははは。ファ教のキャラバンに潜入成功です。・・・古典的なやり方です。ルパンがカリオストロで神父を誘拐したあの古典的なやり方です。聖職者は弱者に弱い。他にアイデアが浮かばなかったのですけどね。」
シュレッダー「セノキョンの奴、うまくやったかな?・・・それにしても、あれが、本物のファか。この規模。この軍隊。どれくらいの人数がいるの?安くないわねぇ。勝てる戦争じゃないわ。戦争にもなりゃしない。こりゃ相手が悪過ぎる。きひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、キルタイムと一緒にいると飽きないわぁ。」
シルバースター「では、ファ様。私はこれで失礼します。長旅ですのでご休息できる時は必ずお休み下さい。では、引き続き、頼んだぞ。では失礼。」
侍女「は。」
侍女「ではファ様。お休み用のお召し物にお着替え下さい。」
侍女「こちらでございます。」
ファ「皆には苦労かけますね。」
侍女「勿体ないお言葉。」
瀬能「お済のお召し物を預からせて頂きます。」
侍女「お着替えが済みましたら、お茶のご用意が出来ております。」
侍女「ファ様。こちらでおくつろぎ、下さいませ。」
ファ「ん?・・・あなた、見かけない顔ね。」
侍女「ファ様。いつものお紅茶でよろしいですか?」
ファ「ええ。・・・皆も、休みなさい。ここには、うるさい騎士団も司教もおりませんから。」
侍女「私共はファ様の身の回りのお世話をするのが役目。」
ファ「堅苦しいことを。そんな事では、長旅は出来ませんよ?」
瀬能「・・・では、お言葉に甘えて。」
侍女「あなた!・・・ファ様の前で無礼ですよ!」
侍女「そうですよ!」
侍女「・・・ですが、ファ様が、少し休んでよいと?」
ファ「そうです。お前達、少し肩の力を抜くのも仕事の一つですよ?」
侍女「しかし、ファ様。侍女長がご覧になったら、叱られるのは私共でございます。侍女を甘やかさないで下さい。」
ファ「まぁ怖い。」
瀬能「まぁ怖い。」
ファ「・・・ふふ」
瀬能「・・・あははは、あはははははははははははは」
侍女「あははははははは、ではございません。ファ様も!あなた、ファ様の御前だからと言って、何でも許される訳ではありませんよ?あまりにも目に余る様でしたら、騎士団に報告しなければなりません。」
ファ「・・・固い事を言わない。ねぇ。」
瀬能「ファ様の言う通りでございます。」
侍女「そうです。ファ様も寛大におっしゃって頂いているのですから。」
侍女「まったくあなた達ときたら。叱られても知りませんよ?」
ファ「皆が黙っていれば、叱られる事はありませんよ?」
侍女「左様でございます。ねぇ、ファ様。」
瀬能「ファ様とティータイムを一緒に過ごせるなんて夢の様でございます。」
侍女「ほんとう。ほんとうにそう。」
ファ「私は特別ではございません。私は皆と一緒ですよ。」
侍女「ファ様は特別な存在でございます。くれぐれもお言葉にはご注意くださいませ。誰が聞いているか分かりません。」
瀬能「怖い。怖い。怖ぁぁぁぁい。・・・あはははははははっはははは」
ファ「・・・ふふふふふふふふ」
シュレッダー「これが、ファ教の秘密?」
瀬能「お待たせしました。・・・追いつくのに時間がかかっちゃって。はい、行っていいよ。はいどぉ」
ヒヒヒヒヒィィィィン
シュレッダー「それコスプレ?ゴスロリ?」
瀬能「違いますよ。侍女です。侍女の衣装を借りまして、ファの顔を見てきました。そっちはどうだったんですか?うまくいきましたか?」
シュレッダー「うまくいったから、こうやって生きているんでしょ?バレたら即刻、殺されてたわ。」
瀬能「そうでしょうねぇ。一万、二万の軍勢ですから。・・・教会を建て直すのに使う軍隊の数じゃないですよ?」
シュレッダー「本丸が動くのよ。警備は厳重すぎる程、厳重の方がいいでしょう。」
瀬能「果たして本丸はファなのでしょうか?ファ教の本丸がファなら、教団の最大戦力で護衛するはずです。それが、一部の騎士団のみっていうのが解せないです。ここにきてファはあくまで、表向きのお飾りの様な気がしてきました。お飾りの人気が、強いから、担ぎ上げた奴等も無下には出来ない、っていうのが現状でしょうね。」
シュレッダー「ファ様を担ぎ上げている人間がいるっていうの?」
瀬能「この状況から鑑みるときっと、そうでしょう。・・・相当、あくどいのが裏にいるようです。」
シュレッダー「へぇ。そりゃ、豪儀だわ。きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」
瀬能「私の親友が聞いた話なんですが、このゲームをマネーロンダリングに使っているようです。」
シュレッダー「マネー?なに?・・・それは?危ない話?これ以上、危ない話、持って来ないでよ!」
瀬能「早い話、犯罪です。」
シュレッダー「犯罪?・・・ゲームで?」
瀬能「ええ。それはいいんですけど、」
シュレッダー「あんたねぇ、良くないわよ?これ、ゲームが犯罪に使われているの?いいの?それ?」
瀬能「社会規範的に良くはないと思いますけど、私には関係ない話なんで、あまり興味が無いのです。」
シュレッダー「セノキョン、なに、あ?え?あんた、何、えええ?・・・セノキョン、いったい、なにしてんの?大丈夫なの?」
瀬能「何事も深く関わらなければ平穏無事に過ごせますよ。そうそう、私とシュレッダーさんにとって大事な情報があります。」
シュレッダー「なに?えええ?なによ?」
瀬能「たぶんですが、ファ教幹部の強さの秘密。なんとなく分かったんです。あくまで推測ですけどね。でも、十中八九、当たりだと思います。」
シュレッダー「・・・なによ?その無敵の秘密っていうのは。」
瀬能「世界最高速の演算コンピュータで遊んでいます。」
シュレッダー「なにそれ?そのアホの子みたいな、理屈は?」
瀬能「例えば、軍事。気象。宇宙、衛星やロケットの制御。まあ、国家規模のコンピュータですよ。実際やっているのは表に出ない世界規模のマネースワップですけどね。地球まるごとシミュレートしているような、バカみたいに電気も費用もかかるスーパーコンピュータを使ってゲームをしているのです。十階建てのビル丸ごとコンピュータみたいなお化けコンピュータです。それをを動かすだけでも相当、電気がかかりますが、そのコンピュータを動かすために、免振したり冷やしたり、そりゃもう莫大なコストで運用されているコンピュータです。それを金に物を言わせて湯水の様に使い、このゲームを遊んでいます。たぶん、運営会社と直結の専用回線を引いているのでしょうね。タイムロスはほぼゼロ。いや、マイナスかも知れません。」
シュレッダー「時間がマイナスって何よ?そんな事、あり得ないでしょ?」
瀬能「現在の物理学で言えば、観測不能ですが、ゲームの世界の話ですから、虚数演算も当然あり得ます。ブラックホールを演算しているのと同じです。時間を巻き戻せるって、そりゃ、もう、無敵ですし、不死身ですよ。複数の国家事業で製作されていると噂の、試作の量子コンピュータを導入しているという、まことしやかな話も出ています。たぶん本当でしょう。ブラックホールどころか宇宙全体をシミュレーションしているコンピュータで、ゲームをしているんですから、我々のような、中古PCで遊んでいる人間が戦っても、勝てる訳がありません。」
シュレッダー「ちょっと待ちなよ、セノキョン。まったく話の全貌が見えてこないんだけど?」
瀬能「ですから、俺が考えた完璧超人みたいなコンピュータで、幹部はプレイしています。物理的に戦っても、我々に勝ち目はありません。」
シュレッダー「・・・只でさえ一万の軍勢相手に後れを取っているのに、敵幹部が、完璧超人?そんなアホな話ある?」
瀬能「完璧超人どころか実在する政治家、経営者、投資家、資産家、そしてマフィアと言った連中です。裏も表も世界中の権力者がその恩恵に預かっているコンピュータです。そんなコンピュータとドンパチ出来るんですよ?ワクワクしませんか?」
シュレッダー「・・・。」
瀬能「・・・。」
シュレッダー「あのさぁセノキョン。・・・世界ランカーのバカに喧嘩売って、勝てる自信があるの?」
瀬能「さぁ、どうでしょう。あははははははははっははははははははははははははは」
シュレッダー「・・・・きひひひひひひひひひひひひ、セノキョン、あんた、私のPC、中古って言ったよね?舐めんなよ?百万、注ぎ込んでんだから!」
瀬能「シュレッダーさん。昔のPC9801はDOSを動かすだけで百万円かかるのですよ?それ位じゃ威張れません。百万円かかっても、大した事できなくて、一太郎を別に買って、それでようやく、プリンターで出力できるようになります。百万円かけてワープロですよ?ドットインパクトのプリンターでワープロするんです、舐めないで下さい。」
シュレッダー「あのなぁ、今と昔じゃ物価が違うの。」
瀬能「百万円ぐらいのゲーミングPCじゃ、勝てませんよ?笑っちゃうくらい雑魚です。」
シュレッダー「じゃあ、どうするの?白旗あげる?」
瀬能「白旗じゃ面白くありませんから、七色、旗をあげるのはどうですか?レインボーです。かわいいですよ?」
シュレッダー「あんたねぇ、ほんと、バカね。」
瀬能「それはそうと、シュレッダーさん。ファ教の秘密。・・・見つけたんですね。」
シュレッダー「セノキョンの思った通りよ。・・・消えたプレイヤーがゴロゴロしてる。」
瀬能「ドラゴンの石化で、石になった皆さんです。それをこの教会が守っている。消えたプレイヤーを探しに来たプレイヤーも、ドラゴンと教会によって、また石にされてしまう。こんな人が来ない所に教会があるのは不自然だと思ったんです。ファ教の命令で、シスターが派遣されていたのでしょうね。」
シュレッダー「なんでまた、ファ様は、眠った子を起こすような、教会の建て替えなんてイベントを執行したのよ?」
瀬能「これも推測ですけど、ファはノンプレイアブルキャラクターじゃないですか。ファは教団の内情を知りません。けど、ファはプレイヤーに対してイベントを行う設定がしてありますので、誰かがトリガーになって、イベントを執行したと考えるのが自然です。これだけ石になっているのですよ。奇跡的にトリガーが外れて、ファを動かしたとしても不思議ではありません。」
シュレッダー「この石。元に戻せないの?」
瀬能「・・・ドラゴンが石化させたのですから、ドラゴンを討伐するしか方法はないと思います。シスターはドラゴンを守り、ドラゴンは教会の秘密を守る。ドラマチックな関係ですね。これ、使って下さい。もう、持てるだけ持ってきました。ご神体です。」
シュレッダー「なによ?これは。」
瀬能「この火の鳥の我王が掘ったようなご神体。ドラゴン退治の秘策です。トレイジアさんというパーティ仲間に教えてもらいました。状態異常の魔法を身代わりに受けてくれる神様です。このご神体によって呪われますが、呪われる効果の代償として、呪いがそのまま攻撃した相手に跳ね返るという仕組みです。いわゆる天罰が下る、という仕組みです。多少、ステータスが下がりますが、元々、ステータスが低いシュレッダーさんは関係ありません。」
シュレッダー「・・・ステータスが低い事が裏目に出るとは。」
瀬能「そういう事ですから、おかしな状態異常の魔法をくらっても、ご神体がある限り、死にませんから、頑張ってドラゴンを倒して下さい。」
シュレッダー「面白い事考える奴もいるのね。あんたのパーティには。」
瀬能「さて、シュレッダーさん。これから忙しくなりますよ。味方殺しの異名を持つ、シュレッダーさん。楽しみですね。」
シュレッダー「・・・私を飽きさせないでね。」
侍女「ファ様、お下がり下さい!敵襲です!」
シルバースター「まったく。ファ様の恩前で。」
レッドタン「おい、シルバースター。警護はお前の管轄だったはず。どういう事だ?」
シルバースター「俺が知るか。・・・この軍勢を見て、戦いを挑もうなど、愚行だという事が分からないのか。」
レッドタン「・・・ま、そうなるよな。愚行だよな。」
ヒットビット「前衛が全滅したぞ!どうなっている!」
シルバースター「は?」
レッドタン「どういうことだ?」
ヒットビット「ファ様を下げろ!まずはそこからだ。」
シルバースター「前衛が全滅?・・・ヒットビット、気でも狂ったか?」
ヒットビット「気が狂ったのはお前だ。警護の職に就いていながら、この始末!お前こそどう責任とるつもりだ?」
レッドタン「偽清教、騎士団が聞いて呆れる。シルバースター、お前、責任問題だぞ?」
シルバースター「レッドタン、ヒットビット、お前達こそファ様のお付きのはずだ。責任は連帯だ。」
レッドタン「前衛の兵士を全滅させるなんて、どんな魔法を使ったんだ?」
シルバースター「まだ、教会の建て直しが残っているのに。・・・ッ。予定がまた遅れる。」
ヒットビット「教会より、失った兵士の方が問題だ。・・・諮問会議にかけるぞ?いいな。」
シルバースター「お前の責任もな?」
レッドタン「ここで言い争っていても仕方があるまい。その蛮行の輩を排除する方が先だ。」
瀬能「シュレッダーさん、良い頃合になったら逃げてもいいですよ?」
シュレッダー「舐めんなよ!どいつもこいつもぶっ潰してやる!」
瀬能「幹部も出てきます、それに、シュレッダーさんの本命はドラゴンですからね。」
シュレッダー「セノキョンにだけ、いい格好させられないでしょ?ファ教、幹部とやり合ったって言えば、それだけで箔がつくし!」
瀬能「そんなもんですかねぇ。」
シルバースター「あれか?・・・蛮族は?」
ヒットビット「・・・たった二人?たかが二人で偽清教とやり合うと言うのか?どうかしている。」
瀬能「もう逃げられませんよ?シュレッダーさん。」
シュレッダー「・・・ああ。私を飽きさせないでくれよ?」
瀬能「出てきますよ?」
ヒットビット「お前達!・・・私達が偽清教だと知って、刃を向けているのか?」
レッドタン「聞くまでもないだろ?こいつ等は、兵士を根こそぎ殺したんだ。・・・万死に値する。」
シルバースター「念の為、聞いておくが、お前達の目的は何だ?偽清教に恨みでもあるのか?それとも腕試しか?」
瀬能「さて、行きますか?シュレッダーさん。」
シュレッダー「そうね。」
シルバースター「・・・答える気はなさそうだな。・・・捕まえて吐かせるか?」
ヒットビット「・・・」
シルバースター「おい?ヒットビット?・・・・おい!おい!」
瀬能「一匹、仕留めました!」
レッドタン「・・・嘘だろ?」
シルバースター「まさか!ヒットビットがやられた、だと!」
レッドタン「前衛の兵士を皆殺し。騎士団が殺される。・・・いったい、どういう事だ?説明しろ!シルバースター!今回は異例が多過ぎるぞ!」
シルバースター「うるさい!俺が知るか!」
瀬能「あらあら、仲間割れですか。ファ教の皆さん。」
シルバースター「なんなんだ!お前等は!」
瀬能「あなた、ファ教の幹部ですよね?いつまでもそんな横柄な態度を取っていてもいいんですか?」
レッドタン「・・・やはり。お前達、俺達が偽清教だと知っていて、襲撃してきたんだな?」
瀬能「その通りです。」
レッドタン「これは完全な失策だぞ?シルバースター!」
瀬能「・・・目障りです。」
レッドタン「諮・・・」
シルバースター「おい!レッドタン!レッドタン!・・・お前!なにをした!レッドタンとヒットビットに何をしたんだ!死んだのか?二人とも死んだのか?」
瀬能「うるさい騎士様ですね。・・・シュレッダーさん、そろそろ犬っコロの方を大人しくしてきていただけませんか?」
シュレッダー「あんたねぇ、どういう魔法であいつ等を殺しているのよ?怖いんだけど?」
カ
瀬能「あなたの相手は私ですよ?・・・シュレッダーさん。私、あなたの面倒を見ながら、騎士様の相手が出来ませんので、早めに山に登ってくれませんか?・・・味方殺しのシュレッダーさん。」
シュレッダー「・・・ああああああもう!いい!セノキョン!帰ったら、説明しなさいよ!その意味が分からないトリック!いいわね!」
瀬能「いいですよ?」
シルバースター「俺の打撃を受け止めた?・・・悪い冗談だ。」
瀬能「悪い冗談はお互い様ですよ。・・・私でなければ止められませんでした。ファ教と戦う為に、結構、苦労して環境、揃えたのですから。」
シルバースター「ほぉ。・・・偽清教騎士と戦う為に?このご時世、偽清教に楯突く奴がいるのか?笑わせる。今や偽清教は、名実共に最強だ。そこに喧嘩を売るということがいかに愚かな事か、分からないのか、お前は?」
瀬能「私はそういう、偉そうに踏ん反り返っている奴が嫌いなんです。イベントもあなた達が仕組んで、他のユーザー達がイベントを遂行できなくなっていたり、今回だって、街道を封鎖して、やりたい放題。なんなんですか!何様なんですか!たかがプレイヤーのくせに偉そうに!」
シルバースター「たかがプレイヤーだと?俺達は只のプレイヤーではない。この世界を支配している。そう、偽清教が世界を支配している。俺はそのトップなんだ。お前達みたいな末端のプレイヤーと一緒にするな!」
瀬能「・・・世界を支配している?子供だってそんなセリフ、言いませんよ?夢でも見ているんですか?頭、大丈夫ですか?」
シルバースター「偽清教の信者は数千万人。人種も年齢も、職業も、性別も、国境も、何もかも関係ない!世界中に信者がいる。世界中の人間が偽清教に救われたのだ!現実の宗教を超えた。そうだろう、現実では人種、性別、つまらない問題で人間がまとまる事はない。だが、我々はそれを成し遂げたのだ。偽清教こそが正義。人間が求めた正義なのだ。まさに世界を支配し、世界を牛耳っているのは俺達、偽清教だ。偽清教こそが世界のルールを決める。そうだ、望むものは何でも手に入る。金でも女でも、何でもだ。手に入らない物が無いからな。・・・お前はたかがプレイヤーと言ったな?その一握りのプレイヤーが、世界を動かしている。現実世界も、このゲームの世界も。俺に出来な」
瀬能「・・・。」
ギ゛゛゛゛
シルバースター「おい!まだ喋っている途中だろ?・・・攻撃してくるな!」
瀬能「話を聞いているのが鬱陶しくて。つい。」
シルバースター「つい、じゃないだろ?」
ジ゛゛゛ン゛
瀬能「・・・あなたも喋りながら斬りかかってくるじゃないですか?お互い様です。あなたの攻撃を防いで分かりましたが、あなたでは私を殺せません。」
シルバースター「は?」
瀬能「・・・右足を切ります。」
シルバースター「の゛」
バタ・ン
シルバースター「え?待て?待て。待て。・・・待ってくれ、待て。え?・・・これじゃあ動けないじゃないか!・・・回復!回復してくれ!アイテムぅ」
瀬能「だから足を切るって言ったじゃないですか?左足だけで立って、逃げればいいんじゃないですか?」
シルバースター「逃げる?この俺が?・・・バカな!俺は偽清教のシルバースターだぞ!騎士団の幹部だぞ!」
瀬能「その鎧が重たいから、たぶん、片足じゃ立てないと思いますけど。今度は、左腕、腕を切ります。」
シルバースター「ギャァァァァァッァァァァァァァァァァッァァァァァッァァァァァッァァ・・・・・・・・・・・!」
瀬能「いちいちうるさいです。騎士様なんだから悲鳴をあげないで下さい。見苦しい。」
シルバースター「なんなんだ!なんなんだ、お前は!これはなんだ!裏技か!バグか!いや、そんなはずはない!どうして、どうして!騎士団と互角に戦えるんだ?おかしいだろ?」
瀬能「・・・おかしくないですよ。あなたも私も、オンラインゲームのプレイヤーです。規格はみんな一緒です。なんですか?それとも、ファ教の騎士団は、特別な供与でも受けているんですか?運営会社から。・・・そうでなければ、プレイヤーは一律、皆、同等のはずです。」
シルバースター「待て!待て!女!・・・そうだ。お前の望みを叶えてやる!叶えてやるから、見逃してくれ!なあ、頼む!頼むからぁ!」
瀬能「・・・命乞いをしているくせに、上から目線ですか。あああああ。ファ教っていうのは、どうしようもない連中ばっかりですね。」
シルバースター「やめろ!やめろ!やめろ!・・・・やめてぇぇぇええええええええええええええええええええ!くるな!くるな!くるな!くるなああああああああああああああああああああああああああああああ!」
瀬能「・・・あなた、もう少し頭を使った方がいいですよ?どうしてあなただけ直ぐに殺さずに生かしておいているか、分かりますか?・・・聞きたい事があるからです。まあ、でも、イエスとノーだけ分かればいいから、声は潰しておきましょう。・・・そうか。イエスさえ分かればいいのか。」
シルバースター「ぬ゛」
瀬能「あなたが喋る度に通信速度が落ちるんです。」
瀬能「シュレッダーさん?シュレッダー、おおお、素晴らしい。」
シュレッダー「あ゛あ゛あ゛、セ゛ノキョ゛ン」
瀬能「ドラゴン、倒したんですね?」
シュレッダー「ドラゴンの一匹や二匹、私の相手じゃないわ。」
瀬能「それはそうと、ファ教の増援が来ますから、ズラかりますよ?」
シュレッダー「ええええ?ねえ、セノキョン、せっかくドラゴン、倒したのよ?え?なんで?どうして?」
瀬能「分が悪いからに決まっているじゃないですか?・・・シュレッダーさんにドラゴンを倒して貰ったおかげで、山の反対側から逃げる事が出来ます。さあ、逃げますよ!」
シュレッダー「セノキョン、逃げ道、確保の為に、私にドラゴンを倒させたのぉおお!」
瀬能「いいから、いいから、さあ、逃げますよ!」
シュレッダー「あんた、いつか、訴えてやるからなぁああああああああああああ!」
トレイジア「まあ、あれだよね。これでファ教も大きい顔ができなくなったって事ね。」
マニやん「ファ教の騎士団と言えども、普通のプレイヤーだった、って事だな。」
アリシア「襲撃を受けて、トップ三人がやられちゃったんでしょ?」
トレイジア「トップって言っても、ナンバー3と6、7みたいよ。」
アリシア「ナンバースリーって、三番目に強いって事でしょ?その人がやられちゃったの?」
トレイジア「信者数一千万人のナンバースリーだもんね。」
マニやん「だから、信者数が幾ら多くても、一人一人は大した事、ないんだって。あたし達だって、戦えば勝てるかも知れないんだ。」
瀬能「でも、マニやんなら瞬殺されてしまいますよ?マニやん、レベル低いじゃないですか。」
マニやん「は!お前に言われたくないね!即死魔法しか使えないくせによぉ!」
瀬能「なんですか!・・・即死魔法かけますよ!」
マニやん「やれるも」
瀬能「即死魔法!」
トレイジア「だから、セノキョンもマニやんも、パーティアタックやめなさいよ!只でさえ、アイテムが少ないのに。また蘇生の薬、買わなくちゃいけないじゃない!いい加減にしてよ!」
アリシア「消えたプレイヤーも帰って来たって話も聞いたよ。」
トレイジア「石にされてたみたいね。・・・ファ教のファ様が、ドラゴンに石にされていたプレイヤーを元に戻したんだって。凄いよね。そういうところ。」
アリシア「この前の一団が、それの一団だったって事でしょ?」
トレイジア「また、ファ様の奇跡が起きた、って騒ぎになっているわ。」
瀬能「ファ様の奇跡ですか。奇跡の安売り、大売り出しですね。」
アリシア「そ!それで、聞いて!ナックルズさんからメッセージが届いたのよ!」
トレイジア「・・・ナックルズさん、無事、復活ね。」
アリシア「それがさぁ、ゲームの話じゃなくて、タイでやっている仕事を手伝わないか?って言われて。」
瀬能「タイ?バンコクのある、タイですか?」
アリシア「そう。物凄く儲かっているみたいで、人手が足りないから、来ないか?って。ナックルズさん、景気が良いみたいよ。」
トレイジア「じゃあなに?仕事が忙しいからログインしてこなかったっていう事?それで今はタイにいると?」
アリシア「そうみたい。・・・あのさぁ、日本で仕事しているのに、簡単に外国に行けるわけないじゃん。休みで遊びに行くのと違うからね。OLなめんな!って言っておいたんだけど。」
トレイジア「そりゃそうだわ。」
アリシア「私だけじゃなく、ナックルズさん。いろんな人を勧誘しているみたい。景気が良い人は羨ましいわぁ。」
瀬能「そんなに儲かる美味しい話、本当なのでしょうか?・・・マニやん、タイまで行って確かめてきて下さいよ?」
マニやん「お前が行け!」
瀬能「シュレッダーさん。また、受付やっているんですか?ドラゴンを倒したアイテムで、結構、装備が充実したんじゃないんですか?」
シュレッダー「ああ、セノキョン。・・・石化するドラゴンのアイテムなんて大したもん、なかったわよ。二束三文よ。おまけに、まだ、呪われているし!」
瀬能「そうでしたか。」
シュレッダー「それより、あんた、教えなさいよ!」
瀬能「・・・な、なにを、ですか・?」
シュレッダー「ファ教幹部を倒した、そのトリックよ!」
瀬能「聞きたいですか?・・・大したトリックじゃないですよ?皆、知っていますし。なんなら裏技大辞林に書いてありますよ?」
シュレッダー「はあああああああああああああああああ!」
瀬能「声が大きいです!声が。」
シュレッダー「どういう事よ?それは!」
瀬能「ウインドウズ95版、いわゆる初期バージョンでプレイしたんです。」
シュレッダー「ウインドウズ、きゅーじゅーごー?」
瀬能「ええ。一番最初にリリースされたバージョンです。今でこそ皆、光ケーブルの常時接続でプレイしていますが、出始めの頃は、皆、電話線接続していたんですよ。電話代を気にしながら、戦っていたんです。」
シュレッダー「そんな事はみんな知っているわよ!」
瀬能「あのゲームの悪い所は、昔のバージョンを切り捨てずに残してあるところ。だから要所要所で処理がモタつくんですけど、マシンパワーが強いから処理落ちしても誰も気が付きません。それで、未だに、56kのモデムを使って、ログインする事が可能なのです。」
シュレッダー「電話回線のモデム?・・・今、どこも光ファイバーで、同軸の電話線、残している所なんて、ないでしょ?」
瀬能「確かに光ケーブルの普及率はほぼ百パーセントですが、百パーセントではありません。言葉遊びになってしまいますが、九十九パーセントです。例えば、木造築五十年とかの家だと、まだ、同軸ケーブルが現役だったりします。電話線を使うのが今回の攻略ポイントではなくて、56kのモデムを使用していた初期バージョンがポイントだったりします。この初期バージョン。通信が電話線の56キロバイトです。明らかにゲームに対して通信速度が遅いです。でも、56kでもちゃんとオンラインゲームとして成立していました。なぜなら、56kでも、遊べるように工夫されていたからです。」
シュレッダー「・・・56kで?」
瀬能「攻撃をする、っていうコマンド優先に通信しているんです。通信速度が遅いのが分かっていたから、初めから、優先するコマンドが決められていて、それが、攻撃。次に防御。56kの通信で飛んでいたのは、実は、攻撃と防御のコマンドだけなんです。それさえ飛んでいけば、あとは当たり判定するだけ。じゃんけんと同じ理屈です。グラフィックは自分のPCにまかせれば良いので、とにかく、攻撃。攻撃のコマンドだけ飛んでいく仕組みなんです。ですから、いくら世界最速のスパコンだろうが、専用回線だろうが、攻撃のコマンドだけなら、56kの私の方が余計な判定をしないで済む分、速いんです。割り込みもしますし。今のPCと光ケーブルの環境の方が、より多くの情報を処理するし、快適かも知れませんが、ことオンラインゲームで言えば、本末転倒だという事です。初期のモンハンも、カプコンVSSNKも同じ理屈で作られていましたよ。」
シュレッダー「だから、あんたの方が、強かったって事なんだ。分かったような、分からないような理屈ね。」
瀬能「電話線ですから電話代は鬼の様にかかりましたし、木造モルタルの日本家屋ですから、凍えるほど寒かったですけどね。別の意味で死ぬとは思いましたけど。」
シュレッダー「・・・やっぱりセノキョンは飽きさせないわ。」
信者「我々は募金を集めています。飢餓や貧困をなくしていきましょう。ファ教にご協力下さい。」
皇「相変わらず、朝から、ご苦労様だね。」
瀬能「・・・朝から牛丼屋で食べる、牛すき鍋。格別な背徳感です。他の客がワンコインの朝食を食べる中、わざわざ時間がかかる牛すき鍋を食べるなんて。」
皇「お前、ウコン飲むか?」
瀬能「まだそんなに肝臓は悪くないと思いますけど。」
皇「杏子、ファ様と会ったんだろ?」
瀬能「ああ、ええ。普通の、普通のキャラクターでしたよ。それより、瑠思亜が紹介してくれた家、助かりました。隙間風が凄かったです。なんですか?外より寒い家って。」
皇「不思議だよな。木造住宅の謎だよな。外気の方が暖かいって。」
瀬能「・・・オバケが出そうでしたよ。ホコリっぽいし、畳は、畳くさいし。その畳から突き抜けて来る冷気もあるし。」
ファ「私達、偽清教が掲げるのは、正義なき正義は正義ではありません。皆の心に正義があらんことを。」
「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」「ファ様!」
シュレッダー「ファ様。お茶が入りました。少し、ご休憩をなさったらよろしいかと存じます。」
ファ「あなたは?・・・あの時の。」
シュレッダー「目を悪くした際、助けていただいたシュレッダーでございます。」
ファ「また、約束通り、お会いできましたね。ふふ。」
皇「フロッピー?なんだよそれ。」
瀬能「ファ教のお得様リストです。取引履歴もありますよ。幹部から貰いました。」
皇「・・・お前、あくどいにも程があるだろ?それにそんなもん、持ってたって何に使うんだよ?」
瀬能「どうしましょうか。あははははははははははははははははははは」
※本作品は全編会話劇です。非常に読みにくいです。読み手を選びます。ご了承下さい。