9.計画と説得
メインベルの街 その4
場所を教えてもらって、メインベル工業会に着いたが、無連絡で来てしまったので相手にしてもらえないかもしれないなぁと思いつつ、受付に聞いてみた。
応接室に通されて、担当が3人やってきた。女性2人男性1人で、一番年配の女性がリーダーのようだ。撤去命令の羊皮紙を見せて、
「この案件について対応するように依頼されているメイリです。何が必要なのか教えてください」
とお願いしたら、意外と丁寧に教えてくれた。
それぞれ必要な設備が、どのくらいのお金になるのか、維持管理にどの程度人員とお金がかかるのか、せっせとメモを取り、計算しながら大体の計画が出来上がった。
これは、あの人たちの資産や収支では無理だわ。メインベル工業会に認定になれば仕事も増えるのだろうけど、それを管理する人がいないからね。
お礼を言って、また伺いますとメインベル工業会を後にした。
工場に到着するとスウミーさんが出迎えてくれた。メモを見せて説明すると、
「無理ですね」と無表情で言った。
「じゃあヒロカさんにこのまま説明しましょうか。そうすれば、わたしにかかる日当も1日分で済みますものね。」
「実は、どこかに出かけてしまっていないんです」
スウミーさんは申し訳なさそうに下を向いた。
明日、出直すことになって宿屋に戻った。戻ってみると意外とくたびれている自分にびっくりした。
部屋でごろごろしながら、書いたメモを見直して、明日どういう風に説明しようか考えた。シナリオって大事だよなあ。
今日は昼寝するのをやめようと洗濯物を片付けたり、アイテムバックの中身を整理したりして過ごした。
翌朝、工場に向かった。ヒロカさんがいて、スウミーさんに説明があるから聞くように言われたみたいで、すぐに応接室に集合できた。
二人に見えるように書き出したメモを広げて、ゆっくりと説明した。
「どうしても続けたいのであれば、一時金として、
排水設備 金貨 8,000枚
騒音設備・振動設備 金貨10,000枚
工場の囲い用鋼板設置 金貨 2,000枚
合計 金貨20,000枚
この程度必要で、さらに年に一回装置の点検で、維持管理費に金貨10枚~100枚ずつそれぞれの装置にかかります。
なおかつメインベル工業会に登録している技術者を、最低ひとり管理者として雇う必要があります。年間金貨500枚の人件費がかかります」
と、大体説明がおわったらヒロカさんが
「なんでおやじはよかったのに、おれではだめなんだ!」
と怒り出した。
「おとうさんができたのではなく、できないのに無理やりやってきたのですよ。おそらく裏でいろいろ手を回したり、周囲の方を味方につけたり、努力されてきたのでしょう。
その努力もしないで、やろうというのがおかしいと思いますよ」
ヒロカさんはうなだれて黙っていた。
「ヒロカさんの場合、この出費を支払えない限り、この仕事は続けられません。
ですけど製造ではなく、他の店頭販売しているものは問題ないそうなので、製造をやめて店頭販売だけにすれば、このままの設備でいけるんですよ」
ヒロカさんはうなだれたままとスウミーに質問した。
「この金額は、うちは払えるのかな?」
「払えないよ。借金するあてもない」
とスウミーは静かに答えた。
「よく考えさせてくれ。悪いけど、明日また来てくれないかな」
「はい。明日また朝に伺います」
工場を後にしたけど、なんか背中がもやもやした。
---「おれは好きな女がいるんだ。こんなやつとなんかやっていけるかよ」
---「この子は経営に向いているんだよ。どうかがまんしておくれよ」
二代目放蕩亭主と義母は、よくこんなやり取りをしていた。
---「おまえは鼻がブサイクだからいやなんだよ」
と、目が合うとよく言われた。
---「何てこと言うのよ!」
---義母が怒り出すと、いつも店の金をつかんで、さっさとどこかに消えていた。
フンっと鼻息を吐いた。もう顔も思い出せないのに、へんなことは覚えているのよねぇ。
スウミーさんは、ヒロカさんにしっかりした経営向きの嫁さんを探してやれば、わたしよりもずっとましな結果になったんじゃないかなぁ。とか思いながら、街をぶらぶらしながら宿屋に向かった。
翌朝、工場に着いて声をかけると、スウミーさんとヒロカさんが出てきた。
昨夜よくふたりで話し合い、かなり規模縮小になるけど、製造をやめて店頭販売だけにすることに決断したそうだ。
「わかりました。それではこれからメインベル工業会に報告に行きます。
そのまま私は次の街に出立しますね。よく決意されましたね」
「俺の問題だから」
と、ヒロカさんは言葉少なげにうつむいていた。
「これは3日分の報酬です」とスウミーから金貨1枚と銀貨5枚渡されて、ありがたく頂戴して別れた。
メインベル工業会に寄って報告し、宿屋に戻り清算して、食料と水を買ってメインベルの街を後にした。