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ゲノマ・ゲーム  作者: やばくない奴
最後のゲーム
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後片付け

 これで最後のゲノマ・ゲームは幕を閉じたが、泰地(たいち)はまだ満足していなかった。その場を不穏な雰囲気に包み込み、彼は呟く。

「これで最後なら、後片付けが必要だ」

 その発言が意味するところは、ただ一つだ。風花(ふうか)は左手に苺の香水を生み出し、その中身を己の首元にかけた。それから臨戦態勢の構えを取った彼女に続き、由美(ゆみ)も身構える。直後、泰地の周囲には、十体のディフェクトが生み出された。十体は挽肉をこねるような音を立て、己の背中に翼を生やす。それから間髪入れずに、彼らは観客席の方へと飛び出していった。

「どういうつもりだ! 泰地!」

 叫び声をあげた風花は、咄嗟に大剣を生み出した。彼女がそれを振るや否や、その刀身からは円弧型のエネルギーの塊が放たれる。同時に、由美は己の周囲に三本の巨大な剣を生み出し、それらを遠隔操作していた。二人の目の前で、十体のディフェクトは爆炎に包まれながら退いていく。

「良いぞ、由美! この調子だ!」

「そうですね、風花さん!」

 無論、泰地の真の強みは、化け物を使役できることだけではない。気づけば、彼は風花たちの目の前にまで迫っていた。その次の瞬間には、彼の手に握られているナイフが鮮血を浴びていた。風花と由美は、腹部に致命傷を負っていた。

「速い……!」

「なんて強さなんですか……あの人は!」

 眼前の殺人鬼の圧倒的な強さを前に、彼女たちは驚くばかりだ。先程の城矢との試合で重傷を負っているはずの泰地は、今この瞬間も活気に満ち溢れている。彼はナイフを俊敏に振り回し、風花たちの身に凄まじい勢いで切り傷をつけていった。もはやこのままでは、二人に勝機はないだろう。この時、彼女たちは死を覚悟していた。


 その時である。


 突如、泰地はこめかみに、何者かの飛び蹴りを食らった。彼はその場に倒れかけたが、側転によって体勢を整えた。そんな彼が鋭い眼光を向ける先にいたのは、千尋(ちひろ)である。彼女は風花と由美を連れ、すぐにポータルの中へと消えた。泰地は咄嗟に飛び出したが、間一髪のところでポータルは閉じてしまう。

「逃がしたか……」

 少し苛立った彼は、ステージの方へと目を遣った。そこにはゼクスが立っていたが、その目に闘志は宿っていない。

「泰地サン。ユーの相手をするのは、ミーではありマセン」

 そう告げた彼の背後には、すでにポータルが開いていた。彼はその中へと姿を消し、代わりに静流(しずる)が姿を現す。静流は時の鍵を上空に掲げ、ポータルを閉じた。怪訝な顔をする泰地に対し、彼は言う。

「これだから実験はやめられないな。ワタシの開発したノア細胞が、キミのような強者を生むとは。その力……試させてもらおうか」

 この男は倫理観が欠如している一方で、生粋の科学者でもある。泰地は気怠そうに階段を上がり、ステージに立つ。そして眼前の科学者を睨みつけ、彼は問う。

「俺を試そうとは命知らずだな。お前は一体、何を考えているんだ?」

 無論、静流は無意味な闘争を望んでいるわけではない。

「我々アークは、より強いゲノマを見いだし、そのクローンを生み出していくことを計画している。ワタシが実験動物にしてきたのは、何もキミたちプレイヤーだけではない。ワタシ自身の体もまた、ワタシにとっては実験の道具にすぎないんだ」

「……つまり俺とお前が戦って、勝った方のクローンが作られるというわけか」

「その通りだ。その過程でワタシの身が滅びても、プロジェクト・ゲノマは完遂される。特定の個体を複製する程度なら、ゲノマの力で容易に実現できるからな。この戦いに敗れれば、ワタシも用済みというわけだ。しかしそれがワタシの技術を役立たせるのなら、本望だ」

 相も変わらず、この男は科学を信奉していた。例え己の命を捧げてでも、己の技術を輝かせる――彼はそんな覚悟を背負っていた。

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