表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲノマ・ゲーム  作者: やばくない奴
アークの理念
55/84

遺跡を巣食う魔物

 翌日、忘却の遺跡には大量のディフェクトが湧いた。プレイヤーを二人も失ったアークは焦っていたのだろう。遺跡に現れた化け物は皆、その犠牲者である。泰地(たいち)は赤いディフェクトを生み出し、それを使役して戦っている。一方で、城矢(じょうや)は戦車を乗り回し、ディフェクトとの遠戦を繰り広げていた。そんな光景を廃屋の屋上から見下ろしているのは、風花(ふうか)由美(ゆみ)である。

「由美。あれからボクなりに、色々考えたんだよ。ディフェクトを殺すことについて……ね」

「風花さん?」

「彼らは皆、アークの犠牲者だ。そして、ボクらには彼らを救う手立てがない。ボクらに出来ることはただ一つ――その命を終わらせてあげることだけなのかも知れないね」

 そう語った風花は、少しばかり悲哀を帯びた眼差しをしていた。由美は彼女の肩に手を置き、優しげな声色で囁く。

「風花さん。つらい時は、私を頼ってくれても良いんですよ。戦闘時だけではなく、心に傷を負っている時でも、私に寄りかかって良いんです」

 その言葉に、風花は心を揺さぶられた。

「由美……!」

 感極まった彼女は、由美を強く抱きしめた。そんな彼女を抱き寄せ返し、由美は微笑む。この瞬間、風花はある種の安堵のようなものを感じていた。しかし二人には、いつまでも抱擁し合っている余裕などない。突如、風花は由美を突き飛ばした。唖然とする相棒の前で、彼女は高火力の光線を一身に受ける。それから起きた爆発により、彼女は宙に放られた。

「風花さん!」

 咄嗟に立ち上がった由美は大きな網を生み出し、それで風花の身を受け止めた。それから網は瞬時にほどかれ、何本もの紐と化す。再び屋上に着地した風花が目にしたものは、三体のディフェクトだ。彼女はすぐに飛び出し、体術を繰り出していった。しかし眼前の標的はいずれも、まるで退く気配がない。その後方から由美が援護に努めたものの、放たれる光線は化け物たちの身に傷一つつけなかった。

「従来のディフェクトより、強くなってる!」

 風花は叫んだ。その後方で巨大な剣を何本も生み出している由美も、敵の強さを噛みしめている。

「そうですね。同じノア細胞で生まれたディフェクトとは思えませんね!」

 剣はいずれも彼女に遠隔操作され、宙を舞うように標的たちに襲い掛かる。しかし三体のディフェクトも大剣を生み出し、それを俊敏に振り回しながら由美の生み出した剣を退けていく。それと並行し、彼らはその剣術で風花の体術にも応戦していく。やがて全身を酷く負傷した風花は、腹部に切り傷を刻まれながら屋上を転がった。三体の敵は今、由美の目と鼻の先に迫っている。


 その時だった。


「由美! 危ない!」

 突如、風花の表情が変わった。そして次の瞬間には、彼女は再び三体の目の前まで飛び出していた。彼女の右脚は上方に伸びており、ディフェクトのうちの一体は後方へと飛ばされている。その更に次の刹那、風花は回し蹴りを終えていた。残る二体のディフェクトも、後方へと飛ばされる。彼女の俊敏な動きを肉眼で追えば、もはや過程が可視化されていないも同然だ。そしてこの瞬間にはすでに、風花は高火力の光線を放っていた。光線は三体のディフェクトを巻き込み、激しい爆発を起こす。屋上とその麓には、血肉の雨が降り注いだ。

「間一髪だったな……由美」

「そうですね、風花さん」

 それは決して生温い戦いではなかったが、二人は生き残った。そんな彼女たちの前にポータルが開き、拍手の音が聞こえてくる。そこから姿を現したのは、アーク屈指の技術を誇る科学者――静流(しずる)だ。そんな彼の方へと飛び出し、風花は彼の胸倉を掴み上げる。

「何の用だ! 静流! キミがあんな大量のディフェクトを生み出したのか! 答えろ!」

 その声色と形相には、底知れぬ怒りが籠っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ