死への抵抗
一方、現代の都会の路上では、由美が五体のディフェクトに取り囲まれていた。得体のしれない化け物を前に、周囲の人々は一目散に逃げ始める。無論、ここで民間人を巻き込むわけにはいかない。由美は五発の光線を放ち、眼前のディフェクトたちを次々と撃ち抜いた。彼らの視線は、一斉に彼女の方へと向けられる。
「貴方たちもかつては人間だったそうですね。そしてアークの狼藉の犠牲となった貴方たちは今、一般市民を襲うようになっている――と、言ったところですか」
その事実を知って以来、由美はディフェクトとの戦いを拒み続けてきた。彼女は攻撃を正当防衛に留め、逃げることを優先してきた。しかし、ここは忘却の遺跡ではない。あんな化け物を野放しにすれば、大勢の死人が出ることだろう。第一に、この時代を生きている民間人はゲノマではない。今この場でディフェクトを倒せる者は、由美しかいないのだ。
「心苦しいですが、やむを得ませんね。貴方たちには、犠牲になってもらいます」
この時になって、彼女にはようやくディフェクトと戦う決心がついた。彼女は五本の巨大な剣を生み出し、それらを操ることで眼前の標的たちを退けていく。生み出した物質やエネルギーを遠隔操作できるということは、自分の筋力では振り回せないような武器も自在に動かせるということだ。一方で、ディフェクトには人間を遥かに凌ぐ怪力が備わっている。五体は己の手元に更に大きな剣を生み出し、巧みな剣術で斬撃を受け止めていった。しかし、彼らは人間としての自我や理性を失っている。先ほどまで由美を狙っていた五体も、今は宙を舞う眼前の剣に気を取られている。無論、その好機を逃す由美ではない。
「安らかに、眠ってください」
そう呟いた彼女は両手を前方に突き出し、掌にエネルギーを溜め始めた。その前方では、五体の標的が自在に飛び回る大剣に苦戦している。今のところ、彼らが迫りくる脅威に気づく様子はない。由美は息を呑み、そして光線を放った。
光線は五体のディフェクトを巻き込み、大爆発を起こした。
やがて爆炎は鎮まり、煙は空気中に消えていった。五体の化け物はおぼつかない足取りで歩みを進め、由美の方へとにじり寄っていく。もはや彼らに勝算がないことは明白だが、そんなことは関係ない。五体は負傷した体を引きずりつつ、眼前の少女を睨みつけているのだ。その姿を前に、由美は心を揺さぶられる。
「そうですよね……貴方たちだって、生きていますよね……」
理性のない化け物と化してもなお死に抗う者たちの姿は、あまりにも救いようのないものだった。その光景を前に、由美は更に決意を固める。
「もう、良いです。貴方たちはもう、楽になっても良いんですよ」
彼女は手元に大剣を生み出し、それを勢いよく振った。その刀身から放たれた円弧型のエネルギーは、広がる波のように膨張していく。その一撃を食らったディフェクトたちは次々と爆発し、その場には肉片の雨が降り注いだ。由美の体は返り血を浴び、緋色に染められていく。彼女が殺めたのはディフェクトだが、命だ。
「運が悪ければ、私が殺されていたのかも知れませんね。ディフェクトとして……」
そんなことを呟いた由美は、重い足取りでその場を後にした。
あの後、由美は環奈の眠る墓地に向かった。彼女は墓前で手を合わせ、様々な感情を咀嚼する。そして合掌を終えた彼女は目を開き、おもむろに顔を上げた。その胸の奥から押し寄せる痛みの名前を知らぬまま、由美は呟く。
「環奈さん。貴方が亡くなってから、風花さんの表情が暗くなったような気がします。私も、せめてもう一度だけでも、三人でピクニックに行きたかったです」
当然、彼女の想いはどこにも届かない。環奈はもう、この世にはいないのだから。




