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近接戦闘

 翌日、ついに第三回戦が開催されることとなった。ステージに上がった風花(ふうか)は己の身に苺の香水をかけ、由美(ゆみ)は深呼吸をする。彼女たちを迎え撃つのは、城矢(じょうや)泰地(たいち)のペアだ。

「風花コンビと狂人コンビ、試合開始!」

 ゼクスの合図により、いよいよ試合が始まった。

「ちょっと、誰が狂人よ!」

 そんな不満を口にした城矢は、その両手にトンファーを生成した。そのすぐ後ろで、泰地の表情が変わる。


 その直後である。


 あろうことか、彼はナイフを振り上げ、味方であるはずの城矢の首筋に深い切り傷をつけた。それはあまりにも一瞬の出来事だった。気を失った城矢は崩れ落ち、思わぬ展開に風花たちは目を疑う。泰地は風花を睨み、そして少しだけ微笑む。

「この方が、楽しそうだ」

 何やら、彼は風花と由美を独り占めしたいらしい。そんな彼の身勝手な行動のせいで、城矢は今まさに首から出血しながら伸びている。このままでは、彼女が絶命するのも時間の問題だろう。ステージの上空にはポータルが開き、その場には千尋が降り立った。彼女は城矢を連れ、再びポータルの中へと消える。これで一先ず、城矢の身の安全は保障されたようなものだ。


 泰地は首を軽く回し、それからナイフの切っ先を前方に向ける。

「どこからでもかかってこい。風花、由美」

 一見、その出で立ちにはいくらでも隙がある。風花は由美と共に、光線を連射していった。泰地は二人の攻撃をかわさず、いなしもしない。その身に傷を負いつつも、彼は無表情のままだった。

「遠戦はあまり上がらないな。俺は、近接戦闘が良い」

 そう呟いた泰地は、瞬時に由美との間合いを詰めた。その次の瞬間には、彼はナイフを振り終わっていた。胸部に深い切り傷を負った由美は、足下から崩れ落ちるように倒れた。その場には再び千尋が現れ、彼女を回収してはポータルに消えていく。泰地の関わるゲームで死人を出さないのは、文字通り命懸けだ。



 続いて泰地は、風花の方に目を遣った。その直後には、彼は自分たちの間合いを詰め終わっていた。この瞬間にはすでに、風花の持つナイフが彼のナイフを受け止めていた。


 そんな二人の戦いを目に焼き付け、観客席では愛姫と出雲が度肝を抜かれている。

「す、凄い……何が起きてるのか、全然わからない!」

 それは嘘偽りの仮面を被っているはずの愛姫が零した――本心からの言葉だった。そのすぐ隣で、出雲はカメラを構えている。

「だけど、後ほどスロー再生で二人の動きを研究できる。次のゲノマ・ゲームに備えるには、あの人たちの動きのパターンを把握しないといけないね」

 それが有効打か、あるいは無駄骨か――それはまだ定かではない。ただ一つ言えることは、出雲もようやくやる気を出したということだ。彼は眼前で繰り広げられる死闘を真っ直ぐと見つめているが、その心に映し出している存在はただ一人だ。彼は愛姫が先日見せた笑顔を思い出し、彼女を守るという使命を噛みしめていた。


 一方、ステージ上では依然として、常人には視認できない戦いが続いていた。風花と泰地は互いにナイフを振りつつ、相手の攻撃も見切っていった。そしてほんの一つでも動作を間違えれば、それが命取りとなるだろう。この瞬間、泰地は何かをひらめいた。直後、彼のわき腹に、一本のナイフが突き刺さった。無論、これは彼の想定内である。風花がわき腹に刺さっているナイフを抜くのにかかる時間――この一瞬の隙こそが泰地のうかがっていたものだ。彼は咄嗟にナイフを振り、彼女の胴体に深い切り傷をつけた。風花はその場に崩れ落ちるが、震える両足に力を入れて立ち上がろうとする。そんな彼女に背を向け、泰地は言い放つ。

「降参だ。この試合は、風花と由美の勝利だ」

 元より忘却の遺跡を隠れ蓑にしていた彼は、最初から降参するつもりだった。

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