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文学

三界の道筋

作者: 緋西 皐

ある夜のことでした。

寿命がそろそろ無いようなので、くらりとした心境は暗がりを見せしめ、聞こえるはずもない幻聴が私を誘ったようです。


黒い装束に血色も何もない、白の肌の不気味な巨人は、私を驚かすと不気味に笑みを浮かべ、こう言ったのでした。


「ずっと前からワタクシの声が聞こえていたでしょう。さて、そろそろあの世が待っております。準備をしてくだされ」


わずかに残る怒りは沈んでいって、されどもこちらは気持ちよく死ねないことを嗤うのは、好けるはずもない。

とはいえ、「やっとか」とどこからか沸く安心感に時めくもので、きっと私も笑っていたでしょう。


「そこはどんなところでしょうか?」


私は準備をするまでもなく、黒装束に手を差し伸べました。

すると黒装束は私の腕を引っ張り、私を宙へ連れ去りながら言い残しました。


「きっとあなたが望んだ場所でしょう」


白い靄が視界を覆うと、とくに行き苦しいこともなく、軽るんだ心持は愉快な景色の色どりを感じさせました。


雲、空島にある家々、その下には濃い霧。まさしく天国だろうか。


「ここには三つの界がございます。一つは天国、一つは奈落、もう一つは愛界です。さて、自由に選んでくださりませ、いえ、もう決まっているはずですが」


黒装束は薄笑いを浮かべながら、とりあえずと、私を空島、天国へ連れていきました。


空島は豊かな花畑や風車、川、様々な動物と自然あふれております。

また、もちろん人もおり、何故か見渡す限りは全て布一つも着ておりませんが、楽しそうに過ごしているようです。


しかし不思議なのは、気味が悪いほどに機嫌がいいこと、近づき難い、恐怖を感じさせます。


「おやおや、やはり貴方は天国は合わないようですね。しかし、多くの方はここを望みます。その理由は死後ゆえのものでしょう」


黒装束は人差し指を向け、私に示しました。裸の男女、何十人もが戯れている様子、そして、あちら側では、熱心に何かを吸っている様子。


「ここは死後の世界。限りなどありません。産まれなければそうですし、死ななければそうでもあります。多くの方はそのような快楽をお望みのようで」


薄気味悪い笑いを見せつけるが、私も笑いはしないが、確かに同じ感情だった。


「さて、では次に行きましょう。あちらですね」


黒装束は手を取り、今度はまた別の空島へ。

自然あふれる様子は余程変わることもなく、しかしそこにいる人々は落ち着いた様子、服も着ていました。しかし気持ち悪いことに、人はそれほどいないよう。


「愛界です。どうでしょう、つまらないところでしょう?」


とにかく平和そうな場所、空気が止まっているかのように、変化の少ないここは、確かに退屈でした。

しかしながら人々は満足そうに過ごしておりまして、特に必ず二人一組で、不思議なものです。


「しいて面白いところがあると言えば、奇数の世界に平和は訪れないという事でしょう。それはここからわかることですねぇ、しかし神様が言うには初めは偶数だったようで、その後も見立てでは同じようだったみたいです。なのに現世は、どうしてでしょうねぇ」


よくわからないことを言う黒装束を無視しますが、答えるまでは次には行かせませんという様子。

私は仕方なく、適当に応じることにしました。


「きっと誰かが人殺しをしたんだ」

「そうですか、やはりあなたはそう言うと思いました。いやはや、現世では愛を歌うものばかりですが、不思議ですね」

「さっさと次に行かせてくれ」

「ああ、そうですか。何も焦る必要もないのに」


黒装束は私を引っ張り、今度は雲の下へ。

見えてきたのは殺風景な大地。今まで見た、二つの島より、断然に景色は死んでいる。


「さて、ここが奈落です。ああ、安心してください。鬼なんていません。いわゆる普通でしょうか」


確かに鬼はいないが、生き物は見当たらない。あるの肉も薄い、骨のような人が徘徊している一面だけだ。


「どうですか。ここは、いいとこでしょう? 天は快楽狂、愛は平凡なもので、ここは苦狂であります。なじみ深いものでしょう」


苦しみ狂い、それのどこがいいというのか。

黒装束は先ほど限りがないと言った、死なぬ快楽と死なない苦しみ、死んでもなお、苦しみたいと思う馬鹿がいるのか。


「ええ、見ての通りですよ。愛界よりも多いほどにはいますよ」


目玉もよくわからぬ身なりで言いくるめられた。

とはいえ、そのようなものは、まるで理解できない。


「ではでは、決まりましたか。どの界にしなさるのか」

「……いえ、まだ」

「実を言うと、悩むまでもないのですがね。私には貴方がどこを望むのか、わかっておりますから」


ならばなぜ選ばせたのか。

黒装束はまたしても笑ったまま。


「この閲覧は全て逆算であったのです。どこに行くのか決まっておりまして、その過程は後付けです。それぞれの界によって死に切るまでの過程は定まっているのです。そしてそれは、当人へのサービスであり、あるいは、その人生そのものです」

「訳の分からないことを言う。だったら私はどこに行くというのだ?」


「ええ、そうですね。それは限りないものですから、初めから揺るぎなく、元あった場所と同じ場所です」

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