出会いと別れ2
大好きな君。
君がいなくなってから5回目の春が来ました。
今日僕は大学生になります。
できることならば大学への桜道を君と一緒に歩きたかった。
君と同じ講義を受け、気の合う友人を作る。
君と一緒に美味しいご飯を食べて、朝まで遊び倒す。
そんな輝かしい日々を送りたかった。
今日という日を君と一緒に過ごしたかった。
大好きな君。
海の向こうに渡ってしまった君にずっと聞いてみたいと思いながらも聞けないでいたことがあります。
俺は臆病者だから、知りたいくせに君からの答えを聞くことが怖くて、なかなか言いだせずにいた。
だけど俺の気持ちを君に知っていて欲しいから、きちんと言葉にして伝えたいと思う。
海の向こうに渡ってしまった君、そこで君は大切な誰かに出会うことができましたか?
もし大切な出会いがあったのならば俺は少し嫉妬してしまいます。
今、君の隣に立つことができる人が羨ましくてなりません。
それとも君は今もなお待ち続けていますか?
俺を待ってくれていますか?
君の大切な誰かが俺であることを祈っています。
大好きなさくらへ
永遠に変わらぬ愛を桜の花びらに乗せて
宮田俊哉
ひらり、ひらり。
桜の花びらが舞う。
目の前で、まるで踊るように揺れるさくら色の花びら。
その姿は生きているかのように色鮮やかで、心惹かれるほど魅力的で、いつの間にか俊哉の足はその場に釘づけとなっていた。
目の前で舞う”さくら”。
とっさに腕が伸びた。
それは条件反射にも似た行為。
己の行動を認識するよりも早く、俊哉の腕は動いていた。
舞い降りてくる“さくら”が優しく包み込まれるようにして俊哉の手のひらに乗せられた。
手にした花びらの1枚を指でつまみ上げ、日に透かしてみる。
太陽の光を浴びた花びらは、縁が淡く輝いていて彼女の笑顔を連想させた。
心がふわふわとした優しさに触れ、自分が独りではないという安心感に溶かされていく。
ふわふわとした夢見心地な気分のまま、俊哉はポケットからハンカチを取り出して、花びらを1枚1枚丁寧に挟み込んだ。
海を思わせる深い青色をしたハンカチの上に広げられた花びらを十分に鑑賞する。
あとはポケットに仕舞い込むだけ、そこに一陣の風が吹き付ける。
「あっ」
直前に吹いた風は花びらの1枚を奪い去り流れて行った。
「待って!」
去りゆく”さくら”を追い、俊哉は後ろを振り返った。
風が舞い、花びらが舞い荒れる。
その光景に視界が一瞬奪われた。
次に視界が開いたとき、花びらの消え去った後に現れたのは一人の女性だった。
満開の桜を見上げ、風に髪をなびかせながら俊哉のいる方向に歩いてくる。
桜に心奪われている彼女はまだ俊哉の存在に気が付いていない。
振り向かない彼女を俊哉はまっすぐ見つめ続けた。
それは一瞬だったかもしれないし、もっと長い間の出来事だったのかもしれない。
音が止み、時の流れが止まってしまったかのように神秘的な感覚だった。
やがて彼女はゆっくりと振り返る。
スローモーションのような動作がもどかしい。
ようやく二人の視線が交差した。
その時はじめて俊哉に気付いた彼女は、自分を見つめる存在に驚いたようだった。
驚愕の表情を浮かべていたが、すぐさまそれは俊哉の視界から消え失せる。
頬が緩み、口角が上がる。
彼女がふわりとほほ笑んだ。
「こんにちは」
止んでいた音が、止まっていた時間が再生される。
それが宮田俊哉と弥生美羽の最初の出会い。
大学へと続く桜並木で二人の運命は廻りはじめた。